文献情報
文献番号
200100801A
報告書区分
総括
研究課題名
皮膚アレルギー形成機序における表皮機能の解明及びアレルギー疾患の治療に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
佐山 浩二(愛媛大学)
研究分担者(所属機関)
- 一條秀憲(東京医科歯科大学)
- 菅井基行(広島大学)
- 橋本公二(愛媛大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
アトピー性皮膚炎を代表とする皮膚アレルギー疾患の研究は従来リンパ球を中心とした免疫学的研究が中心であったが、最近皮膚アレルギーの発症の場である表皮そのものの機能が注目されるようになった。本研究では、表皮機能、特に表皮の分化機能と皮膚アレルギーの発症機序との関連を解明することを目的とする。表皮は、基底細胞層で角化細胞が増殖し、分化に伴い有棘層を形成し、バリヤー機能をもつ多層構造の表皮組織が完成する。この過程で、単層上皮にはない分化という独特の機構が表皮の多層構造を形成する上で決定的なものとなる。生物進化の過程で、生物は水中から陸上生活へと適応する際生物の最外層にある皮膚が水分蒸散を防ぐ物理的なバリヤー機能を獲得し、また病原微生物に対しては自然免疫を獲得するに至った。このバリヤー機能形成と自然免疫獲得は従来別の機構によると考えられてきた。
アトピー性皮膚炎では、バリヤー機能の破壊とともに何らかの免疫異常も発症に関与していると考えられている。アトピー性皮膚炎のアレルギー炎症と表皮バリア機能の異常については、表皮バリア機能の異常に伴い、サイトカイン、ケモカイン、細胞成長因子の産生が増強し、さらに、小さなバリア障害が持続することにより、IL-1とTNF-αの増加を伴った表皮肥厚が起きることがアトピー性皮膚炎の病態に関係すると報告されている。我々が、表皮角化細胞の細胞内分化誘導因子として同定したMAPKKK(MAP kinase kinase kinase)ファミリーに属するASK1 (apoptosis signal-regulating kinase 1)は、表皮角化細胞の分化という物理的なバリヤーを形成する一方で、角化細胞の自然免疫、さらにはランゲルハンス細胞に対するケモカインである MIP3αを介して、獲得免疫にも関わっている可能性がある。
本年度はアトピー性皮膚炎におけるバリヤー機能異常と局所免疫異常に ASK1が関わっているかどうか検討するために、1) 自然免疫である抗菌ペプチドβ-defensinの角化細胞からの産生、2)獲得免疫に関わるMIP3αの、角化細胞からの産生をASK1が制御しているのかどうか検討する。ASK1によるMIP3α、βdefensin産生を検討することにより、表皮角化細胞の分化機構とアトピー性皮膚炎に関わる免疫異常を明らかにすることを目的とする。そのためまず、角化細胞の培養法、アデノウイルスベクターを用いた角化細胞への遺伝子導入の方法を確立し、角化細胞のケモカイン、βdefensin産生制御機構に ASK1が関わっているかどうか検討する。ノックアウトマウスを用いて ASK1の基礎的な機能を解析し、さらに、アトピー性皮膚炎の増悪因子である細菌感染に対して、黄色ブドウ球菌接触時における皮膚ケラチノサイトの抗菌ペプチド産生性および抗菌ペプチドの黄色ブドウ球菌に対する効果について検討する。
アトピー性皮膚炎では、バリヤー機能の破壊とともに何らかの免疫異常も発症に関与していると考えられている。アトピー性皮膚炎のアレルギー炎症と表皮バリア機能の異常については、表皮バリア機能の異常に伴い、サイトカイン、ケモカイン、細胞成長因子の産生が増強し、さらに、小さなバリア障害が持続することにより、IL-1とTNF-αの増加を伴った表皮肥厚が起きることがアトピー性皮膚炎の病態に関係すると報告されている。我々が、表皮角化細胞の細胞内分化誘導因子として同定したMAPKKK(MAP kinase kinase kinase)ファミリーに属するASK1 (apoptosis signal-regulating kinase 1)は、表皮角化細胞の分化という物理的なバリヤーを形成する一方で、角化細胞の自然免疫、さらにはランゲルハンス細胞に対するケモカインである MIP3αを介して、獲得免疫にも関わっている可能性がある。
本年度はアトピー性皮膚炎におけるバリヤー機能異常と局所免疫異常に ASK1が関わっているかどうか検討するために、1) 自然免疫である抗菌ペプチドβ-defensinの角化細胞からの産生、2)獲得免疫に関わるMIP3αの、角化細胞からの産生をASK1が制御しているのかどうか検討する。ASK1によるMIP3α、βdefensin産生を検討することにより、表皮角化細胞の分化機構とアトピー性皮膚炎に関わる免疫異常を明らかにすることを目的とする。そのためまず、角化細胞の培養法、アデノウイルスベクターを用いた角化細胞への遺伝子導入の方法を確立し、角化細胞のケモカイン、βdefensin産生制御機構に ASK1が関わっているかどうか検討する。ノックアウトマウスを用いて ASK1の基礎的な機能を解析し、さらに、アトピー性皮膚炎の増悪因子である細菌感染に対して、黄色ブドウ球菌接触時における皮膚ケラチノサイトの抗菌ペプチド産生性および抗菌ペプチドの黄色ブドウ球菌に対する効果について検討する。
