慢性関節リウマチの難治性病態に対する新規治療法の開発研究

文献情報

文献番号
200100807A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性関節リウマチの難治性病態に対する新規治療法の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
宮坂 信之(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本博史(順天堂大学医学部)
  • 渥美達也(北海道大学医学部)
  • 山本一彦(東京大学医学部)
  • 原まさ子(東京女子医科大学)
  • 江口勝美(長崎大学医学部)
  • 竹内 勤(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 上阪 等(東京医科歯科大学医学部)
  • 津谷喜一郎(東京大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性関節リウマチ(RA)は我が国では約70万人の患者がいると推測されている。本症の予後は改善されつつあるものの、治療抵抗性の病態も少なからず存在する。また、治療薬剤による有害事象の発生によってさらに難治性となることも少なくない。本研究は、難治性RAの病態形成に関与する分子を同定を通じて新たな治療法を開発し、これを実用化するのが主たる目的である。同時に、RA治療薬の適応外使用の実態とその臨床的エビデンスを明らかにし、その経済評価を行うことも目的とする。本研究の遂行により、難治性RAに対して有効性が高く、しかも有害事象のより少ない治療法が開発されることが期待され、患者のQOLの改善と経済的負担の軽減が可能になることが期待される。
研究方法
1)白血球除去療法の開発と有用性の検討、2)自己末梢血幹細胞移植法の開発と適応の検討、3)抗原特異的T細胞移入療法の開発、4)細胞間相互作用の制御療法の開発、5)細胞内シグナル伝達阻害療法の開発、6)抗サイトカイン療法(抗TNFα抗体)の分子機構の解明、7)遺伝子療法の開発研究、8)RA治療の経済評価研究、について分担研究者が相互に情報を交換し、有機的な研究体制を構築しつつ研究を進めた。また、年1回の研究発表会を通じて情報の公開を行った。倫理面への配慮としては、 患者よりの検体採取、新たな治療法の臨床応用に関しては、分担研究者の所属施設の倫理審査委員会あるいは治験審査委員会の承認を得るとともに、患者より文書同意を取得して行った。すべての治験は、ヘルシンキ宣言を遵守し、また動物実験に際しては動物愛護の配慮を行った。
結果と考察
橋本は、白血球除去療法をアメリカリウマチ学会診断基準を満たす9名のRA患者に対して週1回の間隔で計3~4回施行し、その治療効果を検討するとともに、治療前後における顆粒球上の接着分子発現について解析を行った。その結果、白血球除去療法によって疼痛関節数とランスバリー指数は有意に低下するとともに、顆粒球上のCD11a, CD18は有意に減少した。しかし、CRP、赤沈などの変動は少なく、今後の検討課題と思われた。また、臨床上、問題となるような有害事象は認められなかった。渥美は、自己末梢血純化CD34陽性細胞移植併用超大量免疫抑制療法(自己末梢血幹細胞移植;PBSCT)の有用性を検討する目的で、本年度は強皮症患者3名に対して本治療を施行した。その結果、臨床的改善、特に皮膚硬化の改善が全例において認められ、移植後の造血能の回復も速やかであった。ただし、3例中2例において新たな自己免疫現象が出現し、1例でウイルス性の出血性膀胱炎が遷延した。またCD34非選択移植に比較すると、CD4細胞減少が長期にわたって認められた。今後、多剤抵抗性RAに対するPBSCTの適応の有無などについて検討が必要と思われる。山本は、抗原特異的免疫療法の可能性を検討する目的で、本年度は抗原特異的T細胞の人為的な作成法の確立と実験動物を用いた臨床応用の可能性について検討を行った。実際には、高効率レトロウイルスベクター系を用いてNZB/WF1マウスのCD4陽性T細胞にヌクレオソーム特異的TCRαβ鎖遺伝子を導入し、抗原性を再構築。さらに共刺激分子を阻害するCTLA4Ig遺伝子を導入することにより抑制性細胞を作製し、若年NZB/WF1マウスへの移入による治療効果を検討した。その結果、TCRαβ+CTLA4Ig移入群のみにおいて自己抗体産生及び
