髄膜炎菌性髄膜炎の発生動向調査及び検出方法の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100718A
報告書区分
総括
研究課題名
髄膜炎菌性髄膜炎の発生動向調査及び検出方法の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
山井 志朗(神奈川県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 渡邉治雄(国立感染症研究所)
  • 中島秀喜(聖マリアンナ医科大学)
  • 井上博雄(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 永武毅(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 相楽裕子(横浜市立市民病院)
  • 春田恒和(神戸市立中央市民病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
髄膜炎菌感染症の発生を迅速に把握するための検査法の検討と普及を行い、流行の発生と耐性菌出現に対する監視体制を確立して、より正確な情報の収集を目指す。さらに、わが国における患者の発生とその病態、健康保菌者の実態の把握並びに分離される菌の疫学マーカーや病原性等の性状を解析することにより、これまでに得られなかった髄膜炎菌性髄膜炎に関する基礎的データを蓄積して、流行発生の可能性やワクチン導入の必要性を探ることを目的としている。
研究方法
1)保菌者調査(健康保菌者調査):11地方衛生研究所が参加して調査を実施した。小児から高年齢層までの幅広い年齢層に調査の対象を広げて実施した。2)保菌者調査(呼吸器感染症患者保菌者調査):2地方衛生研究所では医療機関を受診した呼吸器感染症患者の鼻咽頭検体から髄膜炎菌の分離を試みた。3)病態の分布等に関するアンケート調査:患者の病態、病型の発生状況や分布を調査する目的で、2,257医療機関に対し、細菌性髄膜炎患者および髄膜炎菌の検出状況をアンケートにより調査し、集計を行った。4)髄膜炎菌感染症発生の要因に関する解析:患者由来株と家族由来株を比較して患者発生と家族の菌保有との関係を調べた。5)MLST法を用いた網羅的な分子疫学的分類:髄膜炎菌の疫学マーカーのうち、Multilocus Sequence Typing (MLST)に重点をおいて保存菌株の解析を行った。6)髄膜炎菌の薬剤感受性に関する検討:髄膜炎菌の薬剤感受性値を血清群別や検出年代別等に比較し、さらに髄膜炎菌感染症患者に対する抗生物質による治療法の検討を行った。7)髄膜炎菌の分類・鑑別に関する研究:髄膜炎菌の分類あるいは鑑別に重要な?-glutamyl aminopeptidaseの変異を有する菌株の存在を調べた。8)髄膜炎菌の国際間比較:髄膜炎菌サーベイランス事業の共同研究拠点を確立した。
結果と考察
1)保菌者調査(健康保菌者調査):総数2,623名(男性847名、女性1,392名、不明384名)のうち13名(0.5%)から検出された。集団により保有率が異なり、最も高い集団では約5%であった。2)保菌者調査(呼吸器感染症患者保菌者調査):内科あるいは小児科を受診した2,211名の検体のうち1名から検出された。3)アンケート調査:2,257施設のうち627施設より回答があり、273施設が過去10年間に細菌性髄膜炎症例を経験していた。病態の症例数は髄膜炎:呼吸器疾患:敗血症・DIC:その他が84:3:15:3であった。4)髄膜炎菌感染症発生の要因に関する解析:菌株が保存されている髄膜炎菌感染症89症例のうち15症例から患者家族由来株が保存され、9症例で患者由来株と家族由来株が同一であった。5)MLST法を用いた網羅的な分子疫学的分類:髄膜炎菌のMLSTのためのPCRの条件を検討し、シークエンスに供与可能な精度の一本の明瞭な鋳型DNAの合成を可能にした。6)髄膜炎菌の薬剤感受性に関する検討:PCG、ABPC、CEZおよびEMに対して感受性が低下しており、TCでは耐性株が見出された。第3世代セフェム系薬やニューキノロン剤およびRFPに対しては感受性が高かった。以上のことからペニシリン系薬は第1選択薬として使用できるが、必要に応じて第3世代セフェム系薬が使用できるとした。7)髄膜炎菌の分類・鑑別に関する研究:保存菌株230株中4株において?-glutamyl aminopeptidaseの活性が検出されなかった。8)髄膜炎菌の国際間比較:バングラディッシュにおいて小児髄膜炎の実態、抗菌化学療法等について報告した。タイやベトナムでは菌株の収集を行った。トルコとウガンダでは検査態勢の整
備を行った。
結論
平成12年度から平成13年度にかけて、標準的な検査方法の設定とマニュアルの作成、地方衛生研究所への検査法の普及による検査態勢の確立、髄膜炎菌感染症の検査法並びに検査室レベルの診断法の検討、型別法の導入、分離菌株の薬剤感受性測定、患者の病態の分布の把握、保菌者の実態の把握を行った。
健康者における保菌率は非常に低かったが、特定の集団において髄膜炎菌の保有率が高いことがあり、髄膜炎菌感染症の伝播にこのような集団が関与していることがあるものことを窺わせた。また、患者家族から患者由来株と同一の株が分離される症例が多いことが明らかとなった。これは髄膜炎菌の保有率が高い集団が存在し、あるいは患者家族は原因菌を保有している可能性が高いことが患者発生に何らかの関連性があることを示唆している。
地方衛生研究所は感染症の原因病原体の疫学的解析を業務とし、調査研究機関、レファレンス機関および研修機関としての役割を果たしており、検査態勢の確立は髄膜炎菌感染症発生の監視を強化するには不可欠である。監視態勢や情報収集態勢は、今後の髄膜炎菌感染症の発生の実態の把握や予防対策等の策定のために中・長期的に維持・継続されなければならない。
MLSTにより分離菌株を解析して流行株等の存在を把握することで、海外からの流行株の持ち込みや国内に既に存在している流行株による流行の発生を迅速に把握することができる。そのためにも、臨床分離株や健康保菌者由来株の解析を行って流行株の分離状況や由来による型の違い等を解析し、流行の把握や予測を継続的に実施することが強く望まれる。
今年度の研究成果から次のような課題が生じた。すなわち、1)髄膜炎菌感染症患者の病態の分布と髄膜炎菌性髄膜炎の報告基準、2)ワクチン導入の検討に必要な監視態勢の組織と機能、導入を決定するためのクライテリアの設定である。これらの課題について、来年度に詳細な検討を行う予定である。

公開日・更新日

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