日本におけるHIV診療支援ネットワークの確立に関する研究(総括研究告書)

文献情報

文献番号
200100745A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるHIV診療支援ネットワークの確立に関する研究(総括研究告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 昌範(国立国際医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 木内貴弘(東京大学)
  • 山本隆一(大阪医科大学)
  • 山下芳範(福井医科大学)
  • 高橋紘士(立教大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV治療・研究開発センターの機能を発揮するためには、情報の共有化が重要である。その連携機能を支えるために、HIV診療支援ネットワークシステム(略称:A-net)を構築し、臨床情報の収集・集計・分析を行い、最新の情報提供や治療研究を行うことを目指している。ただし、患者のプライバシーの保護には十分配慮する必要がある。データベースの機密性を保つことは重要であり、機密性の高いネットワークを利用することでこの対策を行ってきたが、一般施設へもネットワークが拡大していく必要がある。そこで、患者のプライバシーを保護しながら拡張する為に、必要とされるセキュリティを維持するために、Virtual Private Network(VPN:仮想専用線網)を実用化した。具体的には、A-netに導入するためのVPNに関する暗号化や電子認証を技術開発を行った。一方、臨床研究に用いるためには、集積されたデータの二次利用に関するルール作りも必要である。データの活用には、その患者の治療のために用いる一次利用以外に、学術的研究や疫学調査のために用いる二次利用がある。どちらの場合もプライバシー保護が重要な課題であるが、二次利用においては本質的にプライバシー情報を扱う必要さえない。しかしながら、診療データの場合、名前などの自明の個人識別要素は別にしてもデータの組み合わせで個人が特定できる場合があり、無名性確保はそれほど容易ではない。そこで、二次利用における無名性確保の方法と有効性について検討を行う。これによって無名性が電子認証や暗号化などセキュリティ関連の技術を利用した研究成果を実運用することで、プライバシーを保護した病院間連携を実現でき、臨床研究にも応用できる。本研究は、多施設共同研究を可能とするための検討をシステム上や運用上の問題点を明らかにすることで、個人情報保護の下での診療データの有効活用法を検討するものである。
研究方法
研究は、患者のプライバシー保護のために、ネットワークや情報技術を中心に検討、データの二次利用におけるセキュリティ:技術的検討と個人情報保護ガイドラインの検討、 患者側から見たプライバシー保護の検討を行った。
1)ネットワークや情報技術を中心に検討
Virtual Private Network (VPN:仮想専用線網)の技術を用いて、インターネットを介した安全な情報基盤の技術を確立し、ブロック拠点病院や主要な拠点病院間での単一のネットワーク接続機種間での運用を目指した。さらに、広域医療VPNに対応できるスケーラブルな名前管理方法及びUMINとA-netとの併用運用について理論的に検討を行い、UMIN VPNで動作の検証を行った。院内のLANにおけるセキュリティ確保のための研究として、現在導入を行っているHIV診療支援ネットワークの設置要件で接続サーバが設置されているという条件を設定し、この中で利用されるクライアントについて、情報ネットワークや情報システムとの連携の可能性について検討を行った。さらに、各病院内における利用環境の想定としては、病院で利用される医療情報ネットワークや医療情報システムを調査し、A-netを診療現場で利用するために、情報システムとして、管理レベルの検討、セキュリティ機構の利用、ユーザー管理機構の検討、データ保護に関する検討に関して検討を行った。昨年度までの検討では、A-netと一般的な病院情報システムでは、セキュリティレベルの違いが非常に明確となった。今年度はその点を踏まえて、実際の外来運用を想定したシステム作成のモデルを考え、安全上の評価を行い、推奨モデルを検討し、これらのモデルについての必要要件についての検討を行い、実際のシステム組み込みのための要件の検討を行った。
2) データの二次利用におけるセキュリティ研究
患者情報の収集や参照を行うためのネットワークとは別に、集積されたデータを臨床研究等に活用する際に、患者のプライバシー保護を行うためのセキュリティ要件を検討した。具体的には、これによって無名性が保証された状態で学術的、疫学的研究が可能となる。
一般的な二次利用で公表されるデータ項目を主に文献的に調査し、その無名性を検討、無名性の定義を定め、病院情報システムに蓄えられている診療情報項目を用い、無名性の定量化をた上で問題点を整理し、情報処理的な方法での対応について検討を行った。さらに、個人情報保護のガイドラインを試作するために個人情報保護法案をポイント別に整理し、それに対応するプライバシー保護実施計画及び実施要件を定めた。
