皮膚アレルギー形成機序における表皮機能の解明及びアレルギー疾患の治療に関する研究

文献情報

文献番号
200100805A
報告書区分
総括
研究課題名
皮膚アレルギー形成機序における表皮機能の解明及びアレルギー疾患の治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
玉置 邦彦(東京大学大学院医学系研究科皮膚科)
研究分担者(所属機関)
  • 古江増隆(九州大学大学院医学系研究院皮膚科学)
  • 中村晃一郎(福島県立医科大学皮膚科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では、皮膚アレルギー形成機序における表皮角化細胞(ケラチノサイト:KC)の機能の解析とそれに基づいたアレルギー疾患治療の可能性について検討することを目的にしている。特に、KCからのサイトカイン・ケモカイン産生について検討する。
研究方法
アレルギー性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎(AD)患者を中心として、ADと同様の臨床検査成績(末梢血好酸球数増多と血清IgE値高値)を示す水疱性類天疱瘡(BP)や菌状息肉症(MF)患者における血清中Th2ケモカイン(TARC, MDC)値を、健常人を対照として比較検討する。
In vitroにおいて、正常ヒトKC(NHKC)やKC cell lineであるHaCaT細胞を用いて、TARC, MDC産生制御機構について検討する。また、炎症に伴って産生されるヒスタミンが炎症の修飾に関与している可能性について、ヒスタミンによるKCからのサイトカイン産生を対象として検討する。
表皮特異的にケモカインを発現させたマウスを作成し、その皮膚アレルギー形成への関与について検討する。また、表皮細胞における炎症性ケラチンの発現調節機構を明らかにすることにより、炎症性皮膚疾患における表皮細胞の分化・増殖過程の異常を解析する。
結果と考察
(1) AD患者においては、<1> 末梢血中CD4+CD45RO+T細胞中CCR4+細胞の割合がADの病勢と相関して上昇しており、皮膚へのホーミング分子とされるCLAもCCR4+細胞において強い発現が認められた。<2> CCR4のリガンドであるTARCは血清中で著明に増加しており、乾癬患者や健常人では増加はみられなかった。血清中TARC値はADの病勢と相関し、末梢血好酸球数やsE-selectinとも強い相関がみられた。免疫組織学的にTARC発現はAD病変部表皮で強く認められた。<3> CCR4の別のリガンドであるMDC血清中で著明に上昇しており、乾癬患者や健常人では上昇はみられなかった。血清中MDC値はADの病勢、末梢血好酸球数、血清中TARC値と相関していた。
(2) BP患者においては、<1> 血清中TARC値は著明に上昇していたが、尋常性天疱瘡(PV)患者血清中での上昇はみられなかった。<2> 水疱内容液中のTARC値はBPで特に著明に上昇していたが、PVや熱傷、吸引水疱中では上昇はみられなかった。<3> 水疱内容液中TARC値は血清中TARC値より高値であった。<4> 水疱蓋の表皮細胞にはTARC発現が免疫組織学的に確認された。
(3) In vitroによる検討からは、<1> HaCaT細胞におけるTARC産生は、TNF-α+IFN-γによって著明に誘導され、この産生はIL-4によって抑制される。一方、IP-10産生もTNF-α+IFN-γによって誘導されるが、IL-4によって増強される。しかし、IL-13によっては影響を受けないことが示された。<2> NHKCにおけるヒスタミンの影響については、まずNHKCがH1RとH2Rを発現していることを明らかにした。また、ヒスタミンはNHKCからIL-6, IL-8産生を誘導するが、TARC産生は誘導しないこと、この産生はH1R antagonistで完全に抑制され、H2R antagonistで部分的に抑制されることを明らかにした。さらに、IFN-γとIL-4がヒスタミンによるIL-6産生を増強するが、IL-8産生を抑制することを見い出した。<3> AD患者由来の表皮細胞株の樹立に成功した。この表皮細胞株はGM-CSFを大量に産生することが明らかとなった。<4> CX-659Sと呼ばれる薬剤がKCからのGM-CSF産生抑制作用のあることを見い出している。
(4) トランスジェニックマウスの作成に関しては、<1> K14-VEGFのコンストラクトの作成に成功した。現在、トランスジェニックマウス作成中である。<2> K14-TARCについても現在作成中である。
(5) 炎症性ケラチンの発現調節に関しては、IL-1αによってKCにin vitroでケラチンK6が誘導され、この誘導はK6プロモーター上のC/EBP結合分子を介しており、培養液中のEGFにより抑制がかかることが示された。
結論
アレルギー性皮膚疾患のうちのいくつかについて、その形成機序にKC由来のケモカインであるTARC, MDCが関与している可能性が示唆された。しかしTARC, MDCがKC由来でない可能性もあるため、さらに検討を進めている。皮膚の掻痒に関与するヒスタミンがKCからのサイトカイン産生に関与している結果が得られた。このことはヒスタミン-KC circuitが皮膚アレルギーの増悪に関わっている可能性を示唆しており、これも治療の対象になると考えられる。HaCaT細胞からのTARC産生がIL-4によって抑制されることが示された。この制御機構を明らかにすることはK14-TARCトランスジェニックマウスの作成と合わせて、TARCの皮膚アレルギー形成機序への関与と治療を考える上で重要なことと考えられる。ADのKCがGM-CSFの過剰産生を行なうとする報告は既にあり、今回得られた細胞株とCX-659SとはADの治療上有用である可能性が示唆されると考えている。これらの点について次年度以降、さらに研究を進めていくことにしている。また、炎症性サイトカインによるKCの分化増殖の異常、特にその転写因子レベルでの解析は、ケラチン発現の異常によって炎症が遷延化あるいは難治化している可能性があり、その点をさらに検討することは新たな治療の可能性を拓くものと考えている。

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