体外増幅臍帯血幹細胞を利用した成分輸血製剤生産の検討(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100683A
報告書区分
総括
研究課題名
体外増幅臍帯血幹細胞を利用した成分輸血製剤生産の検討(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 俊一(東海大学総合医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 安藤潔(東海大学医学部)
  • 堀田知光(東海大学医学部)
  • 萩原政夫(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸血療法は救急医療、手術、血液疾患の治療などに必須の治療手段であり、今日の輸血医療は健康成人の献血により支えられている。献血の大半が35歳以下の成人により供給されるのに対し、輸血製剤の使用の大半は60歳以上の高齢者によるものである。このような輸血製剤の需要と供給の年齢によるアンバランスは今後わが国が高齢者社会を迎えることを考えると深刻な輸血製剤の供給不足を引き起こしうる重大な問題であり厚生行政の課題として緊急の対策が必要である。一方臍帯血は従来は医療廃棄物として破棄されていたものであるが、最近医療資源として利用できることが注目を集めている。申請者らは成人に対する造血幹細胞胞移植のための細胞供給源として臍帯血を利用するために幹細胞の体外増幅の研究を行いマウス骨髄ストローマ細胞株をfeeder layerとしたユニークな膜分離型共培養系を開発した。この培養系では未分化前駆細胞であるCD34+ CD38-細胞を5日間で約100倍に増幅することが可能であり、効果および安全性に関する前臨床研究を終えた。これらの造血系の再生医学研究の成果を駆使して増幅幹細胞より赤血球、血小板、Bリンパ球などを分化させ輸血製剤(赤血球、血小板、免疫グロブリン製剤)を作成することが可能と考えられる。本研究ではこの培養システムを輸血製剤の作成のために応用することを目的とする。
研究方法
平成13年度は増幅した造血前駆・幹細胞を赤血球、血小板、Bリンパ球、樹状細胞へ分化させるシステムについての基礎的検討を行った。
1.CD34陽性造血幹細胞より赤血球および血小板への分化培養法の検討
臍帯血CD34陽性造血幹細胞を骨髄ストローマ細胞存在下にTPO, FL, SCF存在下に5日間培養した。培養した細胞の表面マーカー、コロニー形成能、SRCアッセイについて検討した。
2.CD34陽性造血幹細胞よりBリンパ球への分化培養法の検討
従来の報告では試験管内でCD34陽性造血幹細胞よりプレBリンパ球までの分化は可能であるが、成熟リンパ球の産生は不可能である。成熟リンパ球産生のため移植宿主の体内でのBリンパ球への分化能を検討した。
上記方法により増幅された臍帯血CD34+細胞のB細胞への分化能を検討するために、増幅後細胞を移植したNOD/SCIDマウスを用いて以下の検討を行った。ヒト造血細胞の生着を確認後、移植後6週目より2週間毎に抗原を腹腔内投与した。用いた抗原はDNP-Ficoll、DNP-OVA、DNP-KLHの3種類である。
3.CD34陽性造血幹細胞より樹状細胞への分化培養法の検討
樹状細胞は最も強力な抗原提示細胞であり、近年さまざまな免疫療法への利用が試みられている。上記体外増幅培養後のCD34+細胞はGM-CSF, IL-4, TNF-α存在下に培養することによりデキストラン貪食能およびアロ抗原反応性CTLを誘導可能な樹状細胞に分化する。
結果と考察
以下のような結果をえて、それぞれについて考察を行った。
1.CD34陽性造血幹細胞より赤血球および血小板への分化培養法の検討
