視聴平衡覚を代償する機器の開発、改良に関する研究:屈折矯正手術および眼内レンズ挿入術とその視覚の質に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100760A
報告書区分
総括
研究課題名
視聴平衡覚を代償する機器の開発、改良に関する研究:屈折矯正手術および眼内レンズ挿入術とその視覚の質に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
野田 徹(国立病院東京医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田中靖彦(国立病院東京医療センター)
  • 大沼一彦(千葉大学工学部情報画像工学科応用情報工学講座認識情報工学分野)
  • 根岸一乃(慶應義塾大学医学部眼科学教室)
  • 平山典夫(HOYAヘルスケア薬事室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、眼内レンズ挿入術および屈折矯正手術は、より高度な視機能の質を実現するという観点から、両者を相補的な広義の屈折矯正手術として考られている。眼内レンズ挿入術は毎年70万件以上の手術症例があり、高齢者のQuality of Visionは眼内レンズ機能に依存しているといえる。一方、屈折矯正手術は世界的に急速な広がりをみせているが、術後の特殊な角膜形状眼の検査法、眼内レンズ度数の計算法、術後のQuality of Visionなど未対応の問題が多く、それらの解決は急務である。本研究では、それらの手術における術前術後の光学特性の詳細を明らかにし、良好な視機能の実現とその実践に必要な機器開発を行うと共に、安全で質の高い手術診療体制のありかたを考察する。
研究方法
今年度は以下の主要課題に重点をおいて研究を行った。1.眼内レンズ挿入眼・屈折矯正手術眼の光学特性の解析に関する基礎的研究:昨年度に基礎開発を行ったダブルパス方式のPoint Spread Function (PSF)解析装置実験機の臨床応用へむけての改良を行った。また、算出したシングルパスPSFと視標チャートとのコンボリュ-ション積分により被検眼の網膜像をシュミレートし、そのコントラスト解析から視力を他覚的に推定した、さらに、矯正前のPSFから3次元補間により矯正後のシングルパスPSFを求め,矯正後の網膜像と到達可能視力の推定を行った。2.眼内レンズ挿入眼、屈折矯正手術眼の光学特性解析に関する臨床的研究:PSF解析装置による臨床症例(正常眼、白内障眼、眼内レンズ挿入眼)の解析を行った。ダプルパスPSFからModulation Transfer Function (MTF)の算出、シュミレーション網膜像からのコントラスト解析と推定視力の算出を行い、年齢や白内障の混濁形態などの影響を検討した。3.眼内レンズ挿入眼の眼底観察光学系の解析:プリズム型コンタクトレンズを前置した周辺部眼底観察系につき検討した。LeGrand模型眼に高屈折素材プリズム型コンタクトレンズを前置し、手術用顕微鏡により観察される眼底像を想定し、そのスポットダイアグラムと各波長光毎のMTFを光線追跡法により算出することにより、色収差および非点収差の発生状態を評価した。さらに、非点収差の補正に可変円柱レンズ、色収差の補正に可変色分散プリズムを顕微鏡の中間鏡頭系に実際に組み入れて収差補正を試みた場合の効果につき検討した。4.感覚器政策医療ネットワーク施設による白内障手術診療体制に関する多施設共同研究:クリティカルパス(CP)の導入を基調として、国立病院感覚器政策医療ネットワーク10施設による白内障手術診療体制に関する協同研究を行った。インフォームドコンセントが得られた連続した手術症例に関して、横断的前向き調査(治療・手術・服薬オーダーの遂行状態、入院日数・総レセプト点数、健康状態に関する自己記入式質問票患者アンケート調査、入院時説明の充足度、病院利用の満足度および病院機能に関する患者の主観的評価のリッカート法による数値化)を行い、その結果を統計的に解析した。
結果と考察
1.PSF解析装置開発に関する基礎研究:正視眼のPSFから算出したシュミレーション網膜像のコントラスト解析による推定視力値、近視性乱視眼のPSFの前焦線、後焦線像から算出した予測矯正視力値は、自覚矯正視力値とほぼ一致した。推定視力値と自覚視力値との一致は,本法のシミュレーション網膜像が実際の
網膜像に近いものであることを示唆した。また本方法は,矯正前に,矯正後の到達可能視力を予測する方法としても有効である可能性が示された。波面解析からのPSFの算出には,網膜面の光学特性や中間透光体の混濁による情報の欠落を伴うのに対し、ダブルパス測定方式は、MTF情報を正確に反映する。ただし本法では位相情報が失われるため、コマ収差、歪曲収差などの奇数収差情報は欠落する点を考慮する必要がある。2.PSF解析装置の臨床応用に関する研究:正常眼ではPSF解析から得られるMTFは年齢とともに低下し、特に中周波数領域の低下が著明であった。白内障眼では全周波数領域で正常眼よりもMTFの低下がみられたが、そのパターンはその混濁形態により異なり、び慢性混濁では全周波数領域の低下、中心付近のみの混濁では中間周波数領域の顕著な低下が認められ、さらに白内障術後眼はその改善が確認された。PSF解析は、視覚の質の客観的かつ詳細な評価法となる可能性が示唆されると同時に、視機能に関するインフォームドコンセントの観点からも有用と考えられた。3.眼内レンズ挿入眼の眼底観察系の光学的解析:プリズムレンズを前置して観察した周辺部眼底像には、顕著な非点収差と色収差が確認され、可変円柱レンズと可変色分散プリズムによる両収差の補正により、両収差は著明に改善された。画像工学技術領域においては既に肉眼よりも低照度で観察可能な高解像度の映像システムが開発されており、近未来的に、レンズ光学系を介して肉眼的に行う系、CCDなどの光学素子を介して画像をディスプレイに表示する系のいずれを想定しても、そのシステム開発と映像化上の条件設定において今回の解析結果が重要な情報となると考えられた。4.感覚器政策医療ネットワークの白内障手術診療体制に関する多施設共同研究:入院日数、レセプト点数にCPあり群となし群で差を認めなかったが、入院期間が病院間で大きな差があるため横断調査のみでの比較は困難であり、CP導入前後の縦断調査も必要と考えられた。入院時の説明に対する充足度はCPあり群でむしろ低く、病院機能、病院利用に対する患者満足度については2群間には有意差はなかった。CPが患者満足度を高める目的で有効利用される段階には至っていないと考えられた。各種オーダー・承諾手続きの完了状況に関しては、CPあり群でより指示もれが多い項目があった。 今後、より患者に立脚したCPの質の改善が必要であることが示唆された。
結論
眼内レンズ挿入術、屈折矯正手術において、視覚の質および手術診療環境に関する研究を行った。視覚の質の客観的評価を目的としたPSF解析装置の基礎開発および臨床応用に関して、臨床実験機の改良を行い、被検眼の網膜像シミュレーションとコントラスト特性、矯正視力予測についての検証結果から、その有用な臨床応用への可能性が示唆された。眼内レンズ挿入術後の眼底観察系に関しては、プリズムレンズを用いた周辺部眼底観察では、非点収差、色収差の補正により良好な眼底観察条件が可能となることが示唆され、その解析データは今後の眼底観察システムの開発に有用な情報となると考えた。感覚器国立病院政策医療ネットワークによる多施設共同横断研究結果からは、その白内障手術診療体制の充実のためには、さらに明確なアウトカムを設定したCPを基調とするの質の改善が必要と考えられた。

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