文献情報
文献番号
200100789A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー原因遺伝子の同定とその機能解析に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
柳原 行義(国立相模原病院臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 近藤直実(岐阜大学医学部小児科)
- 出原賢治(佐賀医科大学医学部生化学)
- 田中敏郎(大阪大学医学部分子病態内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
アトピー性疾患は環境的要因と遺伝的要因の相互作用により発症する複雑な疾患であり、またこの遺伝的要因はアトピー素因と呼ばれている。本疾患の発症には家族集積性が認められること、また本疾患は多様な病態像を示すことから、アトピー素因には多くの遺伝子の多型や変異が関与していると考えられている。アトピー原因遺伝子としては、アレルギーの発症や病態形成に関わるIgE、IgE受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体およびシグナル伝達分子などの多くの遺伝子がその候補に挙げられている。しかし、これらの候補遺伝子の機能解析が必ずしも十分でないために、機能的にも重要なアトピー原因遺伝子については不明な点が多いのが現状である。本研究班では、アトピーの原因となり得る主要な候補遺伝子群について、分子遺伝学的、遺伝子工学的および生化学的な手法を用いて多角的な解析を進めている。また、遺伝学的のみならず、機能的にも重要なアトピー原因遺伝子群の多型や変異を組み合わせた簡便な遺伝子診断法を確立することによって、アトピーの予知やアレルギーの発症予防に応用する。
研究方法
インフォームドコンセントが得られた健常者とアトピー患者の末梢血単核細胞からDNAを抽出し、SSCP法、RFLP法あるいはdirect sequence法によりアトピー原因候補遺伝子群の塩基配列を解析した。また、サイトカインや免疫グロブリンはELISAあるいはRIAにより、各種遺伝子の発現はRT-PCR法により、それぞれ測定した。
結果と考察
①AIDはクラススイッチに重要な働きをしているRNA編集酵素である。正常者B細胞を用いてAID発現とIgEクラススイッチとの関係を調べてみると、IL-4またはIL-13と抗CD40抗体の共刺激により、AID mRNAの発現に続いて、IgEクラススイッチが誘導された。また、AID mRNAの発現はIL-4Rαの50Ile-Val多型の影響を受け、50Ile型では50Val型に比べて有意に増強されることが明らかとなった。AID構造遺伝子の多型については、エクソン4にのみ465C/T多型が存在することを新規に同定した。このTアリル頻度はアトピー喘息患者では正常者に比べて高い値を示したが、アトピー性皮膚炎患者では差は認められなかった。IL-4Rαの50Ile-Val多型はV(D)J組換えに関わるRAGの発現にも調節的に作用し、またこのRAG発現は皮膚炎患者で頻度が高い50Val型によって増強され、その結果IgE抗体の多様性が獲得されることについては、昨年報告した。一方、喘息患者で頻度が高い50Ile型はAIDの発現を増強し、またAID構造遺伝子の465Tアリル頻度も高いので、このTアリルはアトピー型喘息における高IgE血症と関連していると考えられた。
②IL-13の110Arg-Gln多型におけるGln型は喘息患者で頻度が高い遺伝型である。IL-13の110Arg-Gln多型の機能を解析するために、Arg型とGln型の各リコンビナント蛋白質を作成して、まずIL-13Rα1やIL-13Rα2発現細胞を用いて結合実験を行った。IL-13Rα1に関してはArg型とGln型との間には親和性に差異は認められなかったが、おとり受容体として考えられているIL-13Rα2に対する親和性はArg型>Gln型であった。また、IL-13Rα2を介するIL-13の取り込み能もGln型ではArg型に比べて低値を示した。次に、ヒト血漿中での安定性について検討したところ、Gln型ではArg型に比べて半減期の延長が認められた。同様な結果はArg型とGln型のIL-13を投与したマウスを用いても得られた。また、喘息患者における血中IL-13レベルはGln型の方が高値を示したので、生体内においてもGln型はArg型よりも安定型で存在することは明らかである。以上の知見は、Gln型のIL-13ではIL-13Rα2との相対的低親和性が生体内でのIL-13濃度の上昇に寄与していることを示しており、またIL-13の110Arg-Gln多型は喘息の遺伝因子として機能していると考えられた。
