食物アレルギーの実態及び誘発物質の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200100791A
報告書区分
総括
研究課題名
食物アレルギーの実態及び誘発物質の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(国立相模原病院臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤直実(岐阜大学小児科)
  • 池澤善郎(横浜市立大学皮膚科)
  • 飯倉洋治(昭和大学小児科)
  • 小倉英郎(国立高知病院)
  • 柴田瑠美子(国立療養所南福岡病院小児科)
  • 赤澤晃(国立小児病院アレルギー科)
  • 橋本勉(和歌山県立医科大学公衆衛生学)
  • 豊田正武(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 眞弓光文(福井医科大学小児科)
  • 宇理須厚雄(藤田保健衛生大学小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
次の6項目を目的に各分担研究者が方法に示す#1~#12の研究を行った。
1)我が国の食物アレルギーの実態の把握(飯倉・橋本・海老澤)
2)アレルギー物質含有食品の表示の検討(臨床系研究者)
3)食物アレルギーの発症・寛解機序の解明(柴田・小倉・池澤・宇理須・近藤・赤澤・眞弓)
4)食物アレルギーの診断方法の確立(海老澤・柴田)
5)我が国に独特の頻度の高い食物抗原の解析(赤澤)
6)食物アレルギーの診断・治療ガイドラインの作成(臨床系研究者)
研究方法
#1アレルギー物質を含む食品に関する表示に関する検討:臨床系研究者
アレルギー物質を含む食品に関する表示規定の運用における表示義務の限界の「微量」の定義を討議した。
#2食物アレルギーの診断に関する研究:海老澤
全国29施設のネットワークを確立し、共通プロトコールで食物負荷試験を施行した。食物アレルギーの食物除去解除率を国立相模原病院において経年的に検討した。食物アレルギーの有病率の検討する目的で相模原市の協力により健康乳児を対象に4ヶ月、8ヶ月、12ヶ月時の調査を開始した。
#3食物アレルギーの免疫学的発症機序の解明に関する研究:近藤
食物抗原の認識機構の解析の為に卵白アレルギー患者4例を対象とし、5つのOM特異的TCCを樹立し、それぞれの抗原提示分子と認識するペプチド断片を解析した。
#4食物アレルギーの成人発症機序の解明に関する研究:池澤
唾液中の総sIgA値、卵白・牛乳・小麦・カンジダ特異的特異的sIgA・蛋白量をELISAにて測定し病態との関連を検討した。キウイ・リンゴのOAS患者を対象に,各種花粉を抗原としIgE抗体を蛍光ELISAで測定しキウイ・リンゴによる抑制試験にて交叉反応性を検討した。
#5重篤な食物アレルギーの全国実態調査に関する研究:飯倉
全国2000名超の医師の協力のもと食物摂取から1時間以内に発症し医療機関を受診した即時型食物アレルギーのモニタリング調査を行い、第1回~第4回(H13.1~12)までに2434症例を集積し解析した。
#6食物アレルギーの小児期発症機序(非即時型)の解明に関する研究:小倉
重症アトピー性皮膚炎3例において、小麦、牛乳、鶏卵および大豆の誘発試験を行い、負荷前後のリンパ球表面抗原、CD4陽性細胞中のIFN-γ、IL-2、IL-4陽性細胞の比率を比較検討した。
#7食物アレルギーの小児期発症機序(即時型)の解明に関する研究:柴田
小児の即時型食物アレルギーの100例に対して誘発症状とヒスタミン遊離反応の関係を検討した。
#8食物アレルゲン的見地からの発症機序の解明に関する研究:赤澤
食品中に含有する鶏卵のアレルゲン含有量を患者血清のプールIgE抗体により抑制的immuno-assayにて定量化し、市販品中の全卵抗原量の測定を行った。アワビと思いこみラパス貝を摂取してショックを起こした患者のIgE抗体にて交又抗原性を検討した。
#9食品中アレルギー誘発物質とアレルギー疾患に関する文献調査研究:橋本
我が国の食物アレルギーによる死亡例を文献的に調査し、人口動態統計において有害食物反応によるアナフィラキシーショック(T78.0)による死亡例を1995年以降の事例を調査した。
#10原因食品中アレルギー誘発物質の解明に関する研究:豊田
患者血清を用いたウエスタンブロッティングと分子生物学的手法を用いて原因食品中のアレルギー誘発物質の解析を行った。
#11食品低アレルゲン化法の開発による食物アレルギーの治療に関する研究:眞弓
OVA特異IgEトランスジェニックマウスを用いて抗原投与のパターンを変え反応性を検討した。
#12食物アレルギーのアウトグローの機序の解明と寛容誘導:宇理須
鶏卵アレルギー児を負荷試験の結果で、非寛解群8例、寛解群4例に分類し、コントロールも含め合計16名の末梢血単核細胞を分離培養し、ovomucoid刺激7日後の培養上清中のサイトカイン(IL-4、IFN-γ)を測定した。
(倫理面への配慮)
患者を対象とした研究においては文書同意を原則とし、患者由来検体も患者の同意のもと研究に用いた。
結果と考察
#1アレルギー物質を含む食品に関する表示に関する検討
アレルゲン毎にレベルが異なることや測定法の感度の問題から微量を実際に定義するのは不可能であるが、「ナノグラム単位での誘発例はないがミリグラム単位では誘発例が存在する」と食品表示に関する研究班に提言した。
