慢性関節リウマチの治療反応性規定因子の同定と、それを用いた新治療方針確立に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100804A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性関節リウマチの治療反応性規定因子の同定と、それを用いた新治療方針確立に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
竹内 勤(埼玉医科大学総合医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 油谷浩幸(東京大学先端科学技術研究センター)
  • 山中 寿(東京女子医科大学リウマチ膠原病痛風センター)
  • 小林茂人(順天堂大学医学部)
  • 沢田哲治(東京大学医学部)
  • 南木敏宏(東京医科歯科大学)
  • 川上 純(長崎大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性関節リウマチの薬物療法の進歩はめざましく、有望な薬剤が相次いで開発されている。中でも、炎症性サイトカイン阻害療法は優れた臨床効果が明らかにされているが、有効性は約50%で、それを予測する因子は報告がない。本研究では、これら薬剤の治療反応性規定因子を同定し、それを用いエビデンスに立脚した治療方針確立を目的とする。
研究方法
(1)識別遺伝子抽出アルゴリズムの開発 識別遺伝子の抽出法に関する検討は、Neighborhood解析あるいはMann-Whitney検定。抽出アルゴリズムの検討に用いたデータセットは肝癌患者から採取した非癌部肝組織で、 neighborhood解析による予測にはp値を用い表した。識別のために選択されたクローンの有意性の検定にはpermutationテスト。クラスタ解析はGenespring(SiliconGenetics社)、主成分分析は既存の統計パッケージにより行った。
(2)滑膜組織のプロファイリング GeneChip(Affymetrix)を用いてヒト遺伝子あるいはEST(Expressed Sequence Tag)12,000個の発現プロファイル解析を行った。滑膜組織については切除後2~3週間培養後に得られた滑膜細胞からRNAを抽出し、トータルRNA5μgを用いてBiotin標識cRNAを作成した。
骨髄細胞の遺伝子発現解析 RA患者手術時骨髄液を採取、マグネットビーズ法にてCD34陽性細胞を分離後、RNAを抽出し、cDNAアレイ法で遺伝子発現プロファイルを解析。対照群は、外傷、変形性関節炎、大腿骨頭壊死症患者。
患者末梢血単核球の遺伝子発現解析 プラセボー1例、キメラ型抗TNFαモノクローナル抗体infliximab投与3例の投与前および、投与2週間後の末梢血単核球を分離し、GeneChip (Hu6800)を用い、6800遺伝子のプロファイル解析を行った。
内在性レトロウイルス周辺転写活性化領域の同定 患者ゲノムDNAをメチル化感受性制限酵素(HpaII)で切断した断片にアダプターを付与し、アダプタープライマーとHERV のLTR(Long terminal repeat :U5・U3)領域に設定した普遍プライマー(蛍光標識)を用いSuppression PCR でHERV配列を含むHpaIIフラグメントを増幅。得られたHpaIIフラグメントを自動シークエンサーで展開し、Gene Scanで解析し、HERV周辺遺伝子のメチル化パターンを検討。
ケモカインリセプターの機能・発現解析 患者末梢血CD4, CD8 T細胞上のCX3CR1の発現頻度はフローサイトメーターで解析。末梢血CX3CR1陽性 T細胞のサイトカイン (IL-2, IL-4, IFN-γ, TNF-α)産生能は、細胞障害性分子 (granzyme A, perforin)発現もフローサイトメーターで解析。RA滑膜組織のT細胞におけるCX3CR1の発現、RA滑膜組織でのCX3CL1の発現は免疫組織染色で解析した。RA滑膜線維芽細胞様滑膜細胞のCX3CL1発現はELISAにて解析。細胞遊走能は、ECV304をコートしtranswellを用いてmigration assay を施行。
アポトーシス関連分子の解析 培養RA滑膜細胞(滑膜線維芽細胞)は手術時に得られた滑膜組織より分離。RA関節液および滑膜細胞培養上清中のOPGおよびIL-1β蛋白濃度はELISA法で測定。培養滑膜細胞の膜型TRAILレセプター、DR4、DR5、decoy receptor 1(DcR1)およびDcR2は免疫ブロットで評価。増殖能は3H-thymidineの取り込み、TRAIL誘導性アポトーシスはsoluble TRAIL(sTRAIL)添加により誘導し、51Cr release assayとHoechst 33258 dye stainingを用いて評価。