研究方法
1)無血清培地を用いた角化細胞の培養法を確立し、増殖能を検討するために、senescenceになるまで、培養する。また、アデノウイルスベクターの作成法、293細胞を用いた大量培養法、およびアデノウイルスベクターを用いた遺伝子発現法を確立する。2) 角化細胞からのケモカイン、デフェンシンの産生をASK1が制御しているかどうか検討するために、活性型の ASK1を組み込んだアデノウイルスベクターを作成する。愛媛大学、橋本が確立する角化細胞への遺伝子導入法を用いて、角化細胞でASK1を発現させ、ケモカイン、デフェンシンの産生を ASK1が制御しているかどうか検討する。 MIP3α、βdefenshinの mRNA、タンパクを ribonuclease protection assay法、Western blot法、 ELISA法にて検討する。3) ASK1のノックアウトマウスを作成し、JNK, p38 MAPK経路における、ASK1の細胞内シグナル伝達機構を解析する。4) hBD-1、2、3およびCAP18の合成ペプチドを作製し、黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用を検討した。さらに、細菌の接触によりケラチノサイトが、hBD-1、2、3およびCAP18を発現するかどうか、RT-PCR法およびReal-Time PCR法で各々の抗菌ペプチドmRNAの発現を検討した。
結果と考察
平成13年度の研究によって得られた結果は以下のごとくである。
1) 角化細胞を効率よく培養する方法を確立し、 senescenceになるまで培養したところ、population doubling (PD) は5.7から45.2までと広範囲に分布していた。また、アデノウイルスベクターを効率的に作成することができ、大量培養により力価も 1-5 x 109 pfu/ulのウイルスベクターを得ることができた。Multiplicity of infection (MOI) 5-10で角化細胞に遺伝子導入した時には、Western blot法にて外来遺伝子の十分な発現が認められ、なおかつコントロールベクターでは、増殖、形態ともにほとんど影響を及ぼさなかった。MOI 5-10で感染させた時に、遺伝子発現が十分にあり、コントロールのベクターでは増殖・形態にもほとんど影響を及ぼさないことから、MOI 5-10を遺伝子発現に用いるのが最も妥当と考えられた。アデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、ASK1の発現、角化細胞の分化誘導のモデルシステムとして最適であると考えられる。2) 1)のごとく確立した角化細胞への遺伝子導入法を用いて、ASK1が角化細胞のMIP3α、β defensin産生に関与しているかどうか検討した。角化細胞にASK1を発現させると、12時間以内で、MIP3α、βdefensinの mRNAの発現が認められた (ribonuclease protection assay法)。また、ELISA法、Western blot法にてタンパク質の産生を検討したところ、MIP3αの産生が確認できた。次に、ASK1の下流にあるとされる JNK, p38MAPKがこれらの産生に関わっているかどうか検討した。ASK1によるMIP3α、βdefensin 2,3の産生は、p38 MAPK阻害剤である SBにより阻害されたが、JNK 阻害剤である curcuminでは阻害されなかった。ASK1による分化誘導に伴い、MIP3α、βdefensin 2, 3が産生されることから、表皮では分化、つまりバリヤー機能形成とあわせて、これらの生体防御機構も形成されてくるものと考えられる。また、この制御機構は ASK1-p38 MAPKを介するものと考えられる。3) ASK1ノックアウトマウスを用いた ASK1の細胞内シグナル伝達機構を調べた。その結果 ASK1はJNKおよび、p38MAPKの経路で、持続的な活性化に必須であることが明らかとなった。4) hBD-1の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性はhBD-2、3、CAP18よりも低かった。MRSA22株、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)22株に対する抗菌活性を検討したところ、株によって差が認められるが全てのペプチドに抗菌力が認められた。ケラチノサイトにおけるhBD-2、3、CAP18のmRNA発現量は12時間まで時間依存的に増加した。角化細胞を用いた感染実験により、表皮角化細胞は黄色ブドウ球菌の感染により、直接的にデフェンシンを産生することが明らかとなった。すなわち、表皮角化細胞はいわゆる免疫担当細胞の関与なしに、みずから抗菌作用を有するデフェンシンを産生し、感染に抵抗することが明らかとなった。
