腸管免疫の特殊性解明に基づいた新たなアレルギー予防・治療戦略の展開(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100808A
報告書区分
総括
研究課題名
腸管免疫の特殊性解明に基づいた新たなアレルギー予防・治療戦略の展開(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 守(東京医科歯科大学大学院消化・代謝内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 石川博通(慶應義塾大学微生物学、免疫学)
  • 半田宏(東京工業大学大学院生命理工学フロンティア創造共同研究センター、分子生物学)
  • 日比紀文(慶應義塾大学内科、消化管細胞生物学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はこれまでのアレルギー疾患側からみた病因・病態の解明とは全く出発点を変え、食物アレルギーが成人におけるアレルギー疾患発症の誘因になる可能性があるという考え方を基盤とし、腸管粘膜免疫調節を人為的に制御することにより、成人のアレルギー疾患の病態に応じた新規治療法の開発を目指すという萌芽的研究である。本研究においては腸管粘膜免疫機構において主任研究者渡辺および分担研究者石川、日比らの研究組織が独自に見いだしてきた調節・抑制機構の考え方を導入するとともに、分担研究者の半田が開発した「ミラクルビーズ」を応用して、まず腸管における新しいアレルギー担当免疫組織、受容体の発見、免疫統御分子機構の存在等その特殊性を明らかとし、その特殊性を利用した新しいアレルギーに対する抑制戦略を実用化しようとする試みを行う。異分野共同研究者の独自の視点を集合させた本研究はトランスレーションリサーチとして、将来的には難病治療、自己免疫疾患抑制に対する創薬にも連なる道が開く独創的研究と考えている。
研究方法
1)主任研究者渡辺は細菌に対する生体側の反応系であるToll-likeレセプター(TLR)を介したTollシグナルに着目し、IL-7/IL-7レセプターを介した免疫調節機構の特殊性との関連性を追究することにより、生体応答の異常を解析した。2)分担研究者石川は腸内フローラと腸管粘膜内T/B細胞による腸管粘膜防御の役割を担う腸管上皮細胞ターンオーバーの統御を解析した。3)分担研究者半田は極めて高効率に生体受容体を分離精製することが可能である超微小beads担体「ミラクルビーズ」に関する基礎的知見を蓄積した。4)分担研究者日比は経口抗原により誘導したTh2型免疫反応がTh1型免疫反応が主体と考えられている慢性腸炎治療に可能性かどうかを追究する目的で、マウス慢性腸炎モデルを用いて基礎検討を行った。
結果と考察
1)主任研究者渡辺は腸管粘膜免疫にて重要な役割を果たす粘膜内リンパ球、IL-7と腸内細菌フローラとの関連をTLR関連の遺伝子ノックアウトマウスを用いて検討した結果、TLRを介したシグナルの中枢的アダプター分子であるMyD88ノックアウトマウスのクリプトパッチ、パイエル板、粘膜内リンパ球の検討で10週令では正常な形成を認めたが、離乳直後3週令のマウスにおいて、これらのリンパ装置の著しい発達不全を見いだした。また、主任研究者が確立した腸炎モデルであるIL-7トランスジェニックマウスにおいては慢性腸炎発症前のクリプトパッチおよび粘膜リンパ球はコントロールマウスに比し過形成であり、マクロファージ・樹状細胞におけるTLR2およびTLR4受容体の発現の亢進を認めた。さらにendotoxin活性抑制を有する抗TLR4抗体投与により、腸炎発症の部分的な抑制効果を0-3週の初期に認めたが、経過とともにその抑制効果は減弱した。以上より、腸内細菌に対する生体応答にIL-7分子の関与が示唆され、また、腸内細菌に対する応答には既存のTLR、MyD88以外の生体側細胞受容体が関与している可能性が示唆され、新しい受容体の単離を目指す研究が必要であることが明らかとなった。2)分担研究者石川は新にマウス小腸粘膜の腸管膜反対側にB細胞の小集積を100~200ヶ所見出し、これらが未だ報告されていないマウス小腸の孤立リンパ小節であることを明らかにした。次に、正常および各種遺伝子操作マウスのIEC発達分化を解析し、正常マウスやT細胞を