副作用関連遺伝子の解析 メトトレキサート製剤(MTX)、およびスルファサラジン製剤(SASP)服用歴のあるRAを対象としてゲノムDNAを患者の同意を得て抽出し、MTX服用例では葉酸代謝の主要酵素Methylenetetra hydrofolate reductase (MTHFR)の遺伝子型、SASP服用例では代謝酵素の一であるN-acetyltransferase-2 (NAT2) の遺伝子型をPCR-RFLP法にて決定。EMアルゴリズムに基づくmaximum likelihood estimationを応用して独自に開発した解析プログラムを用いてハプロタイプ、ディプロタイプ形を決定。
結果と考察
治療反応性規定因子の同定を目的として、RAの治療に画期的効果をもたらしたキメラ型抗TNFαモノクローナル抗体infliximabの反応性について解析をすすめた。本薬剤は、他の抗リウマチ薬に比べ、より臨床的効果がシャープで、標的が明確である。海外での成績および本邦での検討から、その有効性はほぼ50%であることが判明している。一方、現状の投与法では、継続投与が必要とされ、それによる高コスト、長期安全性の点から問題点が指摘されている。本研究によって、継続投与なしの3回パルス投与でも、54週に継続投与とほぼ同等の50%前後の有効性が明らかにされた。一方、直接効果も遠隔効果も有効性は約半数であることから、投与後早い段階で治療反応例を予測することは極めて重要な課題である。これまで、世界的にもTNF阻害療法の有効性予測因子を報告した例はない。このことは、罹病期間、臨床症状、炎症マーカー、リウマトイド因子、関節破壊度などの一般的な臨床パラメーターでは、予測困難である可能性を強く示唆する。そこで、遺伝子チップを用いて網羅的に遺伝子発現を解析し、本治療法の反応性を規定している因子の同定を試みた。遺伝子チップには6800~12000遺伝子を一括して解析できるaffimetrix社のGeneChipを用いた。肝癌患者の生検材料非癌部組織を用いて得られた発現プロファイルデータセットの検討から、発現プロファイル解析アルゴリズムが開発された。OAおよびRA患者滑膜組織サンプルを用いた検討の結果、この解析アルゴリズムを用いて、RAに特徴的な遺伝子を抽出することができた。従って、この手法はRAのサンプル解析手法に応用可能と考えられた。また、4例のキメラ型抗TNFαモノクローナル抗体infliximab投与患者から得られた末梢血単核球サンプルを対象とし、同チップを使用して解析した結果、TNF阻害の有無、臨床的有効性と関連して変動する遺伝子のクラスターが抽出された。一方、TNFと深く関連しRAの病態に関わっているCX3CRケモカインリセプター・リガンド系、TRAIL-DR5アポトーシス誘導とOPGによる抑制系などの候補遺伝子群の解析が進み、有望な分子が明らかにされた。これらの情報から、キメラ型抗TNFαモノクローナル抗体infliximabの有効性と関連して変動する事が予測される遺伝子500前後を選別した。これらの遺伝子に特異的な断片を配したカスタム遺伝子チップを現在開発中で、その性能チェックを今後行い、それが良好であれば、平成14年度後半にも導入が期待されるキメラ型抗TNFαモノクローナル抗体infliximabの投与に向け、患者サンプルの収集、カスタム遺伝子チップによる解析、臨床パラメーターの収集、新たに開発された解析アルゴリズムを用いた統計処理を行う。これによって治療反応性予測因子を明らかにする。
従来の抗リウマチ薬無効例および副作用中止例は、良いキメラ型抗TNFαモノクローナル抗体infliximabの適応症例となる。それを予測する試みが行われ、MTXとその主要な酵素である5,10-Methylenetetra-hydrofolate reductase (MTHFR)の遺伝子型、SASPと代謝酵素の一つN-acetyltransferase-2 (NAT2)遺伝子型との関連が明らかになった。他の薬剤での検討、より簡便なスクリーニング法の開発をめざす。
これらの結果は、RA薬物療法の指針作りに重要なエビデンスとなる。
結論
キメラ型抗TNFαモノクローナル抗体infliximabの治療反応性規定因子の同定に向け、統計学的解析のアルゴリズムが開発された。約500遺伝子からなるカスタム遺伝子チップに配する遺伝子情報も、GeneChipによる抗体投与前後の発現プロファイル解析や候補遺伝子の検討から収集された。これによって治療反応性規定因子同定のための解析システムの基盤が整った。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-