3) 患者側から見たエイズ治療のおけるプライバシー保護の問題
エイズ治療において、プライバシー保護は重層的な構造である。患者のプライバシーが保護されているという感情を前提として、臨床データを活用できる環境はどのような条件が必要かを検討するための調査デザインをおこない実査を行った。
結果と考察
患者のプライバシー保護のためのセキュリティに関する検討として、ネットワークや情報技術を中心に検討した。すべての拠点病院を国立病院のように専用線で繋ぐには膨大な維持費用が必要となり、現実的な運用は無理である。そこで、文部省の学術情報ネットワーク(SINET)や一般のインターネットを用いて、セキュリティのある情報基盤を整備する必要がある。そこで、現在導入を行っているHIV診療支援ネットワークの設置要件で接続サーバが設置されているという条件を設定し、この中で利用されるクライアントについて、情報ネットワークや情報システムとの連携の可能性について検討を行った。さらに、各病院内における利用環境の想定としては、病院で利用される医療情報ネットワークや医療情報システムを調査し、運用されているシステムの方式により分類し、システムのモデルとして分類した。実現方法の検討を行い、セキュリティの安全性、利用方法、管理運用方法について検討を行った。また、外来診療という観点からは、病院で利用している医療情報システムとの関連も考慮することが必要であり、このシステムのクライアントとHIV診療支援ネットワークのクライアントとの相互連携についても、実現方法の検討を行い、セキュリティの安全性、利用方法、管理運用方法について検討を行った。次に、 データの二次利用におけるセキュリティ研究では、患者情報の収集や参照を行うためのネットワークとは別に、集積されたデータを臨床研究等に活用する際に、患者のプライバシー保護を行うためのセキュリティ要件を検討した。具体的には、これによって無名性が保証された状態で学術的、疫学的研究が可能となる。一般的な二次利用で公表されるデータ項目を主に文献的に調査し、その無名性を検討した。さらに、無名性の定義を定め、病院情報システムに蓄えられている診療情報項目を用い、無名性の定量化を試みた。これらの結果判明した問題点を整理し、情報処理的な方法での対応について検討を行った。その結果、無名性は、有か無かの定性的なものではなく、目的により変動するものであることが判明した。患者側から見たエイズ治療のおけるプライバシー保護の問題は、エイズ治療において、プライバシー保護は重層的な構造である。第一に、発症の原因はともあれエイズという疾病についての社会的の側の偏見からくる被差別感を患者さんが持っていること。第二に、難治疾患であるという特性から医師患者関係のあり方が課題であること第三に、一方で、最新の治療技術を遅滞なく普及する必要があるという意味で臨床データの研究用目的のための利用の必要性を治療側が強く感じていること、である。 そのなかで、患者のプライバシーが保護されているという感情を前提として、臨床データを活用できる環境はどのような条件が必要かを患者がもつ自分はプライバシーが保護されつつ必要の受診をしているという意識がなりたつための条件を明らかにする必要がある。このような点をあきらするための研究デザインを策定し、実際の調査研究を行った。その結果、患者から見た医療機関への信頼性の定量的尺度が必要と考えられた。
結論
HIV診療情報の共有化を図るために、A-netが敷設された。我が国で初めて導入された診療情報共有システムであるA-netは、全国のエイズ拠点病院でHIV診療情報の共有化を行えるようなシステム構築を目指すもので、全国の国立エイズ拠点病院にも利用が広がったことから、国立国際医療センターとブロック拠点病院間だけでは無く、全国100以上のエイズ拠点病院の連携強化も図ることができた。この情報システムに関しては、各政策医療ネットワークへの応用が期待されており、今年度構築中の肝ネットや腎ネットにこの成果が利用されることになっている。今後の診療データベースの臨床疫学への応用のためには、セキュリティ
の維持のためのガイドラインを作成したり、運用管理面での体制が必要である。同時に、患者側からの信頼を得ることが必須であり、本研究における無名性の科学的な検証や患者側の要因の検討により、プライバシー保護と公益性の高い臨床研究の両立が可能になると思われる。個人情報保護法案に基づいて医療分野での個人情報保護ガイドラインを試作した結果、一応医療分野に適応可能な内容にはなったが、現場で実際に対応するためには医療機関の規模別や目的別のガイドラインが必要と考えられた。今後は、個人情報保護を踏まえた臨床研究における指針の分野別・具体的な検討を行うことで、EBMへとつなげていくことを可能としたい。

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