文献情報
文献番号
200100696A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症診断・検査手法の精度管理並びに標準化及びその普及に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 加藤一夫(福島県衛生公害研究所)
- 今井俊介(奈良県衛生研究所)
- 林皓三郎(神戸市環境保健研究所)
- 田中智之(堺市衛生研究所)
- 荻野武雄(広島市衛生研究所)
- 兒嶋昭徳(名古屋市衛生研究所)
- 井上博雄(愛媛県立衛生環境研究所)
- 宮崎豊(愛知県衛生研究所)
- 岡部信彦(国立感染症研究所)
- 田代眞人(国立感染症研究所)
- 宮村達男(国立感染症研究所)
- 渡辺治雄(国立感染症研究所)
- 倉根一郎(国立感染症研究所)
- 佐多徹太郎(国立感染症研究所)
- 荒川宜親(国立感染症研究所)
- 遠藤卓郎(国立感染症研究所)
- 牧野壮一(帯広畜産大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現在感染症の実験室診断に用いられている方法は全国的に一致しているわけではなく、またその質も同様の方法を用いていたとしても、多くの場合全国的に標準化されたものではなく、精度、特異性やレファレンスは施設ごとに異なっていることが多い。このことは、種々の感染症の発生に関する情報の信頼性を損なうことにもなりうる。本研究においては、このような問題を解決するために、上記73疾患を中心として、以下の5点を目的として行うものである。(1)各感染症に対する血清および病原体診断法を確立、あるいは再検討する、(2)広く行われている診断・検査法については標準化、精度管理のシステムを構築する、(3)診断・検査法を全国的に普及させるための基礎資料を作製する、(4)検査法マニュアル作製の基礎資料を作製する、(5)地研と共に感染症診断マニュアルを疾患毎に作成中であり、完成した物から順次印刷する。以上のように、本研究は、感染症の診断・検査をとおして、その制圧に直接的に関わるものである。従って、国民の保健・医療の向上に大きく貢献する。
研究方法
I.診断・検査法の新たな開発および再検討に関する研究:各病原体ごとに感染症研究所・地方衛生研究所の担当者によるグループを作り対応する。1)各感染症に対する血清診断法を確立する。すでに確立されているものについてはその再検討を行う。2)各感染症に対する病原体診断法を確立する。すでに確立されているものについては、その再検討を行う。3)感染症の病理診断に必要な検査法の確立:病理材料診断に使用しうるエンテロウイルス等のプロ-ブ開発、HybriAT法の応用技術開発。II.精度管理と標準化に関する研究:1)感染症研究所・地方衛生研究所及び臨床の病原体、血清診断の多くを担当している民間検査機関の担当部局において各診断・検査法の精度を確認する。2)国際標準との整合性をとりながら診断・検査法の標準化を行う。(ウイルス学会検査体制委員会との連携)3)標準サンプルの維持、供給のためのレファレンスシステムを構築する。4)精度維持のためのシステムを構築する。
III.診断・検査法の普及に関する研究:感染研、地方衛生研究所、病院検査室、大学、民間検査機関への診断・検査法の普及のための、講習会や実習のシステムを構築する。
I.及びII.の成果をもとに診断・検査マニュアルの作製のための基礎資料を作製する。
III.診断・検査法の普及に関する研究:感染研、地方衛生研究所、病院検査室、大学、民間検査機関への診断・検査法の普及のための、講習会や実習のシステムを構築する。
I.及びII.の成果をもとに診断・検査マニュアルの作製のための基礎資料を作製する。
結果と考察
I.感染症の実験室診断・検査法(血清、病原体)の開発・改良
