中途視覚障害者の職場復帰のための包括的対応策の確立(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100771A
報告書区分
総括
研究課題名
中途視覚障害者の職場復帰のための包括的対応策の確立(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
簗島 謙次(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤徳太郎(国立身体障害者リハビリテーションセンター更生訓練所)
  • 寺島 彰(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
視覚障害者に対する移動手段やコミュニケーション手段など社会生活を送る上で必要な生活訓練と職場における役割の遂行に必要な技術を効率的に獲得するために適切な時期に訓練と指導を開始し、休職が可能な6カ月前後の限られた期間内に職業訓練を完了することが必要である。本研究は、国内外における中途視覚障害者の復職状況の調査結果を参考にしながら、医療、視能訓練、生活訓練、職業訓練から職場適応までの一貫した包括的で効率的な訓練システムを確立し、中途視覚障害者の職場復帰を大幅に促進することを目的とする。
研究方法
初年度は、職業訓練へ向けて視能訓練評価法、生活訓練評価法の開発へ向けて基礎的なデータの収集やアセスメントを行い、視覚障害者の就労や雇用についての調査を行った。①視機能と文書の読みや環境確認の関係(簗島班)1)視機能と文書の読みの関係中途視覚障害者の社会復帰へ向けて「文字の読み」が晴眼者と比較した場合、どの程度でるのか知る必要がある。そのため基礎的なデータとなる晴眼者の「読み速度」を計測した。晴眼者30人に文書を読んでもらい、その結果を年齢、文字サイズ、書体、縦書き・横書き、による違いを調べた。2)視機能と環境確認の関係 視覚障害者が歩行するために必要な視機能と環境確認について基礎的データの収集を行った。31人のロービジョン者にターゲットを見てもらい、その所要時間と正答数との誤差を計測した。所要時間と誤差を視機能と比較した。また、自動車の移動する映像も提示し、正答数との誤差も測定した。②生活訓練における「日常生活動作チェックリスト」の作成とアセスメント(佐藤班)
生活活動を身辺自立、家事管理、健康管理、移動、意志交換の5つのカテゴリーに分類し、102の動作項目からなる「日常生活動作チェックリスト」を作成して以下の対象者に対しアセスメントを実施し、その結果に基づく訓練計画を策定した。視覚単独の障害者の場合、確実性や安全性に問題がある場合が多いため、動作状況の詳細な状態像が把握できるよう、動作項目を細分化した。②-2 コンピュータを使った訓練での評価項目の検討(佐藤班)事務作業における職能訓練ではコンピュータを使った訓練での評価項目を検討するため、事務作業の項目をリストアップし視覚障害の状況によってどのような解決策があるかの洗い出しを行った。③就労行動パターンの分析と調査(寺島班)統計資料、調査資料の分析により視覚障害者の就労状況、雇用状況全般の把握し、視覚障害者雇用の基本的課題を推察した。統計資料等の分析から得られた推察をもとに視覚障害者雇用特有の課題の把握も意識しながら、中途視覚障害者の雇用状況をより具体的に把握するため雇用主側、視覚障害者側それぞれをインタビュー形式で追跡調査した。
結果と考察
①視機能と文書の読みや環境確認の関係(簗島班)1)視機能と文書の読みの関係 「読み速度」について、文字サイズでの差は「読み速度」に大きな影響のないことがわかった。また、書体による見やすさの差は統計学的にはなかった。縦書き・横書きの違いによる影響はとくに60代以上でその差が顕著であった。2)視機能と環境確認の関係 コントラストが低いと所要時間、個数誤差ともに値が大きかった。また、低視力の場合、小さいターゲットを中程度のコントラストで見た時に所要時間がかかりやすく、視野が大きいと主に小さいターゲットを使ったときに所要時間、個数誤差ともに小さいことも分かった。車については、ほとんどの被験者が正答できた。②生活訓練における「日常生活動作チェックリスト」の作成とアセスメント(佐藤班) 本チェックリストは、既存の標準化された尺度の単独使用よりも具体的状態像が捉えやすく、生活が成り立つレベルで活動ができるかどうか把握しやすいという印象を持った。問題のある活動を全体的に改善していくための訓練計画が策定しやすいと考える。本チェックリストは、必要最小限の訓練項目特定に有効との感触を得た。②-2 コンピュータを使った訓練での評価項目の検討(佐藤班) 今年度は実際に訓練を行うことでデータを集めた。事務作業の項目をリストアップを行い、職業技能評価を作成した。その結果を次年度に生かしたい。③就労行動パターンの分析と調査(寺島班) 民間企業をはじめ障害者の雇用主は社会性や公共性の認識から障害者を雇用しているが、ある範囲で収益性や生産性も求めていること、雇用主の障害者雇用に対する基本姿勢によって職場定着や職域拡大の状況も異なるといったことが推察された。その一方、社会保障制度の充実等を背景に視覚障害者の就労意識、職業意識にも変化があり、視覚障害者の就労意識等によっても雇用拡大を左右することがわかった。雇用主側、視覚障害者側それぞれをインタビュー形式で追跡調査した。その結果、雇用主側の基本的な雇用姿勢や考え方が採用、人的側面を含めた職場環境整備に影響し、雇用主の姿勢と障害者側の就労意識の差異が評価と待遇、能力開発、最適な配置や職域拡大等のあり方に両者の意識や考え方にズレが生じ、雇用の拡大や安定化に影響していることがわかった。
結論
晴眼者の「読み速度」について、文字サイズ、書体による見やすさの差はなかった。環境確認では、コントラストが低いとターゲットを見つける時間、個数の誤差ともに大きくなること、視力よりも視野の方が環境確認の困難さを表していることが分かった。生活訓練における「日常生活動作チェックリスト」は、必要最小限の訓練項目特定に有効との感触を得た。視覚障害者雇用の拡大・安定化には労働需給の観点から雇用主(需要側)からの接近も必要である。

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