虚血性細胞障害防御メカニズムに基づいた難聴の治療

文献情報

文献番号
200100775A
報告書区分
総括
研究課題名
虚血性細胞障害防御メカニズムに基づいた難聴の治療
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
暁 清文(愛媛大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 秦 龍二(愛媛大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
感音性難聴に対し現存する治療手段には限界があり、難聴者福祉に十分に対応できているとは言い難い状況にある。感音性難聴の原因として、我々は内耳虚血が難聴発症の最も重要な背景因子であると推察している。本研究では、一過性内耳虚血の動物モデルを用い、近年急速に進展した脳虚血に対する新しい知見をもとに、虚血性内耳障害の病態を反映した新たな治療法開発を目的としている。そこで平成13年度は、1)神経栄養因子の一つであるGDNFを投与し内耳障害の防御効果を証明する、2)脳虚血障害時に現在最も効果があると認められている低体温療法の虚血性内耳障害に対する効果の有無を明らかにする、の2項目について重点的に行うことを目的とした。
研究方法
スナネズミは後交通動脈が先天的に欠損しているので、両側の椎骨動脈をクランプすることにより一過性内耳虚血モデルを作成した。遺伝子治療の研究では、ウイルスの蝸牛での定着性を安全性を見るために、まず蛍光蛋白であるb-ガラクトシダーゼを発現させる遺伝子を組み込んだLacZアデノウイルスの蝸牛内投与を行った。ついでDGNFアデノウイルスを蝸牛投与後、一過性内耳虚血を負荷し、経時的な聴力閾値の測定及び蝸牛コルチ器の組織障害の観察を行った。また低体温療法の検討では動物の体温を32度と低下させた群と常温群で虚血性内耳障害に対する保護効果の比較を行った。
結果と考察
遺伝子治療の研究では、アデノウイルスを正円窓経由で蝸牛内投与を行った場合、ウイルス投与4日後において蝸牛基底回転より頂回転に及ぶ広いウイルスの定着が確認された。蝸電図検査ではウイルスの投与前、投与4、8日後のCAP域値の有意な変化は認められなかった。すなわちアデノウイルスをベクターとして用いることによりGDNFを安全に蝸牛内に導入できることが確認できた。さらに組織学的にもGDNFアデノウイルスの投与は虚血性内耳障害を防御した。また低体温療法の研究では虚血-低体温群では虚血-常温群に比べ機能的のもまらず組織学的にも虚血後の内耳障害が有意に抑制されていた。このことより低体温が内耳循環障害に対して保護効果を持つことが証明された。
結論
以上の結果より、GDNFアデノウイルスや低体温療法は虚血性内耳障害を防御し有毛細胞を保護する効果のあることが確認された。細胞死防御効果の詳細なメカニズムについては不明であるが、グルタミン酸遊離の抑制、細胞内カルシウム流入の抑制、Bcl-xl遺伝子の発現促進などが想定されている。これらが総合的に作用し虚血障害に対し内耳保護効果を示したものと推察される。今後、GDNFアデノウイルスの虚血性細胞障害に対する防御効果を、内耳障害の程度、ウイルス投与時期、投与量の観点から検討するとともに、その他の防御効果を有する薬剤(ジンチノサイト、プロサポシン)についても検証を行い、内耳障害を防御する薬剤の開発をめざす予定である。

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研究報告書(紙媒体)

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