1)ウイルス関係・デング出血熱の病原体診断法と西ナイル熱の血清・病原体診断法の確立と標準化を行った。デング熱ではウイルス分離、PCR法では発熱時にはどの患者でも陽性であるが、解熱後は陰性となる。IgM捕捉ELISA法と併用することにより発症からの日時によらず実験室診断が可能となることを明らかにした。・麻疹患者血液、咽頭ぬぐい液、尿等をマーモセットリンパ球B95a細胞に接種し、7株が分離できた。遺伝子型を見ると日本全国D5型で、沖縄では全てD3型、川崎と東京では中国、韓国の流行株H1型がみられた。また麻疹IgM抗体測定法として自然感染者の血漿、血清のPA-IgM抗体価測定法を確立した。手技が容易、電気不要からWHOの根絶に用いうる。・アデノウイルス感染症診断で22型で中間型を示す2種類が認められたが、ヘキソン領域増幅PCRと制限酵素切断の組み合わせの型別で22型と判別可能であった。・手足口病及びヘルパンギーナの検査法の改良・開発ではエンテロウイルス全血清型63種のうち400塩基(VP4全域とVP2の一部)の報告のない41血清型分を解析したところ、4群に分けられた。それぞれはA~D群のヒトエンテロウイルス分類と一致した。これから遺伝子解析による血清型別分類はエンテロウイルス診断に有効な方法となることが示唆された。・エンテロウイルス9型を特異的に検出しうるPCR法を確立した。・リアルタイムPCR法によりヒト角膜ヘルペス患者涙液中のHSV-1 DNA量を疾患の状態との関連で検出しうることを確認した。・E型肝炎ウイルスの組換え中空粒子を発現し、これを抗原として抗体検出EIAを構築しE型肝炎の血清診断法を確立した。・新しいヒトヘルペスウイルス8型につき、ヒトの血清抗体測定法と生・剖検病理材料における病理診断法を、リコンビナント蛋白とそのウサギポリクローナル抗体を用い確立した。
2)細菌関係・エーリキアの検査法についてはE.murisとHF565株につきアナプラズマの株化細胞感染、継代培養に成功し、蛍光抗体検査抗原として使用しうることを確認した。また媒介の野生ダニを採取しPCR法で検出に成功した。・通常の細菌学的同定検査により同定不能な菌種の同定法に関る検討を細菌種に特異的な遺伝子、例えば16S rRNA、DNA polymeraseの遺伝子の塩基配列から菌種を特定する方法法を試みた。・レンサ球菌の型別について、我が国で分離されるレンサ球菌のemm遺伝子型別の可能性と既存のM型別との相関性を調べたところ、相関性があり実際しうることを明らかにした。・劇症型溶連菌感染症におけるA群β溶連菌と同時期に咽頭炎患者より分離されたA群レンサ球菌との間には型、発熱毒素等差異は見られなかった。これから劇症型の発症には、宿主の因子も関与している可能性があると思われる。・プリオン病の診断で血液、体液から簡便にプリオンを検出することは最大の関心事である。免疫磁気ビーズ法でモノクローナル抗体、免疫ウサギ抗血清を用いた検出系等で大腸菌発現プリオン蛋白を50pg/mlの感度で検出しえた。
II.実験室診断検査法の標準化に関する研究
1)細菌関係・炭疽菌の今までの基礎研究を応用して迅速な診断キットを作製し評価を行った。・髄膜炎菌検査法の標準化については突発的に集団感染や地域流行のおこる可能性も考えられるところから、この菌の分離、同定に関する検査法の地方衛生研究所、病院検査室への標準化と普及をはかった。
2)寄生虫・原虫関係:赤痢アメーバの診断のためのELISA法の条件設定を行った。
III.病原体情報システムの構築と強化:国立感染症研究所感染症情報センターでは疾患のサーベイランスと共に病原体のサーベイランスを行っている。それらの結果は疾患別、病原体別、発生状況別に並べWISHネットに掲載している。
IV.病原体診断マニュアルについて:地方衛生研究所と国立感染症研究所の担当者で“感染症法(仮)"の全疾患とその他必要と考えられる疾患及び事項について一定のフォームで作成し大部分は現在review中である。他は新年度にかかる。
