文献情報
文献番号
200100785A
報告書区分
総括
研究課題名
花粉症に対する各種治療法に関する科学的根拠をふまえた評価研究(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
今野 昭義(千葉大学大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
- 寺田修久(千葉大学大学院医学研究院)
- 大久保公裕(日本医科大学)
- 仲野公一(千葉大学大学院医学研究院)
- 石井豊太(国立相模原病院)
- 沼田 勉(千葉大学大学院医学研究院)
- 久保伸夫(関西医科大学)
- 八尾和雄(北里大学医学部)
- 岡本美孝(山梨医科大学)
- 島 正之(千葉大学大学院医学研究院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究はスギ花粉症における自然史の解明、花粉飛散期における医師側から見た、また患者側から見た花粉症症例の対応の実体と問題点を明らかにすると同時に、既存の各種治療法をエビデンスに基づいて評価を行い、花粉症の治療法を整理することにある。
研究方法
花粉症に対する既存の各種治療法を客観的に評価し、現在の花粉症治療法の患者側から見た、また、医師側から見た問題点を明らかにすると同時に、将来への対策を考える資料とするために以下の研究を行った。(1) スギ花粉症の自然史、特に感作、発症、自然寛解に与える加齢の影響の解明(今野昭義、島 正之)、(2) 疫学調査による患者側から見た花粉症治療の実態とQOL(寺田修久)、(3) 各種環境下における浮遊スギ花粉数の動態と花粉防御製品の客観的評価(大久保公裕)、(4) 花粉症の長期寛解または根治を期待できる唯一の治療法としての減感作療法の客観的評価 (仲野公一)、(5) 医師側から見た受診後の患者の動態と各種薬物療法の有効性、コンプライアンスと患者のQOLの評価 (石井豊太)、(6) 物理的療法(温熱エアロゾル療法)の客観的評価とその奏功機序の解明(沼田 勉)、(7) 手術療法(レーザー手術およびchemosurgery)の客観的評価と奏功機序、適応と限界の解明(八尾和雄、久保伸夫)、(8) 民間療法に関する疫学調査と実験的研究(岡本美孝)
結果と考察
(1)スギ花粉症の自然史、特に感作、発症、自然寛解に与える加齢の影響:40歳以上の同一人を対象とした縦断的調査によりスギ花粉症の感作、発症、自然寛解に与える加齢の影響を検討し、以下の成績を得た。①小児期には加齢とともにスギ花粉感作率、有症率は増加し、この時期における自然寛解はほとんどない。同一被検者を追跡調査した6年間の縦断的研究においてダニに対する血清IgE抗体値は40歳以上では加齢とともに有意に低下した。Bリンパ球における血清IgE抗体産生能は40歳以上の加齢とともに低下するものと考えられる。しかし抗原暴露量の多いスギ花粉症症例のスギIgE抗体値は40歳代においてはスギ花粉飛散量の違いの影響を強く受け、6年間の加齢の影響はみられなかった。一方、60歳以降ではスギIgE抗体値に対する花粉飛散量変動の影響は消失し、50歳代は60歳と40歳代の中間の血清スギIgE抗体値の変動パターンを示す。②自然寛解は初回調査(1995)時、40歳以上で、2回以上スギIgE値を測定できたスギ花粉症症例に限ると、1995年以来の6年間の加齢により13.8%でみられた。自然寛解を左右する因子は初回検査時の年齢、血清スギIgE抗体値、初発年齢、性差であり、50歳以降発症者、男性で有意に高頻度に自然寛解がみられた。自然寛解の頻度は調査対象の年齢構成により変化する。③1995年のスギ花粉大量飛散期にスギCAP RAST≧2をしめしながら発症しなかった196名のうち19名がその後の6年に発症した。発症者は非発症者と比較して、年齢は有意に低く、スギRAST値は有意な高値を示した。④スギ・ダニ重複感作を示す者ではスギ花粉大量飛散年である1995、2001年に血清ダニRAST値と同時にダニRAST値の著明な上昇を認めた。ダニ単独感作症例ではスギ花粉大量飛散時期におけるスギIgE 抗体値上昇はみられないことから、スギ花粉大量暴露はTリンパ球におけるTh2サイトカイン産生亢進を介してダニIgE 抗体産生亢進を
