文献情報
文献番号
200100762A
報告書区分
総括
研究課題名
ノックアウトマウスを用いた遺伝性難聴の発現機構の解析と治療の新戦略
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
池田 勝久(東北大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学分野)
研究分担者(所属機関)
- 美野輪治(理化学研究所・ゲノム科学総合研究センター)
- 大島猛史(仙台逓信病院耳鼻咽喉科)
- 松原洋一(東北大学大学院医学系研究科小児医学遺伝病学分野)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年の分子生物学の進歩により、これまでに20の非症候性難聴の原因遺伝子が同定されている。しかしながら、難聴遺伝子の同定が基本的には難聴家系のリンケージ解析によるいわゆるreverse geneticsによってなされており、またヒト内耳を生理的条件で解析することの困難性から、他の難聴遺伝子の機能解析は相同遺伝子からの類推にもとづいたin vitroの発現系で行われているがin vivoでの解析は不十分なのが現状である。我々は、ヒトで同定された難聴遺伝子をマウスでノックアウトし、そのマウスの形態学的電気生理学的解析、免疫学的解析また分子生物学的解析を行い、それらの遺伝子の内耳における機能を解明する。また、実際の臨床の場において、遺伝性難聴が疑われる患者に対し難聴遺伝子の検索を行い、遺伝子診断の実用化を目指す。
研究方法
1) 遺伝子変異マウスの作製と解析
1. GJB2ノックアウトマウスの作成と解析
Cre recombinase存在下でGjb2遺伝子翻訳領域が切り取られるようなコンストラクトを作成し、ES細胞に相同組換えにより導入した。ネオマイシンによる選別を行いサザンブロット法により組替え体を同定した。ES細胞をB6マウスの胚盤胞へ注入してキメラマウスを作製した。続いてB6マウスと戻し交配を行いF1マウスを得た。Cre recombinaseを持つトランスジェニックマウスと交配させ、遺伝子欠失マウスを同定し解析に供した。
2. GJB2トランスジェニックマウスの作成と解析
優性的阻害効果を持つミスセンス変異R75WをCAGプロモーターに組み込み、各組織で変異connexin26を発現させるようにした。ノックアウトマウスが胎生致死であることが知られているので、プロモーターと変異遺伝子の間にloxP配列を挿入し、変異体の発現がCre recombinaseで調節されるように設計した。直鎖化したベクターを受精卵に注入し、偽妊娠状態の雌C57bl/6の子宮に戻した。その結果得られたマウスをCre recombinaseを有するトランスジェニックマウスと交配し、PCR, RT-PCR法により内耳で変異遺伝子が発現している個体を選別した。変異を発現している個体について、生後2週及び生後7週でABR(聴性脳幹反応)による聴力評価と、光学顕微鏡および電子顕微鏡による組織学的解析を行った。また、生理学的解析として内リンパ電位の測定、ローターロッド試験を行った。
3. Brn 4マウスの加齢による難聴の解析
老齢(生後1年)のBrn 4ノックアウトマウスと老齢(生後1年)の野生型コントロールマウスを実験対象として、聴性脳幹反応 (ABR)を測定した。組織学的観察には4%パラホルムアルデヒドによる外リンパ潅流で4℃、一晩固定した。その後、脱灰、脱水、パラフイン包埋し、各種の抗体による免疫組織を行った。
2) 難聴患者の遺伝子解析
対象はタイ・バンコクの聾学校に通学するタイ人の小児難聴児及びその家族12家系17人。GJB2遺伝子の翻訳領域678塩基をカバーするプライマーペアを作成し、PCR増幅、直接シークエンスした。
1. GJB2ノックアウトマウスの作成と解析
Cre recombinase存在下でGjb2遺伝子翻訳領域が切り取られるようなコンストラクトを作成し、ES細胞に相同組換えにより導入した。ネオマイシンによる選別を行いサザンブロット法により組替え体を同定した。ES細胞をB6マウスの胚盤胞へ注入してキメラマウスを作製した。続いてB6マウスと戻し交配を行いF1マウスを得た。Cre recombinaseを持つトランスジェニックマウスと交配させ、遺伝子欠失マウスを同定し解析に供した。
