C型肝炎の自然経過および介入による影響等の評価を含む疫学的研究

文献情報

文献番号
200100690A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎の自然経過および介入による影響等の評価を含む疫学的研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 浩司(広島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 武田直和(国立感染症研究所)
  • 三代俊治(東芝病院)
  • 溝上雅史(名古屋市立大学)
  • 鈴木一幸(岩手医科大学)
  • 長尾由実子(久留米大学)
  • 秋葉隆(東京女子医科大学)
  • 田中純子(広島大学)
  • 三浦宣彦(埼玉県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1. HCVキャリア対策策定のための調査・研究、2. HCVキャリア、肝がん関連資料の収集・編纂、3. 透析医療施設におけるHCV感染防止対策策定のための調査・研究、4. C型、B型及び非B-C型肝炎の分子、ウイルス学的研究、5. 霊長類(チンパンジー)を用いた感染実験、の5項目の調査・研究を基礎医学、臨床医学、社会医学を担当する専門家の協力のもとに行ない、得られた成果を迅速に社会に還元し、わが国の保健・医療の向上に役立てることを目的とする。
研究方法
研究目的に掲げた調査・研究を、3年計画で行なう。1年目、2年目は上記目的を達成するための基本となる調査・研究および基礎的検討を行ない、3年目も、調査・研究を継続すると共に、得られた成果をまとめ上げ、成果を社会へ還元するための提言を行なう。
結果と考察
1. 「HCVキャリア対策策定のための調査・研究」関連
1)地域住民を対象としたHCV検診の推進と、残された問題点
①岩手県では、2001年3月までの40歳以上のHCV検診受診者計89,167例、および、2002年度の受診者8,678例を対象として集計を行なった。
HCVキャリア率は全体では1.02%であったが、65歳から69歳の年齢層では1.52%と高い値を示すことが明らかとなった。発見されたHCVキャリア率の医療機関への初診率、継続受診率向上をめざして、初診時の問診、検査項目、および結果の説明についての統一指針を作成し、実施に移した結果、医療機関における継続受診率の向上がみられた。
②広島県域では、2002年度末までの受診者実数は、50,491例である。HCVキャリア率は、全体では3.4%であったが、60歳以上の世代では、6%を超える高い値を示すことが明らかとなった。
広島市では、受診者30,341例を対象として、一般に用いられているサンドウィッチ法を用いて、それぞれの試薬に記されたカットオフ値以上を「抗体陽性」と判定する1次スクリーニングを行なったところ、全受診者の9.8%(2,962/30,341)が「HCV抗体陽性」と判定されたが、最終的にHCVキャリアと判定されるのは2.4%(732/30,341)にすぎないことが明らかとなった。
③佐賀県では、1999年までに、計185,291例が検診を受け、凝集法(HCV PHA法)によるHCV抗体陽性率は全体では8.1%、50歳以上では10.4%にのぼることが明らかとなっている。同県では、佐賀県肝疾患対策委員会を設置し、市民公開講座、肝炎患者友の会、保健婦講習会、病診連携の推進を企画し、また、これまでの検診により、「HCV抗体陽性」と判定された受診者の中からHCVキャリアを見出す検診(査)体制の整備を進めている。
④久留米地区では、久留米大学、保健所、市・町事業所、医療機関の4つの部門から構成される肝がん予防対策合同連絡会議を設置し、(ⅰ)地域住民に対する肝疾患、肝がんの診断・予防・治療についての講演会、療養相談、(ⅱ)保健婦を対象とした教育、指導、(ⅲ)肝臓専門医や指導医による小グループ制のかかりつけ医への教育指導を展開する予定である。
⑤大阪府赤十字血液センターにおいて、献血を契機に発見されたHCVキャリアを前方視的に追跡した結果、98ヶ月の追跡期間内に1,927例中53例の肝発がん例を見出した。肝発がん時の平均年齢は、59.3歳であった。
⑥HCVキャリアに随伴する口腔粘膜病変に関する調査を行ない、口腔に扁平苔癬を有する患者の約40%が性器にも扁平苔癬が合併していることを初めて明らかにした。
2. HCVキャリア、肝がん関連資料の収集、編纂
1)健常者集団における肝炎ウイルスキャリア率
1999年1年間の全献血者から、初回献血者689,863例を抽出し、性、出生年別に、HCV抗体陽性率、HBs抗原陽性率を算出した。その結果、HCV抗体陽性率は、いずれの地区においても年齢の高い集団で高い陽性率を示すのに対して、HBs抗原陽性率は50歳から59歳の世代で高い値を示す点が注目された。
