文献情報
文献番号
200100764A
報告書区分
総括
研究課題名
聴覚障害者の社会参加促進に向けた「自己発生音」の評価と対応策の確立(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 徳太郎(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
- 田内 光(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
- 中島八十一(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
- 佐藤 洋(東北大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢社会の到来とともに聴覚障害者は増加している。我々の調査では、聴覚障害者の就職率は26.7%と低く、転職頻度は1人平均0.4回と多く、聴覚障害者就労の促進に向けた社会適応性の向上は重要である。本研究は、聴覚障害者が日常活動動作に伴って発生する「自己発生音」の測定法を確立して、それを社会適応訓練に取り入れ、音環境における「自己発生音」の適正化と、コミュニケーションの向上を図り、聴覚障害者の社会参加を促進させようとするものである。当該年度には、「自己発生音」測定データの分析ソフトを開発するとともに「自己発生音」測定法の再現性に関する検討することによって、「自己発生音」評価法を完成する。さらに、「自己発生音」適正化訓練法を開発し、これらを基に、「自己発生音」適正化の必要な聴覚障害者に適正化訓練を行うことによって,聴覚障害者の社会参加の促進を図る。また、「自己発生音」の音圧連続モニターシステムを改良し、「自己発生音」評価・適正化を一層の充実させる。
研究方法
当該年度には、聴覚障害者における「自己発生音」の実態調査を更生訓練所入所生について追加施行した。さらに、健聴者についても調査し、両群の比較検討を行った。精度の高い測定値をうるための「自己発生音」測定データの分析ソフトを独自に開発した。それを基に分析した音圧レベル(LAeq)により「自己発生音」測定法の再現性に関する検討をおこなった。予備的計測として、被験者(健聴者)4名(男性2名、女性2名)における動作の騒音レベルの再現性について検討した。計測の対象となった動作は、「机をたたいて人を呼ぶ」、「椅子を押し引きして動かす」、「戸を開閉する」、「廊下を走る」、「階段を昇降する」の5つとした。1度の計測では各動作とも5回ずつ試行し、個人差及び再現性を調べるため、日を改めて計5度計測を行った。計測は、普通騒音計(RION NL-06)によった。
更生訓練所に入所している聴覚障害者19名、健聴者26名について「自己発生音」の評価を行った。「自己発生音」測定結果で、各動作の騒音レベルが健聴者の平均よりも著しく高かった入所生(聴覚障害者)のうち、協力の得られた7名を対象にモデル住宅内で「自己発生音」適正化訓練を行ない、その効果を検証した。適正化訓練は、先ず「自己発生音」測定で得られた各人のデータを、健聴者の平均値と比べながら騒音レベルの高かった動作について説明し、その後騒音計の数値を見せながら対象となる動作のみを行なってもらった。騒音計の数値は、その場ですぐに見ることのできる最大値(Lmax: 騒音レベルと高く相関)を指標とし、「自己発生音」測定で得られた計測結果からそれぞれの動作の目標値を定めて(机・椅子・戸:70 dB, 廊下:60 dB, 階段:65 dB)、動作の騒音最大値が目標値を下回るよう訓練を行なった。訓練は日を改めて各人2回または3回行ない、最大音圧レベルは測定者がボードに大きく書いて示した。訓練を施行した7名について「自己発生音」適正化訓練に関すアンケート調査をおこなった。
難聴者の自声のラウドネス感覚に関する検討のために健聴者6人、軽度難聴者5人、高度難聴者5人について、防音室内で本の朗読時の声の強さと、簡単な質問への回答時の声の強さについて騒音形を用いて計測した。
「自己発生音」の音圧連続モニターシステムの開発においては、前年度に開発した「自己発生音」記憶装置を発展させ、連続記録と軽量化により携帯可能にすることを実現した。
