気管支喘息急性期治療における薬物の科学的根拠に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100788A
報告書区分
総括
研究課題名
気管支喘息急性期治療における薬物の科学的根拠に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
松井 猛彦(東京都立荏原病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 西尾 健(国立療養所南福岡病院)
  • 森川昭廣(群馬大学医学部)
  • 秋山一男(国立相模原病院)
  • 永井博弌(岐阜薬科大学薬学部)
  • 高野 頌(同志社大学工学部)
  • 原 寿郎(九州大学大学院)
  • 大田 健(帝京大学医学部)
  • 吉田隆實(静岡県立こども病院)
  • 西牟田敏之(国立療養所下志津病院)
  • 庄司俊輔(国立療養所南福岡病院)
  • 出原賢治(佐賀医科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喘息急性増悪に対する既存治療法の中で臨床的に問題となる諸点を検討し、喘息の急性期治療をより有効で安全なものとし、喘息の増悪・喘息死を減少させ、QOLを改善し治癒の促進を図る。
研究方法
1.β2刺激薬:喘息死・致死的高度発作を監視、原因を究明、警告するシステムを開発するため、国立病院・療養所共同研究システムの有効性について検討する。また、致死的高度発作の要因を解析する。1995年、喘息死総数が異常に増加したが、その要因を解析するため、厚生省人口動態調査原票で喘息死、インフルエンザ死の関連等を解析する。β2刺激薬を薬理学的に解析し、耐性機序、気道過敏性への影響、フェノテロールと他のβ2刺激薬との薬理作用の異同について解析する。また、臨床的にβ2刺激薬の安全で有効な使用法、長期投与の気道過敏性に及ぼす影響、β2刺激薬吸入による気道可逆性試験の臨床的評価を加え、また、定量噴霧式吸入薬(MDI)という薬剤投与システムについて流体力学的に解析し、吸入方法の標準化を図る。2.テオフィリン薬:テオフィリン薬の効果についてアミノフィリンに関する臨床論文のエビデンスの質を評価してその有用性を検討し、また、テオフィリンのTh2を介する作用機序について検討する。3.ステロイド薬:乳幼児の発作時ステロイド薬静注の上乗せ効果及び3歳以下の小児に対する吸入ステロイド薬の導入効果について検討する.また、グルココルチコ受容体(GR)遺伝子内のマイクロサテライト多型を検討し、GR遺伝子の活性型、不活性型の定量系の確立を行う。4.リモデリング:リモデリングにおける血管新生機序について検討する.また、昨年度、気管支上皮細胞でIL-4、IL-13により発現が増強されることを明らかにしたsquamous cell carcinoma antigen( SCCA)分子と喘息の関連について検討する。
結果と考察
1.β2刺激薬: i)国立病院・療養所共同研究システム12施設から2,001~02年の喘息死3例、致死的高度発作救命例7例が報告された。ii)高齢者の喘息死にインフルエンザの関与が可能性が示唆され、また、1995年のわが国の喘息死総数の増加に高齢者におけるインフルエンザの関与が示唆された。iii)15歳以上の致死的発作救命例の検討から、この年齢層の長期管理における吸入ステロイド薬の徹底の重要性が明らかになった。iv)β2刺激薬はin vitroで抗炎症効果を認めるが、この作用は頻回投与で減弱し、その機序を明らかにした。in vivoのマウスのアレルギー性気道反応で、fenoterol 10 、100 g/ml 溶液 9 日間1日2回吸入投与では気道過敏性は変化せず、気道炎症にも影響は与えなかった。 v)β2刺激薬のアレルギー性炎症に及ぼす影響ついて肺線維芽細胞にはエオタキシンなどの炎症性サイトカイン産生を亢進させ、局所アレルギー反応を増幅・遷延させ、作用経路が薬剤間で差がある可能性が示唆された。β2刺激薬はヒト好中球及び好酸球からのスーパーオキサイド(O2-)産生をin vitroで抑制するが、抑制は薬剤間で差がある可能性が示唆された。 vi)成人喘息の検討で、SpO2 94%以下の症例では高率に酸素飽和度の低下をきたすため積極的に酸素吸入を併用すべきで、エピネフリン皮下注射はβ2刺激薬非連用者では注意が必要で、β2刺激薬(経口、貼付)は長期使用