おこしたものと考えられる。近年スギ花粉症における重複感作の増加が問題になっているが、in vitro 実験で確認する必要がある。また千葉県君津市と東京都に隣接する市川市の小学生、それぞれ1087名、1009名を対象として、小学生における血清スギRAST 値、有症率と2000年から2001年までの3年間における感作率、有症率の変化を調査して、以下の成績を得た。君津市児童のスギIgE抗体陽性率は1999年24.2%、2000年27.5%、2001年33.6%と増加傾向を認め、初年度に抗体陽性でありながら未発症であった者の2-3年後の有症率は41.8%に達した。また、市川市児童のスギRAST陽性率は40.7%とさらに高率であり、居住環境の影響とスギ花粉症感作、発症の低年齢化が示唆された。
(2)花粉症症例の花粉飛散期における対応の実態とQOL:アンケート調査と文献検索を行い、以下の成績を得た。①鼻過敏症状は知的作業に悪影響を与え、心理的影響をもたらす。②その影響は特に花粉症で強く、治療によりQOLは改善する。③花粉症のQOLが低い背景には医療機関、患者双方に問題があり、患者と医師とのコミュニケーション、特に花粉症の病態、治療法の啓蒙と服薬指導の徹底が重要と考えられる。
(3)花粉飛散期に屋外で曝露されるスギ花粉の鼻粘膜上沈着量の定量的評価とマスクによる防御効果の検討:①鼻内花粉数は市街地歩行中と比較して公園のように広い場所の方が、より多く鼻内に吸入される。②鼻内へのスギ花粉の侵入する数は単位時間当り、多くても数10個であり、マスク装着により鼻内花粉数は有意に抑制された。③鼻内花粉数は落下花粉と同様に気象条件に左右され、個人差も大きい。
(4)減感作療法の客観的評価:1980年以降に発表された花粉症に対する免疫療法に関する二重盲検試験論文を対象として、その効果をメタ・アナリシスを用いて評価した。また、スギ花粉症患者にスギアレルゲン治療エキス「トリイ」とプルラン修飾スギ抗原(CS-560)を用いた層別割付法を用いた無作為割付による非盲検試験を実施し、次の成績を得た。①EBMにおけるレベルIbの35編中32論文においてp<0.05で免疫療法がプラセボ群に比し、有意に効果があった。臨床効果の程度は症状の改善度の中央値で45%である。②免疫療法終了後の長期効果については、治療を3年以上続けることで、長期の効果を期待できる。③スギ花粉症に対する免疫療法の効果は非盲検試験ではあるが、有効率は60-89%であり、2年以上継続症例では長期にわたり60%の有効率が認められる。④スギアレルゲン治療エキス「トリイ」とCS-560を用いて治療した症例における一段階以上の改善率は平成10年トリイ群88.1%、CS群79.7%、平成11年度トリイ群85.0%、CS群71.1%であり、治療効果は花粉飛散数に強い影響を受ける。
(5)医師側からみたスギ花粉症治療効果の評価:平成12年度に治療したスギ花粉症症例を対象として、アレルギー日記による症状薬物点数と症状重症度点数を計算し、薬物療法と減感作療法の有用性を検討し、以下の成績を得た。①症状重症度点数は薬物治療群において減感作療法群と比較して有意に低かった。しかし、症状薬物点数は減感作療法群が有意に低値を示した。②治療に対する患者の満足度は50%であり、満足度では減感作療法群が優っていた。これは減感作群において、多少の症状の悪化はあっても、薬物を使用するまでにはいかなかったとの判断が多かったためと考えられる。
(6)温熱エアロゾル療法の客観的評価とその奏効機序の解明:通年性アレルギー性鼻炎症例を対象として、抗原誘発後にみられる鼻粘膜腫脹に対する抗原誘発前または誘発後の単回スチーム吸入(38℃、10分)の影響についてacoustic rhinometryを用いて検討し、以下の成績を得た。①単回スチーム吸入は吸入後10-30分にかけて鼻粘膜腫脹を有意に抑制した。②抗原誘発により強い鼻粘膜腫脹をおこした状態でスチーム吸入を行うと鼻粘膜腫脹は40分後まで有意に抑制された。抑制のピークは40分後にみられ、鼻腔容積減少抑制の大きさは1.16㎝3に達した。