文献情報
文献番号
200100803A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギ-疾患を抑制する新規天然薬物の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 五男(東邦大学医学部第二小児科学教室)
研究分担者(所属機関)
- 北中 進(日本大学薬学部生薬学研究室)
- 羅 智靖日本大学医学部先進医学総合研究センタ-)
- 鈴木政雄(東京理科大学薬学部情報薬学研究室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、アレルギ-疾患は遺伝的,免疫学的な観点が徐々に解明され,その病態も特異的な局所の慢性アレルギー性炎症が中心と考えられ,病変部位への好酸球,好塩基球,肥満細胞,TcellあるいはLangerhans細胞など浸潤が確認されている。またアレルギー疾患の治療法もそのメカニズムの解明に伴い、薬物をはじめ,各種治療法が開発されてきている。しかし臨床の場では環境をはじめ,多くの悪化,増悪因子の複雑な機構により,難治な症例も決して少なく,より慢性化,難治化している。そのため患者の中には治療の限界や副作用などの問題に不安を募らせている。その中で天然薬物による基礎的研究が一部に行なわれ,生体の免疫ネットワークの調整やアレルギ-反応抑制に対し天然薬物が活性化を示し,種々のアレルギ-疾患における新規療法の可能性が示唆されてきている。天然薬物の多くはそのメカニズムや有用性は不明なものが多く,多くの治療者に混乱を来している。本研究では民間薬の作用・副作用メカニズムの解析や新規天然医薬品検索の端緒とするためのデータベースの構築を進め,さらにアレルギ-疾患に対する天然薬物(植物)の使用状況に疫学的調査を実施し,天然薬物の基礎的,臨床的な検討を加え,さらに既存の薬物との比較検討を行い,より副作用の少ない新規治療薬への開発の可能性を研究する。
研究方法
A )抗炎症・抗アレルギー作用を有する天然由来の成分と民間薬に関するデータベースの作成として主なデータファイルは植物活性成分データファイル(各種薬学雑誌やSciFinder Scholarより検索),民間療法データファイル(局方、和漢薬図鑑より),市販民間データファイル(アンケートより),治療実績データファイル(各種報告論文)より作製する。B)薬局における民間薬の疫学的調査として販売に関する事項と使用者の民間薬に対する評価について千葉県千葉市と鹿児島県国分市をモデル地区に選び,薬剤師会会員に対し,アンケート調査を行う。C)アレルギー外来における患者の民間療法の実態調査をアンケート調査で行った。アンケートは各研究協力者の関連の医療機関においてアレルギ-疾患にて外来受診した患者に民間療法に関する調査を行った。アンケートは無記名方式で,1)年齢、性別、家族歴、アレルギ-疾患の病名と罹患期間,2)アレルギ-疾患の内訳,3)経験した民間療法の内容と使用方法,使用期間,費用など4)民間療法の効果,5)民間療法の情報源,6)民間療法についてのご意見,7)その他について調査を行い,分析する。D)マスト細胞の活性化機構並びに活性化抑制物質に関する研究として,高親和性IgEレセプター(FcεRI)を介したマスト細胞活性化におけるFcεRI 鎖の役割の検討として,β鎖ノックアウトマウスの骨髄細胞からマスト細胞(BMMC)を誘導し,変異型ITAMを有するβ鎖を導入して,ITAM内の3つのチロシン残基の役割を検討した。さらに,マスト細胞上のToll-like-receptorを介するマスト細胞の活性化をCa動員、サイトカイン産生,脱顆粒などの検討する。E)アレルギー疾患を抑制する新規天然薬物の開発に関する研究として各種生薬(アカメガシワの果実,ホソバキシンソウの全草,エゾムラサキツツジの地上部,シジュウム)における活性成分を分離し,NO産生抑制作用,iNOS酵素活性阻害作用,さらにヒスタミン遊離抑制作用について検討する。
