気管支喘息の発症や喘息症状の増悪に及ぼすウイルス感染の影響と治療の効果に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100798A
報告書区分
総括
研究課題名
気管支喘息の発症や喘息症状の増悪に及ぼすウイルス感染の影響と治療の効果に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
飯倉 洋治(昭和大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山一男(国立相模原病院臨床研究センター)
  • 足立満(昭和大学医学部第一内科)
  • 勝沼俊雄(東京慈恵会医科大学小児科)
  • 海老澤元宏(国立相模原病院臨床研究センター)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所感染情報センター)
  • 田島剛(博慈会記念総合病院)
  • 永井博弌(岐阜薬科大学薬理学教室)
  • 工藤宏一郎(国立国際医療センター呼吸器科)
  • 佐野靖之(同愛記念病院アレルギー・呼吸器科)
  • 小田島安平(昭和大学医学部小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気管支喘息の発症、増悪にウイルス感染の関与は重要な問題であると考えられている。しかし、はっきりとした因果関係の研究は無く、印象で話している部分が非常に多い。それ故、喘息患者が感冒に罹患した時の喘息悪化状態の検討は重要である。また、小児ではウイルス感染後に初発の喘鳴を起こし、その後喘息に移行することもよくある。このような印象をはっきりさせることは、小児の喘鳴児を扱う上で非常に重要である。さらに、ウイルス感染がなぜ喘息患者の症状悪化に関係するのかの事実を科学的に検討することも必要であり、基礎研究はこの点に焦点を当てて行なう。次の問題は、いかに予防するかである。ウイルス感染の予防が上手くいけば問題は少ないし、感染後にも何らかの特別処方があれば発作を軽くすることも可能と考える。このような観点からこの問題にも検討を加えてみた。
研究方法
研究方法は大きく4つの面から研究を行った。1)ウイルス感染と臨床面の問題:この問題は非常に重要で、実際の関係を数値的に表現することが重要である。しかも小児科医と内科医でのウイルス感染に対する対応が多少異なることから、小児科、内科別々に検討を行った。2)小児科サイドのウイルス反復感染と喘息発症の研究:この研究は喘鳴を伴う入院患児の鼻汁中のRSV抗原の検索との関係で行った。3)ウイルス感染がなぜ喘息患者の症状悪化に関与するのかの研究:この研究は喘息モデルマウスを作成し、ウイルス感染後の気道の変化を検討、また、気道上皮細胞にウイルスを感染させ、どの様にサイトカイン、ケモカインが出現するかの検討を行なう。4)喘息患者のウイルス予防対策:この研究はワクチンの接種は如何なる効果、注意点があるかの検討と、新しい対応の研究を行った。
結果と考察
成人気管支喘息患者が感冒に罹患すると喘息症状がどの程度悪化するかの検討では31%が大いに関係してくると答え、しかも重症患者ほど末梢気道の回復が遅いことが判った。このことから、重症患者ほど積極的にウイルス感染対策を行う必要があると考えられる。小児もウイルス感染は喘息患者に問題で、インフルエンザの流行以外の時期に喘息発作で入院した患児とウイルス感染の関係を検討した結果、ウイルス分離が出来た患児は14%で、その内RSVが4例とRSVが頻度は一番多かった。この傾向は他の施設でも同じで、RSV感染は喘息児にとって非常に問題のウイルスと言える。また、喘鳴を伴って入院した患児の鼻汁中RSV抗原を454人に調査した結果は、166人(36.5%)が陽性であった。それらの中で19人(11.4%)が反復感染であった。しかもこの反復感染群は全て半年以内に喘息に移行していたことから、RSV感染は重要な問題であると言えるし、また早期対応が重要と言える結果であった。また、一般病院での小児科での下気道感染症、喘息性気管支炎の調査で、下気道炎すなはち、肺炎と考えられる症状を呈した児の喘息患者は31.5%であるのに対し、喘息のない児は10.8%と非常に少なく、気管支喘息患者の気管支は感染に弱い結果であった。この弱い背景は何処にあるのかの研究を喘息モデルマウスで行った結果、ウイルス感染で喘息の気管支は
非常様々な影響を受けることがはっきりした。一つはウイルス感染の急性期と回復期で、気管支の細胞浸潤が非常に異なり、急性期の気管支には好酸球が非常に多く浸潤することがはっきりし、IL-5の産生も極めて多かった。また、気道上皮細胞にウイルス感染をさせた後の細胞から賛成されるサイトカイン、ケモカインの検索で、RANTESが非常に多く産生されていた。このことは局所に好酸球を誘導するのに都合の良い背景が作られていることで、ウイルス感染後の症状悪化に好酸球の浸潤が重要な役割を果たしていると言える。さらに、急性期と回復期とで、細胞の違いがあったことは、急性期の対応をきちんと行い、この時にも好酸球対策が必要と言える結果であった。予防対策であるが、ウイルス感染の中で最も重要な問題はインフルエンザ感染対策である。しかし、アレルギー児はしばしばこのワクチンの製造過程で孵化鶏卵を用いることから除外されることがある。このことは非常に重要な問題のため、今回検討を加えてみた。小児科受診者でのアレルギー児と非アレルギー児の比較では、アレルギー児に一人局所の副反応が見られたが、効果は非常に良好であった。インフルエンザワクチン接種者のインフルエンザ罹患率は今年度は1.7%で、しかも2日間の発熱で軽症であった。このことは、成人の喘息患者の重症例は積極的にインフルエンザワクチンを接種すべきといえる結果であった。さらに、今回マウス気道過敏性モデルを作成し、抗ウイルス薬と、抗ウイルス作用があり、かつ抗炎症作用のあるIFN-βを用いての気道の変化を抗原吸入前後で比較した結果、IFN-βは有意に気道の細胞浸潤を抑制したことから、この種の薬剤化の検討も今後重要と考えられる。一方、抗ウイルス剤として用いられているアシクロビールは気道に何ら影響を及ぼさなかった。
結論
今回の研究から、喘息患者にとってウイルス感染は非常に重篤な状態になり得る背景を惹起することが臨床面、基礎面からはっきりした。特に臨床面では重症な患者ほど気管支の細い部分が侵され、回復に時間がかかることが判った。小児ではウイルス感染が喘息症状の悪化のみでなく、喘息の発症に関係することもわかり、しかもRSV感染の反復予防が重要であるとの結果であった。このことは、早期に喘鳴対策を行なう必要があることで、従来の喘鳴に対する考えを修正する必要がある。従来は低年齢児の喘鳴は「気管支の発育が脆弱なために起こるので、経過をみていけば消える」との意見が主流であったが、今回の結果は違っていた。早期対応が重要なのである。また、ウイルス感染の悪化の背景にウイルス感染時、気管支に好酸球浸潤が著明になることがはっきりした。このことは、ウイルス感染の急性期にすでに治療対策をしっかり行うことが重要と言える結果で、今後の臨床に役立てる重要な結果であった。予防策であるが、インフルエンザワクチンのような既存のものは積極的に接種すべき結果であった。

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