2)1995年から1999年までの期間における全国の市町村別にみた肝がんの標準化死亡比を新たに算出、地図上に提示した。
3. 透析医療施設におけるHCV感染防止対策策定のための研究
1)世界7カ国(日・米・英・西・仏・独・伊)からのデータと、日本の透析施設統計調査「わが国の慢性透析の現況」から得たHCV肝炎関連データを解析した結果、日本は、HCV抗体陽性率では、西(22.2%)、伊(22.1%)に次いで第3位(19.5%)に、HCV抗体陽転率(% / 年)では、伊(3.9%)に次いで第2位(3.6%)に位置することが明らかとなった。また、わが国における慢性透析患者の1999年末の時点でのHCV RNA陽性例とそれ以外の患者の1年後における生命予後調査を行なった結果、HCV RNA陽性の患者で死亡のリスクが高いことが明らかとなった。
2)1999年11月~2001年8月までの21ヶ月間の間に1回以上検査を行なった透析患者2,275例中、318例(14.0%)がHCVキャリアであること、調査期間内に2回以上検査が可能であり、かつ調査開始時にHCV抗体が陰性であった1,668中10例(0.42/100人年)にHCVの新規感染が発生していることが明らかとなった。また、調査期間内に3回以上の検査が可能であったHCVキャリア277例の血中のHCV量の変動を、追跡したところ、40歳以上の年齢層の約16%でHCV量の変動が認められ、40歳以上の年代では変動幅も大きくなる傾向が認められた。
4. C型、B型及び非B-C型肝炎の分子、ウイルス学的研究
1)HCV遺伝子の分子進化学的検討を行ない、米国と日本のHCVキャリアを対比した結果、HCV感染の第1次の拡散は日本で、より早い時期に始まったことを示唆する成績が得られた。
2)HBVの遺伝子型、HBV/ Gは、core領域に特徴的な36塩基の遺伝子挿入という共通する特徴を有すること、HBV/ GがHBV/ Aと共感染した場合には、ゲノムの組み換えが高頻度におこることが明らかとなった。
3)B/Crecombinant HBV株は、日本以外のアジアの国に広く分布するが、non - recombinant HBV株は日本に特有な株であること、また、日本に特有な HBV株は、B/Crecombinant HBV株に比して早期にHBe抗原からHBe抗体へのセロコンバージョンを起こすことを示唆する成績が得られた。
4)HEV感染の血清疫学的調査を行なった結果、わが国の北部、中央部、南部の地域におけるHEV抗体陽性率は、それぞれ1.9%、3.3%、14.1%であることが明らかとなった。また、非A~非C型急性肝炎、60例を診断したところ、15例(25%)がE型肝炎であり、このうち、1例を除いたすべては輸入感染例であることが明らかとなった。
5)HEVの組み換え中空粒子をマウスに経口投与したところ、初回免疫5週後には糞便中にIgA型抗体の出現がみられ、経口投与による腸管免疫が観察された。
6)海外渡航歴のない日本人に発生したE型肝炎例からHEVを分離、解析した結果、「日本固有株」と呼び得るHEV株がわが国に存在することが明らかとなった。
5. 霊長類(チンパンジー)を用いた感染実験
HCV感染のウインドウ期にある供血者血漿を、それぞれのチンパンジーの自己血清により段階稀釈し、各1ml づつを経静脈的に接種し、それぞれの経過を観察中である。
結論
1. HCV検診を推進し、HCVキャリアの健康管理システムの構築を開始した。
2. 「HCVキャリア発見のための検査手順」を提示し、このうちの1つを実地に応用し、その精度、効率を検証した。
3. 初回献血者約69万人分のデータをもとに、性、年齢、地区別のHCV抗体陽性率、HBs抗原陽性率を算出、提示した。
4. 1995年から1999年までの全国市町村別にみた、肝がん標準化死亡比を算出、地図上に提示した。
5. 透析医療現場におけるHCVキャリア率、HCVキャリアの新規発生率を明らかにした。
6. HCVキャリア透析患者集団の血中ウイルス量の変動状態を明らかにした。
7. 日本では米国よりも早い時期に第1次のHCV感染の拡散がおこったことを示唆する成績を得た。
8. genotypeの異なる特定のHBVが共感染した際にゲノムの組み換えが高頻度におこることを明らかにした。
9. 日本固有のHBV株ではHBe抗原からHBe抗体へのセロコンバージョンが早期に起こることを明らかにした。
10. 「日本固有株」とも言うべきHEV株がわが国に存在することを明らかにした。
11. HEVの中空粒子をマウスに経口投与することにより、IgA型の腸管免疫が誘導されることを明らかにした。
12. チンパンジーを用いて、血清中のHCV RNA量と感染価との関係を決定するための実験を実施、経過を観察中である。

公開日・更新日

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