③IL-18はIL-12共存下ではTh1細胞の分化を促進するが、単独ではTh2細胞の分化を促進すると共に、マスト細胞/好塩基球からのヒスタミン遊離やIL-4/IL-13産生および好酸球からのIL-8産生なども誘導する。また、アトピー型喘息患者やアトピー性皮膚炎患者では血中IL-18の増加が認められるので、IL-18は病態形成に重要な役割を果たしている可能性が示唆される。そこで、まず昨年同定したIL-18構造遺伝子105A/C多型の連鎖解析を行った。この多型のCアリル頻度は正常者では13.3%、喘息患者では18.5%、皮膚炎患者では21.2%であり、疾患では高い傾向を示した。次に、皮膚炎モデルマウスであるNC/Ngaマウスを用いて、血中IL-18の推移を検討したところ、皮膚炎発症前においてもそのレベルは著しく上昇していた。このマウスに発症前からフラボノイドを投与すると、皮膚炎症状や経皮水分喪失量などが強く抑制された。フラボノイドの作用機序としては、カルモジュリン依存性のカルシニューリンやNFATの活性化抑制が関与していることが明らかになった。NC/Ngaマウスでは、ヒトとは異なり、IL-18遺伝子の多型は検出されなかった。
④IgEの過剰産生にはIL-12Rβ2やIL-18Rαなどの抑制系の遺伝子異常が関与しており、実際これらの遺伝子異常はIFN-γ産生不全の症例と関連していた。しかし、IL-12とIL-18との間にはIFN-γ産生調節に解離を示す症例が認められ、このような症例ではalternative splicingによるIL-18Rα cDNAの異常 (950 del CAG) が同定できた。このdel CAGの頻度はアトピー患者では正常者に比べて有意に高く、またdel CAGをもつ症例ではIL-18によるIFN-γ産生は有意に低下していた。さらに、del CAGの発現は37℃の細胞培養では誘導されるが、30℃では一部解除されることも判明した。このことはdel CAGの発現調節に温度変化が関与していることを示している。一方、IL-18とIL-18Rαとの結合様式を解析すると、ミスセンス変異によるアミノ酸荷電の変化により結合力を消失することが明らかになった。また、IL-12Rβ2やIL-18Rαの下流に位置するIFN-γR1遺伝子には、アトピー患者に極めてユニークなミスセンス変異を同定した。以上の知見から、IgE産生の抑制系の破綻には、IL-12Rβ2、IL-18RαおよびIFN-γR1などの遺伝子異常の相互作用が関与していると考えられた。
⑤全ゲノムに存在するSNPとアレルギー疾患との関連については、今までにマイクロサテライトマーカーを用いた家系解析が行われてきた。しかし、このような連鎖解析の手法ではマーカーや家系の選定などに問題があり、実際この手法ではアレルギー関連遺伝子はまだ1つも同定されていない。一方、最近では連鎖不平衡の原理を用いたSNPのcase-control studyが注目されているので、この手法を用いて関連遺伝子の解析を試みた。小児喘息患者における全ゲノムの20万SNPを対象にして、今までに報告された候補遺伝子座を中心に、既知遺伝子のみならず、未知遺伝子の検索も行った。また、アレルギーは多因子疾患であるので、今までに同定された遺伝子内の変異がどのように相互作用しているのかという点を明らかにするために、遺伝子相互作用を推定する解析モデルを作成した。
②IL-13の110Arg-Gln多型におけるGln型は喘息患者で頻度が高い遺伝型である。IL-13の110Arg-Gln多型の機能を解析するために、Arg型とGln型の各リコンビナント蛋白質を作成して、まずIL-13Rα1やIL-13Rα2発現細胞を用いて結合実験を行った。IL-13Rα1に関してはArg型とGln型との間には親和性に差異は認められなかったが、おとり受容体として考えられているIL-13Rα2に対する親和性はArg型>Gln型であった。また、IL-13Rα2を介するIL-13の取り込み能もGln型ではArg型に比べて低値を示した。次に、ヒト血漿中での安定性について検討したところ、Gln型ではArg型に比べて半減期の延長が認められた。同様な結果はArg型とGln型のIL-13を投与したマウスを用いても得られた。また、喘息患者における血中IL-13レベルはGln型の方が高値を示したので、生体内においてもGln型はArg型よりも安定型で存在することは明らかである。以上の知見は、Gln型のIL-13ではIL-13Rα2との相対的低親和性が生体内でのIL-13濃度の上昇に寄与していることを示しており、またIL-13の110Arg-Gln多型は喘息の遺伝因子として機能していると考えられた。