③抗原誘発前にスチーム吸入を行うことによって鼻粘膜腫脹はさらに強く抑制された。抑制は誘発50分後まで有意であり、抑制のピークは40分でみられ、抑制の大きさは1.51㎝3に達した。同時に、抗原誘発くしゃみ回数も抑制された。しかし、抗原誘発前または後のスチーム吸入による抑制の大きさと持続時間の差には推計学的有意差はみられなかった。④スチーム吸入の奏効機序には鼻粘膜血管に対する直接作用と同時に化学伝達物質に対する鼻粘膜効果器の反応性の抑制が強く関与するものと考えられる。⑤本法による鼻過敏症状改善の程度をアレルギー日記上の症状スコアより判断すると多くは一段階改善ではあるが、本法は薬物を用い難く、鼻粘膜腫脹が強い花粉症妊婦において、妊娠時期に応じて、補助療法または第一選択の治療法として特に有用である。
(7)スギ花粉症に対するchemosurgeryの客観的評価:平成13年度のスギ花粉飛散期にスギ花粉症のchemosurgery(TCA)治療群(37名)と薬物単独治療群(23名)を対象として、アレルギー日記を用いて症状の程度を比較し、以下の成績を得た。①くしゃみ回数、鼻汁、こう鼻回数はともに全症例を通してTCA 治療群で有意な低値(p<0.01)を示した。②鼻閉症状に関してはTCA治療群で「無症状」、「口呼吸なし」が有意に高頻度にみられ、日常生活支障度の評価に関しても「支障なし」「仕事に差しつかえなし」が有意に高頻度にみられた。 ③TCA群では23/37(62%)が薬物の併用を必要としなかった。 ④薬物療法群では18/23(78%)が局所ステロイド薬の併用を必要とし、他はその他の抗アレルギー薬内服を必要とした。⑤花粉飛散期間中、薬物療法のために頻回の来院を希望しない症例に対して有用な治療法と考えられた。
(8)スギ花粉症に対するレーザー手術の客観的評価:スギ花粉大量飛散年である平成13年度に来院したスギ花粉症症例をレーザー治療群13例と局所ステロイド薬(フルチカゾン(r))季節前治療群9例の2群に分け、スギ花粉飛散期間中のsymptom score, symptom medication score を検討した。炭酸ガスレーザー照射は平成12年12月から平成13年1月にかけて行った。照射回数は週1回、計2-5回であり、レーザー照射群では花粉飛散中の治療は行わなかった。薬物投与は花粉飛散予想日の2週前から飛散終了時まで行った。飛散初期、中期、後期におけるレーザー照射群のsymptom scoreの平均はそれぞれ1.4, 1.8, 1.9であった。一方フルチカゾン投与群のsymptom scoreの平均は1.5, 2.2, 1.9 であり、全ての時点において有意差はなかった。大量飛散年においてもレーザー季節前照射は少量飛散年同様に有効であり、局所ステロイド薬季節前、季節中投与と同等の有効性を示した。
(9)民間療法の作用機序とその効果に関する実験的研究:in vitro でIFN-γの誘導作用が知られている南瓜子の作用について in vivo 、in vitroでの実験的検討を進め、また民間療法に関して欧米の文献を中心に検討を加えた。まず南瓜子ならびに形態、味を同一にした inactive placebo を通年性ダニ鼻アレルギー患者に4週間投与した。投与前後の抹消血より単核球を分離し、 in vitro にてダニ抗原を用いて刺激を行い、産生されるIFN-γ、IL-5の量をELISAにより測定し、南瓜子投与との関連を検討した。また、同時に臨床症状の改善の有無についても調査した。次にC57BL6マウスに卵白アルブミンを抗原としてアラムとともに腹腔内感作を繰り返して感作マウスを作製し、体重換算にてヒト投与量と同量の南瓜子あるいは inactive placebo を鼻粘膜抗原投与感作7日前から、あるいは鼻粘膜抗原投与感作後から連日経胃管投与し、7日後に鼻粘膜抗原投与を行って、鼻かき発作を指標とした臨床症状の評価と鼻粘膜浸潤好酸球、サイトカイン発現について検討した。さらに別の感作マウス群には、IFN-γ(1μg)の鼻内接種を5日間繰り返して、その後の抗原投与による鼻症状の変化についても検討した。一方、欧米の民間療法に関する報告のうち、ランダム化比較試験を行っている文献について検討を行った。
