文献情報
文献番号
200100687A
報告書区分
総括
研究課題名
粘膜ワクチン開発の基礎となるアジュバントに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
清野 宏(大阪大学微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
- 高木広明(株式会社プロテインエキスプレス)
- 濱端崇(国立国際医療センター)
- 田村慎一(国立感染症研究所)
- 駒瀬勝啓(社団法人北里研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新興・再興感染症の予防に向けて新世代ワクチンとして「粘膜ワクチン」が期待されている。その成功の鍵を握っている新規の粘膜アジュバント開発に向けての基礎研究を行う。我々が開発してきた無毒化変異型CT(mCT)を中心として、その改良型、キメラ型、合成ペプチドの開発を進め、実用化に向けた基礎研究を推進する。
研究方法
『感染と免疫』の原点に立ち返ると殆どすべての病原微生物は体外と体内環境の接点となっている鼻腔・口腔にはじまり呼吸器、消化器、泌尿生殖器を被っている広大な粘膜面を介して侵入して体内を撹乱する。そこで、当研究班は生体の第一線の防御バリアーとして機能している粘膜免疫機構を有効に応用した次世代ワクチンとして期待されている『粘膜ワクチン』の開発に向けて粘膜免疫システムの解明を中心に、先導的な研究を進めている。粘膜アジュバントとして期待されているmCTは大腸菌発現ベクター(pUC119)を使って産生してきたが、その回収率は低い。そこで、ヒゲタ・プロテインエクスプレスチームはB.brevis発現ベクター(HPD31-M3)のシステムを応用した大量培養系の確立に向けて研究を進めている。阪大・感染研チームはB.brevis発現システム由来のmCT(例:E112K)やmCT-AとLT-Bキメラ型粘膜アジュバントの免疫増強効果とそのメカニズムについて研究を展開している。国立国際医療センター(医療セ研)グループは、CTのアジュバント活性を担う部位の特定を試み、その合成ペプチドの利用について検討している。一方、北里研究所(北里)研究グループは発現用プロモーターの選択とCT遺伝子のシグナル配列を改良することで大腸菌内のmCT産生性向上をはかっている。
結果と考察
本研究ではヒトへの応用を念頭においた安全有効な粘膜アジュバントの開発を試みている。これまでわれわれは、CTの持つ強いアジュバント効果を維持しつつ、毒性のみを取り除くために、CT-AサブユニットのADP-ribosyltransferase活性中心のアミノ酸を置換することにより無毒化した2つのCT変異毒素(mutant CT: mCT) S61F、E112Kを作製した。その結果、mCTをタンパク抗原とともに経鼻投与することにより、鼻腔、消化管、唾液および膣分泌液中に抗原特異的IgA産生が認められ、mCTの有効性が示された。CTと同様のA1B5構造を有する毒素原性大腸菌の易熱性毒素 (LT)はCTに比較してIL-4に依存せず、IgE抗体応答がほとんど見られないことがわれわれのこれまでの報告によって示されている。また、CTはそのアジュバント作用誘導に際して、CT-Bサブユニットが細胞表面のGM1ガングリオシドに結合するが、LTはそのBサブユニットやGM1以外のガングリオシド (GM2、アシアロGM1) にも結合することが示されている。これらの結果より、LTの低IgE抗体応答はLT-Bを介するシグナル伝達経路に依存しているものと考えられる。そこで、低IgE抗体応答を示すアジュバント開発のためにLT-BをmCT (E112K)のAサブユニットと結合させたキメラ型 (mCTA/LTB)を作製を試みた。B. brevisの宿主-ベクター系を用いて、キメラ型(mCT改良型:mCTA/LTB)の発現とその分泌生産法の確立に成功した。この分泌産生されたキメラ型アジュバントは、immunobilized D-galactose columnを用いた精製方法によってmCTと同様のA1B5構造を持ち、毒性が低く、アジュバント活性を有すキメラ型が調製された。このキメラ型は夾雑蛋白質がほとんどなく、エンドトキシン濃度が低かった。これらのキメラ型mCTA/LTBの毒素活性の測定を、in vitroとin vivoの両方の系を用いて解析したところ、毒素原性は認められなかっ
