ドライアイ発症機序の解明および治療用人工涙液の開発研究

文献情報

文献番号
200100783A
報告書区分
総括
研究課題名
ドライアイ発症機序の解明および治療用人工涙液の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
坪田 一男(東京歯科大学市川総合病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在ドライアイ患者数は全国で約800万人と推定されている。ドライアイ症状は患者に単に不快感を与えるだけでなく、かゆみや痛みなどによる集中力の低下にともない仕事などの作業効率の低下が生じる。また重度のドライアイ患者においては、眼球表面の損傷等により視力の著しい低下を伴うこともあるため、健全な社会生活を営む上で大きな生活障害となっている。ドライアイ治療法の開発は生活障害の改善やQOLの観点からも、今後の社会における重要な課題の一つであるといえる。ドライアイの発症機序は2つのステップに分けることができる。第1のステップは涙腺障害などによる涙液分泌量の低下であり、第2のステップは涙液分泌量の低下による眼球表面の乾燥および障害である。本研究の目的は発症機序の第2ステップに主眼をおいた、ドライアイ治療法の探索および開発であり、既に治療効果が一部の症例で確認されている希釈血清点眼治療法の知見を元に、ドライアイ治療用の汎用人工涙液の開発を行うものである。
研究方法
血清による眼球表面細胞への多様な影響を解析するために、結膜上皮細胞をモデル系として用いて、培地中に血清を添加したときに生じる遺伝子発現の変動を調べることにした。正常に生育している結膜上皮細胞の培地から血清を24時間除き、その後元の10%FBSを含むMedium199に再交換し、再交換後、0時間、0.5時間、6時間および24時間後に細胞を回収した。回収後、これらの細胞からmRNAを単離し、マイクロアレイ法を用いて遺伝子発現プロファイルの変動を調べた。また、このヒト結膜上皮細胞株は培地中から血清を除去すると死滅する。この細胞死の機構を検討するため、10%ヒト血清を含むMedium199およびヒト血清を含まないMedium199を用いてこの細胞を培養し、24時間培養後、各細胞のDNA断片化、カスパーゼ活性などを測定した。さらに細胞死を抑制し細胞の正常状態の維持に関与している血清中因子の探索を行うことにした。
結果と考察
血清再添加0時間を基準として遺伝子発現の増減を経時的に観察したところ、一般的にintercellular mediator、transcription factorおよびリン酸化酵素などは0.5時間後に、細胞増殖、cytoskelton、およびmolecular chaperoneなどは6時間後に増大ピークを示した。また発現が減少したものの大部分は6時間後にピークに達し、それ以上変動しないものが多かった。マイクロアレイ法が一般的手法化するに伴い、その結果の解析法が議論されてきている。今後は、類似の発現プロファイルを示すものが生理的に関連する遺伝子であると考える、クラスター解析を用いて本結果を解析し、血清中有効成分の探索に生かす予定である。血清除去による細胞死はカスパーゼカスケードが関与するアポトーシスであることが示された。このDNAの断片化およびカスパーゼ活性の上昇を基準として、細胞死を抑制する血清中因子を探索した結果、EGFなどの成長因子およびビタミンAが有効であることが示唆された。これらの成分は人工涙液の成分としても有用である可能性が考えられる。今後は、他の成長因子やタンパク質成分の影響、および因子の組み合わせ効果を検討し、さらに、カラムクロマトグラフィー法により、血清中の未知の有効成分を探索中していく。
結論
マイクロアレイ法により血清除去および添加刺激により、多数の遺伝子において発現が変動することが明らかになった。血清添加後30分という短時間でintercellular mediator、transcription factorおよびリン酸化酵素などの発現が増大していた。血清中因子ではEGFなどの成長因子およびビタミンAがアポトーシスの抑制に有効であることが示唆された。この知見はドライア
イ治療法開発に有用な情報であると考えられる。

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