1)ウイルス関係・デング出血熱の病原体診断法と西ナイル熱の血清・病原体診断法の確立と標準化を行った。デング熱ではウイルス分離、PCR法では発熱時にはどの患者でも陽性であるが、解熱後は陰性となる。IgM捕捉ELISA法と併用することにより発症からの日時によらず実験室診断が可能となることを明らかにした。・麻疹患者血液、咽頭ぬぐい液、尿等をマーモセットリンパ球B95a細胞に接種し、7株が分離できた。遺伝子型を見ると日本全国D5型で、沖縄では全てD3型、川崎と東京では中国、韓国の流行株H1型がみられた。また麻疹IgM抗体測定法として自然感染者の血漿、血清のPA-IgM抗体価測定法を確立した。手技が容易、電気不要からWHOの根絶に用いうる。・アデノウイルス感染症診断で22型で中間型を示す2種類が認められたが、ヘキソン領域増幅PCRと制限酵素切断の組み合わせの型別で22型と判別可能であった。・手足口病及びヘルパンギーナの検査法の改良・開発ではエンテロウイルス全血清型63種のうち400塩基(VP4全域とVP2の一部)の報告のない41血清型分を解析したところ、4群に分けられた。それぞれはA~D群のヒトエンテロウイルス分類と一致した。これから遺伝子解析による血清型別分類はエンテロウイルス診断に有効な方法となることが示唆された。・エンテロウイルス9型を特異的に検出しうるPCR法を確立した。・リアルタイムPCR法によりヒト角膜ヘルペス患者涙液中のHSV-1 DNA量を疾患の状態との関連で検出しうることを確認した。・E型肝炎ウイルスの組換え中空粒子を発現し、これを抗原として抗体検出EIAを構築しE型肝炎の血清診断法を確立した。・新しいヒトヘルペスウイルス8型につき、ヒトの血清抗体測定法と生・剖検病理材料における病理診断法を、リコンビナント蛋白とそのウサギポリクローナル抗体を用い確立した。
2)細菌関係・エーリキアの検査法についてはE.murisとHF565株につきアナプラズマの株化細胞感染、継代培養に成功し、蛍光抗体検査抗原として使用しうることを確認した。また媒介の野生ダニを採取しPCR法で検出に成功した。・通常の細菌学的同定検査により同定不能な菌種の同定法に関る検討を細菌種に特異的な遺伝子、例えば16S rRNA、DNA polymeraseの遺伝子の塩基配列から菌種を特定する方法法を試みた。・レンサ球菌の型別について、我が国で分離されるレンサ球菌のemm遺伝子型別の可能性と既存のM型別との相関性を調べたところ、相関性があり実際しうることを明らかにした。・劇症型溶連菌感染症におけるA群β溶連菌と同時期に咽頭炎患者より分離されたA群レンサ球菌との間には型、発熱毒素等差異は見られなかった。これから劇症型の発症には、宿主の因子も関与している可能性があると思われる。・プリオン病の診断で血液、体液から簡便にプリオンを検出することは最大の関心事である。免疫磁気ビーズ法でモノクローナル抗体、免疫ウサギ抗血清を用いた検出系等で大腸菌発現プリオン蛋白を50pg/mlの感度で検出しえた。
II.実験室診断検査法の標準化に関する研究
1)細菌関係・炭疽菌の今までの基礎研究を応用して迅速な診断キットを作製し評価を行った。・髄膜炎菌検査法の標準化については突発的に集団感染や地域流行のおこる可能性も考えられるところから、この菌の分離、同定に関する検査法の地方衛生研究所、病院検査室への標準化と普及をはかった。
2)寄生虫・原虫関係:赤痢アメーバの診断のためのELISA法の条件設定を行った。
III.病原体情報システムの構築と強化:国立感染症研究所感染症情報センターでは疾患のサーベイランスと共に病原体のサーベイランスを行っている。それらの結果は疾患別、病原体別、発生状況別に並べWISHネットに掲載している。
IV.病原体診断マニュアルについて:地方衛生研究所と国立感染症研究所の担当者で“感染症法(仮)"の全疾患とその他必要と考えられる疾患及び事項について一定のフォームで作成し大部分は現在review中である。他は新年度にかかる。
結論
病原体の検出とその解析技術は日進月歩の状態であることは上記の結果をみても一目瞭然である。かなり完成度の高い状況の診断法については次々とマニュアル化し、全国で同一基準で測定した結果を抗体、遺伝子等につき比較可能となるようにする必要がある。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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