劇症型レンサ球菌感染症の病態解明及び治療法の確立に関する研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100717A
報告書区分
総括
研究課題名
劇症型レンサ球菌感染症の病態解明及び治療法の確立に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
浜田 茂幸(大阪大学大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大国寿士(メデカ・ジャパン総合研究所)
  • 内山竹彦(東京女子医科大学)
  • 渡辺治雄(国立感染症研究所)
  • 太田美智男(名古屋大学大学院医学研究科)
  • 赤池孝章(熊本大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A 群レンサ球菌 (GAS) は、近年、劇症型 A 群レンサ球菌感染症 (TSLS) の起因菌として注目を集めている。TSLS は GAS による重度の敗血症、DIC 様の病態を特徴とし、病態の進行が急激で死亡率も高いため、有効な治療法や予防法の確立が求められている。これまでの研究によって GAS には数多くの病原因子が存在すると示唆されているが、TSLS 発症の機序は不明な点が多い。本研究ではTSLS 患者分離株及び対照分離株(咽頭炎患者分離株や実験室株)を用いて、1) GAS ゲノムデータベースの情報や分子疫学的・分子遺伝学的な手法による病原遺伝子の検索、2) 産生タンパク質のプロテオーム解析による未知の病原因子の同定、3) 菌体成分の病態成立における作用機序の同定、を行い、TSLS の発症メカニズムに基づいた適切な治療法・予防法の開発を目的とする。
研究方法
M1 型 GAS ゲノムデータベースの塩基配列より、グラム陽性菌の菌体表層タンパクに共通のモチーフを有する遺伝子を検索し、 fbp 及び lbp を得た。さらにリコンビナント Fba 及び Lbp (rFba とrLbp) を作製し、rFba ないし rLbp をウサギに免疫して抗血清を作製した。また、BALB/c マウスにrFbaを皮下投与したのちGAS を感染させ、感染後のマウス生存率を検討した。血管透過性試験は、モルモットの皮下に rSPE-B/SCP を投与し、さらに 1% Evans Blue を静注し、 Evans Blue の血管からの漏出を観察した。ヒトのマスト細胞腫である HMC-1 の浮遊液に各種濃度の rSPE-B/SCP を刺激し、その培養上清中のヒスタミン濃度を ELISA 法により定量した。またHMC-1 からの rSPE-B/SCP による脱顆粒現象は、0.05 % toruidine blue (pH 5.5) による染色により観察した。rSPE-B/SCPのヒト単球様 U937 細胞へのアポトーシス誘導を、エチジウムブロミド/アクリジンオレンジによる染色、及びアネキシン V-FITC とヨウ化プロピディウムを用いたフローサイトメトリーにより検討した。また、マウスにインフルエンザウイルス ( H2N2 熊本株および H3N2 愛知株 ) を経鼻感染し、その 36 時間後にTSLS 由来の GAS 臨床分離株 SSI-1 を経鼻的に感染することによって TSLS マウスモデルを作製した。さらにこの実験系を用いて、誘導型 NO 合成酵素 (iNOS) 欠損マウスと野生型マウスでの生存率、体重変化、及び両病原体の肺内増殖について解析した。1990 年代に分離された咽頭炎患者分離株及び TSLS 患者分離株を Sma1 で染色体 DNA を消化した後、パルスフィールド電気泳動をおこなった。また、S. pyogenes NIH1 株のゲノム DNA のライブラリーを作製し、K23 株のゲノム DNA 断片およびNIH1 株のゲノム DNA 断片をプローブとしてプラークハイブリダイゼーションを行った。劇症型A 群レンサ球菌感染症発症に関するアンケートを、全国約 3000 の救急指定、あるいは特定疾患指定病院に対して行い、平成 12 年度における TSLS の有無と、性別、生死、臨床症状、治療方法などを調査した。C 群レンサ球菌からの新規スーパー抗原の同定は、Streptococcus dysgalactiae 分離株の培養上清からヒト T 細胞の細胞分裂とインターロイキン2 (IL-2) を産生するタンパクを精製し、その遺伝子クローニングを行い、そのアミノ酸配列を解析することにより検討した。
