慢性関節リウマチの発症及び重篤な合併症の早期診断に関する研究

文献情報

文献番号
200100800A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性関節リウマチの発症及び重篤な合併症の早期診断に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
江口 勝美(長崎大学医学部分子統御医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 上谷雅孝(長崎大学医学部内臓機能医学講座放射線診断治療学領域)
  • 三森経世(京都大学大学院医学研究科臨床免疫学講座)
  • 住田孝之(筑波大学臨床医学系内科)
  • 岡本 尚(名古屋市立大学医学部分子医学研究所分子遺伝部門)
  • 土屋尚之(東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学教室)
  • 塩澤俊一(神戸大学医学部保健学科臨床生体情報講座)
  • 中野正明(新潟大学医学部保健学科臨床生体情報学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
26,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性関節リウマチ (RA) は遺伝的要因に環境要因が複雑に絡み合って発症する疾患であり、未だその要因は解明されていない。21世紀の夢は、RA の病因を解明し、新たに RA が発症することを阻止することである。しかし、現時点では早期に診断し、早期に治療することによって疾患の予後を改善することが最重要課題である。また、RA は腎臓、肺など関節以外にも重篤な合併症を来たす。これらの合併症を早期に予知、あるいは診断治療し、進行を阻止することも予後と QOL を改善するのに大変重要である。
RA の発症及び重篤な合併症の早期診断の指針を作成することを目的として、以下の項目について研究を行った。
Ⅰ. RA の MRI による早期診断、活動性及び予後判定に関する研究
Ⅱ. RA の自己抗体による早期診断に関する研究
Ⅲ. NKT 細胞による RA の早期診断・制御に関する研究
Ⅳ. 線維芽滑膜細胞の間葉系幹細胞への分化と脂肪分化に注目した病態への関与と治療への応用
Ⅴ-1. RA 患者由来関節滑膜細胞の遺伝子発現プロフィールに関する研究
-cDNA array を用いての検討-
Ⅴ-2. RA 遺伝子発現情報を基礎とした慢性関節リウマチ滑膜の病態の解析
Ⅵ. RA の多因子遺伝に関わる疾患感受性遺伝子の同定
Ⅶ. RA の腎機能評価における血清 Cystatin C (CyC) の有用性の検討、である。
研究方法
Ⅰ. MRI は、手関節を造影剤投与直後から3秒おきの撮像を行った。滑膜のエンハンス効果がみられる部位の dynamic curve について立ち上がりから60秒後の時点まで直線を引き、この直線と dynamic curve との間の面積 (PEI-60) を計測した。この指標をもとにした functional image を作製した。
Ⅱ. HeLa 細胞由来 λgt11-cDNA ライブラリーにより RA 患者血清が認識する自己抗原 cDNA クローンを分離し、このクローンより cDNA インサートをプラスミド DNA に組み換えて、塩基配列をシークエンシングし、塩基配列及び推定アミノ酸配列を遺伝子データバンクとのホモロジーサーチによりコードされる蛋白分子を決定した。
Ⅲ. 末梢血リンパ球 (PBL) 中の NKT 細胞 (TCRAV24AJ18+BV11+DN) を算定した。PBL を in vitro で α-galactosylceramide (α-GalCer) とともに培養し、NKT 細胞の増殖能を測定した。コラーゲンタイプⅡ誘導マウス (CIA) にα-GalCer を投与し、関節炎に対する影響を検討した。
Ⅳ. RA 滑膜線維芽培養細胞をトログリタゾン、α-glycerophosphate、TGF-β3を含んだ培養液で3週間培養した。脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞へそれぞれ分化させ、培養上清中のサイトカイン、メタロプロテアーゼを ELISA 法にて測定した。
Ⅴ-1. 関節滑膜細胞より mRNA を抽出し、33P 標識 cDNA プローブを合成し、cDNA array にハイブリダイゼーションし、遺伝子発現プロフィールを解析した。発現量の増加していた遺伝子については real-time RT-PCR を用いて mRNA 量の定量を実施した。さらに、これらの結果を培養細胞系に戻してその生物学的意義を調べた。
V-2. RA 及び変形性関節症 (OA) 滑膜から採取した RNA をテンプレートした differential display RT-PCR 法により、両者において発現レベルが有意に異なる遺伝子断片を同定し、塩基配列を決定し、遺伝子を同定した。
Ⅴ. マイクロサテライトマーカーを用いた家系解析を用いて疾患感受性遺伝子座を第1染色体 DIS214/253、第8染色体 D8S556、X染色体 DXS1232/984の3箇所に同定した。第一染色体に位置する DR3遺伝子の変異を、X染色体に位置する Dbl プロトオンコジーンの3'端欠損遺伝子を見出した。①RA 患者におけるアポトーシス不全の頻度を求める、②変異 DR3 分子によるアポトーシス抑制機構を生化学的に確定する、③第8染色体に位置する疾患遺伝子を発見する、④X染色体に位置する疾患遺伝子 Dbl を確定する。
Ⅵ. RA 患者血清の CyC をネフェロメトリー法で測定し、血清クレアチン (Cr) 値、24時間クレアチニンクリアランス (Ccr) と対比した。
結果と考察
Ⅰ. 滑膜炎の部位における dynamic curve は急峻な立ち上がりを示し、12秒前後でプラトーに達した。PEI-60は、dynamic curve の立ち上がりとピークの高さに依存し、この値に基づく functional image を作成することで dynamic curve の傾向を視覚的に評価できた。
