中途視覚障害者のQuality of Life(QOL)を早期に改善する情報システムの研究

文献情報

文献番号
200100752A
報告書区分
総括
研究課題名
中途視覚障害者のQuality of Life(QOL)を早期に改善する情報システムの研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
樋田 哲夫(杏林大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小田浩一(東京女子大学)
  • 山本晃(杏林大学)
  • 田中恵津子(杏林大学)
  • 西脇友紀(杏林大学病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中途での視覚障害によって低下したQOLを復元させるために、社会には障害を補償するエイドやリハビリテーションの社会資源が用意されている。しかし、必要としている者がそのことを知っているとは限らず、その情報を入手できずに無為な時間を費やしてしまう場合がある。これは視覚障害のほかに「情報障害」が生じている可能性が高い。こうした情報不足による二次的な障害を避けるため、受障早期の患者に関わる病院眼科がイニシアチブをとって、患者がリハビリの社会資源に接する場面(機会)を設けることは大いに意義があると考えられる。本研究では、眼科臨床において受障直後の中途視覚障害者を対象とした情報提供システムを完成させることを目的とする.
機構としては病院内のLANを利用し,病院外にある視覚障害に関するあらゆる関連情報を収集し、提示する。そして提示後の効果を患者のQOLの変化という点から評価する。
平成11年度は、QOLの評価方法の具体化、提示情報の収集、病院内で求められる情報内容とその提示方法の検討を開始した。平成12年度は、平成11年度に得た知見をもとに、(1)収集した情報の調整および電子化、(2)電子媒体以外の方法での提示形式(講習会形式、自宅訪問形式)での情報提供の実践、(3)QOL評価方法の確立と情報提示前のQOLの実態調査、を行った。平成13年度は、関連情報の収集・まとめと並行して、実際に電子化した情報提供システムを院内LANとインターネット上で公開した。また本研究の最終年度として、総括的に情報提供の効果について検討を加えた。
研究方法
本研究で行う情報システムの開発にあたり、以下の段階をふむ。
1)情報収集とその組織化
視覚障害に関係した情報をできるだけ広範囲に収集した。素材収集は、できるだけ各分野専門職の協力を得ながら行った。ニーズ調査(平成11年度)をもとに、これらデータ内容のバランス調整を図った。集積したデータはすべて電子化した。
2)電子情報を提示するサーバの構築
システムで保有する電子情報を一つのコンピュータで管理し、必要な情報を誰でも検索しやすい形で保存した。このサーバから設置場所の違う端末に情報が送られるネットワーク管理を行った。
3)外来情報システム提示装置の開発
情報提示システムを外来待合室に設置した。平成12年度後半から改良しつつ外来提示を開始し、そこで患者や家族が自由に選択した情報の傾向についても調査を続けた。
4)ニーズにあった情報提供の実施
すでに視機能低下に伴うQOLの低下を自覚している患者に対して、個別に面談し、ニーズを把握した上で必要な情報を選択して伝えた(平成12年度より)。QOLの状態を客観的に把握し(後述)、このような介入の前後における対象者の生活面の変化を調査した。
5)QOL評価基準の決定
QOLの評価材料の開発を行った(平成11年度)。既存のQOL評価表と、実際の調査結果をもとにして、質問項目を選定し、それぞれの課題の困難度を点数化した。また、それぞれの項目ごとに問題解決につながる情報を(1)で蓄積したデータベースから選び、システムとの関連性をもたせた。
結果と考察
1)収集した情報内容
患者との個別面談時に聴取したニーズ分析では、「読み書き」と「移動」に関する問題が圧倒的に高いニーズであった。さらに患者のニーズについて、本研究で開発したQOL評価表(後述)を用いて個々の生活動作に対する評価をしてみると、余暇活動や身辺管理に関するニーズが潜在的に存在することが明らかになり、対応するリハビリ・サービスなどに関する情報収集を新たに開始した。
本研究中盤以降に行ったインターネットを通じた情報提示は、中途視覚障害者のサポート関係者からも関心がよせられた。問い合わせの内容は、視覚障害者用の用具について(20件)、館内サイン等の視覚障害者に見やすい情報提示方法について(11件)、病院内での個別情報提供の方法について(8件)などであった。本研究の目的は、このような各分野の専門職の知識共有によっても大きな効果が期待できると考えられたため、バリアフリー建築や視認性の向上に関する情報も集積した。
