難聴によるコミュニケーション障害と補聴器による改善効果の評価法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100754A
報告書区分
総括
研究課題名
難聴によるコミュニケーション障害と補聴器による改善効果の評価法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 牧人(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 聡(浜松医科大学)
  • 大沼直紀(筑波技術短期大学)
  • 小寺一興(帝京大学)
  • 泰地秀信(国立病院東京医療センター)
  • 田内光(国立身体障害者リハビリセンター)
  • 廣田栄子(国際医療福祉大学)
  • 細井裕司(奈良県立医科大学)
  • 松平登志正(北里大学)
  • 米本 清(岩手県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では高齢者に補聴器をうまく役立たせ、それにより彼らが聴覚的コミュニケーションを改善し、QOLを向上できるようになることを目的とする。とくに、補聴器のフィッティングの評価、補聴器の機械的特性の評価、自覚的装用効果の評価、社会的装用効果の評価等につき統一した評価法の作成をめざす。3年目は補聴器装用のためのガイドラインを完成させる。
研究方法
1.高齢者の聴覚障害の実態調査から、補聴器の必要性や適応を考察する
2.聞こえの質問紙の試行結果を解析し、最終的質問紙を完成させる
3.補聴器装用下検査室の条件や検査機器の較正法を考察する
4.語音聴力検査に関する研究
1)補聴器装用下語音聴力検査の検討
2)補聴器適合時の自覚的評価表の作成
5.デジタル補聴器の評価法を検討する
6.補聴器の過渡歪みの測定法の開発とイヤーモールド材質による歪みの相違を検討する
7.聴覚リハビリテーションプログラムを検討する
8.補聴器の簡易的総合評価方法として9項目(①装用時間②装用耳③満足度④語音検査⑤静かな場所で1対1の会話⑥静かな場所で3,4人との会話⑦うるさい場所で1対1の会話⑧うるさい場所で3,4人との会話⑨多人数での聞き取り)を作成し、各項目をその程度により3段階に区分し、0点、5点、10点を配点し、補聴器を調整のうえ装用し、3ヶ月以上経過した20名に施行した。
9.子音部伸長および子音部伸長と子音強調の効果を評価する明瞭度検査テープを作成した。第2音と第3音の検討を対象とし、アナウンサーの発声したもの(原音)、これに40msecの子音部伸長をおこなったもの、圧縮増幅をおこなったもの、子音部伸長と圧縮増幅を供に加えたものの3種を作成した。
10.以上を総合して、補聴器装用ガイドラインを作成する
結果と考察
1.全国600名の60歳以上の高齢者にアンケート調査した結果、補聴器の利用は3.1%に過ぎないが、日常生活やテレビの聴取で困っている人は7.7%あり、とくに70歳以上ではその頻度が高かった。補聴器を含め何らかの聴覚補償を講ずる必要があると思われた。
2.聞こえの質問紙を380名に試行し、解析した。因子分析と個々の解釈により、最終的に23の質問項と付加質問からなる「きこえについての質問紙2002」を作成した。
3.補聴器装用下検査の条件に関する検討:ノイズやFM音を使用すると既存の防音室もISO8253-2の規格をほぼ充たすことがわかった。音場で語音聴力検査をする場合、自分の施設の音響学的特徴を十分把握して使用する必要があると思われた。
4.語音明瞭度検査による補聴器適合状態の評価
1)67-S語表内の基準音は純音なので、音場での検査では較正として使用できない。そこで、SRTを用いて基準を調べたところ約5dB小さいことがわかった。
2)市販の3種類の語音聴力検査用CDを用いて音場で聴力検査を行ったが、成績にばらつきが多かった。また、語表間でのばらつきも大きかった。したがって補聴器装用評価においては語表をできるだけ統一する必要がある。
3)話速変換語音聴力検査の結果、1.5倍速55dBでリニア型補聴器の結果がノンリニア型補聴器と比較して正答率が低かった。ノンリニア型補聴器が良いと判断した群ではノンリニア型補聴器の方が正答率が高かった。
4)補聴器適合時に自覚的評価としての質問紙「試聴の記録」を作成した。
5.デジタル補聴器の評価:アンケートの結果、すべての項目でデジタル補聴器がスコアは高かったが、有意差が認められたのは日常生活度のみであった。非雑音下の最高語音明瞭度ではアナログ補聴器の方が平均点では高かったが有意差はなかった。右90度雑音負荷ではデジタル補聴器の方が、S/N比±5dBのすべての状況で高い語音明瞭度が得られたが、有意差は認められなかった。
6.補聴器の器械的特性に関する問題点
1)理論的検討から、ハードイヤモールドでは音圧の増強とともに過渡歪みが生じるが、吸音性イヤモールドでは過渡歪みは現れにくいことが予想された。
2)パワーレベルでみて、イヤモールドの材質ではソフト、シリコンはハードと過渡特性にあまり差はなかったが、スポンジの場合にはハードより過渡歪みは小さかった。
3)歪度はすべての周波数においてスポンジイヤモールドはハードイヤモールドより有意に小さかった。
7.1)難聴者のHDHS:IUHW版聴覚障害自己評価総得点と関連する要因について検討すると、聴力要因、語音明瞭度要因とも弱い相関を示した。高齢者では得点は低く中高年と比して障害感が低かった。