Ⅱ. RA 患者血清が認識する自己抗原として5つの抗原がクローニングされた。RA における陽性率は、不明の蛋白に対する抗体 (17%)、抗 CS 抗体 (57%)、抗 CK-18抗体 (15%)、抗 myc FUSE-BP/DH-V 抗体 (13%)、抗γ-synergin 抗体 (36%) であった。
Ⅲ. RA 末梢血 PBL において NKT 細胞は減少していた。α-GalCer 刺激で応答群と不応答群の2群が存在した。不応答群では、NKT 細胞の機能異常が示唆された。さらに、不応答群では抗原提示能を抑制する C1d variants が存在した。CIA ではα-GalCer 投与により関節炎は増悪し、マウスの NKT 細胞 (TCRAV14AJ281+細胞) は肝臓で有意に減少していた。
Ⅳ. 滑膜線維芽培養細胞は骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などの間葉系細胞へ分化誘導することができた。骨芽細胞や脂肪細胞へと分化誘導した培養上清中において IL-6産生は減少し、脂肪細胞へ分化誘導した培養上清中において IL-8と MMP-3の産生も減少した。
Ⅴ-1. RA 滑膜細胞では real-time detection RT-PCR 法を用いて mRNA の定量した結果、実際に増加が確認できたものは PDGFRα、PAI-1、SDF1であった。PDGFRαの発現は蛋白レベルでも亢進し、in vitro で PDGF に対する増殖応答が亢進していた。
Ⅴ-2. differential display の結果、RA において mRNA レベルで ID1と ID3が有意に増加し、Id1、Id3ともに血管内皮細胞に強い染色が検出された。また、RA において FOSB 発現の上昇が見出され、FOSB に対するΔFOSB の相対的発現量の低下が示唆された。
Ⅵ. 第1染色体に位置する疾患遺伝子 (RA1) 候補として細胞死に関わる DR3遺伝子で、DR3エキソンマップ上で nt564 (A-G); Asp159Gly、nt630+622 (del14)、nt631-538 (C→T)、nt631-391 (A→T)、nt631-243 (A-G) の SNP 4箇所及び核酸欠損1箇所の連鎖不平衡を示す変異がみられた。この結果、転写が早期に終結し、細胞内 death domain を欠いた変異体を生成し、この DR3変異体は正常 DR3分子と三量体を形成し、ドミナントネガティブに DR3機能を低下させた。変異は多発家系の RA で10%、孤発 RA で2.36%、健常対照者で0.38%に存在し、変異遺伝子は遺伝的に RA 家系に有意に保存、伝承されたものと考えられた。RA3遺伝子は、Dbl3'端近くの223bp の第23、24エキソンスキッピングで、変異は家系 RA でヘテロ型25%、ホモ型25%、非家系 RA 例でヘテロ型19.2%、ホモ型21.2%、健常対照者でヘテロ型15.2%、ホモ型4.0%であった。さらに、DNA 上に nt2522+394 (C→T)、nt2632+106 (T→G)、nt2632+211 (A→C)、nt2745+576 (G→A) の SNP が RA に有意に集積して見出された。変異体は支配下に G 蛋白 cdc42に対する GEF 活性に欠損があり、Rac をはじめ低分子量 G 蛋白の支配下にある NADPH オキシダーゼの活性化にも欠損が見出され、欠損型の個人は十分量の活性酸素を生成できなかった。
Ⅶ. CyC、Ccr、Cr の異常はそれぞれ RA 患者126例中87例、81例、41例に認めた。Cr と CyC との相関性は高く、Ccr との相関は Cr より CyC が高かった。
結論
RAの発症及び重篤な合併症の早期診断や対策の指針を作成することを目的として研究した。両手の dynamic MRI を撮像し、dynamic curve を数値化した基準や functional image による視覚的に評価できる方法を確立した。今後、RA の早期診断、炎症の活動性指標、関節の軟骨・骨破壊の予測についての有用性を検討する。
RA 患者血清中に高い陽性率を示す自己抗体が検出された。注目されている抗フィラグリン抗体など RA に特異性の高い自己抗体を発見し、測定系を確立する。
NKT 細胞は、RA 患者末梢血では減少しており、その機能異常のメカニズムを明らかにした。今後、RA の発症とNKT 細胞の減少との関わりが注目される。
滑膜線維芽細胞は骨髄由来間葉系幹細胞と同様の培養条件で骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞へと分化誘導する。脂肪分化誘導によって、滑膜線維芽細胞から産生されるサイトカインやプロテアーゼが減少した。RA において、滑膜線維芽細胞は脂肪分化誘導が阻止され、増殖に向かわせていることが示唆され、これを調節している分子の解明が待たれる。
RA の滑膜細胞では健常滑膜細胞に比べて PDGFRα、PAI-1、SDF1の遺伝子発現が増加し、実際に RA 滑膜細胞は PDGF による増殖促進効果の感受性が有意に増加していた。この結果は RA 滑膜細胞の異常増殖を表している。
RA 滑膜において、Id1、Id3の発現増強が確認され、免疫組織染色により血管内皮細胞に局在が観察された。また、fos ファミリーである FOSB 遺伝子は RA 滑膜で発現が増強していたことに加え、その splicing isoform であるΔFOSB の mRNA 相対的発現量が低下していた。これらの遺伝子が RA 滑膜における血管新生や増殖に関与していると考えられる。
RA の疾患感受性遺伝子座を第1染色体 D1S214/253、第8染色体 D8S556、X染色体 DXS1232/984の3箇所に同定した。第1染色体に DR3遺伝子の変異を、そしてX染色体に Dbl プロトオンコジーンの3'端欠損遺伝子を見出した。すなわち、細胞増殖あるいは細胞死に関わる分子が自己免疫疾患の遺伝素因を形作っていることが見出された。
最後に、CyC は Cr に比べて RA の腎機能低下を有意に感度よく検出し、有用な腎機能指標であることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-