輸入動物が媒介する動物由来感染症の実態把握及び防御対策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100712A
報告書区分
総括
研究課題名
輸入動物が媒介する動物由来感染症の実態把握及び防御対策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 泰弘(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 田中義枝(成田空港検疫所)
  • 内田幸憲(神戸検疫所)
  • 神山恒夫(国立感染研)
  • 本藤良(日獣大)
  • 宇根有美(麻布大)
  • 森川茂(国立感染研)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国際的に感染症の発生が増加する傾向がみられ、各国ともその防疫体制の確立に努力している。動物由来感染症に関しては、わが国ではエキゾチックアニマルなどが無検疫で輸入されており、危機管理対応の難しさが懸念されている。平成12年感染症法の改正に伴いサル類のエボラ出血熱、マールブルグ病を対象とした検疫並びに猫、キツネ、アライグマ、スカンクを対象にした狂犬病の法定検疫が開始された。また本研究班の輸入動物調査結果を受けて平成13年からは、財務省が貿易税関統計に12種類の哺乳類を新たに組み込むことになり、リアルタイムで動物輸入実態を把握することが出来るようになった。本研究班では、輸入動物由来感染症について基盤研究を行うとともに、将来の行政対応を考慮し、実態調査を行い、動物由来感染症のリスク評価、防御のため診断・予防システムの確立をはかるべく研究を進めている。
研究方法
①これまで、わが国では動物由来感染症を対象とする教育・研究が十分なされてこなかったため、この分野の感染症に関する研究・情報ネットワークが欠落していた。「サル類の疾病と病理の研究会」を組織した。また平成13年には「ヒトと動物の共通感染症研究会」を発足させ、14年には「爬虫類・両性類の疾病」に関する研究会を組織して、この分野の感染症の流行調査と情報収集を行う。 ②疫学、調査研究:1)輸入動物の国内流通経路に関して動物輸入業者協議会へのアンケート調査を行った。またより詳細な輸入動物記録の収集が可能になるよう、通関業者用登録プログラムソフトの開発を試みた。4類の動物由来感染症について解析した。2)昨年に引き続き腎透析患者の調査数を増やしHFRS,LCM 抗体価測定及びアンケート調査を行った。3)愛玩用リスザルのトキソプラズマ感染経路を明らかにするための疫学調査を行い、また新世界ザルのトキソプラズマに対する感受性と水平伝播の可能性を検討するため感染実験を行った。リスザルコロニーで集団発生した髄膜炎・咽頭炎の原因究明、及び他の群で流行のみられた壊死性胸膜肺炎の病原体について分離とマウスへの感染実験を行った。 ③基盤研究:1)Bウイルス感染のDNA診断と分子疫学研究を進めた。Bウイルス抗体陽性のカニクイザル2群(10頭及び20頭)の三叉神経節について、Bウイルスゲノムの検出とその遺伝子解析を進めた。2)クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の流行地である中国新疆自治区から1966~88年の間に分離されたCCHFVのM-RNAの遺伝子配列を決定し比較検討した。3)狂犬病生ウイルスを使用しない診断・検査法の開発を試みた。ホルマリン材料で病理検索が行われる状況に対応できるよう、狂犬病ウイルスのリコンビナント核蛋白で作出した抗体を使用する免疫組織抗体法を検討した。4)オオコウモリミトコンドリアDNA塩基配列を決定し系統樹作成を行った。また抗オオコウモリIgG抗体を作成し、他動物種とのIgGエピトープの交差反応性を検討した。
結果と考察