結果と考察
研究結果=1)平成13年12月までに植物活性成分データファイルは10,また民間療法データファイルが30が確認され,登録された科数は30余で,キク科,ショウガ科,マメ科の成分が多かっ
た。また,化学構造的にはテルペノイド,フラボノイド,タンニンなどが多かった。2)現在までの回収された結果では大きな副作用の報告はなく,取扱商品は20種ほどであった。また薬局独自の民間薬は約10%の薬局で取り扱っていた。3)民間療法の実態調査では対象症例は1548名,年齢6か月から68歳(平均21歳4ヶ月),男子744名,女子443名,アレルギー家族歴は993/1548(64.1%),平均罹患期間は16年3ヶ月であった。疾患の内訳は気管支喘息726名,アレルギー性鼻炎789名,アトピー性皮膚炎591名であった。経験した民間療法の経験者は気管支喘息826名中368名(44.6%),アレルギー性鼻炎989名中378名(38.2%),アトピー性皮膚炎591名中354名(59.9%)であった。主な内容はヨモギ,ドクダミ,シジュウム,にんにく,アロエ,シソ,モモ,クロレラ,ねぎ,しょうが,パパイア,甜茶,霊芝,羅漢果,日本山人参,アカザ,ユキノシタ,オオバコ,ナンテン,フキノトウなど植物を用いたものがあげられていた。使用期間は1回のみから7年,また経験種類は1-9種類と年齢と罹患年数に正の相関を示した。民間療法に効果があったと答えた者は全体で約35%であった。3)β鎖ITAMモチーフ内には3つのチロシン残基が存在するが,このチロシン残基を全てフェ二―ルアラ二ンに置換するとFcεRIを介したマスト細胞活性化が顕著に低下する。さらに3つのチロシン残基のうち中央のチロシン残基をフェ二―ルアラ二ンに置換すると,サイトカイン産生が増強することが分かった。またマウスのマスト細胞にはTLR-1,2,4が発現していることを、mRNA,蛋白レベルで証明した。さらに、TLR2を介してマスト細胞が脱顆粒し,サイトカイン産生、放出を惹起することが確認された。4)アカメガシワの果実エキスおよび7種のフロログルシノール誘導体はiNOSのmRNAの発現を抑制するNO合成酵素誘導阻害とiNOS酵素活性阻害作用によりNO産生抑制することが明らかになった。ホソバキシンソウの全草から単離した活性成分,ポリアセチレン配糖体はNO産生抑制,ヒスタミン遊離抑制作用を認めた。エゾムラサキツツジのオキシノール誘導体はヒスタミン遊離抑制作用を認めた。またシジュウムはヒスタミン遊離抑制活性分画に3-0-methyl-ellagicと3,3-0-dimethyl-ellagic acidを単離した。
考察=薬物の多くはそのメカニズムや有用性は不明なものが多く,多くの治療者に不安を来している。本研究はアレルギ-疾患に対する天然薬物の使用状況など疫学的調査を実施し,その中で有効と思われる天然薬物の基礎的,臨床的な検討を加え,さらに既存の薬物との比較検討を行い,より少ない新規治療薬への開発の可能性を研究することを目的とした。天然植物成分には抗炎症、抗アレルギー作用を発現するものが多数報告されているが,これらは成分研究や作用研究であり,未だデータベース化されていない。そこで天然植物に関する情報の整理を目的にこれらのデータベース化を試み,現在とデータファイルの入力を進めており,阻害機構や植物の科名や属名,病名,症状から一括検索が可能となり,より幅広い民間薬についての作用や副作用の科学的解析のための基礎データベースになるものと考える。さらに文献的データと治療的データに薬局からのデータが加わることでより有効性が高く,副作用の少ない天然由来の薬物の新規探索が可能となると考える。またアレルギー外来におけるアンケート調査では,外来患者の半数以上が天然植物をアレルギー疾患の民間療法として用いられていることが認められた。特にアトピー性皮膚炎が最も多く,ついで気管支喘息,アレルギー性鼻炎の順であった。