文献情報
文献番号
200100755A
報告書区分
総括
研究課題名
中高年者における視聴平衡覚障害とその危険要因に関する縦断的疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 中島 務(名古屋大学)
- 三宅養三(名古屋大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
老化に伴う視聴平衡覚障害は、高齢者の日常生活に大きな影響を与える。しかし、多数の一般住民を対象にした感覚器機能変化の包括的かつ詳細な検討は、検査に困難を伴うことから国内だけでなく海外でも今までほとんど行われていない。本研究は老化によって引き起こされる視聴平衡覚障害の予防、早期発見に資するため、一般中高年者における視聴平衡覚機能障害の実態を明らかにするとともに、その危険因子および経年変化について検討することを目的としている。加齢による変化は個人個人の縦断的追跡によってはじめて正確に評価できる。また縦断疫学研究は危険因子との因果関係を明らかにできる唯一の方法である。
研究方法
対象は当センター周辺(大府市および知多郡東浦町)の地域住民からの無作為抽出者(観察開始時年齢40-79歳)である。調査内容資料を郵送後、参加希望者に調査内容に関する説明会を開催し、文書による同意(インフォームド・コンセント)の得られた者を対象とした。対象者は40,50,60,70歳代男女同数である。平成9年10月にボランティアを対象にテストランを行い、実施上の問題点の解決を図った後、11月より無作為抽出集団を対象に実際の調査を開始した。施設内に設けた検査センターにて一日6ないし7人の参加者に、朝から夕方までの時間をフルに利用して様々な検査を毎日の業務として年間を通して実施している。平成12年4月までに2,267人の追跡集団を完成させた。平成12年度から第2回目の調査を開始し、以後2年ごとに検査を繰り返えしている(一部検査は4年ごと)。測定項目は感覚器機能の加齢変化に対してリスクとなりうる、もしくは感覚器機能の低下に伴って影響を受けると考えられる多くの項目について、感覚器機能を中心とした医学分野のみならず、運動生理学分野、栄養学分野、心理学分野のそれぞれの専門家が詳細な基礎データを収集した。
班員による聴力の解析では、一般に加齢とともに低下する聴力に対して、自己評価が中年齢層から高年齢層にかけてどのように変化するか、男女間に障害の自覚に差があるかどうか、また自覚が聴力閾値を反映するかどうか、についての調査を目的として、多数の一般住民での聴力に関するデータの検討を行った。また同時に、聴覚と関連した症状のうち高齢者に多い耳鳴と、聴力障害に影響を及ぼす騒音暴露についても検討した。調査方法として1)自記式質問票と2)純音聴力検査を用いた。質問票では、耳や聞こえに関して、耳科的既往歴や生活習慣を含む14の設問を設けているが、本研究ではそのうち9問についての回答を解析した。問1、問2、問3については全員回答で、問1-1から問1-5については、問1の「自分で聞こえが悪いと思いますか?」に対して「思う」「たまに思う」と答えた回答者のみが回答した。純音聴力検査は、診断用オージオメータ(リオン社製AA-73A)を用いて、500Hzから 8000Hzの5周波数の気導聴力閾値を測定し、解析には左右聴力閾値の平均値を用いた。
また視機能に関する班員の解析では、角膜乱視度および全乱視度を測定し、日本人中高年者における乱視の頻度、および角膜乱視と全乱視との関係を検討した。オートレフケラトメーター(ニデックARK-700A)により、全乱視および角膜乱視を測定した。乱視の表記法はマイナスシリンダー法とし、相関分析により年齢と乱視度数との関係を検討した。また、乱視軸の方向により乱視を直乱視、倒乱視、斜乱視に分類した。さらに、乱視度数および乱視軸を組み合わせた指標であるpolar valueを用いて、乱視と年齢との関連を検討した。
(倫理面への配慮)本研究は長寿医療研究センターでの研究に関して国立中部病院における倫理委員会での研究実施の承認を受けた上で実施し、全員からインフォームド・コンセントを得ている。