CD34陽性造血幹細胞は約13倍に増幅した。これらをSRCアッセイすると培養前後でSRC頻度がほとんど変わらない(前でCD34陽性細胞中1/46000、後で1/48000)ことからSRCレベルでも12倍程度の増幅が得られていることが確認された。このような培養系で5日間の増幅培養後、赤血球分化培養(20%FCS, 10%HS, IL-3 100u/ml, SCF 100ng/ml, EPO 4U/mL、Blood 92, 443, 1998)で8日間培養すると総細胞数で100倍に増加し、赤血球系マーカーであるGlycophorin A陽性細胞は70%以上であった。これらは形態的にも赤芽球であった。また同様に5日間の増幅培養後、巨核球分化培養(IL-1 10ng/ml, IL-6 25ng/ml, IL-11 25ng/ml, SCF 25ng/ml, TPO 50ng/mL、FL50ng/mL Blood 91, 4118, 1998)へ細胞を移すと14日目までに総細胞数で100倍に増加し、巨核球系マーカーであるCD41陽性細胞は60%以上であった。ただし、形態学的には8N程度の幼弱な巨核球であった。以上より申請者らの方法により得られた増幅CD34陽性造血幹細胞を赤血球および血小板へ分化させる培養条件を見いだすことが可能であった。
2.CD34陽性造血幹細胞よりBリンパ球への分化培養法の検討
14週後の骨髄、脾臓、末梢血の解析ではCD19+細胞の中でCD10+の未熟B細胞は骨髄で87.1±1.1%、脾臓で14.3±2.2%、末梢血で38.6±3.8%、一方sIgM+の成熟B細胞は骨髄で28.4±2.1%、脾臓で88.8±3.4%、末梢血で76.4±1.2%という分布を示した。これは臓器特異的なB細胞分化を反映するものと解釈される。また、抗DNP抗体をELISAにより測定した。対照群では抗DNP抗体を検出しなかったが、DNP-Ficoll投与群で3/5、DNP-OVA投与群で3/4、DNP-KLH投与群で4/4で抗DNP抗体を検出した。さらにDNP-KLH投与群の2匹のマウスで抗DNP抗体のクラスを測定したところIgMが主要な抗体クラスであったが、微量のIgGも検出された。以上の結果より増幅された臍帯血CD34+細胞より分化したB細胞はマウス体内で胸腺非依存性抗原(DNP-Ficoll)に反応して特異的抗体を産生するだけでなく、胸腺依存性抗原(DNP-OVA、DNP-KLH)にも反応して特異的抗体(IgM、IgG)を産生しうることを示している。 
3. CD34陽性造血幹細胞より樹状細胞への分化培養法の検討
単一の臍帯血CD34陽性細胞より上記樹状細胞誘導培養により28日後には166個のCD83あるいはCD1a陽性細胞が得られるのに対し、5日間の体外増幅培養後に樹状細胞を誘導することにより1個の臍帯血CD34陽性細胞より3200個の同様の細胞が得られる計算となり、樹状細胞を多量に得て免疫療法を行う上でもわれわれの幹細胞体外増幅系は有用であると考えられた。
臍帯血移植後にはその免疫能の未熟性からEBウィルス、サイトメガロウィルスなどの感染症、原病の再発などが懸念されている。ウィルス特異的抗原遺伝子や腫瘍特異的抗原遺伝子を導入した樹状細胞は免疫療法に有用であると期待される。
われわれはレンチウイルスベクターで遺伝子導入されたヒト臍帯血CD34+細胞を上記体外増幅培養系で4日間培養することにより9倍の増幅が可能でありSRC活性を保持することを確認した。さらにこれらの細胞はGM-CSF, IL-4, TNF-α存在下に培養することにより樹状細胞に分化させることが可能であり、10-14日後には遺伝子導入CD34+細胞数と比較して190倍の遺伝子導入樹状細胞が得られた。レトロウィルスベクターを用いた場合には分化後遺伝子発現が消失したのに対しレンチウィルスベクターを用いた場合には良好な発現が認められた。これらの細胞は機能的にもCTLを誘導することができる成熟樹状細胞であった。単球由来樹状細胞はレンチウィルスベクターで遺伝子導入するとviabilityが低下すること、また増幅効率が低いことが知られている。従って遺伝子導入幹細胞の体外増幅は効率の良い遺伝子治療に利用可能であると同時に、免疫遺伝子治療にも応用可能であると考えられた。
本研究の目的が達成されるなら、臍帯血は感染に暴露されていないため感染症などの危険を伴わない安全な輸血製剤の安定供給、感染症などの輸血合併症発生による医療コストの軽減、高齢者社会における輸血製剤の需要と供給のアンバランスの解消、臍帯血バンクにより確立した臍帯血供給のインフラを保存目標達成後も有効利用、新たな医療技術の開発による関連産業の生成発展など広範な成果が期待される。
結論
臍帯血中のCD34陽性造血幹細胞から赤血球、顆粒球、B細胞、DC細胞、血小板などの各種血球を分化誘導し体外で増幅することが可能となった。

公開日・更新日

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