未知の感染症のリスク評価に関する研究

文献情報

文献番号
200100697A
報告書区分
総括
研究課題名
未知の感染症のリスク評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小室 勝利(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 毅(東北大医、大学院)
  • 岡田義昭(国立感染症研究所)
  • 片野晴隆(国立感染症研究所)
  • 三代俊治(東芝病院)
  • 鈴木哲朗(国立感染症研究所)
  • 阿部賢治(国立感染症研究所)
  • 池田久實(北海道赤十字血液センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病態、病原性の明確でないウィルス、新たな病気との関連が疑われるウィルス、変異株の出現により病原性の変化が疑われるウィルスにつき、その診断法の開発、病態、病原性の検討、分子疫学的研究を行い、これらウィルス感染のリスク評価を行い、必要な対応策に応用することを目的とする。
研究方法
目的とするウィルスとして、B19パルボウィルス、HHV-6,7,8、TTV、HBV、HCV変異株をとりあげ、そのウィルス学的分析、分子疫学的分析、病態解析に必要なモデル系の開発、診断法に関する検討、臨床的意義についての研究を行った。
結果と考察
本年度は以下の結果を得た。
1)ヒトパルボウィルスB19感染と慢性関節リウマチ発症との関連を知る目的で、ヒトパルボウィルスB19のNS-1遺伝子を導入したマウスモデルを作り、その作用を検討した。NS-1遺伝子を導入したマウスには、タイプⅡコラーゲン誘発関節炎が高頻度に発症した。又、慢性関節リウマチの病態形成に主役をなすTNF-αが誘導されていた。細胞株を使用したin vitroの結果から、NS-1を導入すると、転写因子AP-1、AP-2がTNF-αの産生に関与していることが証明された。
2)ヒトパルボウィルスB19の感染系の開発、改良を行った。KU812F細胞がB19の感染をおこすことを証明し、この中からエリスロポイエチンリセプターの陽性細胞をクローニングしたところ、数千個のB19が存在すれば、感染する系を開発した。
3)昨年度開発したHHV-8高感度検出法を用い、様々な疾患を持った患者における感染率を検索した。カポジ肉腫患者は100%陽性、同性愛エイズ患者では、高頻度に陽性であることが証明された。日本国内の地域別感染率、世界数ヶ国での陽性頻度の検討を開始した。
4)HHV-8の輸血リスク評価のため、献血者における陽性率を検討した。健常献血者群では1.1%陽性、頻回輸血患者群では3.1%が陽性であることが証明された。検出法との関連を追求中である。
5)日本に於けるHEV土着株の検討、TTVと疾患の関係を検討した。HEVは、最早、輸入感染症ではなく、急性肝炎を疑った場合、HEV-RNAの検出を行うべきことが示唆された。感染ルート等の検討を行っている。
6)TTV遺伝子の転写調節機構の解析を行い、非翻訳領域1.2kb内に、転写開始点に近接した約110塩基のコアプロモーターとその上流のエンハンサー領域を同定した。コアプロモーター領域の詳細な検討を行った。TTVは遺伝子変異が激しく、数多くの遺伝子型が報告されているが、検討した領域の配列は、各遺伝子型でよく保存されていた。
7)6型の主要なゲノタイプからなるHBVの型特異的なプライマーをデザインし、PCR法による迅速で、高感度なHBVゲノタイピング法を開発した。この方法で、11ヶ国から収集した臨床検体につき検討し、地理疫学的検討を行っている。
8)WHOの発表した血液製剤のウィルス不活化に関係するガイドラインを紹介し、日本における対応を考察した。
以上の様な結果が得られた。昨年度の研究がさらに発展し、目的に近づくべく、基礎的研究は徐々にではあるが達成されていると考えられる。これら基礎的データは今後検討しなければならないリスク評価、とるべき対応を考える際、少しずつでもとり入れられることを期待している。今後とも、方向性に従った検討を行うつもりである。
結論
ウィルスの存在は確認されたが、病態、病原性が充分解明されていないウィルス(HHV-8、TTV等)、既知のウィルスではあるが、変異株の出現、細胞内局在性等により診断法及び病原性に新たな対応が必要になるウィルス(HBV、HCV)及び新たな病気への関与が疑われるウィルス(B19パルボウィルス、HHV-8等)に関する基礎的研究を実施した。各ウィルスにつき、分子生物学的解析、疫学的解析、動物モデル系の開発を応用した病態関与に関する解析、in vitro解析用細胞系の開発、等が行われ、病態解析の土台は作られつつあると考えられた。病原性、臨床的意義等をさらに検討することにより、リスク評価に応用できる様、努力を続けたい。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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