結果と考察
GAS ゲノムデータベースから菌体表層タンパクに固有のモチーフを検索することにより、新規菌体表層タンパク Fba (LPXTG モチーフを C 末端に有する) および Lbp XXGC モチーフを
N 末端に有する) を同定した。rLbp がLm と結合すること、rFbaが繰り返し領域を介して Fn と結合することが示された。さらにrFba をマウスに免疫することで血清中の Fba 特異的抗体価の上昇が認められ、このマウスにおける致死量の GAS感染に対する高い感染防御効果を示した。このことは、GAS の感染初期に働く Fn 結合タンパク Fba は将来のワクチンとしての可能性を有することを示唆するものであり、ゲノムデータベースを使用することによって新規の病原因子を見出すことが可能であることを実証するものである。rSPE-B/SCP は強いシステインプロテアーゼ活性を示し、モルモット皮膚毛細血管透過性亢進作用においても rSPE-B/SCP は強い活性を示し、この活性はプロテアーゼ阻害剤や抗ヒスタミン剤ででの前処理によって抑制された。さらに、ヒトマスト細胞腫から樹立された HMC-1 にrSPE-B/SCP を添加すると、濃度依存的にヒスタミンが遊離され、形態学的な脱顆粒が観察された。またSPE-B プロテアーゼによる c-IAP1 発現の抑制を介して相対的な caspase 活性の上昇がもたらされることにより、アポトーシスが誘導される全く新しい可能性が示唆された。以上の結果から、SPE-Bが透過性亢進作用のみならず、アポトーシス誘導をも引き出すことを明らかにしたものである。また、インフルエンザウイルスとの混合感染によってマウスに劇症型 A 群レンサ球菌感染症を発症させることに成功した。このことは、劇症型感染症に関与するビルレンス因子の同定及びそのメカニズム解明に非常に有効なツールに成り得ることが期待される。さらにiNOS 欠損マウスでは野生型マウスと比較して敗血症病態が著明に憎悪したことから、GAS 劇症感染においても NO が重要な感染防御作用を有していることが示された。M3 型 TSLS 由来株の新規病原遺伝子の解析を行ったところ、1990 年代の菌株には、新たに attL-attR にはさまれる 41,796 bp からなる DNA 断片が挿入されており、多くの ORF はファージ由来遺伝子と相同性をもっていた。またこの領域の一端に発熱毒素である SPE-C と 48%、SMEZ-2 と 46% 相同性のある ORF (speL) が存在していた。speL は、スーパー抗原間で保存されているアミノ酸残基を保有し、検討した全ての 1990 年代に分離された M3 株に存在することが判明した。現在、speL と劇症型感染症発症との関連を検討している。
TSLS 全国アンケートの結果、全国で 33人の発症を認め、そのうち、11人 (33%) が死亡症例であった。また、血圧低下、腎障害、凝固障害、肝障害、ARDS、中枢神経症状が死亡例で生存例に比して高頻度に認められた。治療法については、ペニシリン系抗生物質とクリンダマイシンを使用した施設が多く、治療方法がいまだに試行錯誤的である実態が浮彫りとなった。
新たにC 群レンサ球菌より産生される新規スーパー抗原 SDM が同定された。この結果は、A 群以外のレンサ球菌感染によってもスーパー抗原などの病原因子の作用により劇症型感染症を引き起こす可能性があることを示すものであり、さらなる検討が必要である。
結論
GAS ゲノムデータベースから新規のタンパクを同定し、これらが GAS の細胞への付着・侵入に関わるビルレンス因子であると同時にA 群レンサ球菌感染に対する防御抗原の可能性が示された。SPE-B の血管透過性およびアポトーシス誘導のメカニズムの一端が解明された。また、マウスでの劇症型 A 群レンサ球菌感染症発症モデルが作出され、今後の感染症発症のメカニズムの解明が期待される。また、劇症型感染症発症のアンケート調査がスタートし、データベース作成に向けた活動が着手された。

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