ハンセン病感染の実態把握及びその予防(後遺症の予防も含む。)・診断・治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200100720A
報告書区分
総括
研究課題名
ハンセン病感染の実態把握及びその予防(後遺症の予防も含む。)・診断・治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 正典(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎元昭(兵庫県立尼崎病院)
  • 中田 登(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
  • 儀同政一(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
  • 牧野正彦(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
  • 後藤正道(鹿児島大学医学部病理学第2講座)
  • 遠藤真澄(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
  • 畑野研太郎(国立療養所邑久光明園)
  • 岩田 誠(東京女子医科大学脳神経センター)
  • 松尾英一(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
  • 長尾栄治(国立療養所大島青松園)
  • 石井則久(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
  • 大山秀樹(埼玉医科大学医学部免疫学講座)
  • 前田伸司(大阪市立大学大学院医学研究科感染防御学)
  • 酒井シヅ(順天堂大学医学部医史学研究室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、ハンセン病は国内では新規の年間患者発生は15名前後となり、公衆衛生上ほとんど問題とはなっていないものの、療養者の中には再発が見られること、薬剤耐性菌が疑われる難治例の存在、後遺症としての神経障害、治癒後の再燃、高齢者の発症、在日外国人での新患例が国内のハンセン病対策上問題となっている。また国外においてはWHOによる多剤併用療法による制圧対策にも拘らず、新規患者発生数には減少がみられず、世界で70万人前後の新たな発生を見ている。感染症であるハンセン病に対する対策は、原因菌であるらい菌及び宿主の面からの研究、疫学的解析などを総合した方策が必要である。
本研究は一層の効果的ハンセン病対策の確立のために、難治例・再燃と耐性菌、免疫療法の開発、神経障害の実態調査、その発生機序の解明、新患および再燃の実態把握、感染源ならびに感染経路を解明するための分子生物学的手法の開発、過去の症例のデータ整理、病型進展の免疫学的解析、抗菌剤の標的となり得る代謝機構の解明を目的として行われた。また今年度はハンセン病違憲国賠訴訟解決を受け、ハンセン病政策の歴史的検証を行うことが新たに加えられた。
研究方法
再燃・難治例のらい菌の薬剤感受性が検討された。新規抗らい菌薬剤の検索が行われた。免疫刺激療法の開発に向け、らい菌成分中の免疫賦活作用を有する画分について検討した。神経障害発生機序の解析を病理学的、細胞学的、臨床的に行った。過去の治療と再発率の関係について国内、および国外の流行地を対象に解析を行った。ハンセン病政策の効果を評価する指標についてミャンマー国での実績を用いて検討した。新患者および剖検例についてデータの整理、データベース化を図った。感染経路の解析に資する手段の開発と、異なる遺伝子タイプのらい菌の流行地における分布を調べた。ハンセン病の病型成立過程の免疫遺伝学的解析を行った。抗酸菌特異代謝経路について検討した。研究の実施に際しては患者ならびに材料提供者のプライバシーを尊重し、調査結果から個人が特定されぬよう、また個人情報が流失しないよいう注意するとともに、材料を得るに際しては、その目的を説明した上で、対象者の同意が得られた場合にのみ提供をうけた。動物実験の実施に際しては法の定めを遵守して行うとともに、各施設の規定に従った。
結果と考察
昨年に引き続き、薬剤耐性の発生が遺伝子変異検査で確認された。再燃・難治例では半数以上がDDSあるいはリファンピシンに対し、単独あるいは同時耐性を示し、これらの症例に対する治療は有効薬剤の選択に注意しなければならないことが示された。また、国内では多くの患者が単剤による治療を受け、それらは多剤併用療法を受けた場合より再発率が高いことから、再燃および薬剤耐性の問題は日本のハンセン病政策上特に重要なことと思われた。らい菌の場合薬剤耐性菌の早期発見は遺伝子変異の検出が最適であるが、DDS耐性に関与する可能性のある新たな変異が見出されたことから、正確な簡易的検査法の開発のためには、変異とマウスを用いた感受性検査による耐性の相関性について更なる基礎データの蓄積が必要である。これとあわせて新規抗らい菌化学療法剤、取分けこれまでの化学療法剤とは作用点を異にする薬剤の開発が望まれる。その点今年度検討された4薬剤は今後の臨床への応用が期待される。PSS遺伝子が抗酸菌の増殖に重要な働きをしていることが示唆されたが、このような抗酸菌に特異的な代謝点を検索することによって、今まで用いられている抗微生物薬とは異なる作用機序の薬物開発につながる可能性がある。ハンセン病の発症を阻止するワクチンはこれまでに確立されておらず、早急な対応が望まれているが、らい菌の細胞膜にTh1タイプCD4陽性T細胞・Tc1タイプCD8陽性T細胞の活性化を誘導する分子が存在することが判明した。抗酸菌に対するワクチンを考える際に有用な知見と思われる。Silent NeuropathyあるいはQuiet Nerve Paralysisの発生機序、T型ハンセン病における神経炎の発生機序について病理学的、細胞生理学的解析を行いそのそれぞれの発生過程と思われる所見が得られた。ハンセン病の神経障害は後遺症の中でも深刻かつ多く見られることから早急な解決が望まれる。原因の解明とその予防に向けた検討が一層推進されなければならない。新患の障害率と診断年齢を組み合わせる事が簡単でありながらより的確に地域の流行状況を表す指標を算出できる可能性があるものと思われる所見がミャンマーにおける調査結果から明らかとなった。今後その有用性について検証する。ハンセン病の動向調査の継続は日本におけるハンセン病の将来、施策を決定する上での基本になるものである。在日日系ブラジル人において毎年新規患者として多数登録されていることからブラジル国内の現
況を調査し、今後の外国人患者の動向を予測すべきである。日本における将来の労働力の不足が予想され、外国人患者の増加の予測をする必要がある。新患発生状況、過去の剖検例に関する情報を整理し、情報を共有できる形で公開できるよう進めている。らい菌のrpoT型の南米における分布はこれらの地域に分布するらい菌の由来の歴史が異なることを示唆した。同一住家屋に居住する住民のらい菌TTC型は同一ではなかったことから、ハンセン病の感染様式は家族内感染が主たるものではなく、それ以外の感染が多いことの可能性が想定された。本邦における近代的なハンセン病対策が始まった時期は、我が国の政治体制が中央集権化して、同時に急激に西洋化、近代化が進められた時に一致した。その結果、ハンセン病患者の社会的地位も激変した。なぜ、日本のハンセン病対策が他国に比べて特殊性を帯びて始まったかについて明らかにするための問題提起を行った。これらを科学的に研究することで、ハンセン病の法制定過程、実施においての過ち等の諸問題について真相究明に近づくことを目指す。今後、得られた知見を共有し、統合を図り、ハンセン病対策に生かすことが必要と考えられる。
結論
再発・難治例の場合、薬剤耐性菌がその原因となっていることが示され、今後の耐性菌の発生動向及びその適切な治療について注意を要することが示された。国内の新患例については外国人の発生について注意を向ける必要がある。新たな薬剤の抗らい菌効果が明らかになり、新規薬剤の標的となりうる代謝作用が見出された。ハンセン病の宿主免疫機構について解析が行われ、今後の免疫療法開発に向けて基礎的情報が得られた。過去のハンセン病政策について検討され、わが国の特殊性を帯びた政策が採られた過程を明らかにすることが提起された。

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