2. GJB2トランスジェニックマウスの作成と解析
優性的阻害効果を持つミスセンス変異R75WをCAGプロモーターに組み込み、各組織で変異connexin26を発現させるようにした。ノックアウトマウスが胎生致死であることが知られているので、プロモーターと変異遺伝子の間にloxP配列を挿入し、変異体の発現がCre recombinaseで調節されるように設計した。直鎖化したベクターを受精卵に注入し、偽妊娠状態の雌C57bl/6の子宮に戻した。その結果得られたマウスをCre recombinaseを有するトランスジェニックマウスと交配し、PCR, RT-PCR法により内耳で変異遺伝子が発現している個体を選別した。変異を発現している個体について、生後2週及び生後7週でABR(聴性脳幹反応)による聴力評価と、光学顕微鏡および電子顕微鏡による組織学的解析を行った。また、生理学的解析として内リンパ電位の測定、ローターロッド試験を行った。
3. Brn 4マウスの加齢による難聴の解析
老齢(生後1年)のBrn 4ノックアウトマウスと老齢(生後1年)の野生型コントロールマウスを実験対象として、聴性脳幹反応 (ABR)を測定した。組織学的観察には4%パラホルムアルデヒドによる外リンパ潅流で4℃、一晩固定した。その後、脱灰、脱水、パラフイン包埋し、各種の抗体による免疫組織を行った。
2) 難聴患者の遺伝子解析
対象はタイ・バンコクの聾学校に通学するタイ人の小児難聴児及びその家族12家系17人。GJB2遺伝子の翻訳領域678塩基をカバーするプライマーペアを作成し、PCR増幅、直接シークエンスした。
結果と考察
1) 遺伝子変異マウスの作製と解析
1. GJB2ノックアウトマウスの作成と解析
聴性脳幹反応:Gjb2欠失マウスでは最大100dBのクリック音刺激でも脳幹反応を得ることができなかった。一方、野生型では・~・波の明瞭な聴性脳幹反応を認め、閾値は30dB以下であった。
Cx26とCx30蛋白の免疫組織:蝸牛でのCx26蛋白の発現を免疫組織で比較すると、野生型ではラセン靱帯とspiral limbusの線維細胞とコルチ器の支持細胞に発現していた。一方、変異体ではラセン靱帯の線維細胞に弱い染色性を認めるのみで、他の部位ではほとんど発現していないことが確認された。Cx30蛋白は全体的にCx26よりも染色性は弱いが、同様の発現様式で、両者に違いはなかった。Cx26の発現が変異体で選択的に欠損していると判断できる。
H&E染色:欠失マウスではspiral limbusの線維細胞の減少が認められた。またコルチ器の構造がやや虚脱している所見が得られた。血管条、ラセン靱帯の線維細胞、ラセン神経節細胞、ライスネル膜、蓋膜などは両者に明らかな違いは認めなかった。
2. GJB2トランスジェニックマウスの作成と解析
2系統の変異マウスが誕生した。いずれも生後2週より約100dBの高度難聴を示した。内リンパ電位は正常範囲だった。形態学的には、コルチトンネルの無形成とDeiter細胞の変形といったコルチ器支持細胞の形成障害を認め、週齢が進むと有毛細胞とらせん神経節の脱落を生じた。蝸牛外側壁のらせん靭帯線維細胞および血管条、前庭平衡器には形態学的異常を認めなかった。有毛細胞に変性を生じる以前から高度難聴を示し、支持細胞の障害により有毛細胞の活動が障害されるものと考えられた。支持細胞に異常を生じる機序は不明で今後の解析が必要だが、connexin26が細胞の増殖分化のコントロールに何らかの役割を果たしていることが想像された。
3. Brn 4マウスの加齢による難聴の解析
大部分のメスヘテロ接合体マウスは平均50.3dBの閾値であるのに対し、ほぼ1/3のメスヘテロ接合体マウスは平均96.3 dBの閾値であり、高度難聴であった。ヘマトキシリン・エオジン染色では、ABR高閾値のメスヘテロ接合体マウスの蝸牛において、Reissner膜と外側壁の接合部位が剥離していた。免疫組織化学染色では、ABR高閾値のメスヘテロ接合体マウスの蝸牛において螺旋靭帯のII型線維細胞及び血管条の基底細胞におけるconnexin26蛋白と関連蛋白であるconnexin31蛋白の発現量が低下していることが認められた。また、Na,K-ATPaseとNa-K-Cl共輸送体の発現量が減少している所見も認められた。これらの蛋白の発現量が極めて減少することにより、内耳においてはイオン輸送の重要な経路の障害がもたらされ、遺伝性難聴が惹起されるものと考えられた。