#2食物アレルギーの診断に関する研究
負荷試験食の提供により平成13年4月から12月までに146負荷試験、昨年までの実績と合わせて合計325負荷試験が施行され、負荷試験の陽性率は46%とIgE陽性率の85%に比べると解離が認められ、負荷試験が必要不可欠であることが示された。食物の除去解除率を経年的にみると、3才までに卵白30%、卵黄50%、牛乳60%、小麦65%、大豆80%の食物除去が解除されていた。相模原市の健康乳児を対象とした食物アレルギーの調査を開始し、回収率90%以上で順調に推移している。
#3食物アレルギーの免疫学的発症機序の解明に関する研究
即時型アレルギー反応の患者から樹立されたTCCはIL-4とIFN-γの両者を産生し、非即時型アレルギー反応の患者から樹立されたTCCはIFN-γを優位に産生していた。両者ともFACScanでCCR-3およびIL-12Rβ1が陽性であったが、後者のTCCはIL-12Rβ2およびIL-18Rαも陽性であり、前者はTh0またはTh2クローン、後者はTh1クローンであると判明した。
#4食物アレルギーの成人発症機序の解明に関する研究
カンジダIgE抗体高値・特異的sIgA/総sIgA比低値で重症例が多く認められ,カンジダIgE抗体低値・特異的sIgA/総sIgA比高値で軽症例が多く認められた。キウイ・リンゴのOAS患者での交叉反応性は,スギではキウイ・リンゴによる抑制を認めず,他の花粉では交差反応を示す症例が存在した。
#5重篤な食物アレルギーの全国実態調査に関する研究
総症例2434症例中の抗原別割合は鶏卵875名(37.5%)、牛乳297名(12.7%)、小麦197名(8.5%)、フルーツ127名(5.4%)、ソバ110名(4.7%)、魚類105名(4.5%)、エビ100名(4.3%)、ピーナッツ54名(2.3%)、魚卵54名(2.3%)と続いた。年齢分布では0歳児が732名(29.8%)、1歳児が431名(17.8%)、以降加齢とともに漸減し、8才までに79.7%が集積したが、20才以上の成人も259名(10.7%)存在した。ショック症状を呈した例は270名(11.1%)存在した。
#6食物アレルギーの小児期発症機序(非即時型)の解明に関する研究
負荷後のIL-4陽性細胞の比率は陽性例においては3例とも著明に増加していた。Th1細胞は非特異的に負荷後活性化され、Th2細胞は陽性の場合は著明に活性化され、陰性の場合は活性化されなかった。
#7食物アレルギーの小児期発症機序(即時型)の解明に関する研究
HRTは不応者がいる為感度はIgECAPRASTに比べ劣るが、特異性は61%~100%と優れていた。即時型食物アレルギーの機序に好塩基球からのHRTが関与している可能性が示唆された。
#8食物アレルゲン的見地からの発症機序の解明に関する研究
ウインナソーセージ、クッキー、はんぺん中の鶏卵のアレルゲン含有量を測定する方法を開発した。アワビアレルギーと思われた患者血清IgE抗体はアワビ抗原と反応せず、ラパス貝エキスと主要抗原のヘモシアニンと強く反応した。
#9食品中アレルギー誘発物質とアレルギー疾患に関する文献調査研究
文献的調査によりソバアレルギーによるショック死1例と、ソバによる食餌依存性運動誘発アナフィラキシーによる死亡が推測された学会報告1例が存在した。人口動態統計で有害食物反応によるアナフィラキシーショック(T78.0)による死亡例が1995年から5年間で計15例認められた。
#10原因食品中アレルギー誘発物質の解明に関する研究
食物抗原解析を行い、食肉ではクレアチンキナーゼ(CK)を同定し、小麦では40kDaは小麦ペルオキシダーゼと同定された。トマト果実抗原とスギ花粉抗原で交叉反応性を認めた。穀類でコメとコムギ、トウモロコシとサトウキビの間での相同性が高く(約90%同一)、ジャガイモの28kDaをGSH-depenndent ascorbic acid oxidaseと同定した。ソバに関しては高分子の111 kDaの蛋白質がIgE抗体と強く反応していた。
#11食品低アレルゲン化法の開発による食物アレルギーの治療に関する研究
OVA特異IgEトランスジェニックマウスにおいてOVAを大量に投与するとアナフィラキシーを生じ、少量投与では症状が出現してもすぐに回復するが、1日おきに投与を反復すると6~7回目の投与以降死亡するマウスが出現した。少量の抗原反復投与で抗原特異的T細胞応答が誘導された。
#12食物アレルギーのアウトグローの機序の解明と寛容誘導
非寛解食物アレルギー患者の単核細胞をovomucoidで刺激すると、その上清中にはIL-4がINF-γに比べ優位に産生されていた。寛解児のovomucoid刺激によるサイトカイン産生はTh1側へシフトしていた
結論
食物アレルギーのわが国での現状を正確に把握する試みが実を結びエビデンスに基づいた行政的対応も可能となり、小児・成人での食物アレルギーの発症寛解機序の解明・免疫学的発症機序の解明・抗原解析・抗原定量・診断方法の確立特に負荷試験の普及・食物アレルギーの疫学的調査と研究は順調に推移した。最終年度のエビデンスに基づいた食物アレルギーのガイドラインの作成にデータ収集・コンセンサスの形成を進めていく予定である。

公開日・更新日

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