文献情報
文献番号
200100689A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルスの感染による肝炎、肝硬変及び肝がん発生等の病態の解明に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
林 紀夫(大阪大学)
研究分担者(所属機関)
- 下遠野邦忠(京都大学)
- 加藤宣之(岡山大学)
- 小原道夫(東京都臨床医学総合研究所)
- 岡本宏明(自治医科大学)
- 坪内博仁(宮崎医科大学)
- 岡上 武(京都府立医科大学)
- 森脇久隆(岐阜大学)
- 小池和彦(東京大学)
- 金子周一(金沢大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)は持続感染をきたし、慢性肝炎、肝硬変を経て高率に肝癌を引き起こす。わが国におけるHCV感染者は200万人以上と推定されており、年間約3万人の新規肝発癌が認められている。C型慢性肝炎に対する現在最も有効な治療はインターフェロン(IFN)治療あるいはIFNとリバビリンの併用療法である。また、最近PEG-IFN療法の有効性が報告され期待が持たれている。しかしながら、C型慢性肝炎の約1/2はこれらの治療法に抵抗性であると予想されており、現行のIFNを中心としたC型肝炎の治療のみでは限界があると言わざるを得ない。かかる現状から、今後本邦にて急増が予想される肝癌の発生を抑止するためには、C型肝疾患に対する新しい治療戦略の開発が急務となっており、このためにはHCV感染がもたらす各種病態の詳細な分子機構を解明することが重要である。HCVによって引き起こされる病態の要点をまとめると、1)HCVによって惹起される肝細胞死(肝炎)は、HCV感染に伴う宿主の免疫反応によって肝細胞障害機構が働くことに加え、肝細胞自身が持続的なウイルス蛋白の発現に曝されることにより肝細胞死に対する感受性に変化が生じる結果もたらされること、2)HCVが高率に持続感染を引き起こすのは、HCV自身の抗原性が低いことに加え、HCV感染に伴い宿主の免疫反応に異常が生じ、十分なウイルス排除機構が働かない結果であること、3) HCV感染に伴う肝発癌は肝細胞が持続的なウイルス蛋白の発現により細胞応答性 の変化を起こすことに加え、繰り返す肝細胞死と肝再生により肝細胞が高癌化状態におかれ、これらの総和として肝細胞が悪性形質転換をきたし、さらに肝臓での免疫監視機構を逃れて画像上認識される肝癌にまで生育すること、の3点が挙げられ、これらのいずれが欠けてもHCV感染の終末像である肝発癌は成立しない。言い換えれば、これらの3点はいずれも独立したC型肝疾患治療のターゲットであり、このうち1つでも制御することができれば肝発癌に対する有効な治療法となりうる。本研究はこの観点に基づき、C型肝疾患の病態を多面的に解明し、このような理解をもとに、C型肝炎ならびに肝発癌に対する新しい治療戦略を開発することを目的としている。
研究方法
A)培養細胞でのHCV増殖システムとHCV関連蛋白の機能解析。HCV増殖システムの開発:HCV全遺伝子のクローニングを行い、このHCV全遺伝子のcDNAを動物細胞に導入した。HCV複製に関しては、マイナス鎖の検出および免疫電顕により行った。HCV蛋白質の宿主細胞に与える影響:HCVコア抗原をコードする遺伝子をHepG2細胞に導入し細胞増殖、アポトーシスに与える影響を検討した。各種HCV蛋白質を発現する肝細胞を用いて、マイクロサテライト不安定性を検討した。B)HCVによる肝炎および肝発癌の動物モデルの作製とその解析。コンディショナルモデルを用いた解析:HCVコア~NS2蛋白をコードする遺伝子の上流にloxPにはさまれたneo-polyAを有するトランスジーンを導入したトランスジェニックマウスを作製した。戻し交配により種々の免疫学的バックグラウンドを有するマウスを作製し、CTLの標的について解析した。トランスジェニックモデルを用いた解析:HCVコア遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作製し、肝脂肪化、肝発癌の分子機構について酸化ストレスの観点から解析した。C)C型肝炎における遺伝子発現と樹状細胞分画の解析および中和抗
