新型の薬剤耐性菌のレファレンス並びに耐性機構の解析及び迅速・簡便検出法に関する研究

文献情報

文献番号
200100709A
報告書区分
総括
研究課題名
新型の薬剤耐性菌のレファレンス並びに耐性機構の解析及び迅速・簡便検出法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
池 康嘉(群馬大学医学部 微生物学教室、同 薬剤耐性菌実験施設)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所 細菌・血液製剤部)
  • 井上松久(北里大学医学部 微生物学)
  • 生方公子((財)微生物化学研究所)
  • 山本友子(千葉大学薬学部 微生物薬品化学(微生物薬品化学教室))
  • 後藤直正(京都薬科大学薬学部 微生物学(微生物学教室))
  • 中江大治(東海大学医学部 分子生命科学(分子生命科学教室))
  • 堀田國元(国立感染症研究所 分析科学(生活活性物質部))
  • 山口恵三(東邦大学医学部 感染症学(微生物学教室))
  • 渡邊邦友(岐阜大学医学部 嫌気性細菌学(付属嫌気性菌実験施設))
  • 和田昭仁(国立感染症研究所 細菌学(細菌部))
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療現場で多くの抗生物質に効かない多剤薬剤耐性菌が重症院内感染原因菌として問題となってきている。それらの薬剤耐性菌の中でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、β-ラクタム剤耐性グラム陰性桿菌、多剤耐性緑膿菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)等、次々と出現した多剤耐性菌は、その感染症治療の困難さ、感染症治療及び防御対策に対する医療経済的負担の増大により深刻な問題となっている。現在では新薬の開発が手詰まり状態である。たとえ新薬が開発されても、一度広まった耐性菌による感染症は減少せず、その感染症治療の困難さと医療経済的負担の大きさは変わらない。薬剤耐性菌の防御対策は、国家的、世界的規模で取り組まなければならない時代となっている。薬剤耐性菌の増加と、拡散防止対策及びそれらによる院内感染防御対策には、①薬剤耐性菌の分離状況及び薬剤耐性菌感染症の調査、②薬剤耐性機構の基礎的研究と検出方法の開発、③薬剤耐性菌に対する新薬の開発及び防御に対する教育、の3つの行動が必要である。①の調査研究は厚生科学研究において、荒川班において行なわれており、本研究班は薬剤耐性機構の基礎的研究と検出方法の開発を目的としている。そして次々と出現する新しい薬剤耐性菌を解析し、その検出方法及びレファレンス化を目指して研究を行う。又、本研究班は荒川班の調査研究と連動し、お互い補強しあう形で遂行することを目的としている。平成13年度は本研究班の2年目の研究となり、厚生行政、医療現場(社会)で実際に活用できる成果を目指した。
研究方法
1. 薬剤耐性検査、NCCLS法に基づく寒天平板希釈方法及び微量液体方法を用いた(共通)
2. PCR法を用いた各種薬剤耐性遺伝子の解析と、新たな薬剤体制遺伝子の検出(共通)
3. 遺伝子塩基配列の決定(共通)
4. 薬剤耐性遺伝子のクローニングと遺伝子構造解析(共通)
5. 遺伝学的変異株の分離と遺伝子発現機構の解析(共通)
6. 免疫化学的方法を用いて、耐性発現蛋白の機能を解析(後藤)
結果と考察
メタロ-β-ラクタマーゼによるカルバペネム耐性の簡便な迅速検出方法の開発が早急に望まれていた。メタロ-β-ラクタマーゼ検出のために新規に開発されたメルカプト酢酸ナトリウム(キレート剤)を利用したディスク拡散法(荒川)は、臨床検査室で簡便に迅速にメタロ-β-ラクタマーゼを検出可能とした点で、非常に画期的で有用な方法である。
β-ラクタム剤耐性肺炎レンサ球菌及び、インフルエンザ菌の耐性機構の基礎的研究に基づき開発されたPCR法を用いたこれらの耐性菌の検出方法(生方)は、これらの菌の耐性機構をも検出可能とした方法である。
MRSA感染症治療には他薬剤との併用薬剤として、アミノ糖系抗生物質が使用されることがある。MRSAのアミノ糖系抗生物質耐性菌検出のために開発された各種アミノ糖不活化酵素検出用PCR法(堀田)は、黄色ブドウ球菌のコロニーからこれらの各種不活化酵素(耐性)を検出することが可能であり、臨床分離MRSAを用いた研究においてこの方法が有用であることが実証された。
耐性菌を検出する方法開発のための基礎的耐性機構の研究として、次のような研究が行われた。グラム陰性菌の高度β-ラクタム剤耐性の一つとして染色体性AmpC耐性遺伝子の調節遺伝子変異によるものがあること、あるいはメタロ-β-ラクタマーゼの多様性がその遺伝子変異によるものであることを明らかにした(井上)。緑膿菌は多くの薬剤に自然耐性である。各種薬剤に対する自然耐性機構の薬剤排出機構は、まだ充分解明されていない。薬剤排出機構発現のための調節機構(中江)、及び薬剤排出機構の蛋白の機能を解明した(後藤)。MRSAの、in vitroのグリコペプチド(テイコプラニン)低感受性菌の耐性機構を解明するための遺伝学的研究がなされた(和田)。
疫学的調査研究として、臨床分離各種細菌のキノロン耐性の分離頻度(山本)、臨床分離Fusobacterium nucleatumの各種抗菌剤に対する感受性(渡邉)の研究は、現在の耐性菌の疫学データーとして有用である。
各種のグラム陰性菌が生産するclassC型β-ラクタマーゼは、セフェム系薬剤cefcapeneにより不活化される(山口)研究結果は、セフェム系薬剤によるβ-ラクタマーゼ阻害剤の開発に有用である。
輸入鶏肉を介してVREが人に伝播することを制御する目的で、日本への鶏肉の主要輸出国であるタイの養鶏環境におけるVRE制御対策(共同研究)により、タイ養鶏環境及びタイの輸出用鶏肉のVRE検出率を顕著に減少させることができた(池)。
臨床分離MRSAのバンコマイシン低感受性に関する調査研究結果(池、荒川等)は2000年に既に厚生省には報告済みであるが、この問題が日本を含め世界的に臨床現場で現在でも混乱を生じている問題であり、厚生省に報告後、国際専門誌への投稿を目的として精細の研究解析を行い、その結果が本年度J. Clin. Microb(2001, 39(12), 4445-4451)に掲載されたものである。
結論
臨床現場で早急に簡便な迅速検出法が求められていた、カルバペネム耐性菌のメタロ-β-ラクタマーゼの検出法が開発され、実用化されたことは大きな成果である。また、PCR法を用いた肺レンサ球菌、及びインフルエンザ菌のβ-ラクタム剤耐性菌のPCR方法を用いた検出方法や、MRSAのアミノ糖系抗生物質耐性菌のPCR法を用いた検出方法は、迅速検出のために実用可能な方法である。タイ国養鶏環境及び輸出用鶏肉のVRE制御対策における制御効果は、我が国の輸入鶏肉のVRE汚染制御に影響するものであり、厚生行政に役立つ結果である。MRSAのバンコマイシン感受性の全国調査の結果が国際専門誌へ掲載されたことは、日本発のこの問題に対する日本からの問題提起と批評論文であり、世界の臨床現場にこの問題に対する評価の指標を与えるものである。その他の基礎的、疫学的研究も、今後検出方法開発に向けて必要な研究である。

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