欠損する δ×β-/- マウスと比較して、B細胞を欠損する μm-/- マウスの腸管上皮細胞ターンオーバーは著しく亢進していることを見いだした。また、このμm-/- マウスの著しく速いIECターンオーバーは抗生物質経口投与によって減速し、正常マウスのそれと同等となった。IL-7R-/-、aly/alyマウスの腸管上皮細胞ターンオーバーも正常マウスより有意に速いことやTCR-δ-/- マウスのIECターンオーバーが逆に抑制される事実によって、種々の異なった免疫機能がIECの恒常性を統御することが示された。以上より、マウス小腸にも孤立リンパ小節が存在し、これらはパイエル板と同等の機能を担うGALTであること、また、腸管粘膜B細胞は腸内フローラによる腸管上皮細胞ターンオーバー促進を統御することが確認された。3)分担研究者半田は低分子化合物である薬剤(FK506)を固定化したbeadsをもちいて、その既知の受容体であるFKBPの精製を試み、実際にヒトT細胞由来のJurkat細胞の粗細胞質抽出液から目的のFKBPを選択的に、しかも回収効率よく精製することを明らかとした。また、夾雑物の混入する粗抽出液から極微量のtargetを検出できるか否かを検討し、NFκB阻害剤である受容体を固定化したbeadsをもちいて、Jurkat細胞の粗核抽出液から、前もって目的物を濃縮することなく、1回のaffinity精製により3種類の異なる受容体を単離することが可能であった。「ミラクルビーズ」では、夾雑物の多い細胞粗抽出液からでも、直接、回収効率よく、しかも活性を保持した状態でaffinity精製することが可能であり、食餌性・腸内細菌性抗原受容体の探索にも応用可能な、極めて強力な手法であることが確認された。4)分担研究者日比は卵白アルブミン(OVA)TCRトランスジェニックマウスへ単回のOVA経口投与を行うことにより、経口免疫寛容が誘導できるが、さらに継続投与することにより、強いTh2型免疫反応が優位となるとともに、アレルギー性大腸炎の発症が誘導された。本モデルを、Th1型免疫反応が深く関わるCD4+CD45RBhigh リンパ球移入による慢性大腸炎発症モデルに適応したところ、Th1型サイトカイン産生の抑制とともに腸炎発症抑制効果を認めた。以上より、Th1型免疫反応が主体と考えられている慢性腸炎治療に、Th1免疫反応抑制をターゲットにするのではなく、むしろ経口抗原によりTh2型免疫反応誘導したを強く誘導することが有効であった本年度の成績は、きわめて独創的な研究成果である。またこれら結果は食餌抗原に対する生体側受容体の分離同定に成功した場合、対応抗原の同定・精製から得られる抗原ペプチド配列、糖鎖修飾、立体構造などの情報が、食物アレルギー・全身性アレルギー疾患発症の分子メカニズムの解明に新たな知見を与えるとと考えられる意義深い。
結論
本研究はこれまでアレルギー疾患研究を専門としていなかった研究者によって構成されており、1990年代後半に多くのブレイクスルーがあった腸管粘膜免疫に注目し、この調節機構を人為的に制御することにより、成人のアレルギー疾患の病態に応じた新規治療法の開発を目指すという新しい視点の研究であった。平成13年度の研究で、既に、特殊な腸管粘膜免疫組織の存在、腸内細菌・ペプチドによる腸管粘膜免疫応答、食物抗原・ペプチドによる免疫応答抑制機構、個々の食物/腸内細菌抗原・ペプチドに対応する生体側受容体の単離の可能性が明らかとなっており、治療法開発の基盤となる、「腸管粘膜免疫組織」、「腸内細菌」、「食物」およびそのインターラクションを検討するためのツールである「ミラクルビーズによる受容体単離法」に関する基礎的検討が出そろったことになる。来年度以降、さらに少数の研究協力者を得て、新しい研究組織を構築し、アレルギー疾患の病態解明と、それに応じた新規治療法の開発に向けた研究を推進したい。

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