南瓜子投与群では投与後に inactive placebo 投与群と比較してダニ抗原刺激により、有意に高いIFN-γ産生と低いIL-5産生が認められた。一方、南瓜子投与にて鼻アレルギー症状に有意な改善は
placebo群と比較して認められなかった。アレルギー感作マウスに南瓜子あるいはplaceboを投与した実験では、南瓜子を鼻粘膜抗原投与前から予防的に投与した群において、抗原に対する鼻症状に高い改善が認められた。また、鼻粘膜好酸球浸潤にも改善が認められた。感作成立後、鼻粘膜に抗原投与を繰り返して鼻症状が強く発現したマウスでは、高濃度のIFN-γ(1μg)の鼻腔投与の繰り返しによっても鼻症状の改善は認められず、逆に鼻粘膜浸潤好酸球には増加傾向が認められた。文献調査では、欧米においては民間療法に関する研究が行われ、花粉症についてもランダム比較研究が行われていた。結果は否定的なもののみでなく、有効性を示唆するものもあった。しかし、花粉症の診断基準、投与方法、有効性の評価法の不明瞭さ、検討対象患者の少なさなど、その内容には不備なものが多く、質の高いランダム化試験とは認められなかった。
おこしたものと考えられる。近年スギ花粉症における重複感作の増加が問題になっているが、in vitro 実験で確認する必要がある。また千葉県君津市と東京都に隣接する市川市の小学生、それぞれ1087名、1009名を対象として、小学生における血清スギRAST 値、有症率と2000年から2001年までの3年間における感作率、有症率の変化を調査して、以下の成績を得た。君津市児童のスギIgE抗体陽性率は1999年24.2%、2000年27.5%、2001年33.6%と増加傾向を認め、初年度に抗体陽性でありながら未発症であった者の2-3年後の有症率は41.8%に達した。また、市川市児童のスギRAST陽性率は40.7%とさらに高率であり、居住環境の影響とスギ花粉症感作、発症の低年齢化が示唆された。
(2)花粉症症例の花粉飛散期における対応の実態とQOL:アンケート調査と文献検索を行い、以下の成績を得た。①鼻過敏症状は知的作業に悪影響を与え、心理的影響をもたらす。②その影響は特に花粉症で強く、治療によりQOLは改善する。③花粉症のQOLが低い背景には医療機関、患者双方に問題があり、患者と医師とのコミュニケーション、特に花粉症の病態、治療法の啓蒙と服薬指導の徹底が重要と考えられる。
(3)花粉飛散期に屋外で曝露されるスギ花粉の鼻粘膜上沈着量の定量的評価とマスクによる防御効果の検討:①鼻内花粉数は市街地歩行中と比較して公園のように広い場所の方が、より多く鼻内に吸入される。②鼻内へのスギ花粉の侵入する数は単位時間当り、多くても数10個であり、マスク装着により鼻内花粉数は有意に抑制された。③鼻内花粉数は落下花粉と同様に気象条件に左右され、個人差も大きい。
(4)減感作療法の客観的評価:1980年以降に発表された花粉症に対する免疫療法に関する二重盲検試験論文を対象として、その効果をメタ・アナリシスを用いて評価した。また、スギ花粉症患者にスギアレルゲン治療エキス「トリイ」とプルラン修飾スギ抗原(CS-560)を用いた層別割付法を用いた無作為割付による非盲検試験を実施し、次の成績を得た。①EBMにおけるレベルIbの35編中32論文においてp<0.05で免疫療法がプラセボ群に比し、有意に効果があった。臨床効果の程度は症状の改善度の中央値で45%である。②免疫療法終了後の長期効果については、治療を3年以上続けることで、長期の効果を期待できる。③スギ花粉症に対する免疫療法の効果は非盲検試験ではあるが、有効率は60-89%であり、2年以上継続症例では長期にわたり60%の有効率が認められる。④スギアレルゲン治療エキス「トリイ」とCS-560を用いて治療した症例における一段階以上の改善率は平成10年トリイ群88.1%、CS群79.7%、平成11年度トリイ群85.0%、CS群71.1%であり、治療効果は花粉飛散数に強い影響を受ける。