収集した情報はできる限り電子化し、HTML形式でまとめた。ニーズの高いトピックを検索しやすい形にすること、音声出力モードでも情報の取り出しが安易にできることを心がけた。3年間にわたる本研究で収集した情報量は、htmlのページ数でいうと約70ページで、動画を除いた総容量は120メガバイトであった。内容は、(1)日常の行動の問題解決方法の提示、(2)患者から患者へのメッセージ、(3)便利に使える雑貨の紹介、(4)地域の社会サービス・活動の紹介、(5)患者友の会の紹介、(6)関東近辺のリハビリテーション訓練施設の紹介、(7)眼の病気について、(8)録音・拡大図書紹介、(9)身体障害者手帳の基準と説明、(10)杏林アイセンター(本研究の臨床データ収集場所)内の展示機器や講習会活動の紹介、であった。
2) 情報の提示方法とその効果
提示方法は大きく分けて以下の5つであった。A. 個別面談でニーズ聴取後、必要と思われる情報を担当者が説明しながら個別に提示する方法、B. 外来にホームページ形式で提示し、自由に情報を選択して閲覧してもらう方法、C. 講習会形式で同じニーズを持った複数の中途視覚障害者に関連情報の提示をする方法、D. インターネット上にページを公開し、対象者を限らず情報提供する方法、E. 電子メールを通して、過去の外来通院患者に対し、新しく追加された情報を提示する方法。
個別面談を通じた情報提示(A)の効果は、対象患者の生活上の困難のうちほぼ半数が解決できたという調査結果を得た。情報の提示方法は言葉やパンフレットによる説明だけよりも、実際の用具・サービス・訓練を院内で体験させながらの提示の方が情報の利用度があがり困難が解消されやすいことがわかった。また、他の中途視覚障害者のリハビリや余暇活動の体験談は、共通の疾患や年代、また社会的立場を持つ患者間で注目されやすく、リハビリ導入を促進する効果があると考えられた。
ホームページ形式で自由に情報を選択して閲覧してもらう方法(B, D)では、データの利用頻度(ページの閲覧頻度)を調べると、LAN, Internet共通して、生活用具紹介のページ、病気説明のページ、身体障害者手帳説明のページへのアクセスが多かった。インターネットを介した提示、あるいは平成11, 12年度の研究発表をきっかけに、中途視覚障害者のサポートに携わる専門職からの問い合わせが増加した。問い合わせ元は、建築関係者、バリアフリー用品開発・研究者、自治体関係者、病院関係、盲学校関係であり、内容は、バリアフリー建築について、視認性を向上させるための方法について、中途視覚障害者への情報提供の方法についてなどであった。
一回2時間程度の講習会形式の情報提供(C)は、QOL評価表の客観的データを分析すると、障害の程度が軽い人たちに有効であった。また、技術よりもリハビリ後のQOL向上を予測可能にし、不安を軽減させる効果が強いことがわかった。
通信の利用が可能な患者に対して行った電子メールを介しての情報提供(E)の効果については、詳細な分析は今後の課題であるが、補助具展示会や各種スポーツ、映画などの即時的な催し物についての情報提供や、html形式の情報媒体へのアクセスが困難な患者にとっては、有効な手段であると考えられた。
3)電子情報を提示するサーバの構築
サーバのOSはMacOS X server で動作させた。MacOS X server は院内のファイルサービスと、Web サービスのみを起動し、他のサービスは停止して院内の情報サービスのみを行った。
4)QOL評価基準の決定
リハビリ情報との接触によってQOLがどれほど変化するのか量的分析を可能にするため、初年度を中心に、その評価表の開発を行った。既存の評価表の中でNEI-VFQは、疾患にとらわれず視覚障害者全般を対象に開発された数少ない評価表であったため、その評価項目を参考に、1)精神・心理面の評価より、具体的な行動面での評価項目の比重を高くする、2)日本の文化やライフスタイルにそった質問内容に変更する、3)課題遂行の可否判断だけでなく、実状に満足しているか否かという評価を反映する得点形式にする、という3点を考慮し、51項目で構成された独自の評価表を開発した。
結論
中途視覚障害者のQOLを早期に改善するための情報提示システムを開発した。必要な情報を集積するための基礎研究として、中途視覚障害者とそのサポーターが必要としている関連情報の分析と、情報提示の効果を数値で比較するためのQOL評価表の開発を行った。情報提示の実践とその効果の検討からは、本システムは中途視覚障害者が関連情報を効率よく入手することを可能にしQOL向上に寄与するシステムであると考えられたが、提示方法によってQOL向上の効果が大きい対象とそうでない対象があることがわかった。

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