今回、米国における聴覚障害者福祉行政を担当し、自らも聴覚障害者であるAnnette Reichman 氏をお招きし、「自己発生音」の英語名称からその活用法までを共に検討した。
更生訓練所に入所している聴覚障害者19名、健聴者26名について「自己発生音」の評価を行った。「自己発生音」測定結果で、各動作の騒音レベルが健聴者の平均よりも著しく高かった入所生(聴覚障害者)のうち、協力の得られた7名を対象にモデル住宅内で「自己発生音」適正化訓練を行ない、その効果を検証した。適正化訓練は、先ず「自己発生音」測定で得られた各人のデータを、健聴者の平均値と比べながら騒音レベルの高かった動作について説明し、その後騒音計の数値を見せながら対象となる動作のみを行なってもらった。騒音計の数値は、その場ですぐに見ることのできる最大値(Lmax: 騒音レベルと高く相関)を指標とし、「自己発生音」測定で得られた計測結果からそれぞれの動作の目標値を定めて(机・椅子・戸:70 dB, 廊下:60 dB, 階段:65 dB)、動作の騒音最大値が目標値を下回るよう訓練を行なった。訓練は日を改めて各人2回または3回行ない、最大音圧レベルは測定者がボードに大きく書いて示した。訓練を施行した7名について「自己発生音」適正化訓練に関すアンケート調査をおこなった。
難聴者の自声のラウドネス感覚に関する検討のために健聴者6人、軽度難聴者5人、高度難聴者5人について、防音室内で本の朗読時の声の強さと、簡単な質問への回答時の声の強さについて騒音形を用いて計測した。
「自己発生音」の音圧連続モニターシステムの開発においては、前年度に開発した「自己発生音」記憶装置を発展させ、連続記録と軽量化により携帯可能にすることを実現した。
今回、米国における聴覚障害者福祉行政を担当し、自らも聴覚障害者であるAnnette Reichman 氏をお招きし、「自己発生音」の英語名称からその活用法までを共に検討した。
結果と考察
聴覚障害者および健聴者における「自己発生音」の実態を追加調査した。聴覚障害者の場合、音に対する気遣いについては、全く気を遣っていないと返答している者が9.4%であり、他の対象者と比較しても高くなっていた。また、音の大きさを知りたいかどうかを確認したが、聴覚障害を持たないものは全ての項目で8%以下であったにもかかわらず、聴覚障害者は全項目とも20%以上が知りたいと返答した。このことや、自由記入欄に調査項目以外にも様々な音が記入されたことからも、聴覚障害者にとって自己発生音に対するニーズが高いことがわかった。
「自己発生音」測定法の再現性に関する検討では、個人による差は見られたものの、健聴者の各動作における平均音圧レベルは、至近距離からの計測においても63 dB以下であった。
最高音圧レベルは「椅子の押し引き」において最も大きかった。各被験者とも、5回の試行における音圧レベルのSD は10dB程度と安定していた。つまり、健聴成人による「自己発生音」の騒音レベルは動作ごとに安定した値を示し、最高でも65dB以下におさまる傾向が示唆された。また、椅子の移動、戸の開閉など音圧レベルの高くなりやすい場面も特定することができた。なお、「自己発生音」の測定中に各音圧について、測定者にどのくらいうるさいと感じるかを主観的に評価してもらったところ、至近距離の騒音計で計測された音圧レベルと評価は高い相関を示した(R2=0.81)。以上の結果から、「自己発生音」評価法は信頼性が高いと判断された。環境基準法によると、良好な住居の環境を保全するためには、環境騒音は45~50 dB以下であることが必要と定められている。今回の健聴者による「自己発生音」のレベルは36~69 dB、聴覚障害者では39~72 dBに分布しており、聴覚障害者の中には健聴者の上限より大きな音を出す被験者もあった。測定者から得られた「うるささ評価」の分析により算出した評価3(普通)は53 dBで今回の測定値の全平均に近い値であった、一方,評価4(少しうるさい)は57 dB、評価5(とてもうるさい)は62 dBであった。「うるささ評価」5の騒音は、一部の健聴者及び一部の聴覚障害者の両者でみられた。但し、その割合は、評価4及び5以上の騒音を発生した割合を入所生と健聴者ともに調べると、入所生では12%、健聴者では8%であり、入所生の方がわずかに高かった。入所生と健聴者の騒音レベルの平均は。ほとんど差がないものの、高い音を発する割合は入所生の方がわずかに高いことが分かった。