た。例えば、結紮した腸へのmCTA/LTBの影響を検索したところ、100 ngの自然型CT(nCT)は顕著な分泌液の産生を誘導したが、その1000倍量のmCTA/LTBを使っても分泌液を誘導しなかった。次にキメラ型アジュバント活性を測定するために、mCTA/LTB をタンパク抗原の破傷風ワクチン(TT)とともにマウスに経鼻免疫した。その結果、血清中にや分泌液中に顕著なTT特異的、IgG、IgA抗体応答が誘導された。次にこれらの免疫したマウスに致死量 (130LD50) の破傷風毒素を投与した。その結果、TTとmCTA/LTBによって誘導された抗体は破傷風毒素に対して防御効果を示した。興味あることに、血清中の全IgE量、TT特異的IgE抗体価ともに、mCTA/LTBをアジュバントとして用いた群はnCTをアジュバントとして用いた群に比べて、顕著に減少していた。これらの結果より、mCTA/LTBはアジュバント効果を維持しているにも関わらず、毒性は認められず、IgE抗体応答は非常に低いものであった。したがって、mCTA/LTBはヒトへの応用の可能性を持つ安全有効な粘膜アジュバントであることが示唆された。
経鼻ワクチンとして最小有効濃度(0.1_g)のインフルエンザワクチンと無毒化変異型CT(mCT)であるCT112K を共に初回投与し、4週間後にPR8HAワクチン(0.1_g)のみを追加した。この経鼻ワクチン投与スケジュールによりBALB/cマウスに誘導される獲得免疫応答のうち、抗体応答、特に、上気道のIgA抗体応答が、また、下気道ではIgG抗体応答がウイルス感染阻止に最も重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、粘膜のIgA抗体は変異ウイルスに対する交叉反応性が高く、ワクチン株と流行ウイルス株が異なる場合にもこのCT112K併用経鼻インフルエンザワクチンが有効であることが示唆された。
大腸菌は、遺伝子工学による産物を発現させるための最も一般的な宿主として認知されている。困難とされている大腸菌でのmCTの大量調整を可能にする事は、粘膜ワクチンを実用化するための重要なステップである。大腸菌でのCT発現量はコレラ菌の約1/100以下になることが経験的に知られている。このことは菌体内のCTの動態に関係があると考えられている。コレラ菌ではCTを培養液中に放出するのに対し、大腸菌ではほとんどのCT分子が菌体内にInclusion body の形で蓄積される。CTを発現する大腸菌の増殖抑制や、CTの発現量の低下はその結果と推測される。一方、CTと活性、構造が類似している毒素原生大腸菌の産生するLT は大腸菌で比較的大量に調整できるとの報告がある。LTは大腸菌内で容易にペリプラズムへ移行する。菌体内で発現した蛋白を菌体外、あるいはペリプラズムへ誘導する機構の一つにシグナル配列がある。 CT、LTの移行はシグナル配列によっている。CT 遺伝子と LT 遺伝子を比較すると活性を担う本体の相同性は高いが、シグナル配列部位の相同性は低い。CT遺伝子の持つシグナル配列が大腸菌内では機能しない可能性が考えられた。そこで、LTのシグナル配列をCT 遺伝子に導入したキメラCT 遺伝子を作成し、大腸菌での発現を検定した。LT のシグナル配列を持つCT 遺伝子 (pTrcLT01)、 mCT (pTrcLT02) 遺伝子を作成し、大腸菌で発現させたところ、CT、mCTの発現量が飛躍的に増大した。LTのシグナル配列を持ったpTrcLT01、02のCTの発現量は大きく増加し、10 mg/L前後のmCTが回収され、今回のキメラCTプラスミドの有用性が示された。このCT、mCT 発現系は粘膜アジュバンドとしてのmCTの大量調整に有用である。さらに、合成ペプチド型アジュバント開発に向け、CTのアジュバント活性部位を決定する目的で、mCTの一連の欠損変異遺伝子を作製した。それらはほぼ良好な発現を示し、定法で精製可能であった。今後動物実験によりそれらのアジュバント効果の比較検討を行う予定である。
た。例えば、結紮した腸へのmCTA/LTBの影響を検索したところ、100 ngの自然型CT(nCT)は顕著な分泌液の産生を誘導したが、その1000倍量のmCTA/LTBを使っても分泌液を誘導しなかった。次にキメラ型アジュバント活性を測定するために、mCTA/LTB をタンパク抗原の破傷風ワクチン(TT)とともにマウスに経鼻免疫した。その結果、血清中にや分泌液中に顕著なTT特異的、IgG、IgA抗体応答が誘導された。次にこれらの免疫したマウスに致死量 (130LD50) の破傷風毒素を投与した。その結果、TTとmCTA/LTBによって誘導された抗体は破傷風毒素に対して防御効果を示した。興味あることに、血清中の全IgE量、TT特異的IgE抗体価ともに、mCTA/LTBをアジュバントとして用いた群はnCTをアジュバントとして用いた群に比べて、顕著に減少していた。これらの結果より、mCTA/LTBはアジュバント効果を維持しているにも関わらず、毒性は認められず、IgE抗体応答は非常に低いものであった。したがって、mCTA/LTBはヒトへの応用の可能性を持つ安全有効な粘膜アジュバントであることが示唆された。