体、サイトカイン産生の検討。遺伝子発現プロファイルの解析:C型慢性肝疾患の肝組織を対象にSAGE法およびDNAチップを用いて、発現遺伝子解析を行った。樹状細胞サブセットの解析:C型慢性肝炎患者の末梢血単核球から、Lineage陰性かつHLA-DR陽性の細胞群を樹状細胞とし、さらにCD11cとCD123の染色性からpreDC1とpreDC2を決定した。機能解析は各分画をソーティングした細胞を用いてnaive CD4 T細胞の刺激能とCpGオリゴの刺激によるIFN?の産生能により評価した。中和抗体に関する解析:遊離型のHCV粒子を用いてHCVの回復期血清に含まれるHCVに結合する抗体を免疫沈降法を用いて解析した。サイトカインに関する解析:C型慢性肝炎患者の末梢血リンパ球中のCXCR3陽性細胞をFACSを用いて解析した。D)肝癌におけるオステオアクチビンの発現、レチノイン酸に対する不応答性、NK細胞感受性に関する検討。オステオクチビンの発現:CDAA食飼育ラット肝で発現亢進する遺伝子をsuppression subtraction hybridization法にて単離した。オステオアクチビン遺伝子の発現をラットおよびヒトの肝臓で解析し、オステオアクチビン遺伝子の強制発現系を用いてその機能を培養細胞レベルで検討した。レチノイン酸に対する反応性:肝癌組織およびHuh7細胞を用いてRXR?の遺伝子変異と翻訳後修飾について解析した。NK細胞感受性とその制御:肝癌細胞株のMICA/Bの発現をFACS解析した。ヒト末梢血NK細胞の肝癌細胞に対する細胞障害性をクロムリリース法にて解析した。
体、サイトカイン産生の検討。遺伝子発現プロファイルの解析:C型慢性肝疾患の肝組織を対象にSAGE法およびDNAチップを用いて、発現遺伝子解析を行った。樹状細胞サブセットの解析:C型慢性肝炎患者の末梢血単核球から、Lineage陰性かつHLA-DR陽性の細胞群を樹状細胞とし、さらにCD11cとCD123の染色性からpreDC1とpreDC2を決定した。機能解析は各分画をソーティングした細胞を用いてnaive CD4 T細胞の刺激能とCpGオリゴの刺激によるIFN?の産生能により評価した。中和抗体に関する解析:遊離型のHCV粒子を用いてHCVの回復期血清に含まれるHCVに結合する抗体を免疫沈降法を用いて解析した。サイトカインに関する解析:C型慢性肝炎患者の末梢血リンパ球中のCXCR3陽性細胞をFACSを用いて解析した。D)肝癌におけるオステオアクチビンの発現、レチノイン酸に対する不応答性、NK細胞感受性に関する検討。オステオクチビンの発現:CDAA食飼育ラット肝で発現亢進する遺伝子をsuppression subtraction hybridization法にて単離した。オステオアクチビン遺伝子の発現をラットおよびヒトの肝臓で解析し、オステオアクチビン遺伝子の強制発現系を用いてその機能を培養細胞レベルで検討した。レチノイン酸に対する反応性:肝癌組織およびHuh7細胞を用いてRXR?の遺伝子変異と翻訳後修飾について解析した。NK細胞感受性とその制御:肝癌細胞株のMICA/Bの発現をFACS解析した。ヒト末梢血NK細胞の肝癌細胞に対する細胞障害性をクロムリリース法にて解析した。
結果と考察