「自己発生音」適正化訓練によって、全ての訓練参加者で、全ての測定項目において変化が見られ、最大音圧レベルが全ての動作平均で6~14dB減少した。音圧レベルを動作者に示しながら行なった適正化訓練によって、当該動作以外の動作にも影響を及ぼし、音圧レベルが比較的容易に下がる汎化効果が確認された。「自己発生音」適正化訓練に関すアンケート調査では、最初に「自己発生音」の音圧訓練方法の説明を行ったが、その際に「自己発生音」の評価において高い音圧が認められたことを伝えられたことに失望したと答えた者は4名(57%)であった。自分の活動動作に伴って発生する音の大きさについて、大きさがよくわかったが3名、ある程度わかったが4名であり、「自己発生音」の調節に自信がついたが3名、ある程度調節できるようになったが4名で、ほとんどが訓練効果を自覚していた。「自己発生音」に対する不安については、訓練後に不安が増えたもの1名、減少したもの2名でまえから不安がなかったが2名であった。
高齢難聴者における情報伝達性への残音の検討により、高齢難聴者における情報伝達性の検討において、残響がある場合に単語親密度が了解度を左右することを明らかにするとともにホールにおける話声の聞き取りやすさの評価法を作成した。
難聴者の自声のラウドネス感覚に関する検討において、聞こえの程度が悪くなるほど声の強さが強くなる傾向がみられたが、同時に各人間のバラツキも大きくみられた。
「自己発生音」の音圧連続モニターシステムの開発根は、前年度に開発した「自己発生音」記憶装置を発展させ、連続記録と軽量化により携帯可能にすることを実現した。作成機は騒音や音声の音圧レベルを自動的に連続記憶し、設定値を超えた音圧レベルを検知した場合は振動により警告を発するユニットを接続できる機能を含んでいる。音響を関知するマイクロホンにより音圧レベルが電気信号に変換される。電気信号は対数増幅回路で増幅された後、アナログ・デジタルコンバータにてデジタル信号に変換され、マイクロコンピュータ回路に入力される。マイクロコンピュータ回路にはデータを保存するための記憶素子(RAM)と時間を付加記憶させるための時計 (RTC)が内蔵されている。測定さた音圧レベル、現在時間、記憶されたデータはパソコンで再生することができ、どの騒音が「自己発生音」であるかを検証可能である。この試作器は重量が600グラムであり、6時間の連続記録が可能である。これを基に量産期器を開発した。
シンポジューム「聴覚障害者のコミュニケーション・スキルをめぐって」を開催し、「自己発生音」に関する指導による社会性向上は聾教育や職業リハビリテーションで重視されるべきであることを確認するとともに、具体的対応策について有効な情報交換を行った。
「自己発生音」測定法の再現性に関する検討では、個人による差は見られたものの、健聴者の各動作における平均音圧レベルは、至近距離からの計測においても63 dB以下であった。
最高音圧レベルは「椅子の押し引き」において最も大きかった。各被験者とも、5回の試行における音圧レベルのSD は10dB程度と安定していた。つまり、健聴成人による「自己発生音」の騒音レベルは動作ごとに安定した値を示し、最高でも65dB以下におさまる傾向が示唆された。また、椅子の移動、戸の開閉など音圧レベルの高くなりやすい場面も特定することができた。なお、「自己発生音」の測定中に各音圧について、測定者にどのくらいうるさいと感じるかを主観的に評価してもらったところ、至近距離の騒音計で計測された音圧レベルと評価は高い相関を示した(R2=0.81)。以上の結果から、「自己発生音」評価法は信頼性が高いと判断された。環境基準法によると、良好な住居の環境を保全するためには、環境騒音は45~50 dB以下であることが必要と定められている。今回の健聴者による「自己発生音」のレベルは36~69 dB、聴覚障害者では39~72 dBに分布しており、聴覚障害者の中には健聴者の上限より大きな音を出す被験者もあった。