アトピー性皮膚炎の患者数の実態及び発症・悪化に及ぼす環境因子の調査に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100796A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー性皮膚炎の患者数の実態及び発症・悪化に及ぼす環境因子の調査に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
山本 昇壯(広島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 笠置文善(放射能影響研究所)
  • 玉置邦彦(東京大学大学院医学系研究科)
  • 河野陽一(千葉大学大学院医学研究院)
  • 常俊義三(県立宮崎看護大学)
  • 占部和敬(九州大学大学院医学研究科)
  • 小田嶋博(国立療養所南福岡病院)
  • 森田栄伸(島根医科大学)
  • 秀道広(広島大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国のアトピー性皮膚炎の患者数(有症率)は、現在なお増加傾向にあり今後も増加すると予測するものと、増加傾向はみられなくなっているとするものと見解がわ
かれている。いずれにしても、本症が長期慢性に経過する湿疹病変であり痒みや外見上の不快さあるいは他のアトピー性疾患を合併し易いことなどから、患者および家族の不安は多大なものがあることには変わりはない。また、本症の発症・悪化には多くの環境因子(換言すれば有症率を左右する因子でもある)が関与していると考えられているが、かって本症の治療において大きな混乱を経験したように、その関与の程度については様々な見解がある。このような状況から、本研究は「アトピー性皮膚炎患者数の実態を全国規模で正確に把握し、同時に発症・悪化に関わる各因子の重要性を検証し、患者、医療従事者および医療行政機関に可能な限りこれらに関する正確な情報を提供することによって、本症をもつ患者および家族の不安の解消、治療概念の確立および行政的対策の確立を支援し、患者のQOLの向上と保健医療に資する」ことを目的としている。
研究方法
本年度は昨年度(初年度)企画した調査計画及び予備調査の結果に基づいて本調査を開始した。1.アトピー性皮膚炎患者数の実態(有症率)調査方法:全国規模で専門医の健診による調査を基本とした。将来同様の調査が必要となる可能性も踏まえて、健診とともに受診者を対象とした「診断のための質問票」による調査および医療施設への郵送調査も同時に行い、それらの有用性も合わせて検討した。全国規模の健診のために、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州それぞれの地区で研究協力者(専門医)を組織した。1)過去報告されている本症の有症率に関する資料を収集・解析し、その調査方法と結果の問題点を分析して本調査研究の参考にした。2)上記の全国8地区の保健所及び小学校において、有症率調査のための健診を開始した。健診対象総人数は統計学的に1歳半児及び3歳児それぞれ5,600人、小学1年生及び6年生それぞれ11,200人、総計33,600人と設定された。一部の地区では、4ヶ月児の調査も行った。3)個々の健診受診者への「診断のための質問票」を作成し、その感度(健診によりアトピー性皮膚炎と診断された受診者が、質問票により正しくアトピー性皮膚炎と判断された割合)と特異度(健診によりアトピー性皮膚炎ではないと診断された受診者が、質問票により正しくアトピー性皮膚炎ではないと判断された割合)を解析した。4)皮膚科、小児科のある病床数20床以上のランダムサンプリングで抽出した1860医療施設への郵送調査で、平成13年11月の1ヶ月に受診したアトピー性皮膚炎患者数を調査した。2. アトピー性皮膚炎の発症・悪化に及ぼす環境因子の調査方法:1)過去報告されている本症の環境中の発症・悪化因子に関する資料を収集・解析し、その調査方法と結果の問題点を分析して本調査研究の参考とした。2)ダニを発症・悪化因子のモデルとして、ダニ防護布団カバーを用いて二重盲検試験を開始した。また、その他の有症率を左右する環境因子を解析した。3)推定される悪化因子と本症の炎症機構との関連を明らかにするために、発汗を悪化因子のモデルとしてその関与の機序を検討した。
結果と考察