またアンケートで示された天然植物は52種類(主な植物はヨモギ,ドクダミ,シジュウム,にんにく,アロエ,シソ,モモ,クロレラ、ねぎ,しょうが,パパイア,甜茶,霊芝,羅漢果,日本山人参,アカザ,ユキノシタ,オオバコ,ナンテン,フキノトウなど)であった。しかしその有効性も30%前後であり,高額なこと,使用法,安全性,さらには数種を除いて科学的根拠がはっきりしないなどに問題があり,今後の重要な研究課題と考える。次に天然薬物の有効性を検討する方法の一つとして,マスト細胞の活性化機構並びに活性化抑制に関する検討を行った。アレルギー疾患の局所では,IgE-FcεRIマスト細胞枢軸を巡るアレルギー増悪回路が形成されていることが確認されている。β鎖はC末側の細胞内領域にITAMを持つ。このβ鎖ITAMに変異を導入する実験で,ITAM内のチロシン残基の一つがサイトカイン産生の抑制に関係していることがわかった。一方TLR2を介してマスト細胞が脱顆粒し,サイトカインを産生することが判明し,アレルギー疾患への関与が判明した。今後これらの系でシジュウムをはじめ天然植物への影響を検討し,さらにFcεRIを介するマスト細胞の活性化やFcεRI発現に対する影響なども検討する。数種の諸薬による検討では,アメガワシワの活性物質としてフロログルシノール誘導体はNO産生抑制を認めた。エゾムラサキツツジはオルシノール誘導体ではヒスタミン遊離抑制活性を確認した。またホソバキシンソウから単離した新規ポリアセチレン配糖体はヒスタミン遊離抑制活性やNO産生抑制を認めた。エゾムラサキツツジは中国で鎮咳,去痰,気管支炎などに用いられ,ホソバキシンソウは解熱,抗炎症,リウマチ治療に用いられるなどから,今後アレルギー疾患の予防や症状の改善に期待がもたれる。このように天然薬物の一部にはその有効性が認められ,今後の活性成分の解明に加え,基礎的,臨床的な研究により新規天然薬物の開発につながるものと考える。
た。また,化学構造的にはテルペノイド,フラボノイド,タンニンなどが多かった。2)現在までの回収された結果では大きな副作用の報告はなく,取扱商品は20種ほどであった。また薬局独自の民間薬は約10%の薬局で取り扱っていた。3)民間療法の実態調査では対象症例は1548名,年齢6か月から68歳(平均21歳4ヶ月),男子744名,女子443名,アレルギー家族歴は993/1548(64.1%),平均罹患期間は16年3ヶ月であった。疾患の内訳は気管支喘息726名,アレルギー性鼻炎789名,アトピー性皮膚炎591名であった。経験した民間療法の経験者は気管支喘息826名中368名(44.6%),アレルギー性鼻炎989名中378名(38.2%),アトピー性皮膚炎591名中354名(59.9%)であった。主な内容はヨモギ,ドクダミ,シジュウム,にんにく,アロエ,シソ,モモ,クロレラ,ねぎ,しょうが,パパイア,甜茶,霊芝,羅漢果,日本山人参,アカザ,ユキノシタ,オオバコ,ナンテン,フキノトウなど植物を用いたものがあげられていた。使用期間は1回のみから7年,また経験種類は1-9種類と年齢と罹患年数に正の相関を示した。民間療法に効果があったと答えた者は全体で約35%であった。3)β鎖ITAMモチーフ内には3つのチロシン残基が存在するが,このチロシン残基を全てフェ二―ルアラ二ンに置換するとFcεRIを介したマスト細胞活性化が顕著に低下する。さらに3つのチロシン残基のうち中央のチロシン残基をフェ二―ルアラ二ンに置換すると,サイトカイン産生が増強することが分かった。またマウスのマスト細胞にはTLR-1,2,4が発現していることを、mRNA,蛋白レベルで証明した。さらに、TLR2を介してマスト細胞が脱顆粒し,サイトカイン産生、放出を惹起することが確認された。4)アカメガシワの果実エキスおよび7種のフロログルシノール誘導体はiNOSのmRNAの発現を抑制するNO合成酵素誘導阻害とiNOS酵素活性阻害作用によりNO産生抑制することが明らかになった。ホソバキシンソウの全草から単離した活性成分,ポリアセチレン配糖体はNO産生抑制,ヒスタミン遊離抑制作用を認めた。エゾムラサキツツジのオキシノール誘導体はヒスタミン遊離抑制作用を認めた。またシジュウムはヒスタミン遊離抑制活性分画に3-0-methyl-ellagicと3,3-0-dimethyl-ellagic acidを単離した。