測定者から得られた「うるささ評価」の分析により算出した評価3(普通)は53 dBで今回の測定値の全平均に近い値であった、一方,評価4(少しうるさい)は57 dB、評価5(とてもうるさい)は62 dBであった。「うるささ評価」5の騒音は、一部の健聴者及び一部の聴覚障害者の両者でみられた。但し、その割合は、評価4及び5以上の騒音を発生した割合を入所生と健聴者ともに調べると、入所生では12%、健聴者では8%であり、入所生の方がわずかに高かった。入所生と健聴者の騒音レベルの平均は。ほとんど差がないものの、高い音を発する割合は入所生の方がわずかに高いことが分かった。
「自己発生音」適正化訓練によって、全ての訓練参加者で、全ての測定項目において変化が見られ、最大音圧レベルが全ての動作平均で6~14dB減少した。音圧レベルを動作者に示しながら行なった適正化訓練によって、当該動作以外の動作にも影響を及ぼし、音圧レベルが比較的容易に下がる汎化効果が確認された。「自己発生音」適正化訓練に関すアンケート調査では、最初に「自己発生音」の音圧訓練方法の説明を行ったが、その際に「自己発生音」の評価において高い音圧が認められたことを伝えられたことに失望したと答えた者は4名(57%)であった。自分の活動動作に伴って発生する音の大きさについて、大きさがよくわかったが3名、ある程度わかったが4名であり、「自己発生音」の調節に自信がついたが3名、ある程度調節できるようになったが4名で、ほとんどが訓練効果を自覚していた。「自己発生音」に対する不安については、訓練後に不安が増えたもの1名、減少したもの2名でまえから不安がなかったが2名であった。
高齢難聴者における情報伝達性への残音の検討により、高齢難聴者における情報伝達性の検討において、残響がある場合に単語親密度が了解度を左右することを明らかにするとともにホールにおける話声の聞き取りやすさの評価法を作成した。
難聴者の自声のラウドネス感覚に関する検討において、聞こえの程度が悪くなるほど声の強さが強くなる傾向がみられたが、同時に各人間のバラツキも大きくみられた。
「自己発生音」の音圧連続モニターシステムの開発根は、前年度に開発した「自己発生音」記憶装置を発展させ、連続記録と軽量化により携帯可能にすることを実現した。作成機は騒音や音声の音圧レベルを自動的に連続記憶し、設定値を超えた音圧レベルを検知した場合は振動により警告を発するユニットを接続できる機能を含んでいる。音響を関知するマイクロホンにより音圧レベルが電気信号に変換される。電気信号は対数増幅回路で増幅された後、アナログ・デジタルコンバータにてデジタル信号に変換され、マイクロコンピュータ回路に入力される。マイクロコンピュータ回路にはデータを保存するための記憶素子(RAM)と時間を付加記憶させるための時計 (RTC)が内蔵されている。測定さた音圧レベル、現在時間、記憶されたデータはパソコンで再生することができ、どの騒音が「自己発生音」であるかを検証可能である。この試作器は重量が600グラムであり、6時間の連続記録が可能である。これを基に量産期器を開発した。
シンポジューム「聴覚障害者のコミュニケーション・スキルをめぐって」を開催し、「自己発生音」に関する指導による社会性向上は聾教育や職業リハビリテーションで重視されるべきであることを確認するとともに、具体的対応策について有効な情報交換を行った。
結論
「自己発生音」測定データの分析ソフトを開発するとともに「自己発生音」測定法の再現性に関する検討することによって、「自己発生音」評価法を完成した。さらに、「自己発生音」適正化訓練法を開発し、これらを基に、「自己発生音」適正化の必要な聴覚障害者に適正化訓練を行い、その有効性を確認した。
これらの研究結果は、当初の計画を実行しており、最終年度の携帯型連続測定器による「自己発生音」訓練の基盤となり、聴覚障害者の社会参加を促進させることに貢献しうるものと考える。
これらの研究結果は、当初の計画を実行しており、最終年度の携帯型連続測定器による「自己発生音」訓練の基盤となり、聴覚障害者の社会参加を促進させることに貢献しうるものと考える。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-