班員による聴力の解析では、一般に加齢とともに低下する聴力に対して、自己評価が中年齢層から高年齢層にかけてどのように変化するか、男女間に障害の自覚に差があるかどうか、また自覚が聴力閾値を反映するかどうか、についての調査を目的として、多数の一般住民での聴力に関するデータの検討を行った。また同時に、聴覚と関連した症状のうち高齢者に多い耳鳴と、聴力障害に影響を及ぼす騒音暴露についても検討した。調査方法として1)自記式質問票と2)純音聴力検査を用いた。質問票では、耳や聞こえに関して、耳科的既往歴や生活習慣を含む14の設問を設けているが、本研究ではそのうち9問についての回答を解析した。問1、問2、問3については全員回答で、問1-1から問1-5については、問1の「自分で聞こえが悪いと思いますか?」に対して「思う」「たまに思う」と答えた回答者のみが回答した。純音聴力検査は、診断用オージオメータ(リオン社製AA-73A)を用いて、500Hzから 8000Hzの5周波数の気導聴力閾値を測定し、解析には左右聴力閾値の平均値を用いた。
また視機能に関する班員の解析では、角膜乱視度および全乱視度を測定し、日本人中高年者における乱視の頻度、および角膜乱視と全乱視との関係を検討した。オートレフケラトメーター(ニデックARK-700A)により、全乱視および角膜乱視を測定した。乱視の表記法はマイナスシリンダー法とし、相関分析により年齢と乱視度数との関係を検討した。また、乱視軸の方向により乱視を直乱視、倒乱視、斜乱視に分類した。さらに、乱視度数および乱視軸を組み合わせた指標であるpolar valueを用いて、乱視と年齢との関連を検討した。
(倫理面への配慮)本研究は長寿医療研究センターでの研究に関して国立中部病院における倫理委員会での研究実施の承認を受けた上で実施し、全員からインフォームド・コンセントを得ている。
結果と考察
平成12年4月には2,267名の対象者への第1回の調査を終えた。平成12年度には第1回調査の視聴覚機能を含む千項目以上の全項目についてデータをチェックし集計を行って、老化の基礎データとして英文でインターネットを介して全世界に公開した(http://www.nils.go.jp/organ/ep/monograph.htm)。縦断的変化を観察するための第2回調査を平成12年度より開始し、平成13年12月末には約1,800名の調査を終了した。また、これまでの解析結果をまとめて、疫学研究の英文専門誌Journal of Epidemiologyに特集号を組み、方法論および概要を紹介するとともに感覚器、医学一般、心理、栄養、運動、身体組成の各分野で老化とその要因に関して13編の論文をまとめた。
班員による聴力の解析では、聴力障害は40歳代で3人に1人、60歳代以降では2人に1人が、自覚していた。聴力障害を自覚している人のうち、各年齢群通じて、8割以上が、言語音の聴取困難を感じており、60歳代以降では、2割以上が社会的不利を感じていた。聴力障害の自覚評価は、純音聴力閾値と有意な関連があった。同じ自覚評価に対応する純音聴力閾値には、年齢、性により差が認められた。高年齢群では、同等の聴力の低年齢群に較べて、自身の聴力障害を軽く評価する傾向が見られた。また同様に男性では女性に較べて軽く評価する傾向が見られた。高齢期に見られる耳鳴は聴力閾値の上昇と関連が認められた。騒音職場での就労経験と、聴力閾値上昇との関連が示唆された。
また視機能に関する班員の解析では、乱視度を測定し、乱視の頻度、および角膜乱視と全乱視との関係を検討した。その結果、眼球屈折系の総和を示す全乱視の頻度は高年齢群ほど高く、70歳台では約9割に達した。また、乱視の方向に関しては、角膜乱視および全乱視ともに、高年齢群ほど倒乱視の頻度が高かった。全乱視の倒乱視化はほとんどが角膜の倒乱視化に伴うものと推測された。日常生活視力に関して、高齢者では乱視頻度および乱視度数が大きいことを踏まえて、適切な屈折矯正を行うべきと、考えられた。
