点字利用が困難な盲ろう者のための文章作成システムの開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100768A
報告書区分
総括
研究課題名
点字利用が困難な盲ろう者のための文章作成システムの開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 和幸(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
視覚や聴覚からの情報入力が難しい盲ろう者(視・聴覚重複障害者;推定二万人)は、触覚が唯一の情報入手経路となっている。高齢になり中途で障害を受けた場合には点字や指点字の習得が難しいこともあるため、音声や点字出力しかフォローできない現状の機器だけでは、盲ろう者は独力で文章を書くことは不可能であり、音声や点字以外の方法で入力内容を確認できる機器を開発する必要がある。本研究では、既に持っているカナの概念を利用し、文書の内容をカナの立体文字パターンに代えて提示しそれを触読することで入力内容を確認し、盲ろう者が独力で文章の作成が可能となるシステムを開発する。文字編集用のエディタに入力した際に、その内容をピン・ディスプレイ上でカナの立体パターンとして表現し、それを触読することで文章の内容を確認する。
研究方法
開発の主体となるのは、1)点字や指点字の利用できない盲ろう者でも入力した内容や操作内容が触読で理解できるような、カナの立体パターンを出力できるピン・ディスプレイ(ハードとしてのピン・ディスプレイとソフト的なカナフォント)と、2)文章作成を可能にする専用エディタソフトや専用メールソフト、の開発である。
研究初年度の今年は、まず動作確認用に16×16ピンのピン・ディスプレイモジュールを試作し、その制御技術を確立する。また、1文字分を16×16ピンで表現するフォントを作成し、全てのカタカナ表示を可能とさせる。
同時に、文字編集中のカレット位置にある文字コードをチェックする機能とピン・ディスプレイへの通信機能を付加したエディタソフトを開発することで、文字入力や編集操作を受け付けるとともに、カーソル位置にある文字をリアルタイムでチェックし、随時ピン・ディスプレイ上でカナ表示を行い、内容の確認を可能とさせる。
なお、被験者として協力を依頼する障害者および晴眼者には予め装置の動作原理、動作環境等を説明し、必ず事前に承諾をとることとする。また、文章作成用システムの開発であるため、臨床評価中にはプライバシーの保護には特に配慮する。
結果と考察
1文字を16×16ピンで表現するピン・ディスプレイについては、ピン間隔3mmで、縦横ともに5cm程度の範囲に16×16ピンを配置することができた。各ピンはソレノイドで構成され、ON-OFFの制御信号を送信することで、ピンを上下させる。上に突起したピンが触読の対象となり、離散的な突起の集合がカナ表現となる。
カナ提示装置の上面右側にピン・ディスプレイを、左側にLEDによるカナ表示機を配置させた。LEDによるカナ表示は弱視者への対応を考慮に入れたものである。装置内のディップスイッチの切り替えにより赤、緑、橙色の切り替えが可能であるため、利用者の視覚機能や好みに合わせて変更が可能である。装置前面には、難聴者への対応を考慮に入れて音声出力が可能なスピーカ-を設置した。音声出力はROMによる録音音声の出力で、音量調節機能とイヤフォン端子が付属している。
また、ピン・ディスプレイの16×16ドットに対してカタカナを表現させるカナフォントを作成した。カタカナにより表現したのは、ひらがなは曲線が多く触読による認識には向かないことがこれまでの研究で明らかにされているためである。濁点、半濁点は「カ」と「゛」、「ヒ」と「゜」等のような2文字にせず、「ガ」「ピ」のような1文字で表現し、「ィ」「ッ」等は表現に対する大きさを考慮して8×8ドットで右下に表現した。
カレット位置に対する文字情報を取得するエディタソフトについては、VisualC++を用いてキーボードによる文字入力と編集が可能なテキストエディタソフトを作成した。また、そのソフト内に、カレット位置にある文字コード(全角ひらがなと半角英数・記号)を取得する関数を組み込むことで、エディタ機能を持ちながらその文字情報を外部に通信することが可能である。
この通信機能を用いることで、エディタソフトではカレット位置に対応する文字のフォントを随時RS232C経由でピン・ディスプレイに送信し、ピン・ディスプレイ上でカナの表示が可能となる。エディタ内で保持しているフォントは変更が可能であるため、読み取りながら適宜読みやすいフォントへと改善していくことができる。
本システムの開発により、キーボード入力によりエディタソフトに入力できれば、カレット位置に対応する文字をピン・ディスプレイ上で確認できるため、介助者の援助が無くても利用者が独力で文章を作成することができるようになった。また、現在のところ、ひらがな・英数記号交じりの文書に限られるが、今回開発したエディタソフトに読み込めば、入力時と同様に、カレットの移動により1文字ずつピン・ディスプレイにカナの提示を行うことができるので、それを触読することで文書の内容を読み取ることが可能となった。ブラインドタッチによる入力は、健常者であってもかなりのトレーニングを積まなければ困難であり、まして聴覚情報も得にくい盲ろう者に対しては、別な入力方法を提案する必要があろう。1例として、携帯電話やポケベルに入力するような形態で文字を入力する方式が考えられる。これは、数個程度のキーを利用して、各キーの組み合わせもしくは各キーを押す回数により文字を特定し、入力を行う方式である。この場合でも、利用者に対しては何らかの触覚フィードバックを行う必要があり、文書を読む時と区別できる表現でピン・ディスプレイに表示するのが無駄が無いと考える。文字入力については来年度以降適切な入力方法の提案を行いたい。
16×16ピンで表現したカナフォントに関しては、「シ」と「ツ」、「ソ」と「ン」等の間違えやすい文字について、今後触読による評価により表現を工夫する必要があろう。また、文字によっては符号化させたようなフォントの方が触読による読み取りに向いている可能性があるため、適宜読み取り評価を行いながら改善していく予定である。
結論
点字・指点字の読み書きが困難な盲ろう者でも独力で文章を書くことのできる入力支援機器を開発した。テキストエディタのカレットの位置に対する文字が16×16ドットのピン・ディスプレイ上にカナの表現で提示されるので、利用者はそのカナ提示を触読して内容を確認することができるようになった。

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研究報告書(紙媒体)

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