性感染症の効果的な発生動向調査に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100704A
報告書区分
総括
研究課題名
性感染症の効果的な発生動向調査に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
熊本 悦明(札幌医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 塚本泰司(札幌医科大学)
  • 利部輝雄(岩手医科大学)
  • 赤座英之(筑波大学)
  • 簔輪眞澄(国立公衆衛生院)
  • 野口昌良(愛知医科大学)
  • 高杉 豊(大阪府健康福祉部)
  • 守殿貞夫(神戸大学)
  • 碓井 亞(広島大学)
  • 香川 征(徳島大学)
  • 内藤誠二(九州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①1998年度以来継続して本研究調査は、1997年は7県、1998年以後は8県、本年度から9モデル県における性感染症のセンチネル・サーベイランスを行って来ている。センチネル・サーベイランスはそれら県内の産婦人科・泌尿器科・皮膚科及び性病科を各年度内6月期と11月期に受診し、各種性感染症(梅毒・軟性下疳・淋菌感染症・尖圭コンジローム・性器ヘルペス・クラミジア感染症・非淋・非ク性性器炎・トリコモーナス症)の診断を受けた症例の調査報告を集積し、そのdataから各性感染症のわが国における10万人・年対罹患率を推定算出している。同時に推計感染症例数の推算を行っている。この様な性感染症疫学調査で最も求められている各種性感染症の10万人・年対罹患率は、今までのわが国での性感染症動向調査では算出されていなかった。そのためWHOによる国際的な性感染症統計からわが国のものが抜けていた訳で、この様な調査資料作成は現時点でのわが国にとって極めて公衆衛生学上重要な意義をもつものといえる。世界的に性感染症としてのエイズ/HIV感染の流行が注目されて、しかもアジア・中国での流行の波が二本に押し寄せようとしている訳で、そのHIV流行の広がるbaseには、各種性感染症の流行が追風となるとされ、その流行に乗ってエイズ/HIV感染が広がるとされている。そのため、国際的にエイズ/HIV感染予防対策のkey情報として従来の性感染症流行の実態を分析し、それを基に予防啓発活動を行っている。その様な国際的情報収集にわが国も対応するため、われわれの性感染症疫学調査は非常に重要な資料となっていると考えている。②昨年度は各地方より1モデル県ということで8モデル県調査を行って来たが、人口密集地区のdataも必要ということで、大阪府も参加する様になった。③継続して4年目の調査となるので、各性感染症の年次推移も一応検討可能となってきた。④われわれのdataから10才代の若者、ことに女子にSTDの流行の若いことが明らかになって来たことから、10才代男女のSTD感染率をより詳細に分析するため、1才刻みで本年度より分析すると共に、同じ“性の影"とされる10才代人工妊娠中絶率の1才刻みの推移とも比較した。
研究方法
9モデル県における性感染症のセンチネル・サーベイランスは、前述の様に6月期及び11月期にそれぞれの県下の協力医療施設を受診し、性感染症と診断された症例の報告を集積し、疫学的分析検討を行っている。その方法は1998年度以来、同じ方法を踏襲している。
結果と考察
①各種性感染症の10万人・年対罹患率。各種性感染症、それぞれの詳細の分析検討成績は、“日本性感染症学会誌、13(2): 147-167, 2002年"にまとめた熊本悦明他による〔日本における性感染症(STD)サーベイランス流行の実態調査;2001年度調査報告〕を参照されたい。②各地方1県選択により行っていた調査に、人口密集地域として大阪府が参加したが、全体としての罹患率には大差はなかった。ただ全体の傾向として、8県モデル集計では30歳代から40歳代にかけて罹患率が著しく低下していたが、人口密集地区の大阪府ではその下降度がやや緩やかであり、都会型の生活の中では、性感染症の広がりが15歳代~20歳代中心よりやや高齢にまで広がっていることが示唆されている。③全性感染症では感染症例の女/男比が1.1であるが、感染例の最も多い性器クラミジアではそれが1.8と、女性優位が著しくなっている。ことにそれを年齢別に女/男比とすると、15歳:5.
5、17歳:4.3、18歳:4.5、19歳:3.0、20~24歳2.6と、若年者では特に女性が優位傾向が顕著に高くなっている。④その診断されて報告された感染症例数が最も多い性器クラミジア感染症は無症候感染例が多く、それを考慮に入れると、報告例数をさらに女性で5倍、男性では2倍にしなければならないとされている(その無症候率は国際敵にもわが国のdataでも実証されている)。その推定計算を行ってみると、わが国における実際の性器クラミジア感染例は男性約19万4千人、女性91万1千人、計約110万人弱にも達することになる。⑤この性器クラミジアの罹患率を、感染率の極めて高い10才代に焦点を合わせて検討すると、15歳:1人/83人、16歳:1人/35人、17歳:1人/22人、18歳:1人/15人、19歳:1人/13人、20才:1人/14人、21歳:1人/14人、22歳:1人/16人、20~24歳平均:1人/16人、という成績になる。この値は別に検討している10歳女性の一般人口内screening成績とほぼ一致しており、如何に若年女性のひそかにクラミジア感染が浸透しているかがわかる。⑥なお、注目されることは、この10才代女性における性器クラミジア感染の急上昇カーブが、別に分析した10才代人工妊娠中絶率の急上昇カーブと極めて相似的なパターンを示している。この二つのdataは、10才代ことに15~18歳の高校生に2つの“性の影"が急速に濃くなることを明らかにしている。高校生における性教育の重要性が示唆されている。⑦なお、同じ条件で疫学調査した8モデル県の調査成績で、女性16~19歳、20~24歳、25~29歳における有症状性器クラミジアの10万人年対罹患率を、1999~2001年の年次的推移で検討すると、それぞれの年齢で1999年(862, 1271, 791)、2000年(968, 1256, 744)、2001年(986, 1330, 968)と増加傾向が明らかになっている。男性でも同様な増加が認められ、若い年代を中心に性器クラミジアが徐々に全体として増加しつつあることがわかる。⑧一方、淋菌感染症では逆に男子優位で男/女比は3.4である。しかも注目されるのは、男性優位が20歳以後の中年期でより目立つ様になる。すなわち20~24歳:2.4、25~29歳:3.9、30~34歳:5.4、35~39歳:7.7、40~49歳:9.8と急激に男/女比が高くなっている。
結論
我々の性感染症疫学調査により、各種性感染症へそれぞれの10万人年対罹患率を男女別・年齢別にかなり詳細に分析し得ることにより、種々な性感染症流行の実態が明らかになりつつある。ことに軽症化の著しい性器クラミジアが無症候感染例も含めて推計すると、全体で110万人にも達し、ことに10歳代後半から20歳代前半にかけての女性に1人/15人の感染例がいることが示されている。今や性感染症は特殊なdirty diseaseという概念とは全くかけ離れた一般人口内の性生活を持つ生殖年齢男女の“生活環境汚染的流行"を見せていることがわかる。わが国のHIV感染が性感染症化にしている現在、この様な性感染症宿主が通常より3~5倍も易感染性を高めることを考えると、性感染症はわが国の公衆衛生管理上の極めて重要な注目すべき感染症となっていると言って過言ではない。平成12年2月2日の厚生省告示第15号性感染症に関する特定感染症予防指針及び平成11年10月厚生省告示217号後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針に示されているように、性感染症及びHIV感染予防のためのコンドーム使用啓発キャンペーンをより忠実にまたさらに活発に行われねばならないことが強く示唆されているといえよう。

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