(5)医師側からみたスギ花粉症治療効果の評価:平成12年度に治療したスギ花粉症症例を対象として、アレルギー日記による症状薬物点数と症状重症度点数を計算し、薬物療法と減感作療法の有用性を検討し、以下の成績を得た。①症状重症度点数は薬物治療群において減感作療法群と比較して有意に低かった。しかし、症状薬物点数は減感作療法群が有意に低値を示した。②治療に対する患者の満足度は50%であり、満足度では減感作療法群が優っていた。これは減感作群において、多少の症状の悪化はあっても、薬物を使用するまでにはいかなかったとの判断が多かったためと考えられる。
(6)温熱エアロゾル療法の客観的評価とその奏効機序の解明:通年性アレルギー性鼻炎症例を対象として、抗原誘発後にみられる鼻粘膜腫脹に対する抗原誘発前または誘発後の単回スチーム吸入(38℃、10分)の影響についてacoustic rhinometryを用いて検討し、以下の成績を得た。①単回スチーム吸入は吸入後10-30分にかけて鼻粘膜腫脹を有意に抑制した。②抗原誘発により強い鼻粘膜腫脹をおこした状態でスチーム吸入を行うと鼻粘膜腫脹は40分後まで有意に抑制された。抑制のピークは40分後にみられ、鼻腔容積減少抑制の大きさは1.16㎝3に達した。③抗原誘発前にスチーム吸入を行うことによって鼻粘膜腫脹はさらに強く抑制された。抑制は誘発50分後まで有意であり、抑制のピークは40分でみられ、抑制の大きさは1.51㎝3に達した。同時に、抗原誘発くしゃみ回数も抑制された。しかし、抗原誘発前または後のスチーム吸入による抑制の大きさと持続時間の差には推計学的有意差はみられなかった。④スチーム吸入の奏効機序には鼻粘膜血管に対する直接作用と同時に化学伝達物質に対する鼻粘膜効果器の反応性の抑制が強く関与するものと考えられる。⑤本法による鼻過敏症状改善の程度をアレルギー日記上の症状スコアより判断すると多くは一段階改善ではあるが、本法は薬物を用い難く、鼻粘膜腫脹が強い花粉症妊婦において、妊娠時期に応じて、補助療法または第一選択の治療法として特に有用である。
(7)スギ花粉症に対するchemosurgeryの客観的評価:平成13年度のスギ花粉飛散期にスギ花粉症のchemosurgery(TCA)治療群(37名)と薬物単独治療群(23名)を対象として、アレルギー日記を用いて症状の程度を比較し、以下の成績を得た。①くしゃみ回数、鼻汁、こう鼻回数はともに全症例を通してTCA 治療群で有意な低値(p<0.01)を示した。②鼻閉症状に関してはTCA治療群で「無症状」、「口呼吸なし」が有意に高頻度にみられ、日常生活支障度の評価に関しても「支障なし」「仕事に差しつかえなし」が有意に高頻度にみられた。 ③TCA群では23/37(62%)が薬物の併用を必要としなかった。 ④薬物療法群では18/23(78%)が局所ステロイド薬の併用を必要とし、他はその他の抗アレルギー薬内服を必要とした。⑤花粉飛散期間中、薬物療法のために頻回の来院を希望しない症例に対して有用な治療法と考えられた。
(8)スギ花粉症に対するレーザー手術の客観的評価:スギ花粉大量飛散年である平成13年度に来院したスギ花粉症症例をレーザー治療群13例と局所ステロイド薬(フルチカゾン(r))季節前治療群9例の2群に分け、スギ花粉飛散期間中のsymptom score, symptom medication score を検討した。炭酸ガスレーザー照射は平成12年12月から平成13年1月にかけて行った。照射回数は週1回、計2-5回であり、レーザー照射群では花粉飛散中の治療は行わなかった。薬物投与は花粉飛散予想日の2週前から飛散終了時まで行った。飛散初期、中期、後期におけるレーザー照射群のsymptom scoreの平均はそれぞれ1.4, 1.8, 1.9であった。一方フルチカゾン投与群のsymptom scoreの平均は1.5, 2.2, 1.9 であり、全ての時点において有意差はなかった。大量飛散年においてもレーザー季節前照射は少量飛散年同様に有効であり、局所ステロイド薬季節前、季節中投与と同等の有効性を示した。