考察=薬物の多くはそのメカニズムや有用性は不明なものが多く,多くの治療者に不安を来している。本研究はアレルギ-疾患に対する天然薬物の使用状況など疫学的調査を実施し,その中で有効と思われる天然薬物の基礎的,臨床的な検討を加え,さらに既存の薬物との比較検討を行い,より少ない新規治療薬への開発の可能性を研究することを目的とした。天然植物成分には抗炎症、抗アレルギー作用を発現するものが多数報告されているが,これらは成分研究や作用研究であり,未だデータベース化されていない。そこで天然植物に関する情報の整理を目的にこれらのデータベース化を試み,現在とデータファイルの入力を進めており,阻害機構や植物の科名や属名,病名,症状から一括検索が可能となり,より幅広い民間薬についての作用や副作用の科学的解析のための基礎データベースになるものと考える。さらに文献的データと治療的データに薬局からのデータが加わることでより有効性が高く,副作用の少ない天然由来の薬物の新規探索が可能となると考える。またアレルギー外来におけるアンケート調査では,外来患者の半数以上が天然植物をアレルギー疾患の民間療法として用いられていることが認められた。特にアトピー性皮膚炎が最も多く,ついで気管支喘息,アレルギー性鼻炎の順であった。またアンケートで示された天然植物は52種類(主な植物はヨモギ,ドクダミ,シジュウム,にんにく,アロエ,シソ,モモ,クロレラ、ねぎ,しょうが,パパイア,甜茶,霊芝,羅漢果,日本山人参,アカザ,ユキノシタ,オオバコ,ナンテン,フキノトウなど)であった。しかしその有効性も30%前後であり,高額なこと,使用法,安全性,さらには数種を除いて科学的根拠がはっきりしないなどに問題があり,今後の重要な研究課題と考える。次に天然薬物の有効性を検討する方法の一つとして,マスト細胞の活性化機構並びに活性化抑制に関する検討を行った。アレルギー疾患の局所では,IgE-FcεRIマスト細胞枢軸を巡るアレルギー増悪回路が形成されていることが確認されている。β鎖はC末側の細胞内領域にITAMを持つ。このβ鎖ITAMに変異を導入する実験で,ITAM内のチロシン残基の一つがサイトカイン産生の抑制に関係していることがわかった。一方TLR2を介してマスト細胞が脱顆粒し,サイトカインを産生することが判明し,アレルギー疾患への関与が判明した。今後これらの系でシジュウムをはじめ天然植物への影響を検討し,さらにFcεRIを介するマスト細胞の活性化やFcεRI発現に対する影響なども検討する。数種の諸薬による検討では,アメガワシワの活性物質としてフロログルシノール誘導体はNO産生抑制を認めた。エゾムラサキツツジはオルシノール誘導体ではヒスタミン遊離抑制活性を確認した。またホソバキシンソウから単離した新規ポリアセチレン配糖体はヒスタミン遊離抑制活性やNO産生抑制を認めた。エゾムラサキツツジは中国で鎮咳,去痰,気管支炎などに用いられ,ホソバキシンソウは解熱,抗炎症,リウマチ治療に用いられるなどから,今後アレルギー疾患の予防や症状の改善に期待がもたれる。このように天然薬物の一部にはその有効性が認められ,今後の活性成分の解明に加え,基礎的,臨床的な研究により新規天然薬物の開発につながるものと考える。
結論
今後,さらに天然薬物に関するデータベースを元に,より有効性が考えられる新規薬物の作用機所,安全性,品質などの解明を加え、その開発を考える。
公開日・更新日
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