1.アトピー性皮膚炎患者数の実態(有症率):本調査研究で設定された健診予定人数のうち、本年度の調査達成度は1歳半児で83.1%(4952/5600)、3歳児で94.6%(5296/5600)、小学1年生で52.1%(5832/11200)、小学6年生で44.2%(4955/11200)であった。この時点で本症の有症率は、各地区である程度の差はあるが、全国平均で1歳半児9.8%、3歳児13.2%、小学1年生12.4%、小学6年生11.3%であった。また、学童期の有症率において、都市部で10.8%(627/5784)、郊外部では13.1%(656/5003)であり、両者に大差なくむしろ郊外部で高い傾向がみられた。従来から本症の有症率は年齢の増加にしたがって低下し、都市部で高く郡部で低いといわれているが、今回の調査ではその傾向はみられなかった。さらに、重症度別にその割合をみてみると1歳半児では軽症84.2%、中等症12.6%、重症2.7%、最重症0.6%、3歳児では軽症85.1%、中等症11.2%、重症2.6%、最重症1.1%、小学1年生では軽症69.7%、中等症28.1%、重症1.8%、最重症0.2%、小学6年生では軽症68.1%、中等症29.1%、重症
2.1%、最重症0.5%であった。中等症の割合が幼児期よりも学童期において高いことは、年齢の増加にしたがって有症率が低下していないことからすると、学童期において症状の程度はむしろ悪化しているようにみえる。このように今回の調査では、従来認識されていた本症の実態とやや異なる傾向がみられた。詳細は次年度の調査終了を待たねばならないが、その要因を解析することは本症の悪化にかかわる環境因子の解明につながる可能性が示唆される。一方、539医療施設(病床数20床以上)に平成13年11月の1ヶ月間に受診した本症患者は10330人であり、その年齢分布は1歳がピークで年齢の増加とともに漸減し、15歳では1歳の患者数の約1/5となっている。初年度の予備調査の結果からいくつかの要因で補正した推計では、わが国の医療施設に受診している患者数は222-259万人(0-15歳)、有症率にすると10.9-12.7%と予測されるが、詳細は次年度の病床数19床以下の医療施設の調査結果を待たなければならない。本症対する対策が適切に施行されるためには患者数の経時的な把握が必要であるが、専門医の健診による有症率の調査を頻回に行うことは困難である。そこで、健診に代わる調査法として「質問による診断」の可能性を検討した。現時点での解析結果は、全国平均で1歳半児の感度/特異度(%)は67.9/94.6、3歳児で70.3/94.8、学童期で81.6/91.1であった。この質問票が有症率調査に有用であるか否か、健診および質問票の解析が完了する次年度に明らかになると思われる。わが国の本症の有症率に関する調査は平成4年以来みられず、したがって、今回の調査結果が最近の資料としては唯一のものとなる。2. アトピー性皮膚炎の発症・悪化に及ぼす環境因子:アトピー性皮膚炎の発症・悪化因子の客観的な把握は決して容易ではない。従来から代表的な発症・悪化因子と考えられているダニをモデルとして、その発症・悪化因子としての検証を日常の診療で無理なくできるダニ防護布団カバーを用いて二重盲検試験を開始した。さらに、その他の発症に影響する因子(有症率に影響を及ぼす因子)も解析中であるが、大気汚染、親のアトピー性皮膚炎歴、誕生月(感染の関与)などが候補としてあがってきた。現在、さらに詳細に検討中である。本症患者の皮膚は自己の汗に対して特異的に反応するが、その反応機序はIgEを介 するものであることが明らかとなり、現在汗中の抗原物質を精製単離中である。本症の病態形成における汗の悪化因子としての役割を、炎症機構への関与の機序も含めて解明されることが期待される。推察されている多くの発症・悪化因子について、個々の因子の炎症機構への関与をその機序に基づいて立証することは極めて困難である。したがって、発症・悪化因子と認識する基準を作成することも必要と思われる。
結論
1)本年度までの健診による調査の結果、わが国のアトピー性皮膚炎の有症率は全国平均で1歳半児9.8%、3歳児13.2%、小学1年生12.4%、小学6年生11.3%であった。そのうち7割から8割は軽症であった。2)代表的な本症の発症・悪化因子と考えられているダニをモデルとして、二重盲検試験によってその検証を開始した。また、数因子が有症率に影響するものと推察されたが、現在さらに詳細に解析中である、中でも汗はIgEを介して本症の炎症機構に関与していることが示唆された。

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