①「サル類の疾病と病理の研究会」は会員150名を超え、年2回のワークショップを開催している。収集されたデータをもとに、病理・臨床アトラスを刊行する予定である。「ヒトと動物の共通感染症研究会」は昨年11月に第1回講演会を開催した(会員約200名)。HPと会報を発行した。「爬虫類・両性類の疾病」に関する研究会は14年秋に発足する。 ②疫学、調査研究:1)輸入動物の調査と国内流通経路。動物輸入業者協議会へのアンケート調査を行った。その結果貿易統計との差がある動物種(翼手目など)が有ること、輸入動物の多
くが野生由来であることが明らかになった。簡便な通関業者用登録プログラムソフトの開発を進めた。また4類の動物由来感染症の個別票解析の結果、発生の地理情報、感染源である動物・ベクターの病原体サーベイランスを確立することが必要と思われた。2)全国港湾地域のネズミ族にHFRSウイルス感染が継続的に発生していることが本研究班の調査で明らかにされたので、人への感染実態を検証するため腎透析患者の血清抗体検査及びアンケート調査を行った。大阪府、兵庫県、岡山県、広島県の8病院、530名から協力が得られた。腎透析患者の居住・勤務地とネズミ族のHFRSウイルス抗体陽性地域は強い関連性がみられ、発生時期も近似しているものと思われた。LCM 抗体は全員陰性であった。3)愛玩用リスザルのトキソプラズマ感染経路と感受性を検索した。リスザルは急性トキソプラズマ症を発症し致死的であり、水平感染の可能性を示唆する結果を得た。リスザルコロニーで集団発生した髄膜炎・咽頭炎がKlebsiella pneumoniaeによること、壊死性胸膜肺炎がPseudomonous alcaligenesによることを明らかにした。 ③基盤研究:1)Bウイルス感染のDNA診断と分子疫学研究を進めた。抗体陽性カニクイザル20頭の三叉神経節では、7頭(35%)の11検体(27.5%)から検出された。ゲノム解析では相同性は標準株と67%、ブタオザル由来株と73%、カニクイザル由来株と75-77%であった。2)クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の流行地である中国新疆自治区から1966~88年の間に分離されたCCHFVのM-RNAの遺伝子配列を決定し比較検討した。分子系統学的解析から7株は3つのグループに分類された。3)狂犬病生ウイルスを使用しない診断・検査法の開発を試みた。pQEベクターに挿入したN遺伝子(N9-5)のN末端は正しく組み込まれていた。作出したリコンビナントN蛋白のアミノ酸配列のホモロジーは、野外株で97.3%から98.7%、実験株で96.0から99.6%であった。His-NPで作出した特異抗体(ウサギ免疫血清)はホルマリン固定脳組織中の狂犬病ウイルス(CVS-11株)の核蛋白(N蛋白)と特異的に反応し、ウイルス抗原はいずれの場合も脳組織内の神経細胞に限局して観察された。今後の課題としては、狂犬病検査の主たる対象動物であるイヌなどの感染脳組織についての免疫組織化学的な検討と、国外から輸入されるであろう狂犬病ウイルスの野外株や狂犬病類似ウイルスに対する検査方法の検討が必要である。4)オオコウモリミトコンドリアDNA塩基配列を決定し系統樹作成を行った。大翼手亜目と小翼手亜目は別系統ではなく翼手目として単系統であると考えられた。IgGエピトープの交差反応性は他動物種では5から20%と低い値を示したが、大翼手亞目、小翼手亞目共に95%以上の高い値を示した。
結論
輸入動物が媒介する動物由来感染症の実態把握及び防御対策に関する研究を標榜する当研究班としては研究会などを組織し、輸入動物(主としてエキゾチックアニマル)に関する調査・研究のネットワーク形成と情報の収集・公開と並んで輸入動物国内流通経路の調査、新世界ザル・爬虫類の感染症調査、4類の動物由来感染症の解析、齧歯類由来感染症のうち重要なHFRS、LCM感染調査を腎透析患者を対象に進めることが出来た。更に基盤研究としてBウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルスの流行株解析、狂犬病野外株診断、翼手目免疫グロブリン解析をすすめた。これらの結果は次の感染症法の見直しに役立つことが期待される。

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