エイズに関する非政府組織の活用に関するモデルプラン策定研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100748A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズに関する非政府組織の活用に関するモデルプラン策定研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
我妻 堯(社団法人国際厚生事業団)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川敏彦(国立医療・病院管理研究所)
  • 岩崎榮(日本医科大学)
  • 木村吉男(特定非営利活動法人アジア友好の家(FAH))
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、我が国においてエイズ対策活動を行うNGOの実態把握、諸外国のNGOと行政との協調のモデルケース研究、行政とNGOとの協調エイズ対策モデルプランを完成させることを目的とする。
研究方法
1)アジアのNGOと政府の協調比較,2)国内外のエイズNGO組織比較とそのあり方:政府からNPOへのアウトソーシングを中心に,3)「エイズ・ピア・エデュケーション」の全国展開のためのシステム構築に関する研究,4)在日外国人におけるエイズ問題事情と対外NGO活動の役割について
結果と考察
1)アジアのNGOと政府の協調比較~昨年の研究によって、欧米型のNGOと政府の協調が文化の違いから我が国の将来のエイズ対策に効果があるか疑問視される報告がなされたが、本年度は重点的にアジアのエイズ分野のNGOと政府及び政府機関の協調事例を研究した。また、昨年度は欧米の例を中心に事例を集積するにとどまったが、今年度は、アジア各国(カンボジア、ベトナム、タイ、シンガポール、フィリピン)におけるNGOと政府機関の協調事例を分析し、成功例及び失敗例のそれぞれの事由及び特徴を導き出そうとしている。この比較検討を通じて、アジアに共通するNGOと政府機関の協調における「Strategic Framework」(戦略的枠組)を現在、策定中である。
2)国内外のエイズNGO組織比較とそのあり方:政府からNPOへのアウトソーシングを中心に~本研究では、エイズという大きな社会問題は行政の活動だけで対処しうるものではなく、企業や民間非営利部門も加わったパートナーシップや重層的な活動が重要となるという認識から、政府から民間非営利組織(以下NPOと省略)へのアウトソーシングに注目した。政府からNPOへのアウトソーシングの形態としては、単なる事務委託というだけではなく、補助、融資、PFI、保険、バウチャー、免税といった形式もその範疇に含めて検討する必要がある。また、委託という形をとりながらも現実にはNPOの育成を目的とした補助的なものがあることも明らかとなった。アウトソーシングの内容としては、ヒューマンサービスが中心となる。政策と執行を分離し、その執行部分で市場原理を導入して効率化を図るため、アウトソーシングされるのは準公共財的なサービスとなる。したがってサービスの提供方法や形態に独自性、新規性があり、利用者のニーズを満たす上で優位性を持つNPOが、市場を通じて一定のポジションを獲得していく。こうしたパターンはアメリカにおけるコミュニティ開発の「CDC:Community based Development Company 地域開発会社」やイギリスにおける複合型社会福祉施設などの先行するケースからも確認できた。わが国の場合、戦後から行政主導型の社会システムであったために民間自発型の活動の組織やその運営が脆弱である。それゆえ、行政や企業とは異なったNPOの本来の機能である自発性や社会実験的活動を損なうことなく育成していくためには、企業や行政とはまた違った評価体系を確立することが必要である。それは本研究の次の課題でもある。
3)エイズ・ピア・エデュケーション」の全国展開のためのシステム構築に関する研究~平成13年度の研究においては、14施設におけるピア・エデュケーションを実施した。今年度中にもう1施設での実施も決定している。
実施した個々の施設での反響は、概ねこの活動の趣旨に肯定的である。高校生、専門学校生といった若い世代へは、スタイルの斬新さや若者から若者へ「教える」という形ではなく「伝える」という形をとっていることがその要因であると思われる。一部否定的な意見としては、このスタイルそのものに溶け込めないことや、「性」を助長しているととらえられてしまうこと等があり、スタイルを固定化することなく柔軟に見直しをしていく必要があると思われる。今年度の大きな特徴は、全国展開の1モデルとして東京都独自のピア・エデュケーションの活動が立ち上がり、当研究班としても都の活動に協力する形で都内の高等学校及び専門学校を中心に研究をしてきたことが挙げられる。また年度末に第7期のピア・エデュケーター養成研修の実施に併せてスーパーバイザーの研修も行うことを予定しており、学校や団体等で独自にエイズ・ピア・エデュケーションを確立したいとする担当者レベルに呼びかけを行っている。研修による普及につとめる一方、ピア・エデュケーションのノウハウを集約したビデオを製作し、映像による普及を現在検討中である。
4)在日外国人におけるエイズ問題事情と対外NGO活動の役割について~在日外国人、特に不法入国者のエイズ問題は現在、大きな問題となっている。特に、東京のような大都市では不法滞在者の人数も多く、深刻な問題となっている。本研究班では、在日ミャンマー人のエイズ患者に手を差し伸べているNGOを対象にNGOの目から見た政府の役割とNGOの役割を分析した。
結論
1)アジアのNGOの原動力~アジアのNGOの原動力は大きく二つに分類される。ひとつは、政府機関そのものの基盤が整備されておらず、政府機関が本来為すべきサービスが為されておらず、政府の代理人としてNGOがサービスを提供しているというものである。ここでの政府機関とNGOの関わりは国家がエイズ対策施策の方針作りを担当し、NGOが実際の事業を実施するといったものである。
今ひとつは、文化的背景から来る地域社会における共同意識である。多くのアジア諸国では、我が国同様、地域社会における助け合いが歴史的にまた、文化的に根付いており、地域に根ざしたNGO活動が受け入れられやすい傾向を醸成している。これは、欧米における宗教に根ざした助け合い精神と異なり、地域に密着していることが大きな特徴となろう。
2)政府機関とNGOとの問題点の違い~今年度、在日外国人を手助けするNGOと政府機関との関係構築を事例として研究してきたが、以下の問題点が明確になった。・政府機関はルールに則らない事例に対し、対応することが極めて難しいこと。・政府機関の多くは手続きに時間を要し、サービス提供の時期を失することが少なくないこと。・NGOの動きは政府に比べ、迅速かつ適切なものが多いが、多くのNGOは財政的問題から多くのサービスの提供が不可能であること。・政府機関とNGOとの間で共同してサービスを提供していくことには、大きな問題が存在していること。
3)政府機関からのNGOへのアウトソーシングの有効性~これまで、政府機関とNGOとの共同を基本的な認識にして、モデルプラン策定を進めてきたが、前項1)のアジアにおける傾向は経済的に発展した我が国でも同様のものが見られることからサービスの提供におけるNGOの優位性は否定できないこと、また、前項2)で言及したとおり、政府機関とNGOとの共同作業の実施には多くの問題が存在しており、事実上、困難であることの二つの理由から、地域に根ざしたサービスは行政が提供するのではなく、地域に根ざしたより住民に近い組織であるNGOが提供すべきであるといった結論が得られた。そこで、当研究班では「政府機関の提供するサービスを最小限に留め、より多くのサービスをNGO等の団体に実施させる、また、そのための予算配分を政府機関側で構築することが、今後の我が国のエイズ対策上、重要になる」という方針に立脚し、政府とNGOの協調、即ち、政策立案と執行の分離及び協調モデル、政府からNGOへのアウトソーシングの方法論を中心に最終年度のモデルプラン策定を進めることとしている。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)