造血幹細胞からの成熟赤血球、血小板誘導システム構築に関する研究

文献情報

文献番号
200100681A
報告書区分
総括
研究課題名
造血幹細胞からの成熟赤血球、血小板誘導システム構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
平家 俊男(京都大学医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
造血幹細胞移植は、骨髄、末梢血、臍帯血から採取され、種々の悪性腫瘍、血液免疫疾患、遺伝性疾患の根本的治療法として確立している。一方、医療現場からは、この造血幹細胞移植の必要性とともに、従来よりの分化型造血細胞である赤血球、血小板輸注の需要も益々増加の一途をたどっている。現在、このような血液製剤の確保は、国民の善意の献血に依存しており、その確保に困難を伴う。また、感染症等の事故の発生の危険も伴う。これらの問題を解決するため安全で安定した血液製剤の供給が切望され、その1つの方法として幹細胞よりの分化誘導による血液製剤の開発が有望視されている。しかし、造血幹細胞より脱核赤血球や血小板の形成は、in vitroの系では十分には認められない。血小板産生を促進すると期待されてきたthrombopoietinも十分な血小板成熟作用を有しない。そのため、この研究は、in vitroにおいて造血幹細胞より脱核赤血球、血小板を形成させる基盤技術の開発を行ない、安定した血液用製剤の供給が行えるシステムの確立を目的とする。
研究方法
造血幹細胞からの成熟赤血球、血小板誘導システム構築に関する研究を遂行するにあたり、1)評価システムの確立、2)成熟赤血球、血小板誘導に効率よいサイトカインの組み合わせの絞り込み、および新規分子の同定、3)臨床応用にむけた大量培養システムの開発が検討事項として上げられる。
1)での研究方法として、a) in vitroにおけるヒト造血細胞分化のアッセイ系の確立、b) NOD/SCIDマウスにおいてヒト造血幹細胞移植による成熟ヒト赤血球、血小板の形成が上げられる。造血細胞の分化能の検定は、従来半固形培地であるメチルセルロースを用いた培養系で検定されてきた。しかし、この方法では経験的な形態学にもとづいて判定せざるを得ず、その詳細な判定には困難をともなうことがある。今回この培養系を基に、メチルセルロースに替わってコラーゲン液を含む培地で培養し、形成された分化細胞を二次元に固定、染色することにより、脱核ヒト赤血球や血小板の形成について容易に判定できるシステムの開発を行う。また、作成された細胞のin vivoでの評価システムとして、ヒト造血細胞の効率よい生着を認めるNOD/SCIDマウスに作成細胞を移植することにより、その効果を判定する。さらに、前駆細胞移植を行った場合、成熟型赤血球、血小板移植に比し、増加細胞数、持続期間等の優位性についても検討する。
2)での研究方法として、a) 体外増幅ヒト造血幹細胞を用いた成熟ヒト赤血球、血小板の作成 b) cell lineを用いた赤血球、血小板成熟に係わる分子の同定が上げられる。さまざまなサイトカインを用いた成熟赤血球、血小板誘導システムの開発が検討されている。我々は、従来よりIL-6/sIL-6Rを用いたヒト造血幹細胞の増幅を試み成果を上げている。IL-6/sIL-6Rを用いた増幅培養は、増幅効率のよい未熟造血細胞に作用するため、高い増幅率が得られるものと思われる。今後、このシステムを利用し、増幅期、分化誘導期に分けて、至適条件を変更することにより、赤血球、血小板分化にコミットメントした前駆細胞の増幅にも適応できないか、さらに、より赤血球系、血小板系への分化成熟に向かわせるために必要なサイトカインの組み合わせについても検討することを目的とする。さらに、現在同定されていない未知の分化成熟因子の同定を、赤血球、血小板系に分化するヒトcell lineであるK562, HEL、 CMKを用いて行う予定である。
3)臨床応用にむけた大量培養システムの開発として、培養バッグを用いた閉鎖系培養システムの開発を行う予定である。ヒトに投与できる細胞製品としてのGMP基準を満たすためには、閉鎖系バッグを用いたシステムの開発が必須である。この場合、ガス交換、メディウムの継ぎ足し、培養中のサイトカインの細胞増殖に伴う相対的不足、疲弊、さらに培養途中での要求サイトカインの変更を閉鎖系バッグのシステムの中に組み込む必要があり、それらを網羅したシステムの開発を目指す。さらに、解凍後の凍結臍帯血のバイアビリティーにも問題を残している。大量の成熟赤血球、血小板を確保するためには、増幅効率の向上に加えて、スタート時点での細胞数、バイアビリティーを確保する必要がある。これらの観点よりも、凍結臍帯血の取扱いに関して、検討する。
