ツベルクリン検査、BCG等に代わる結核等の抗酸菌症に係る新世代の診断技術及び予防技術の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100685A
報告書区分
総括
研究課題名
ツベルクリン検査、BCG等に代わる結核等の抗酸菌症に係る新世代の診断技術及び予防技術の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 正彦(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 竹森 利忠(国立感染症研究所)
  • 荒川 宜親(国立感染症研究所)
  • 小林 和夫(大阪市立大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ツベルクリン反応に代わる迅速かつ敏感な結核菌感染症の判定を可能にする診断補助検査システムを確立する。特に、アデノウイルス組み換え体を用い、BCG菌と結核菌を識別する免疫学的検査法の開発を目指す。同時に、この組み換えウィルスを呼吸器粘膜免疫をターゲットとした抗結核ワクチンとして利用し、その有効性を検討する。遺伝子増幅法による非結核性抗酸菌症の迅速鑑別診断法に用いる標的遺伝子領域を新たに検索し臨床応用を図る。抗酸菌感染症特有の病変を誘導する病原性因子、特に結核菌やらい菌の病原性の本質を規定している因子について明らかにし、より特異的な化学療法剤や有効なワクチン開発のためのターゲット遺伝子を特定する。病原性因子の一つである遅発育性をもたらす抗酸菌遺伝子を同定する。炎症、特に肉芽種性炎症を誘導する抗原の分子機構解析を行うが、結核菌細胞壁は脂質に富み、特に、trehalose 6,6'-dimycolate(TDM)は結核菌表層に存在する特徴的な糖脂質成分である。従って、結核菌細胞壁由来TDMに対する宿主免疫応答および炎症応答における分子機序を明らかにする。抗酸菌感染症に対する生体防御反応を総合的に理解するため、抗酸菌感染にともなう宿主細胞(マクロファージ)遺伝子発現変化をDNAアレイを用いて明らかにし、病因の解明とともに新たな治療法の標的分子の探索とその確立を目指す。BCGに代わる結核ワクチン開発を目的に、以下の三つの研究を展開する。その一つは、より簡便で有効な不活化法であるガンマー線照射した結核菌が抗結核ワクチンとして有効であるか否かを明らかにする。第2に、リコンビナントワクチンの開発および免疫療法の開発に向けて、抗酸菌を分画し抗原性分子の分布を検索する。特に、IFN-γを産生するCD4陽性T細胞およびキラー活性を有し、かつ細胞内抗酸菌を直接的に殺戮し得るCytotoxic T lymphocyteにCD8陽性T細胞を分化させ活性化する抗原分子の同定を行う。第3として、リポタンパクに着目する。抗酸菌由来リポタンパクは、自然免疫および獲得免疫の両活性化経路を賦活する可能性があることが知られるため、抗酸菌特異的リポタンパクを大腸菌を用いて精製し、その生物活性、特に免疫学的機構について解析を加える。
研究方法
1:アデノウィルスベクターに、コドンをヒト型に改変したAg85遺伝子を挿入しpShuttle Ag85 GFPを作製し、COS細胞でAg85aの発現を確認した。pShuttle Ag85 GFPとE1E3を除くアデノウィルス遺伝子をもつpAdEasyをBJ5181大腸菌にco-transoformationすることで相同組換えをさせることでpAdAg85 GFPを得る。相同組換え体を293細胞にtransfectionし、リコンビナントウィルスを得た。またAg85a発現ウィルス様粒子(VLP)作製のために、HIV gag蛋白に相当するcDNA断片とAg85aを融合し、シャトルベクターのGAPプロモーター下流に挿入した。このプラスミドを酵母細胞に導入し、培養上清からVLPを精製した。
2:報告されている数種の抗酸菌遺伝子情報をもとにdnaA遺伝子領域内に存在する600bpを診断用遺伝子候補とした。各25種の抗酸菌よりDNAを得てPCRにより増幅し塩基配列を決定した。
3:大腸菌―抗酸菌シャトルコスミドベクターを用いてらい菌ゲノムDNAバンクを作製し、非病原性抗酸菌Mycobacterium smegmatisに導入して性状の変化を調べた。
4:結核菌死菌含有完全FreundアジュバントでTDMを免疫した後、遅延型足蹠腫脹反応を評価した。TDMを静脈および角膜内投与し、肉芽腫炎症や血管新生を形態学的に、また、病変部におけるサイトカイン蛋白発現を酵素抗体法により評価した。TDMの構造?活性連関は抗酸菌類縁Rhodococcus由来TDMの病原性や毒性と比較解析した。
