抗結核キラーTリンパ球とリコンビナントBCG・DNAワクチンの開発による新しい予防・診断・治療法(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100724A
報告書区分
総括
研究課題名
抗結核キラーTリンパ球とリコンビナントBCG・DNAワクチンの開発による新しい予防・診断・治療法(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 全司(国立療養所近畿中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 坂谷光則(国立療養所近畿中央病院)
  • 矢野郁也(日本BCG研究所)
  • 螺良英郎(財団法人結核予防会大阪病院)
  • 土肥善胤(大阪大学医学部)
  • 菅原勇(財団法人結核予防会結核研究所)
  • 谷山忠義(国立感染症研究所)
  • 山田毅(長崎大学歯学部)
  • 吉田栄人(自治医科大学医動物学)
  • 熊沢義雄(北里大学理学部)
  • 井上義一(国立療養所近畿中央病院)
  • 森 隆(国立療養所近畿中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結核罹患率の増加、集団感染AIDSや糖尿病患者等の免疫不全疾患に高頻度に合併、薬剤耐性結核が増え、難治性結核の対策が早急に望まれており、結核に対する新しい予防・診断・治療の研究が必須である。すなわち、①BCGよりも強力な新しいリコンビナントBCGワクチンやDNAワクチンの開発を行い、新しい予防・治療の臨床研究②キラーT細胞活性と結核発病を分子・遺伝子レベルで解明する③これらを用いた結核予後診断・難治性診断④BCG接種の成人結核予防効果の研究を目的とする。
研究方法
[1]サブユニットワクチン:Mtb72f-85b fusion蛋白(72fと85bのfusion蛋白)Mtb72f fusion蛋白(Mtb39とMtb32を遺伝子工学的にfusionさせて作製)等をカニクイザルに筋注し、ヒト型結核菌を経気道エアロゾル感染させ、予防ワクチン効果(生存率、血沈、体重、肺の病理)を解析した。サブユニットワクチンでin vitroでヒトの多剤耐性結核患者PBLを刺激し、T細胞免疫増強効果を解析した。[2]DNAワクチンの作製:Hsp65 DNA及びIL-12 DNA等を挿入した発現プラスミッドを作製した。さらに、HVJ-liposome にHsp65 DNAを組み込み、世界に先駆けてこのベクターを用いてワクチン効果を解析した。H37RV 5×105 i.v 感染Balb/c マウスに予防・治療投与した。[3]リコンビナントBCGワクチンの作製:MDP1 DNA等をPNN2シャトルベクターに挿入し、BCG東京株に導入した。[4]難治性結核患者及び、薬剤耐性結核患者、末梢血キラーT granulysin発現の解析:抗granulysin抗体を用いたFACS解析を行った。[5]ツベルクリン反応に代わる結核感染特異的診断法の開発:米国Corixa研究所S. Gillis Dr, S. Reed Drと共同研究を行い、極めて結核感染に特異性の高い、ツ反に代わるDPPD蛋白を用いた解析を行った。
結果と考察
[1]72f Fusion蛋白のサブユニットワクチンがカニクイザル(cynomolgus monkey)のレベルでBCGよりも有効であることを明らかにし、ヒトの系でも72fを用いて免疫応答の解析が進められ、結核ワクチンで世界の最先端の研究で、しかもヒトへの臨床応用が最も近い、新しい結核ワクチンの開発に成功した。(S.Reed. S.Gillis) クローニングに成功した。( J. I 2001, J. Exp. Med 2000, Inf and Immunity 2001,J.Clin Micro.2001 Mtb8.4, Mtb11, Mtb41, Mtb48, Mtb9.9, Mtb16, Mtb40, Mtb81等)さらに、サブユニットワクチン72f-85b fusion蛋白はマウスのレベルで72fよりも強力に結核免疫を増強した。[2]DNAワクチン:①HVJ-liposomeをベクターに用いた場合Hsp65DNA単独(HVJ-liposome/Hsp65)でBCGよりも有効であることをマウスの系(H37RV 投与)で明らかにした。②IL-12 DNA + Hsp65 DNAのワクチンは相乗効果を示し、gene gun投与によりBCGよりも強力な結核予防ワクチンであることを明らかにした。[3]リコンビナントBCGワクチン:MDP1リコンビナントBCG単独及びBA51 ( Ag85A+Ag85B+MPB51 )リコンビナントBCGは等のワクチンをマウスの結核感染(気道感染及びi・v感染)の系で解析した。[4]さらにMtb72fリコンビナントBCGを作製した。[5]我々が世界に先駆けて開発したSCID-PBL/huの系で結核患者リンパ球をSCIDマウスに生着させ、ESAT-6蛋白ペプチドをSCID-PBL/huに免疫し、ESAT-6に特異的ヒトキラーT細胞の分化誘