腎炎発症の抑制を認めた。今後、RAの場合には何を抗原として用いるか、などの検討を要する。原は、TNFファミリーに属する新規分子LIGHTとその受容体の滑膜組織における発現について検討を行った。その結果、RA滑膜組織ではLIGHT及びその受容体であるHVEMが蛋白及びmRNAレベルで過剰発現しており、滑膜浸潤T細胞とマクロファージ様滑膜細胞との相互作用を担う分子として働き、炎症性サイトカインの分泌促進を介してRAの病態形成に関与している可能性を明らかにした。今後、LIGHT及びHVEM間の相互作用を遮断した場合に治療効果が得られるか否かの検討が必要と思われる。江口は、RA滑膜組織における転写因子NF-κBに発現について検討し、RA滑膜細胞の核にNF-κBが強く発現していること、TNF_とIL-1βは培養滑膜細胞のNF-κBの核内移行を増強するのに対して、NF-κB阻害剤はこれを阻害してカスパーゼ3活性化とアポトーシスを誘導すること、FK506はグルココルチコイド(GC)の核内移行を阻害し、炎症刺激によるNF-κBの核内移行をGCと相加的に阻止すること、などを明らかにした。これらの結果は、難治性RAに対して細胞内シグナル伝達阻害療法が有用である可能性を示唆するものと思われる。竹内は、キメラ型抗TNFα抗体infliximab投与前後の患者末梢血単核球におけるmRNA発現をマイクロアレイを用いてクラスター解析を行い、臨床的有効例と非有効例において発現パターンに相違があることという興味ある知見を見い出した。今後、本方法を用いてキメラ型抗TNFα抗体infliximabの作用機序が明らかになることが期待される。上阪は、サイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKI)遺伝子導入による滑膜での細胞周期制御療法の分子機構について解析を行う目的で、CDKI分子の一つであるp21Cip1を滑膜細胞に遺伝子導入した際の遺伝子変化をDNAアレイを用いて解析した。その結果、RA滑膜細胞にp21Cip1遺伝子を導入すると、TNF_とIL-1_刺激によるIL-6, IL-8, macrophage inflammatory protein-3, matrix metalloproteinase (MMP)-1, MMP-3の産生が抑制されていること、などが明らかとなり、p21Cip1細胞周期制御療法はCDK活性抑制のみならず、炎症や骨軟骨破壊に関与する分子の発現抑制などの機序を介して関節炎治療効果を発揮していることが推測された。宮坂は、遺伝子治療に用いるアデノウイルスベクター改変について検討を行い、ウイルスファイバーの改変と転写配列の改変などを行うことによって、より少量のウイルス量での遺伝子導入が可能であることを示し、より安全なウイルスベクターの作成が可能であることを明らかにした。津谷は、NHS-EED(The National Health Service-Economic Evaluation Database)を用いてRAにおける臨床経済評価研究の世界的動向を調査した。その結果、介入は薬物療法が主体で、ヘルスアウトカムとしてQOLと有害事象が単一のstudyないし複数のstudyが用いられ、経済評価の方法はcost effective analysis (CEA)が主体であることなどが明らかとなった。以上より、RAにおいてさまざまな新規治療法が臨床応用可能であることが示唆されており、今後、個々の治療法の分子機構を解析することによって治療における標的分子がさらに明らかになることが期待される。また、動物モデルを用いたin vivo及びin vitroの解析、RA患者由来末梢血及び滑膜細胞を用いたin vitroの解析を分子生物学的方法などの新技術を駆使することにより、さらに詳細に行うことによって、新たな治療法の開発が可能になると思われる。
結論
RAの難治性病態に対する新規治療法の開発が可能となりつつあり、今後、動物モデルあるいはRA患者由来細胞を用いた実験系において得られた成果を臨床応用するべく、さらなる研究の進展を図りたい。

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