プリオン病の診断技術の開発に関する研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100705A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病の診断技術の開発に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
品川 森一(帯広畜産大学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内基広(帯広畜産大学)
  • 北本哲之(東北大学)
  • 小野寺節(東京大学)
  • 毛利資郎(九州大学)
  • 高橋秀宗(国立感染症研究所)
  • 岡田義昭(国立感染症研究所)
  • 西島正弘(国立感染症研究所)
  • 菊池裕(国立医薬品食品研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液製剤、医薬品、畜産食品、生体材料を対象に免疫生化学的手段及びバイオアッセイによってプリオンの検出あるいは疾病に付随する蛋白を検出して診断・摘発する方法の改良と、高感度化及びと実用化を図り、プリオン病のヒトへあるいはヒト間の伝播、遷延を未然に防ぐことを目的とする。
研究方法
PrPScの免疫学的検出法:1)より良好な抗体を得るため、組換えPrP及び感染性プリオンによる免疫と、得られたmAbの性状解析を行った。2)検出系として、前年度に開発したサンドイッチELISAの系を用いて、試料調整法の検討等を行った。3)新たに免疫磁性ビーズELISAの開発及び免疫磁性ビーズを用いて、合成ペプチドとPrPScの競合からPrPSc定量法を検討した。5)また、ヒトPrPの標準品としてのヒト異常プリオン蛋白を得るため、培養細胞の培養条件を検討した。6)血液中のプリオン検出及び除去を目的として血液細胞表面に存在する、プリオンと相互作用する蛋白検出を標識PrPをプローブとして検出を行った。
バイオアッセイによるPrPScの検出:1)全ヒト型PrP遺伝子をノックインにより導入したマウスにヒトプリオンの感染を行い潜伏期の測定および細網リンパ系組織のプリオン沈着を経時的に検討した。2)シロオリックスPrP遺伝子発現トランスジェニックマウスから、交配により該遺伝子をPrn0/0マウスに移した。
非侵襲的なプリオン・バイオイメージング法の基礎研究:Congo・red関連化合物BSBをプローブ候補として、プリオン病発症マウスの脳切片上での結合、及び末梢投与による脳内の異常プリオン蛋白との結合を検討した。
その他:プリオン病発症脳内のPrPScとPrPCの測定:PrPScとPrPCの界面活性剤による溶解性の差を利用し、可溶性のPrPCを分別濾過し定量した。
結果と考察
抗体の作製と免疫学的検出:得られた抗組替えPrP 18mAb、抗未変性マウスPrPSc 15 mAbは認識エピトープの違う8群とPrPScの構造を認識する1つの合計9群に分けられた。ウエスタンブロット及びELISAで反応性の高い3つのmAbは検出系の感度向上に有用であることが判った。PrPScの構造を認識する抗体は新たな検出系の開発等に有用なことが予想される。免疫学的診断の高感度化を計るためにはより優れた抗体が必要であり、満足できるmAbが幾つか得られた。また、世界で第二番目ではあるがプリオンの構造を認識する抗体が得られ、将来の各種研究の有用な道具となると予想される。
我が国のBSEの確認検査にはウエスタンブロット法と免疫染色が併用されている。このため、緊急に迅速化と感度の向上が求められた。ウエスタンブロット法では主として試料調整法及びブロティングに付いて検討し8時間以内で終了しかつスクリーニング法の4倍程度高い感度が確保できた。免疫染色では主として固定法と染色法を検討し、成績に影響を与えることなく、積算時間で11無いし12時間で終了可能となった。
サンドイッチELISAにmAb を用いることにより、遠心操作を省いて作製した被験試料を用いてもウエスタンブロット法の倍以上の感度が得られた。現在市販されているキットを凌駕する系が完成できたため、経済性のみならず、感度の点でも優れた国産のキットが用意できた。より操作が簡単な検出系として免疫磁性ビーズELISAを開発した。しかし、検出感度を高めるために、バックグランドを低下させるという課題が残った。競合ELISAにより、溶出したペプチドの定量からPrPScを定量できた。しかし、感度がおよそウエスタンブロット法と同等であるため、感度の向上が課題である。
ヒトのグリオブラストーマT98GをG1期に止めるとPrPSc様のPK抵抗性のPrPが蓄積することが判った。このことから、培養条件を替えることにより、PrPC及びPrPSc様のプリオン蛋白の標準品を得ることが可能となった。
血液中のプリオン検出を目的として、血液細胞の細胞表面に存在するプリオンと親和性を持つ蛋白の検出を試みたが成功しなかった。
非侵襲的なプリオン・バイオイメージング法の開発:Congo・red関連化合物BSBをプローブ候補として検討した。プラックタイプは成功したが、シナップスタイプの異常プリオンを検出できなかった。本法が完成するためには、さらに有効なプローブを検索する必要が有る。
バイオアッセイ:ヒトPrP遺伝子をノックインで導入したマウスはヒトプリオンに対し種の壁が無く、しかも野生型のマウスと同様に感染早期から細網リンパ系組織にプリオンが蓄積することが判った。シロオリックスPrP遺伝子を導入したマウスPrP遺伝子欠損マウスの繁殖が進み、感染試験ができる段階になった。バイオアッセイでは実験動物を用いた際の種の壁が感度と、潜伏期の延長に働き、障害となっていた。遺伝子改変マウスを作製することにより、ヒトプリオン病では種の壁が解消した。さらにノックインマウス作製により、細網リンパ系組織にPrPScが早期から蓄積するため、この検出を組み合わせることによりバイオアッセイの期間飛躍的に短縮可能となった。現在の所、シロオリックスPrP遺伝子導入マウスの感染試験が行われていないため、動物プリオン病の有用な遺伝子改変モデル動物が完成していない。
その他:スクレイピーマウスモデルでは発症したマウスの脳内のPrPC量が減少することが知られている。CJDの患者脳内のPrPCとPrPScの量的なことは未知であった。界面活性剤可溶性で濾過膜透過性を指標にPrPCを調べた所、PrPCの量が減少していることが判った。
結論
1)現在日本で行われているBSE検査に対応できるウエスタンブロット法及び免疫染色法の改良ができた。
2)実用に耐える国産のサンドイッチELISAキットが完成した。
3)ヒトプリオンの極く短時日で判定可能なバイオアッセイ系が完成した。動物プリオン病のバイオアッセイ系は完成していないため、早急に作製する必要が有る。
4)抗プリオン蛋白抗体の実用的なmAbが複数えられ、さらにプリオンの構造を認識するmAbも得られた。
5)非侵襲的なプリオン・バイオイメージング法の開発のために検討したプローブはプラックタイプは成功したが、シナップスタイプの異常プリオンを検出できなかったた。

公開日・更新日

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