結果と考察
1)評価システムの確立、2)成熟赤血球、血小板誘導に効率よいサイトカインの組み合わせの絞り込み、3)臨床応用にむけた大量培養システムの開発に関して検討を行った。
1)評価システムの確立としての a) in vitroにおけるヒト造血細胞分化のアッセイ系の確立、b) NOD/SCIDマウスにおいてヒト造血幹細胞移植による成熟ヒト赤血球、血小板の形成について検討した。従来よりの半固形培地であるメチルセルロースを用いた培養系で検定には習熟している。今回この培養系を基に、コラーゲン液を含む培地で培養し、形成された分化細胞を二次元に固定、染色することにより、脱核ヒト赤血球や血小板の形成について容易に判定できるシステムの開発を行なった。その結果、1つ1つのコロニーの構成する細胞について、形態学的特徴に加えて染色による判別が可能となった。そのため、作成された赤血球、血小板の成熟度の判定も正確に行えるようになった。また、NOD/SCIDマウスを用いたin vivoでのヒト血液細胞分化の評価システムを開発するために、ヒト臍帯血CD34;細胞をNOD/SCIDマウス移植し、ヒト赤血球、血小板の出現について検討を行った。その結果、glycophorinA陽性細胞、ヒトCD41b陽性細胞、ヒト血小板の出現を確認した。これらの結果により、マウスの個体を用いて、ヒト造血細胞の検索が可能であることが判明した。しかし、明らかなヒト赤血球の出現は確認されていない。今後、これらのシステムを改善し、より効率よりヒト赤血球、血小板の産生およびその機構の解明を行う。
2)成熟赤血球、血小板誘導に効率よいサイトカインの組み合わせの絞り込みにいたる前段階として、我々は現在までに、ヒトIL-6/sIL-6Rを含むサイトカインの組み合わせにを用いることにより、著明に効率よい未熟ヒト造血幹/前駆細胞の増幅が可能であることを明らかにしている。今回、このサイトカインの組み合わせが、ヒト赤血球、血小板の形成にも有効であることが明らかとなった。我々は、ヒト臍帯血CD34+細胞はすべての細胞がgp130を発現しているのに比べ、IL-6Rについては、発現細胞、非発現細胞に分類されることを明らかにしている。今回の我々の結果は、IL-6Rを発現していない未熟造血幹にサイトカンが作用することにより、効率よい未熟細胞、赤血球、血小板にコミットメントした細胞の増幅が行われた結果と考えられる。今後、サイトカインの組み合わせを検討し、特化した細胞の分化制御を行うことにより、より有効な成熟赤血球、血小板形成を試みる。例えば、サイトカインの組み合わせを、増幅期、分化期に応じて適正化し、2段階方式のサイトカインの組み合わせを用いて増幅期、分化期に合わせた組み合わせを使用することも、1方策と思われる。
3)臨床応用にむけた大量培養システムとして、凍結保存してある臍帯血CD34陽性細胞を用いたヒト赤血球、血小板の作成が最も実行可能な計画であると思われる。しかし、現在臍帯血輸血においては、凍結臍帯血を融解後直ちに生体に投与している。今回、我々は、これらの細胞を融解後ex vivoで処理を行うことで成熟型赤血球、血小板の生成を目指すが、融解後の細胞の性状に関しての検討はほとんどなされていない。効率よい成熟型赤血球、血小板の生成のためには、融解後の細胞を様々な処理を加えてもバイアビリティーが維持されるシステムの開発に加えて、臨床応用を前提とした動物蛋白質を含まない培養液を用いた細胞培養、また感染防止等の安全性の面より閉鎖系を用いた系の開発を開始した。まず、融解後の細胞には死細胞が多く含まれ、それに由来する集合塊により細胞の回収率が低下することが判明した。今後、我々は、ヒトアルブミン、dextran, Dnase等の試薬を加えることにより、生細胞の効率よいCD34+細胞回収システムの開発を検討する。
結論
ヒト臍帯血由来CD34+細胞を用い、IL-6/sIL-6Rを含むサイトカインの組み合わせで、未熟細胞のみでなく、赤血球系、血小板系へコミットメントした前駆細胞の増幅が行えることを明らかにした。今後、このシステムを用いて、より赤血球系、血小板系への分化に特化したシステムの開発をめざす。また、それらの評価システムとして、in vitroにおけるコロニー染色法、in vivoの系としてNOD/SCIDマウスをベースにしたヒト造血細胞のアッセイ方法を確立した。今後、臨床応用に向けて必要とされる臍帯血の培養システムの開発を目指す。

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