再興感染症としての結核対策確立のための研究

文献情報

文献番号
200100700A
報告書区分
総括
研究課題名
再興感染症としての結核対策確立のための研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
森 亨(財団法人結核予防会結核研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 森  隆(国療近畿中央病院)
  • 高鳥毛敏雄(大阪大学医学部)
  • 吉山 崇(結核予防会結核研究所)
  • 山岸文雄(国療千葉東病院)
  • 青木正和(結核予防会)
  • 山下武子(結核予防会結核研究所)
  • 高松 勇(大阪府立羽曳野病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は「結核緊急事態宣言」のあともなお増加・混迷を続けている結核問題に対して効果的に対応し、21世紀の早期に根絶を達成するための対策計画立案の基礎となる所見を得ることを目的として行われる総合的な研究である。以下のような7分担課題に分けて実施している。①社会経済弱者における結核対策の強化に関する研究:急増中の社会経済弱者結核の実態の把握とDOTSの普及方法を研究する。大阪・神戸地域での分子疫学的観察を行い、この階層での結核伝播の実態を調べる。②患者発見の向上に関する研究:選択的検診の実施に向けて、社会経済的リスク集団に対する健康診断体制の強化について検討する。血清診断に関する新たな方法の有効性を検討する。民間検査所での検査の信頼性を調査する。③結核治療の向上に関する研究:結核予防法の「適正医療」について実態調査を行い、化学療法以外の標準的診療(入院/外来治療、X線検査など)の方式、入院適応・施設の要件、さらに日本で未認可の抗結核薬や非結核性抗酸菌症治療薬剤についても有用性を検討する。④結核患者管理制度・発生動向調査事業の今後のあり方に関する研究:DOTS(地域及び院内)の導入・普及に関する検討を行う。発生動向調査の精度向上のための諸外国の方策を調査する。⑤BCG接種の精度管理に関する研究:乳幼児期接種の技術評価方式を施行し、副作用の発生状況に関するモニタリングを行い、予防接種や健康診断の改廃の立場から見た小中学生結核の予防可能性についての症例検討を行う。⑥国立病院・療養所呼吸器ネットワークを利用した多剤耐性結核に対する標準治療方式の確立に関する研究:日本の多剤耐性結核の大半を診療している標記施設の連携によって、患者のリスク要因の解析、化学療法および免疫療法の開発研究を行い、その適応決定にかかる患者免疫能の詳細な診断などの方式を開発し、これらを体系化して標準的方式を試行・策定する。
研究方法
①社会経済弱者:①社会経済弱者:大都市結核対策担当者の参加の下に、既実施の都市型DOTSの評価、未実施地域におけるDOTS導入の可能性の検討、および分子疫学的観察(大阪、神戸地区における問題地域の結核菌株の収集とそのRFLP分析)の実施。②患者発見の向上:現行検診成績の検討から現行検診の効率を評価、小規模事業所・無職者等の検診受診状況の調査、血清診断による結核感染の診断パフォーマンスの治験、病院における菌検査の信頼性の精度試験。③結核治療の向上:未承認抗結核薬の効果と使用状況に関する調査、化学予防のあり方に関して集団感染の二次発生患者について発病前ツベルクリン反応成績、化学予防有無について症例対照研究。④結核患者管理制度:院内DOTSに関する全国の実態調査を行う。発生動向調査に関する諸外国の制度を文献調査する。⑤予防接種の精度管理:地域における副反応モニタリング開始、小中学生結核症例に関する予防可能性についての症例検討。⑥国立病院・療養所呼吸器ネットワーク:多剤耐性例背景要因に関するフィールド調査、多剤耐性結核患者の免疫能に関する基礎的研究。
結果と考察
①社会経済弱者:貧困者の多い地域での結核患者のRFLP分析を大阪市(671株)、堺市(129株)で実施した。これらの地区の患者菌株のクラスター形成率から、貧困層での結核も一般と同様、最近の感染に引き続く発病が特に多くはない。いくつかの大都市において社会経済弱者の結核の発生状況とそれへの対策実施の上での問題点を分析した。例.飯場労働者のCT検
診(発見率4/398=1000/10万)、新宿区のホームレス患者のDOTS(過去2年で146人中73人に実施、成績は成功70%で、導入前の50%よりかなり改善)②患者発見の向上:最近承認された血清抗体検出システムMycoDot(抗体は菌細胞膜のリポアラビノマンナン)、TBGL(同糖脂質)について検討、特異度はそれぞれ93%、90%、感度は82%、73%でほぼ同様で、確定診断にはほど遠いものの、補助的診断に有用性がある。菌検査の精度管理の問題について、某病院の入院患者で入院前後で菌所見が不一致の例が40例あり、そのうち入院前塗抹陽性から入院後培養陰性が10例、同塗抹陽性→非定型抗酸菌2例、同核酸増幅法陽性→陰性3例などであった。③結核治療の向上:結核専門病院3施設における初回治療塗抹陽性患者へのPZAを含む第一優先の標準治療薬剤方式使用状況からみて、標準治療の順守状況はかなりばらつきが多い。治療期間が標準以上に延長される頻度にも施設間の差がかなりある。大きなリスク集団である糖尿病合併は某病院患者の19%(40~59歳では31%)にみられ、重症例が多い、発見も遅れがち、症例対照研究から患者家族の化学予防の適用例が多いが、二次患者発生がとくに多いことはない。糖尿病合併結核の治療成績は、治療成功は82%、その後2年の再発率4%(非合併例と同程度)。④結核患者管理制度:結核病床を有する全国の病院のうち回答のあった174のうち院内DOTSは86%で実施されていた。退院後の患者の指導について保健所と連絡を取っているのは36%であった。⑤予防接種の精度管理:全国7地区で乳幼児期、学童期BCG接種の技術評価を、検診(1歳半、3歳児等)を利用して行った。乳幼児期接種の0歳時接種はかなり普及しているが、地区・接種医師により技術のばらつき(針痕個数からみて)が大きい。再接種副反応としてケロイドに関して、ある地区での観察では、針痕の癒合・ケロイドの発生が小学校の再接種で約20%、中学校で約30%に見られた。化学予防とBCG接種制度のあり方に関して、BCG接種集団でのツ反の診断価値に関するモデル分析を行った。⑥国立病院:結核とくに多剤耐性結核患者の末梢血リンパ球は、CD8陽性細胞での感染免疫に重要ななグラニュライシン発現が著明に低下していることが判明た。
結論
①社会経済弱者:都市型DOTSはそれぞれに好成績を挙げており、今後はホームレス周辺の階層に拡大することが必要である。②患者発見の向上:社会経済弱リスク集団の患者発見の実地可能性が示されたが、今後は自治体の積極的な取り組みが望まれる。民間検査所の菌検出・薬剤耐性検査の精度管理の必要性が明らかにされた。③結核治療の向上:院内DOTSの導入普及の経験などを活かして、薬剤方式や入退院をめぐる合理的な医療の実践にむけた具体的な戦略の展開の手がかりが得られた。④結核患者管理制度:病院と保健所の連携による患者支援の強化が必要である。⑤予防接種の精度管理:再接種の廃止と初接種の技術確保のための要件が理論づけられ、国の政策への提言につなげられた。⑥国立病院:難治結核の免疫療法への大きな手がかりを得ることができた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-