A)培養細胞でのHCV増殖システムとHCV関連蛋白の機能解析。HCVの全長遺伝子をcDNAのかたちで導入することにより、培養液中にウイルスの産生が認められ、HCVの増殖系が樹立された。HCVコア蛋白にはアポトーシス抑制作用があり、またマイクロサテライトに関するミスマッチ修復能を低下させる効果が認められた。NS5AにはPKR抑制作用が認められた。B)HCVによる肝炎および肝発癌の動物モデルの作製とその解析。コア遺伝子トランスジェニックモデルでは肝脂肪化と肝発癌が認められた。脂肪化の原因として?酸化の障害がひとつの要因であり活性酸素の増加が認められた。コンディショナルモデルを用いて肝炎の誘導が可能であった。このHCV肝炎モデルではコア蛋白はH2にかかわらずCTLの標的にはならなかったが、NS2はどのH2でも標的となった。C)C型肝炎における遺伝子発現、樹状細胞分画、抗体、サイトカインの解析。HCVによる慢性肝炎の発現遺伝子プロファイルは他の病態とは異なる発現遺伝子プロファイルを有していた。C型慢性肝炎では健常者に比べDCサブセットが減少しており、preDC2の機能低下が認められた。HCV感染後の回復期血清中にはHCV粒子と結合する多様な抗体が存在した。C型慢性肝炎の増悪時には、血清IP-10が増加し末梢血リンパ球のCXCR3陽性細胞が増加した。D)肝癌におけるオステオアクチビン発現の意義、レチノイン酸に対する反応性およびNK細胞感受性の制御機構解析。ヒト肝癌組織および肝癌細胞株ではRXR?がErkによってリン酸化を受け、転写活性が低下し、かつ分解が遅延してdominant negativeな効果をもっていた。肝癌に発現しているMICAはそのNK細胞感受性を規定する主要な分子であった。ATRAはRAR?を介して肝癌のMICAの発現を亢進させ、NK細胞に対する感受性を増強した。CDAA食飼育ラット肝にて発現が亢進している遺伝子としてオステオアクチビン遺伝子を単離した。同遺伝子はヒト肝硬変、肝癌組織でも発現しており、培養肝癌細胞での浸潤、転移能を亢進させた。
結論
培養細胞におけるHCVcDNA導入による増殖システムを開発した。今後、このモデルを用いることにより、HCVのウイルス学的な解析が促進されることが期待される。HCVコア蛋は宿主細胞のアポトーシスおよびDNA修復能を低下させ、また酸化ストレスを誘導することにより、発癌に寄与している可能性が示された。HCVにおける肝炎の発症および発癌を解析し得る動物モデルが樹立された。これらを用いることにより、CTLのターゲットとなるエピトープの特徴、発癌にかかわる酸化ストレスの意義が明らかとなった。C型慢性肝炎における肝臓での遺伝子発現、
血液中樹状細胞分画、サイトカインの特徴を明らかにした。このような解析を続けることにより、C型慢性肝炎の分子生物学的あるいは免疫学的な病態解析かさらに進むことが予想される。 またHCV回復期血清中にHCVに結合する抗体が存在することを明らかにしたが、今後、受動免疫療法の開発につながることが期待される。肝癌の進展あるいは増殖制御の破綻にオステオアクチビン遺伝子の発現やレチノイドレセプターの翻訳後修飾の異常が関与していることが示された。一方、肝癌におけるNK細胞感受性の分子機構が明らかとなり、これをターゲットとした免疫療法の開発に期待がもたれる。
血液中樹状細胞分画、サイトカインの特徴を明らかにした。このような解析を続けることにより、C型慢性肝炎の分子生物学的あるいは免疫学的な病態解析かさらに進むことが予想される。 またHCV回復期血清中にHCVに結合する抗体が存在することを明らかにしたが、今後、受動免疫療法の開発につながることが期待される。肝癌の進展あるいは増殖制御の破綻にオステオアクチビン遺伝子の発現やレチノイドレセプターの翻訳後修飾の異常が関与していることが示された。一方、肝癌におけるNK細胞感受性の分子機構が明らかとなり、これをターゲットとした免疫療法の開発に期待がもたれる。
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