しても吸入ステロイド薬の併用で気道過敏性に影響しなかった。vii)気道可逆性試験で寛解状態の喘息患児の可逆性と臨床症状を比較したが差はみられなかった。viii)喘息治療における定量噴霧式吸入器の使用法として、安静時呼吸条件下での薬剤粒子の吸入が最も有効である。2.テオフィリン薬:アミノフィリンの急性発作時使用の有用性・妥当性について、エビデンスの高い臨床論文の検討からもその使用は支持される。テオフィリン薬はアレルゲン特異的Th2細胞炎症を減弱させる作用があることが示唆された。3.ステロイド薬:5歳以下の乳幼児の急性発作におけるステロイド注射薬の有効性を今回の検討では明らかにできなかった。乳幼児における吸入ステロイド療法開始時のBDP吸入量2群の比較では4週間以降で高用量(300~600μg/日)群に発作点数の低下傾向が認められた.ヒトGR遺伝子内のマイクロサテライト遺伝子多型を明らかにしGR遺伝子mRNAのα・βアイソフォーム定量系を確立した。4.リモデリング:血管内皮細胞は血管新生を通して喘息の病態に関わることが示唆された。SCCAは気管支上皮細胞でIL-4・IL-13により発現が誘導され、喘息患者の病変部位・血中で発現が増強しており、喘息の発症,病態形成の関連分子と考えられた。β2刺激薬MDIは急性発作の救急薬として第一選択薬となるが、誤った使用は喘息死を増加させる可能性がある。高濃度の β2刺激薬を高濃度、高頻度に吸入投与すると気道炎症を増悪する可能性があるが、低濃度・低頻度では気道炎症に影響を及ぼさないことを確認した。β2刺激薬の気管支拡張作用以外の作用とその機序、薬剤間の薬理作用の差異についてさらに検討が必要である。MDIは安静呼吸条件下での吸入が最も有効で、標準化が必要である。発作時のβ2刺激薬吸入に際し積極的に酸素吸入を併用すべきで、エピネフリン皮下注射はβ2刺激薬非連用者では慎重な投与が必要である。β2刺激薬(経口、貼付)は長期使用しても、吸入ステロイド薬を併用して、気道過敏性には影響を与えなかった。喘息死・致死的高度発作を予防するため、特に思春期の吸入ステロイド薬の確実な吸入、喘息死・致死的発作のモニタリングと解析、警告システムの開発が課題である。アミノフィリンの急性発作時使用の有用性・妥当性を明らかにすることができたが、乳幼児ではテオフィリン誘発痙攣に注意が必要である。ステロイド薬の乳幼児の急性期治療における有効性、投与法についてさらに研究を進めることが必要で、ステロイド薬反応性に関する遺伝子多型の臨床的意義の解析も今後の課題となる。リモデリングの詳細な機序について、その一部を解明した。
結論
β2刺激薬MDIは急性発作の救急薬として第一選択薬となるが、誤った使用は喘息死を増加させる可能性がある。喘息死を予防するため、特に思春期の吸入ステロイド薬の確実な吸入、喘息死・致死的発作のモニタリングシステムの開発が課題となる。β2刺激薬の気管支拡張作用以外の作用とその機序、薬剤間の薬理作用の差異についてさらに検討が必要である。MDIは安静呼吸条件下での吸入が最も有効で、標準化が必要である。発作時のβ2刺激薬吸入では積極的に酸素吸入を併用すべきで、エピネフリン皮下注射はβ2刺激薬非連用者では慎重な投与が必要である。アミノフィリンの急性発作時使用の有用性・妥当性を明らかにすることができたが、乳幼児ではテオフィリン誘発痙攣に注意が必要である。ステロイド薬の乳幼児の急性期治療における有効性、投与法についてさらに研究を進め、ステロイド薬反応性に関する遺伝子多型の臨床的意義の解析が今後の課題となる。リモデリングの機序について、その一部を解明した。

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