1) 角化細胞を効率よく培養する方法を確立し、 senescenceになるまで培養したところ、population doubling (PD) は5.7から45.2までと広範囲に分布していた。また、アデノウイルスベクターを効率的に作成することができ、大量培養により力価も 1-5 x 109 pfu/ulのウイルスベクターを得ることができた。Multiplicity of infection (MOI) 5-10で角化細胞に遺伝子導入した時には、Western blot法にて外来遺伝子の十分な発現が認められ、なおかつコントロールベクターでは、増殖、形態ともにほとんど影響を及ぼさなかった。MOI 5-10で感染させた時に、遺伝子発現が十分にあり、コントロールのベクターでは増殖・形態にもほとんど影響を及ぼさないことから、MOI 5-10を遺伝子発現に用いるのが最も妥当と考えられた。アデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、ASK1の発現、角化細胞の分化誘導のモデルシステムとして最適であると考えられる。2) 1)のごとく確立した角化細胞への遺伝子導入法を用いて、ASK1が角化細胞のMIP3α、β defensin産生に関与しているかどうか検討した。角化細胞にASK1を発現させると、12時間以内で、MIP3α、βdefensinの mRNAの発現が認められた (ribonuclease protection assay法)。また、ELISA法、Western blot法にてタンパク質の産生を検討したところ、MIP3αの産生が確認できた。次に、ASK1の下流にあるとされる JNK, p38MAPKがこれらの産生に関わっているかどうか検討した。ASK1によるMIP3α、βdefensin 2,3の産生は、p38 MAPK阻害剤である SBにより阻害されたが、JNK 阻害剤である curcuminでは阻害されなかった。ASK1による分化誘導に伴い、MIP3α、βdefensin 2, 3が産生されることから、表皮では分化、つまりバリヤー機能形成とあわせて、これらの生体防御機構も形成されてくるものと考えられる。また、この制御機構は ASK1-p38 MAPKを介するものと考えられる。3) ASK1ノックアウトマウスを用いた ASK1の細胞内シグナル伝達機構を調べた。その結果 ASK1はJNKおよび、p38MAPKの経路で、持続的な活性化に必須であることが明らかとなった。4) hBD-1の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性はhBD-2、3、CAP18よりも低かった。MRSA22株、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)22株に対する抗菌活性を検討したところ、株によって差が認められるが全てのペプチドに抗菌力が認められた。ケラチノサイトにおけるhBD-2、3、CAP18のmRNA発現量は12時間まで時間依存的に増加した。角化細胞を用いた感染実験により、表皮角化細胞は黄色ブドウ球菌の感染により、直接的にデフェンシンを産生することが明らかとなった。すなわち、表皮角化細胞はいわゆる免疫担当細胞の関与なしに、みずから抗菌作用を有するデフェンシンを産生し、感染に抵抗することが明らかとなった。
結論
表皮には、外界に対する物理的なバリヤーと異物認識・炎症・排除という機能的な側面がある。従来、物理的なバリヤー形成(分化)と、皮膚の防御機能(自然免疫、獲得免疫)の形成は、独立したものと考えられてきた。しかし、今年度の研究により、表皮のバリヤー形成と防御機能の獲得は ASK1を中心とした制御機構により、相互に影響を受けながら制御されている可能性があることが明らかとなった。つまり、ASK1を中心とした制御機構の異常により、分化すなわちバリヤー機能破綻、および局所免疫の異常ををきたす可能性が考えられる。これらの結果を総合すると、ASK1を中心とした制御機構の異常を修正することにより、アトピー性皮膚炎の治療につながる可能性が考えられる。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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