導を示す画期的な、結核菌に対する生体内ヒト免疫解析モデルを開発した。さらにヒトT細胞の生着が極めて良いIL-2Rγ鎖ノックアウトNOD-SCIDマウスの作製に成功した。[6]ツ反に用いられるPPDは多種の蛋白を含む。この中より、結核感染に極めて特異性の高い、ツ反に代わる蛋白DPPDのアミノ酸配列及び遺伝子クローニングに成功した。ヒトで結核感染特異性を示すことをin vivoすなわちskin testで明らかにした。
[7]多剤耐性結核患者PBLのキラーT、NKでのgranulysin発現の著明な低下を明らかにした。すなわち新しい結核予後診断法を確立した。[8]BCG接種が大人の結核予防に有効か否かの解析:近畿中央病院など近畿地区の1国立施設において新採用若年看護婦と付属看護学校新入生にツ反を行った。陰性者を無作為に二分しBCG接種を行った。
結論
〔1〕72f Fusion蛋白のサブユニットワクチンがカニクイザル(cynomolgus monkey)のレベルではるかにBCGよりも有効であることを明らかにし、ヒトの系でも72fを用いて免疫応答の解析が進められ、ヒトへの臨床応用が最も近い、新しい結核ワクチンの開発に成功した。さらに72fよりも強力な72f-85b fusion蛋白ワクチンの作製に成功した。〔2〕DNAワクチン:HVJ-liposomeをベクターに用いた場合Hsp65DNA単独(HVJ-liposome/Hsp65)でBCGよりも有効であることをマウスの系で明らかにした。
①IL-12 DNA + Hsp65 DNAのワクチンは相乗効果を示し、BCGワクチンよりも100倍強力な結核予防ワクチンであることを明らかにした。②アデノウイルスベクターに導入したIL-6関連遺伝子(IL-6 gene+IL-6レセプター gene+gp130 gene)やγ-IFN DNAでBCGよりも強力な治療ワクチン及び予防ワクチン効果を示した。〔3〕リコンビナントBCGワクチン: ( Ag85A+Ag85B+MPB51 )リコンビナントBCGはBCGよりも強力なワクチンであることを示した。リコンビナントBCG MDP1はBCGよりも強力な結核ワクチン効果をマウス結核感染の系で発揮することを明らかにした。④Mtb72f DNAをBCGに導入しリコンビナント72f BCGを作製した。これはBA51rBCGと同程度かそれ以上のT細胞免疫増強効果を示した。これらの[1][2][3]のワクチン効果は結核菌に対するキラーT細胞の分化誘導を介して発揮されることを示した。また、IL-2 rBCG, IL-6 rBCG, IL-18 rBCG、γ-IFN rBCG, IL-12 rBCG, Hsp65 rBCG, MDP1rBCGの作製に成功した。毒力geneを欠失したBCG菌の作製に成功した。[4]リコンビナントBCG(HSP65)でprimingしHVJ-liposome/Hsp65 DNAでboosterをするpriming booster法は強力な結核予防ワクチン効果を示した。〔5〕上記の種々のサブユニットワクチン(72f, Mtb39, Mtb32, Mtb8.4, Mtb11, Mtb41, Mtb9.9, Mtb16, Mtb40, 31f, 71f)で刺激し、ヒトの多剤耐性結核患者PBLやT細胞免疫能(γ-IFN産生能やT細胞増殖能)が増強することをin vitroで明らかにした。
6〕我々が世界に先駆けて開発したSCID-PBL/huの系で結核患者リンパ球をSCIDマウスに生着させ、ESAT-6に特異的なヒトキラーT細胞の分化誘導を示す画期的な、結核菌に対する生体内ヒトT細胞免疫解析モデルを開発した。〔7〕結核感染に極めて特異性の高い、ツ反に代わる蛋白DPPDのアミノ酸配列及び遺伝子クローニングに成功した。リコンビナントDPPD蛋白は結核感染に特異的で、BCG接種群には反応しないことがモルモット及びヒト(in vitro)明らかにした。〔8〕耐性結核患者PBLのキラーT、NKでのgranulysin発現の著明な低下を明らかにした。すなわち新しい結核予後診断法を確立した。すなわちヒト結核においてgranulysin分泌キラーT細胞が極めて重要な働きをしていることを明らかにした。

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