補聴器装用により障害自己評価点は減少し、補聴器装用による障害感の改善を認めた。しかし、障害補償意図に関しては,補聴器装用による改善は明かではなかった。コミュニケーション障害補償に関しては,補聴器装用に加えてリハビリテーションを実施する事が必要であるといえる。
リハビリテーションプログラムは①補聴支援に関する講義、②会話方法の個別指導、③障害に関する懇談会で構成する。リハビリテーションプログラムへの参加へのニーズは高かった。2週に1回、計6回程度が適当である。
2)視覚併用検査結果:明瞭度不良群では補聴器を装用するだけでなく、視覚を併用する方が明瞭度が改善した。
8.20名の難聴者の評価項目9項目は最低30点、最高85点、平均55.5点であった。平均聴力レベルと評価点数の関係は聴力が悪くなると評価点数が悪くなる傾向が見られたが、必ずしも聴力レベルと評価点数は一致しなかった。補聴器装用下でのことばの明瞭度と評価点数との関係は比較的ばらつきが少なく、ことばの明瞭度が下がると評価点数もさがる傾向が見られた。しかしそれぞれ個々を比較してみるとわずかの差ではあるが一致しない点も見られた。これは主として装用時間の違いと、補聴器に対する満足度の違いによるものであった。
9.語音の加工による聴取能の変化について、原音の明瞭度との関連からまとめると調音結合、子音部伸長および圧縮増幅の効果は以下の通りであった。
単音節で明瞭度が低く多音節の第2音または第3音で明瞭度が高い結果を示した子音は単音節で子音部伸長を加えた場合に明瞭度が改善する子音にほぼ一致した。
単音節で明瞭度が低く多音節の第1音または第2音において明瞭度が中等度の値を示した子音は、子音部伸長も圧縮増幅も第2音または第3音で明瞭度改善に有効であり、単音節で子音部伸長が無効であった結果とは異なっていた。
単音節で明瞭度が低く多音節の第1音または第2音においても明瞭度が低い結果を示した子音は、子音部伸長も圧縮増幅も明瞭度改善の目的では無効であった。
単音節でも多音節の第2音または第3音でも明瞭度が良かった子音に対する音声加工の影響は、単音節に対する子音部伸長で明瞭度が低下する傾向を認めたが、多音節の第2音または第3音では明瞭度への悪影響は認めなかった。
多音節語表を用いた明瞭度検査では、一般に第1音の明瞭度が低く第2音以降の明瞭度が高い。その原因は上述の調音結合の影響か、または、発声時に第1音が曖昧に発音されることによる。原因がいずれであっても第1音こそ補聴器におけるディジタル音声処理の対象とされるべきである。
10.補聴器装用ガイドラインを作成した。
結論
1.補聴器装用ガイドライン2002を作成した。
2.「きこえについての質問紙2002」(最終版)を作成した。
3.「試聴の記録」を作成した。
4.測定された防音室は1/3オクターブ帯域雑音およびFM音を音源とした場合には、ISOに示された許容範囲内にほぼ収まるものと思われ、音場検査に使用できると考えられた。しかし、現在標準とされている語音聴力検査用の音源に収録されている較正音が純音であるなど、補聴器装用下音場検査の環境は各自の施設の特徴を認識して施行する必要があることがわかった。
5.1)67-S式語音聴力検査語表の音場における正常片耳の語音了解域値(SRT)を測定したところ、イヤホン聴取に比べ約5dB低かった。音場検査に使用する場合注意が必要であるといえる。
2)57-S、TY、KRの3種のCDを用いて難聴者および正常者にスピーカー法による単音節語音明瞭度検査を施行した。3種のCDに特に優劣はなかったが、ばらつきが大きかった。
3)話速変換語音聴力検査は従来行われてきた語音聴力検査と比較してより主観的評価を反映している検査であることが示された。
4)補聴器試聴時の評価を質問紙法で行うための質問紙を作成した。
6.アナログ補聴器とデジタル補聴器を比較した。補聴器の評価・比較検討では、評価方法や測定条件によって微妙に結果が変わる可能性があり、補聴器の評価方法の検討とまたその統一が今後望まれる。補聴器の評価は多角的に行う必要があり、特に客観的評価法である語音明瞭度検査は非雑音下のみならず、雑音下での検査が重要と思われた。
2)子音部の40msecの伸長は感音性難聴患者の「ダ」「ザ」の明瞭度を改善する。子音部伸長に圧縮増幅を組み合わせると「ダ」「ザ」に加えて「ホ」「ジ」の明瞭度が改善した。音声加工は明瞭度改善に有効であるが、適合する難聴患者を選択して用いることが重要である。
7.過渡歪みはイヤモールドを吸音性にすると減少した。実際、スポンジの方が有意に歪度が小さかった。
8.1)難聴のハンデイキャップ自己評価(HDHS:IUHW版)は、難聴高齢者固有のhandicapの状況を分析し、補聴効果を評価して、総合的なリハビリテーション計画の作成に有用であった。
2)中等度難聴の補聴器装用例においても視覚活用による語音識別の改善が確認された。
9.総合的な補聴器装用効果の評価法として9項目からなる簡易総合評価方法を作成し、20名の難聴者についてその結果を比較検討した。その結果、ある程度総合的な評価を成しえるのではないかと考えられた。
10.デジタル音声処理による子音部伸長は、単音節では有声子音に有効である。会話を増幅する補聴器では40msec以内の時間ずれが許容される上限なので、明瞭度が最も低い会話開始時の第1音だけを目標に加工を加えると良い。

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