③IL-18はIL-12共存下ではTh1細胞の分化を促進するが、単独ではTh2細胞の分化を促進すると共に、マスト細胞/好塩基球からのヒスタミン遊離やIL-4/IL-13産生および好酸球からのIL-8産生なども誘導する。また、アトピー型喘息患者やアトピー性皮膚炎患者では血中IL-18の増加が認められるので、IL-18は病態形成に重要な役割を果たしている可能性が示唆される。そこで、まず昨年同定したIL-18構造遺伝子105A/C多型の連鎖解析を行った。この多型のCアリル頻度は正常者では13.3%、喘息患者では18.5%、皮膚炎患者では21.2%であり、疾患では高い傾向を示した。次に、皮膚炎モデルマウスであるNC/Ngaマウスを用いて、血中IL-18の推移を検討したところ、皮膚炎発症前においてもそのレベルは著しく上昇していた。このマウスに発症前からフラボノイドを投与すると、皮膚炎症状や経皮水分喪失量などが強く抑制された。フラボノイドの作用機序としては、カルモジュリン依存性のカルシニューリンやNFATの活性化抑制が関与していることが明らかになった。NC/Ngaマウスでは、ヒトとは異なり、IL-18遺伝子の多型は検出されなかった。
④IgEの過剰産生にはIL-12Rβ2やIL-18Rαなどの抑制系の遺伝子異常が関与しており、実際これらの遺伝子異常はIFN-γ産生不全の症例と関連していた。しかし、IL-12とIL-18との間にはIFN-γ産生調節に解離を示す症例が認められ、このような症例ではalternative splicingによるIL-18Rα cDNAの異常 (950 del CAG) が同定できた。このdel CAGの頻度はアトピー患者では正常者に比べて有意に高く、またdel CAGをもつ症例ではIL-18によるIFN-γ産生は有意に低下していた。さらに、del CAGの発現は37℃の細胞培養では誘導されるが、30℃では一部解除されることも判明した。このことはdel CAGの発現調節に温度変化が関与していることを示している。一方、IL-18とIL-18Rαとの結合様式を解析すると、ミスセンス変異によるアミノ酸荷電の変化により結合力を消失することが明らかになった。また、IL-12Rβ2やIL-18Rαの下流に位置するIFN-γR1遺伝子には、アトピー患者に極めてユニークなミスセンス変異を同定した。以上の知見から、IgE産生の抑制系の破綻には、IL-12Rβ2、IL-18RαおよびIFN-γR1などの遺伝子異常の相互作用が関与していると考えられた。
⑤全ゲノムに存在するSNPとアレルギー疾患との関連については、今までにマイクロサテライトマーカーを用いた家系解析が行われてきた。しかし、このような連鎖解析の手法ではマーカーや家系の選定などに問題があり、実際この手法ではアレルギー関連遺伝子はまだ1つも同定されていない。一方、最近では連鎖不平衡の原理を用いたSNPのcase-control studyが注目されているので、この手法を用いて関連遺伝子の解析を試みた。小児喘息患者における全ゲノムの20万SNPを対象にして、今までに報告された候補遺伝子座を中心に、既知遺伝子のみならず、未知遺伝子の検索も行った。また、アレルギーは多因子疾患であるので、今までに同定された遺伝子内の変異がどのように相互作用しているのかという点を明らかにするために、遺伝子相互作用を推定する解析モデルを作成した。
結論
多因子疾患であるアレルギーの発症や病態形成には、少なくともIL-4Rα、AID、IL-13、IL-12Rβ2、IL-18RαおよびIFN-γR1などの遺伝子の多型や異常が関与していることが明らかになった。現在、全ゲノムの20万SNPを対象にして未知の関連遺伝子についても検索を行っているので、さらに多くの関連遺伝子が同定されると期待される。また、遺伝子相互作用を推定する解析モデルはアレルギー疾患の複雑な病態形成の解明に大きく寄与すると考えられた。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-