平成9年11月より開始した当研究所での老化の縦断研究は、世界の最も優れているといわれる老化の縦断研究である米国国立老化研究所(NIA)でのボルチモア加齢縦断研究(BLSA)に劣らない、むしろ感覚器の老化の研究に関しては内容・規模ともにBLSAを越える、世界に誇ることのできる縦断研究である。加齢による変化は個人個人の縦断的追跡によってはじめて正確に評価できる。また縦断疫学研究は危険因子との因果関係を明らかにできる唯一の方法である。本研究は長寿医療研究センターにおいて、詳細かつ包括的な視覚および聴覚の加齢特性に関連する検査を行うとともに、頭部MRIや頸動脈エコーを含む一般医学的検査、包括的心理調査、運動調査、写真記録を併用した栄養調査などを2,000名以上もの対象者の全員に行うことにより、加齢変化の関連要因についての検討を可能とする。危険因子ばかりでなく、いままでほとんど検討されてこなかった感覚器障害のもたらすQOLや社会参加への影響なども検討され、世界初ともいえる感覚器加齢変化に関する大規模縦断疫学調査としてきわめて重要である。
班員による聴力の解析では、聴力障害は40歳代で3人に1人、60歳代以降では2人に1人が、自覚していた。聴力障害を自覚している人のうち、各年齢群通じて、8割以上が、言語音の聴取困難を感じており、60歳代以降では、2割以上が社会的不利を感じていた。聴力障害の自覚評価は、純音聴力閾値と有意な関連があった。同じ自覚評価に対応する純音聴力閾値には、年齢、性により差が認められた。高年齢群では、同等の聴力の低年齢群に較べて、自身の聴力障害を軽く評価する傾向が見られた。また同様に男性では女性に較べて軽く評価する傾向が見られた。高齢期に見られる耳鳴は聴力閾値の上昇と関連が認められた。騒音職場での就労経験と、聴力閾値上昇との関連が示唆された。
また視機能に関する班員の解析では、乱視度を測定し、乱視の頻度、および角膜乱視と全乱視との関係を検討した。その結果、眼球屈折系の総和を示す全乱視の頻度は高年齢群ほど高く、70歳台では約9割に達した。また、乱視の方向に関しては、角膜乱視および全乱視ともに、高年齢群ほど倒乱視の頻度が高かった。全乱視の倒乱視化はほとんどが角膜の倒乱視化に伴うものと推測された。日常生活視力に関して、高齢者では乱視頻度および乱視度数が大きいことを踏まえて、適切な屈折矯正を行うべきと、考えられた。
平成9年11月より開始した当研究所での老化の縦断研究は、世界の最も優れているといわれる老化の縦断研究である米国国立老化研究所(NIA)でのボルチモア加齢縦断研究(BLSA)に劣らない、むしろ感覚器の老化の研究に関しては内容・規模ともにBLSAを越える、世界に誇ることのできる縦断研究である。加齢による変化は個人個人の縦断的追跡によってはじめて正確に評価できる。また縦断疫学研究は危険因子との因果関係を明らかにできる唯一の方法である。本研究は長寿医療研究センターにおいて、詳細かつ包括的な視覚および聴覚の加齢特性に関連する検査を行うとともに、頭部MRIや頸動脈エコーを含む一般医学的検査、包括的心理調査、運動調査、写真記録を併用した栄養調査などを2,000名以上もの対象者の全員に行うことにより、加齢変化の関連要因についての検討を可能とする。危険因子ばかりでなく、いままでほとんど検討されてこなかった感覚器障害のもたらすQOLや社会参加への影響なども検討され、世界初ともいえる感覚器加齢変化に関する大規模縦断疫学調査としてきわめて重要である。
結論
加齢による視聴覚および平衡機能の変化およびこれらの感覚器機能低下の予防に資するための検討を行った。平成9年度から開始されている老化関する縦断研究では平成12年度から第2回調査が開始され、様々な視聴平衡機能の評価を行っている。今年度には第2回調査が終了するが、平成13年9月までの視聴平衡機能に関する加齢変化の結果をまとめた。高齢者視聴覚器の解析では、高年齢群では、同等の聴力の低年齢群に較べて、自身の聴力障害を軽く評価する傾向が見られた。また同様に男性では女性に較べて軽く評価する傾向が見られた。高齢期に見られる耳鳴は聴力閾値の上昇との関連が認められた。全乱視の頻度は高年齢群ほど高く、70歳台では約9割に達した。また乱視の方向に関しては、角膜乱視および全乱視ともに、高年齢群ほど倒乱視の頻度が高かった。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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