リュウマチアレルギー疾患の早期診断に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100802A
報告書区分
総括
研究課題名
リュウマチアレルギー疾患の早期診断に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
白川 太郎(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 清野宏(大阪大学微生物病研究所免疫化学教授)
  • 古賀泰裕(東海大学医学部感染症学教授)
  • 中畑龍俊(京都大学大学院医学研究科発達小児学教授)
  • 出原賢治(佐賀医科大学生化学教授)
  • 小泉昭夫(京都大学大学院医学研究科環境衛生学教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の目的=アレルギー疾患はいずれの年齢でも発症し、旧厚生省特別研究班の調査でも国民の38%が罹患する最も頻度の高い生活習慣病であり、国民のQOLの立場から特に重要な疾患である。特に小児における罹患率が増加し、小児の死亡の重要原因であり、また小児救急医療費の30%以上を占めることからその予防は厚生労働行政の急務であると考えられる。其の予防のためには出産直後からの早期診断が必要であるが、個体が小さく頻繁に血液検査などの検査を行うことは成人と異なり容易ではない。乳児期の免疫系は主として消化管において形成されると考えられ、その形成には消化管の細菌相の形成が重要であると考えられている。したがって消化管細菌相と免疫能がアレルギー疾患発症児童では正常児童と成長につれどのように異なるのかを明らかにすることはアレルギーの発症機序を明らかにし、その予防対策を構築する上で必要であると考えられる。これまでこのような目的での調査は世界中になく、また疫学的にこのような調査を行うには乳児に侵襲を与えない方法論の開発が必須である。その意味で便は容易に収集でき細菌相の同定にも利用し得ることから新しい診断方法の開発が期待される。この方法論の確立により大規模な乳児の疫学調査が実施され早期の診断が可能となる。早期の診断が可能となれば、高リスクの児童を特定できることから、これらの児童における生活習慣の改善を促すことで大幅にアレルギー疾患の罹患率を減らすことが可能となり、国民の健康増進や医療費の大幅な削減が期待される。さらに今後細菌菌体成分などを用いた介入実験によりアレルギー高リスク児童の細菌相を正常化することでアレルギーの予防が可能か否かというまったく新しい予防戦略の構築も視野に入れることが可能となる。
研究方法
1.粘膜透過性の亢進と免疫グロブリンによる診断の試み
対象者は、和歌山県日高郡の12-13歳の中学生男女であり、調査対象母集団は865人のうち解析には、血清データ、質問紙データの両方がそろった775人を用いた。アレルギー症状の有無、家族歴、ツベルクリン反応などを質問表で取り、採血した血液から血清を分離し、測定項目は、IgE抗体価、5種類の抗腸内細菌IgG抗体価、生物・食品・真菌などに対する特異IgE抗体価を測定した。
2.消化管免疫能と細菌との関係の検討
マウスにwild type とmutant typeの病原性大腸菌を感染させ産生されるIgGの差について検討を行う。この免疫能は消化管のリンパ節に依存すると言われておりTNFおよびLTの受容体を欠損させたマウスによるリンパ節の発生をあわせて観察した。
3.消化管上皮細胞での免疫染色法
アレルギー遺伝子の関連研究の成果からIL-13の重要性が認識されており、消化管上皮におけるIL-13及びその受容体の発現と疾患感受性との関連について検討を行うため剖検標本を得てIL-4Ra, IL-13Ra1, IL-13Ra2抗体で免疫組織染色を行った。
4.便の細菌相の検索
福岡県及び佐賀県小児医師会及び産科医師会、九州大学小児科、産婦人科(周産母子センター)、健康科学センター、心療内科及び国立療養所南福岡病院の協力の基に2県における乳児を500名程度登録し、便、血液及び様々な臨床データの収集を行う予定で現在サンプルを収集中である。収集された便は九大農学部で処理され細菌cDNAを抽出してライブラリーを作成する。
5.倫理審査
本研究を遂行するにあたり、対象とする乳児の臨床データの収集と採血に当たっては担当医師から統一のinformed consentを配布し、両親にこの研究の不利益、危険性の排除に関する考慮、必要性と有用性を充分説明して同意を得た場合に限り研究を実施する。その後のデータは全て連結可能なID化を行い、匿名化しておく。遺伝子解析及び個人情報採取に当たってはヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針等を遵守することとし、動物実験も含め当該施設における倫理委員会での審査を受けることとした。
結果と考察
研究結果=1.血清IgG抗体によるアレルギー疾患診断の試み
12-13歳児童では血清抗腸内細菌IgG抗体価は、健康人とアレルギー症状(喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎・食品アレルギーのどれか1つでも持つ)をもつ群の間で有意な差は認められなかった。また、個々のアレルギー疾患別にも検討したが、4つの疾患のいずれにおいても、血清抗腸内細菌IgG抗体価は健康人と比べて有意な差は認められなかった。しかしながら、健康人、アレルギー症状をどれか1つ持つもの、2つ以上持つものに分けて検討すると、2つ以上持つものにおいて、血清抗腸内細菌IgG抗体価のうち、Bacteroides vulugatusの値が有意に高い傾向を示した。
マウスにおける感染実験でWild type 病原大腸菌EPEC株(WT)の、Tirあるいはintimin遺伝子を欠拐させたEPEC株(ΔTir、ΔInt)は細胞内侵入ができなくなり、通常の非病原性大腸菌と同様のいわゆる“commensal bacteria"となる。WT感染マウスでは、腸管内での分泌型IgA抗体の出現に加え血中にIgG抗体も上昇するが、一方ΔTir感染マウスでは分泌型IgA抗体の出現のみであった。この結果は血清IgG抗体測定の結果と一致した。
2.腸管における免疫におけるリンパ節の重要性
LTβR-Ig処理をした妊娠マウスから生まれた産仔マウスではパイエル板が欠損していた。さらに、TNFR- Igとの混合処理群から生まれたマウスではパイエル板だけでなく腸間膜リンパ節も欠損していた。粘膜免疫の主役であるIgA産生系について検討すると、パイエル板単独欠損マウスではまったく影響が認められなかった。一方、両リンパ節欠損マウスでは顕著なIgA産生の低下が起きていた。従って粘膜免疫で重要なIgA抗体産生のためには消化管リンパ節が重要でありその形成にサイトカインが重要な役割を担っていることが判明した。
3.腸管におけるTH2サイトカインの役割
組織染色によりIL-4とIL-13のレセプター構成成分の発現を解析したところ,胃と小腸のどちらの組織においても上皮細胞の中の小窩細胞,腺細胞においてIL-4レセプターα鎖とIL-13レセプターα1鎖の両方の発現が認められた
4.アトピー遺伝子の解析
小児期発症喘息と成人期発症の喘息を比較して理化学研究所と京大において約10,000個のSNP(1塩基置換)を比較して有意に頻度に差のあるSNPが4個程度発見された。
結論
以上の結果から、新生児以降の免疫の発達にはサイトカインが重要な役割を担っており、それらのサイトカインの産生能には遺伝的な差異があることが分かる。一方、その免疫を誘導する因子として消化管における細菌相の発育が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。重症のアレルギー児童は細菌に対して正常児童が保有しない抗体を多く有しており、発達の過程で消化管においてトレランスが誘導されていないことが判明した。
今後、免疫トレランスの誘導の差がどのような細菌の誘導で起こるのか?それには個体の遺伝的な差がどのように関係するのかを明らかにすることが必要であり、その結果便中の細菌相の検索を遺伝子解析と組み合わせることで早期のアレルギー診断が可能となると期待できる。

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