経鼻ワクチンとして最小有効濃度(0.1_g)のインフルエンザワクチンと無毒化変異型CT(mCT)であるCT112K を共に初回投与し、4週間後にPR8HAワクチン(0.1_g)のみを追加した。この経鼻ワクチン投与スケジュールによりBALB/cマウスに誘導される獲得免疫応答のうち、抗体応答、特に、上気道のIgA抗体応答が、また、下気道ではIgG抗体応答がウイルス感染阻止に最も重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、粘膜のIgA抗体は変異ウイルスに対する交叉反応性が高く、ワクチン株と流行ウイルス株が異なる場合にもこのCT112K併用経鼻インフルエンザワクチンが有効であることが示唆された。
大腸菌は、遺伝子工学による産物を発現させるための最も一般的な宿主として認知されている。困難とされている大腸菌でのmCTの大量調整を可能にする事は、粘膜ワクチンを実用化するための重要なステップである。大腸菌でのCT発現量はコレラ菌の約1/100以下になることが経験的に知られている。このことは菌体内のCTの動態に関係があると考えられている。コレラ菌ではCTを培養液中に放出するのに対し、大腸菌ではほとんどのCT分子が菌体内にInclusion body の形で蓄積される。CTを発現する大腸菌の増殖抑制や、CTの発現量の低下はその結果と推測される。一方、CTと活性、構造が類似している毒素原生大腸菌の産生するLT は大腸菌で比較的大量に調整できるとの報告がある。LTは大腸菌内で容易にペリプラズムへ移行する。菌体内で発現した蛋白を菌体外、あるいはペリプラズムへ誘導する機構の一つにシグナル配列がある。 CT、LTの移行はシグナル配列によっている。CT 遺伝子と LT 遺伝子を比較すると活性を担う本体の相同性は高いが、シグナル配列部位の相同性は低い。CT遺伝子の持つシグナル配列が大腸菌内では機能しない可能性が考えられた。そこで、LTのシグナル配列をCT 遺伝子に導入したキメラCT 遺伝子を作成し、大腸菌での発現を検定した。LT のシグナル配列を持つCT 遺伝子 (pTrcLT01)、 mCT (pTrcLT02) 遺伝子を作成し、大腸菌で発現させたところ、CT、mCTの発現量が飛躍的に増大した。LTのシグナル配列を持ったpTrcLT01、02のCTの発現量は大きく増加し、10 mg/L前後のmCTが回収され、今回のキメラCTプラスミドの有用性が示された。このCT、mCT 発現系は粘膜アジュバンドとしてのmCTの大量調整に有用である。さらに、合成ペプチド型アジュバント開発に向け、CTのアジュバント活性部位を決定する目的で、mCTの一連の欠損変異遺伝子を作製した。それらはほぼ良好な発現を示し、定法で精製可能であった。今後動物実験によりそれらのアジュバント効果の比較検討を行う予定である。
結論
当研究班ではコレラ菌の産生するコレラトキシン(CT)の粘膜アジュバント効果に注目し、遺伝子工学の手法を応用して毒性がなく、且つ免疫増強作用が維持されている無毒化変異型CT(mCT)やキメラ型 mCT-A/LT-Bの開発を試み成功している。本研究計画ではmCTやキメラ型の自然免疫・獲得免疫での粘膜免疫における免疫増強作用メカニズムについて分子・細胞レベルでの解明を進め、無毒化アジュバント活性ペプチドの合成を試みている。さらに実用化に向けて効率良いmCT・キメラ型産生システムの開発も異なる発現ベクター(例:Bacillus brevis, HPD31-M3, E. coli, pTrc99A)を駆使して、その実用化へ向けて研究を推進している。この研究計画を基盤に「安全で効果のある粘膜アジュバント」を開発し、ヒトへの応用に向けた基礎を確立する目的で研究が展開されている。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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