5:DNAマイクロアレイによる感染後の遺伝子発現プロファイリングを行うことにより宿主反応を引き起こす遺伝子群の探索を試みる。
6:BCG生菌および40万ラドガンマー線照射菌の酵素活性、mRNA発現、RNA合成能を調べた。さらに、モルモットに免疫しPPDに対する遅延型過敏症誘導能を検討した。
7:抗酸菌菌膜の抗原性を、樹状細胞とCD4陽性およびCD8陽性T細胞を用いて検索した。目的とした細胞性免疫の誘導の有無は、CD4陽性T細胞のIFN-γの産生、CD8陽性T細胞のIFN-γおよびPerforinの産生を指標として検索した。また、リポタンパク(LpK)は、らい菌遺伝子を用い大腸菌発現ベクターを構築した後、His-Bindカラムにより精製した。LpKの生物活性は、ヒト末梢単球からのIL-12の産生を指標にして解析した。
結果と考察
1:BCG菌・結核菌共通遺伝子Ag85aを組み込んだアデノウィルスを作製し、このウィルス感染細胞が抗原を発現することが免疫学的手法により確認された。また、Ag85a発現ウィルス様粒子(VLP)を作製しgag-Ag85aがVLPで発現されていることをWestern blotにより確認した。Gag-Ag85aの発現効率を検討すると、アミノ酸114-121に相当するAg85a cDNA断片を組み込んだものの発現が良いことが明らかとなった。結核菌感作T細胞への抗原提示には樹状細胞の成熟が必要であり、アデノウィルスベクター及びVLPがそれぞれ感染後樹状細胞に成熟を促し、効率良くBCG/結核菌由来抗原を発現させT細胞活性を誘導するか今後の検討課題である。
2:dnaA領域内の約230bpは、これまで同様の目的で検索された他の領域に比べ、より抗酸菌種特異性が高く鑑別性に優れていることが明らかとなった。
3:約800のコスミドクローンを分離し、そのうち約100クローンをらい菌ゲノム地図上にマッピングした。コスミドB90の導入によりM. smegmatisの遅発育性化が見られた。
4:TDMが血管新生や肉芽腫炎症(異物性および過敏性)を惹起した。分子機序として、TDMが炎症誘導性サイトカインや単球走化性ケモカイン、さらに、細胞性免疫起動性サイトカインを誘導した。TDMの構造・活性連関では、炭素鎖長が病原性や毒性に関与していた。結核菌感染において、血管新生、肉芽腫炎症および細胞性免疫の発現は宿主防御と同時に病変形成にも必須であり、結核菌由来糖脂質は病原因子、かつ、防御抗原であることを示唆している。
5:サイトカインや成長因子とその受容体、細胞内シグナル伝達物質などの他に、これまで抗酸菌感染との関連で注目されていなかった遺伝子についても変化がみられた。
6:照射直後のBCGおよび結核菌の性状は増殖能を除き生菌とほぼ同じであった。照射BCGのモルモットにおける免疫原性も確認されたが、抗原量は生菌の約100倍を要した。照射菌は宿主内増殖が阻害されているため、安全かつ抗原量調節が可能である利点がある。
7:抗酸菌菌膜成分は樹状細胞からIL-12 p70の産生を誘導し、樹状細胞にパルスすると自己のT細胞を刺激し、Th1タイプCD4陽性・Tc1タイプCD8陽性T細胞を活性化した。リコンビナントワクチンとして有用な抗原分子を保有していると考えられた。また、菌膜中に存在する抗酸菌特異的リポタンパクが精製され、IL-12の産生が誘導された。
結論
新しい結核感染診断法のために必要となる結核菌特異的抗原を発現する抗原提示細胞の作製を可能とするベクターが完成された。非結核性抗酸菌鑑別診断法開発に有用な領域が新たに同定された。らい菌ゲノムの約7周分に相当するコスミドクローンをライブラリとして分離して解析し、らい菌の増殖に深くかかわると考えられるDNA領域を同定した。結核菌細胞壁由来TDMは、宿主に抗菌防御反応を惹起させると同時に病変形成を誘導する多機能分子であった。従って、結核菌由来糖脂質は結核の病態解明に重要であり、さらに、免疫介入療法(ワクチンを含む)の開発に有望な候補になる可能を示している。DNAマイクロアレイを用いることにより、種々の遺伝子についてその発現変化動態の全体像が明らかとなり、今後の研究の新しい展開に有用なデータが得られた。ガンマー線照射BCGは免疫誘導活性を有することが明らかにされた。抗酸菌菌膜には、ワクチン候補となり得る抗原性に富んだ分子が存在し、その一つである菌膜成分中の抗酸菌特異的リポタンパクが精製された。

公開日・更新日

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