(9)民間療法の作用機序とその効果に関する実験的研究:in vitro でIFN-γの誘導作用が知られている南瓜子の作用について in vivo 、in vitroでの実験的検討を進め、また民間療法に関して欧米の文献を中心に検討を加えた。まず南瓜子ならびに形態、味を同一にした inactive placebo を通年性ダニ鼻アレルギー患者に4週間投与した。投与前後の抹消血より単核球を分離し、 in vitro にてダニ抗原を用いて刺激を行い、産生されるIFN-γ、IL-5の量をELISAにより測定し、南瓜子投与との関連を検討した。また、同時に臨床症状の改善の有無についても調査した。次にC57BL6マウスに卵白アルブミンを抗原としてアラムとともに腹腔内感作を繰り返して感作マウスを作製し、体重換算にてヒト投与量と同量の南瓜子あるいは inactive placebo を鼻粘膜抗原投与感作7日前から、あるいは鼻粘膜抗原投与感作後から連日経胃管投与し、7日後に鼻粘膜抗原投与を行って、鼻かき発作を指標とした臨床症状の評価と鼻粘膜浸潤好酸球、サイトカイン発現について検討した。さらに別の感作マウス群には、IFN-γ(1μg)の鼻内接種を5日間繰り返して、その後の抗原投与による鼻症状の変化についても検討した。一方、欧米の民間療法に関する報告のうち、ランダム化比較試験を行っている文献について検討を行った。
南瓜子投与群では投与後に inactive placebo 投与群と比較してダニ抗原刺激により、有意に高いIFN-γ産生と低いIL-5産生が認められた。一方、南瓜子投与にて鼻アレルギー症状に有意な改善は
placebo群と比較して認められなかった。アレルギー感作マウスに南瓜子あるいはplaceboを投与した実験では、南瓜子を鼻粘膜抗原投与前から予防的に投与した群において、抗原に対する鼻症状に高い改善が認められた。また、鼻粘膜好酸球浸潤にも改善が認められた。感作成立後、鼻粘膜に抗原投与を繰り返して鼻症状が強く発現したマウスでは、高濃度のIFN-γ(1μg)の鼻腔投与の繰り返しによっても鼻症状の改善は認められず、逆に鼻粘膜浸潤好酸球には増加傾向が認められた。文献調査では、欧米においては民間療法に関する研究が行われ、花粉症についてもランダム比較研究が行われていた。結果は否定的なもののみでなく、有効性を示唆するものもあった。しかし、花粉症の診断基準、投与方法、有効性の評価法の不明瞭さ、検討対象患者の少なさなど、その内容には不備なものが多く、質の高いランダム化試験とは認められなかった。
結論
①スギ花粉抗原刺激によるβリンパ球のIgE産生能は40歳代では加齢による低下は認められない。しかし、60歳代では著明に抑制されている。40歳以上の症例に限るとスギ花粉症の13.8%が自然寛解を示す。しかし自然寛解症例は50歳以上で発症した男性で、血液スギCAP RASTスコア2~3の低値の者に多い。②若年発症者が10年以内に自然緩解を示す可能性はほとんどない。現在、感作、発症の低年齢化が進行しているが、治療を考える際にはスギ花粉症の自然史を医師、患者とともに認識した上で、長期の治療簡略を考える必要がある。③花粉症に対する患者の満足度は低い。患者が医師に何を求めるのかを明らかにするのと同時に、花粉症の病態治療法の啓蒙と眠薬指導の徹底が重要である。④マスク・メガネによるスギ花粉防御効果は従来のモデル実験の結果から評価されていた程良くはない。しかし花粉症曝露量は少しでも減らす必要がある。⑤花粉症に対する減感作療法は二重盲検試験で確認されており、その背景には抗原刺激に対するTh2サイトカイン産生の抑制がある。重症症例においては長期緩解を期待できる唯一の治療法として選択岐の一つとして考える必要がある。⑥温熱エアロゾル療法は鼻粘膜血管に直接作用して鼻粘膜収縮メディエーターの産生、遊離抑制を介して鼻過敏症状を軽減させるものと考えられる。通常の薬物を用い難い、絶対過敏期の妊婦では第一選択の治療法となる。⑦大量花粉飛散年においてもレーザー手術は局所ステロイド薬の季節前、季節中治療と同じ程度の鼻症状抑制効果を示した。chemosurgeryの効果も良好であり、花粉飛散期間を抗アレルギー薬併用なしで過ごせる症例が有意に多い。⑧民間療法で用いられる南瓜子を鼻アレルギー症例に用いることによって、末梢血単核球を抗原刺激した際にみられるINF-γ産生は有意に亢進し、IL-5産生は低下した。しかし臨床症状の改善はみられなかった。
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