小児・若年者の難治性網膜疾患の原因と治療に関する研究

文献情報

文献番号
200100759A
報告書区分
総括
研究課題名
小児・若年者の難治性網膜疾患の原因と治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
東 範行(国立成育医療センター眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山虎之(国立成育医療センター先天異常遺伝診療科)
  • 野田 徹(国立病院東京医療センター眼科)
  • 瀬川 要司(国立金沢病院眼科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児・若年者では成人と異なる多くの難知性網膜疾患がある。その多くは先天異常に起因するが、出世後も未熟児網膜症や網膜剥離では増殖機転が強いために通常の成人に対する治療法では難治なことが多い。本研究では、小児・若年者の難治性網膜疾患の原因を明らかにするとともに、新しい検査や治療法を開発することを目的とする。本年度は、先天異常の遺伝子変異検索を行って視神経形成不全の変異を発見した。さらに、動物実験ではあるが、網膜疾患に対する新たな遺伝子治療技術を開発した。また、臨床では硝子体手術において眼底観察に用いる器具の光学的解析、色収差の評価を行い、若年性糖尿病における網膜機能の研究を行った。
研究方法
1)硝子体手術における眼底観察像の光学的解析、後極部眼底観察像の色収差の評価:眼底の光軸上の点の手術顕微鏡による観察像を想定し、眼底観察用コンタクトレンズを角膜上に前置し、その頂点から観察される眼底虚像までの距離を異なる波長毎に求めることにより、手術観察条件毎に、各種前置コンタクトレンズによる眼底観察像の色収差の発生状態の違いについて検討した。2)糖尿病患者における血液所見と電気生理学的所見との関連に関する研究:糖尿病患者でEOGの薬物誘発応答(NaHCO3応答、高浸透圧応答、ダイアモックス応答)、律動様小波のO1頂点潜時およびO1~O4の振幅和(ΣO)と血糖コントロール、腎機能、脂質代謝異常などの臨床検査値との関連を検討した。3)ムコ多糖症VII型マウスの網膜および中枢神経病変に対する遺伝子治療法の開発:(-グルクロニダーゼ発現アデノウイルスベクターを作成し、ムコ多糖症VII型マウスに生後早期に投与した。脳および眼で治療効果を検討した。4)遺伝性網膜・視神経形成異常の遺伝子解析と疾患の原因解明に関する研究:遺伝性視神経形成不全で眼形成遺伝子PAX6の変異解析を行った。また、培養細胞でPAX6とPAX2の相互関係を解析し、みつかったPAX6変異の機能的意義も検討した。
結果と考察
1)硝子体手術における眼底観察像の光学的解析、後極部眼底観察像の色収差の評価:光学計算プログラムを用いた解析を行い、以下の結果を得た。①通常の観察条件では、前置きする平凹型コンタクトレンズの素材の高屈折率化に伴うアッベ数の低下は眼底観察像の色収差の増加を生じ、観察像の劣化の原因となる。しかし高屈折素材コンタクトレンズでは、より高いアッベ数を有する素材を用いることにより色収差の発生が抑制される。②メニスカス型のコンタクトレンズは、高屈折素材においても色収差の少ない良好な観察条件が得られ、黄斑部の詳細な操作に適している。③液・空気置換時の両凹(ズボラ)型コンタクトレンズによる眼底観察では、アッベ数の高低にかかわらず高屈折率素材のコンタクトレンズでは色収差が大きく生じている。④眼内レンズの形状に関して、平凸眼内レンズは両凸眼内レンズに比し、色収差に関しては有利な眼底観察条件とはならない。これらの解析結果は、今後、硝子体手術において、より良好な眼底の観察条件を得るためのシステムの開発、さらにその映像化における条件設定において有用は情報となると考える。2)糖尿病患者における血液所見と電気生理学的所見との関連に関する研究: NEFA、HDLおよびアポ蛋白A-Iは7%NaHCO3応答と正の相関を、BUN、TG、VLDL、アポ蛋白BおよびFDPは7%NaHCO3応答と負の相関を、BUNおよびVLDLはO1頂点潜時と正の相関を、アポ蛋白EはO1頂点潜時と負の相関を、アンチトロンビン IIIはΣOと負の相関を、HbA1
およびHbA1C は高浸透圧応答と負の相関を、NEFAはダイアモックス応答と負の相関を示した。律動様小波および7%NaHCO3応答は血管硬化および易血栓性に、高浸透圧応答は血糖コントロールに、ダイアモックス応答は易血栓性に影響されやすく、糖尿病による網膜内外層障害の発生および進行には血糖コントロールのみならず、脂質代謝異常や血液凝固亢進が関与している可能性が高いと考えられた。3)ムコ多糖症VII型マウスの網膜および中枢神経病変に対する遺伝子治療法の開発:投与30日後のマウスでは、(-グルクロニダーゼの活性染色で、脳および網膜組織で多数の(-グルクロニダーゼ陽性細胞が検出された。さらに、リソゾームの蓄積に伴う細胞内空胞の消失がみられ、病理学的な正常化が示された。同様の実験を生後30日のマウスで行った場合、中枢神経および網膜の病理的改善はまったく認めなかった。以上の結果から、生後早期の遺伝子治療がムコ多糖症の眼合併症治療に有用であることが示された。4)遺伝性網膜・視神経形成異常の遺伝子解析と疾患の原因解明に関する研究:視神経疾患でははじめて7例の変異(P68S、Q205X、F258S、S292I、Q378R、M381V、T391A)を見出した。表現型はコロボーマ、視神経低形成/無形成、朝顔症候群であり、遺伝子上での変異の場所(遺伝子型)と表現型の間には相関がなかった。さらに、変異の生化学的検討では、PAX6遺伝子とPAX2遺伝子が相互に抑制しあい、今回みつかった変異ではこの働きが障害されていることが判明した。したがって、PAX6は視神経の形成に関与し、その過程ではPAX2と相互に影響あるいは役割分担していることが示唆された。
結論
眼底観察像の光学的解析と後極部眼底観察像の色収差の評価を行い、高屈折素材コンタクトレンズの利点欠点を明らかにした。糖尿病では、血液所見と電気生理学的所見との関連から脂質代謝異常や血液凝固亢進の関与が示唆された。また、動物実験ではムコ多糖症の中枢・網膜疾患に対する新たな遺伝子治療技術を開発し、ヒトでは先天視神経形成不全でPAX6遺伝子の変異をみつけてその意義を明らかにした。

公開日・更新日

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