2) 難聴患者の遺伝子解析
タイ人先天性難聴者12家系17人中、3家系4人にGJB2遺伝子変異を認めた。変異の種類は、235delC, W24X, M34Lだった。235delC変異は、日本人と同様のハプロタイプと連鎖していた。
1. GJB2ノックアウトマウスの作成と解析
聴性脳幹反応:Gjb2欠失マウスでは最大100dBのクリック音刺激でも脳幹反応を得ることができなかった。一方、野生型では・~・波の明瞭な聴性脳幹反応を認め、閾値は30dB以下であった。
Cx26とCx30蛋白の免疫組織:蝸牛でのCx26蛋白の発現を免疫組織で比較すると、野生型ではラセン靱帯とspiral limbusの線維細胞とコルチ器の支持細胞に発現していた。一方、変異体ではラセン靱帯の線維細胞に弱い染色性を認めるのみで、他の部位ではほとんど発現していないことが確認された。Cx30蛋白は全体的にCx26よりも染色性は弱いが、同様の発現様式で、両者に違いはなかった。Cx26の発現が変異体で選択的に欠損していると判断できる。
H&E染色:欠失マウスではspiral limbusの線維細胞の減少が認められた。またコルチ器の構造がやや虚脱している所見が得られた。血管条、ラセン靱帯の線維細胞、ラセン神経節細胞、ライスネル膜、蓋膜などは両者に明らかな違いは認めなかった。
2. GJB2トランスジェニックマウスの作成と解析
2系統の変異マウスが誕生した。いずれも生後2週より約100dBの高度難聴を示した。内リンパ電位は正常範囲だった。形態学的には、コルチトンネルの無形成とDeiter細胞の変形といったコルチ器支持細胞の形成障害を認め、週齢が進むと有毛細胞とらせん神経節の脱落を生じた。蝸牛外側壁のらせん靭帯線維細胞および血管条、前庭平衡器には形態学的異常を認めなかった。有毛細胞に変性を生じる以前から高度難聴を示し、支持細胞の障害により有毛細胞の活動が障害されるものと考えられた。支持細胞に異常を生じる機序は不明で今後の解析が必要だが、connexin26が細胞の増殖分化のコントロールに何らかの役割を果たしていることが想像された。
3. Brn 4マウスの加齢による難聴の解析
大部分のメスヘテロ接合体マウスは平均50.3dBの閾値であるのに対し、ほぼ1/3のメスヘテロ接合体マウスは平均96.3 dBの閾値であり、高度難聴であった。ヘマトキシリン・エオジン染色では、ABR高閾値のメスヘテロ接合体マウスの蝸牛において、Reissner膜と外側壁の接合部位が剥離していた。免疫組織化学染色では、ABR高閾値のメスヘテロ接合体マウスの蝸牛において螺旋靭帯のII型線維細胞及び血管条の基底細胞におけるconnexin26蛋白と関連蛋白であるconnexin31蛋白の発現量が低下していることが認められた。また、Na,K-ATPaseとNa-K-Cl共輸送体の発現量が減少している所見も認められた。これらの蛋白の発現量が極めて減少することにより、内耳においてはイオン輸送の重要な経路の障害がもたらされ、遺伝性難聴が惹起されるものと考えられた。
2) 難聴患者の遺伝子解析
タイ人先天性難聴者12家系17人中、3家系4人にGJB2遺伝子変異を認めた。変異の種類は、235delC, W24X, M34Lだった。235delC変異は、日本人と同様のハプロタイプと連鎖していた。
結論
これまで不可能とされてきたGJB2モデルマウスの作成に成功した。モデルマウスは高度難聴を示した。組織学的解析の結果、コルチ器の形成障害を認め、コルチ器が主な病変部位であることが判った。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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