特発性造血障害に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100810A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性造血障害に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小峰 光博(昭和大学藤が丘病院内科)
研究分担者(所属機関)
  • 浅野茂隆(東京大学医科学研究所内科)
  • 内山 卓(京都大学血液病態学)
  • 浦部晶夫(NTT関東病院血液内科)
  • 小澤敬也(自治医科大学血液学)
  • 金倉 譲(大阪大学分子病態内科)
  • 朝長万左男(長崎大学原研内科)
  • 中畑龍俊(京都大学発達小児科)
  • 仁保喜之(千早病院)
  • 村手 隆(名古屋大学保健学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
48,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液系疾患の難病(特定疾患)の中、再生不良性貧血、溶血性貧血、不応性貧血(骨髄異形成症候群) 、骨髄線維症の4 疾患を対象に、疫学・病因・病態・診断・治療・予後などについて、昨年度に引き続き設定した研究計画に沿って研究を進め、実地臨床に還元できる有用な知見を得るよう研究班組織の利点を生かして臨床的および基礎的共同研究を行った。
研究方法
主任研究者(班長) 1 、分担研究者者( 班員) 9 、研究協力者 21(うち基礎班から3)、事務局 1の計32人の構成とした。骨髄異形成症候群の新規治療開発に関する重点研究班( 班長 平井久丸) の新設により4 名が移動(1名は併任) した。両班は密接に連携協力し、班員会議4 回、班会議総会を2 回それぞれ合同で開催した。疾患別および横断的領域別に研究領域を各班員が分担し、主導と調整にあたった。治療研究および患者検体を用いる共同研究においては新GCP 基準や遺伝子解析研究等の指針に沿い、患者の権利と自由意思を尊重するよう努めることとした。疫学・病態研究においては全国の主要施設および関連学会の理解と協力を得ることができた。
結果と考察
今年度に得られた共同研究による研究成果の主なものを疾患別に列挙する。
1.再生不良性貧血では、1)全国自治体からの個人票については平成12年の6,662 例についで、平成13年度の追加送付1,131 例分を入力した。その後の追加若干例が未入力である。2)抗胸腺細胞グロブリンの再投与の安全性・有効性の調査成績に基づき反復投与を組み入れた治療指針が提示され、前方視的治療研究の要否が検討された。3)免疫抑制療法に不応または再発例に対するダナゾール療法の評価を目的とする共同治療研究が開始され進行中である。4)小児例における免疫抑制療法と骨髄移植療法の比較成績がまとめられた。5)診断時に骨髄で染色体異常を示す小児例の治療反応性と経過の成績がまとめられた。6)診断時に-7のクローンをもつ成人例の染色体不安定性を検討し、経過に伴う病態移行と関連する可能性があることから共同研究を進めることとした。7)Fanconi 貧血の分子機序について、種々な変異FANCA を発現させた細胞のMMC 感受性の補正態度から3 群に分けられること、またFANCA がクロマチンリモデリング因子の構成因子の一つであるBRG1と結合すること、が明らかにされた。2.溶血性貧血では、1)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)における自己抗原の主要なものであるRh30蛋白(RhDとRhCE蛋白) の発現と制御機構が解析された。2)PNH の臨床病態と自然歴に関する日米比較共同研究の成績から臨床像、血栓症併発、生存期間などが対比された。3)PNH クローンの優勢化の機序として、12番染色体異常を伴った症例で切断部位に転写促進因子HMGI-Cの断片が同定されたことから、他の症例についても検討を広げる。4)難病医学研究財団主催の国際シンポジウム「PNH と近縁疾患; 分子病態の視点から」を平成13年8 月に17人(外国人10人) の演者を招聘して開催した。5)赤血球膜蛋白異常症を代表する遺伝性球状赤血球症の本邦例123 家系について蛋白異常と遺伝子異常が解析された。我が国ではアンキリン異常が少なく軽症例が多い。本邦固有の遺伝子変異も少なくないことが判明した。3.不応性貧血(骨髄異形成症候群, MDS)では、1)免疫抑制療法の中、シクロスポリンの効果について調査し集計した。有効率は54% で、狭義の不応性貧血(RA)で、また45歳以上で有効率が高かった。また、班内単一施設の経験も集計され、赤血球系の反応率が高かった。2)本年度から低リスクMDS に対するシクロスポリン療法を評価する治療研究が開始された。2 年間で50例を目標とする。3)小児科領域で10年間に登録された293 例の臨床病態が集計された。4)高齢者・高リスクMDS に対するフルダラビンを含む骨髄非破壊的前処置を用いた同種末梢血幹細胞移植(ミニ移植) 療法の治療研究が開始された。5)PNH 血球の出現についてMDS157例の検討成績がまとめられた。PNH 血球の増加(0.003% 以上) を認めたのはRA病型のみで、陽性率は16.4% であった。陽性群には一定の臨床的特徴があり、幹細胞の質的異常より免疫学的な造血抑制機序の存在を示唆するものと解釈された。6)MDS の分子病態について、例えばHbF のスウィッチ機序、抗アポトーシス分子survivinの発現、IL-12 刺激によるMDS 単球核の殺細胞効果、変異型GSTT-1とrapamycin の作用、二次性MDS/AML でのAML1遺伝子変異の高頻度検出など多数の各個研究があり、一部は共同研究に拡大された。5.骨髄線維症では、1)平成11~13年度の新発生93例が全国調査によって把握された。2)治療法としての骨髄移植の実態と成績を調査し、17例が集計された。3)経過中にPNH 血球が出現した症例が報告され、系統的な検討の必要性が提起された。4)輸血依存例に対するダナゾールの評価を目的とする共同研究が開始された。5)巨核球造血調節におけるシグナル伝達とその分子機序について実験研究が行われた。
対象疾患が複数であり研究課題も多様かつ広範であるが、全国調査と共同研究を計画的に進めることによって、疫学、病因・病態発生の分子機構から治療法の評価、予後の追跡などについて成績がまとめられ、計画に沿って着実な進展がみられたと考えられる。主要な治療研究の多くはなお進行中であり、次年度以降に成績がまとめられる見通しである。
結論
疫学、臨床病態、分子病態に関する課題は具体的なデータが集積され所期の成果が挙げられた。臨床試験については実施にあたっての基盤整備に若干の時間を要したこともあり、今年度はじめから開始された。提案された共同研究についても順調かつ活発に進捗し、目標の多くが達成された。

公開日・更新日

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