病原微生物の増殖を阻害する人工ヒト免疫グロブリンの開発

文献情報

文献番号
200100679A
報告書区分
総括
研究課題名
病原微生物の増殖を阻害する人工ヒト免疫グロブリンの開発
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
井原 征治(東海大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 橘 裕司(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定の遺伝子産物を認識しその活性を阻害する人工抗体は、合成医薬とは異なる作用機作をもつ。認可を得た抗体医薬は世界で10種に及び、高い治療効果が認められている。欠点は、これらのすべてがキメラ抗体かヒト化抗体で分子中に異種動物の配列を含み、長期の使用では不都合を生ずる可能性があることである。この点を解決するために、我々は完全ヒト抗体の作成研究を推進してきた。本申請研究は、難治性の感染症を標的に、病原体の増殖に必須な遺伝子産物と強く結合して増殖阻害をする完全ヒト抗体を作製し、医療の現場で使用することを最終目標とするものである。第一の対象は、HCMVに対する中和抗体の分離である。臓器移植医療では免疫抑制剤の使用が必須であるが、免疫能の低下に伴い日和見感染が発生し、特にHCMV感染症は重篤化する例が多い。そこで、HCMVの増殖を強く阻害する中和抗体の作製を行う。また、HCMV感染者では液性免疫が十分働かない現象が知られているが、2001年にその原因となる遺伝子産物が同定された。この物質を不活化する問題にも取り組む。第二の対象は、抗マラリア抗体の分離である。熱帯熱マラリア原虫のMSP-1,SERAなどのタンパク質に生体防御エピトープが存在するが、これらに対する抗体を作製し、抗マラリア薬が効かない薬剤耐性株への応用、海外渡航時の予防薬として使用する。
研究方法
実験方法は(A)ファージディスプレイ法、(B)ヒト染色体断片を持ちヒト抗体を作るKMマウスの免疫を行う、もので、HCMVの中和抗体(抗gB抗体、抗gH抗体)および、熱帯熱マラリア原虫、および赤痢アメーバの細胞吸着因子に対する抗体の作製や改変を行う。HCMVの中和抗体の場合は、健常人あるいはHCMV感染発症者で回復期のヒトから献血を受けB細胞にEBVを感染させる。培養上清の検索で抗gB抗体、抗gH抗体が検出できたウェルの細胞からRNAを抽出してFabライブラリーを作製する。このFabライブラリーからスクリーニングにより中和抗体クローンの分離を行う。ヒト抗体はKMマウスの免疫でも得る。KMマウスはチオレドキシン融合-gH, 同-gB, ウイルス粒子で免疫する。抗体上昇後に脾臓を摘出してハイブリドーマ細胞を作製し、また骨髄細胞RNAを使用してFabライブラリーを作製し、抗体のスクリーニングを行う。また抗マラリア抗体の場合は、抗マラリア抗体陽性者の血液からFabライブラリーを作製し、細胞吸着因子MSP-1に対する抗体クローンのスクリーニングを行う。また、研究者をMSP-1で免疫し、血液からFabライブラリーを作製する。赤痢アメーバ表面レクチン認識ヒト抗体CP-33のCDR3の改変を行い、親和活性の上昇したクローンの分離を行う。
結果と考察
健常人でHCMV抗体陽性者のサンプルからは、抗gH IgG抗体を分離した。また、HCMV感染発症者で回復期にあるヒトの血液からは、抗gB、抗gH抗体陽性の細胞を得ており、現在Fab抗体クローンの分離を行っているところである。KMマウスの脾臓を使用したハイブリドーマ細胞からは、目的抗体の分離は現在までは成功していない。現在KMマウスは各種抗原で免疫しているが、抗体が上昇した段階で細胞融合を行っていく。ウイルス粒子で免疫したKMマウスの骨髄から作製したFabライブラリーからは、抗gB C端 IgM抗体クローンを数株分離した。蛍光抗体法による分析でHCMV感染細胞に特異的に反応し、また中和実験でウイルスを中和することを確認した。HCMVには5種の中和抗体の存在が知られている。今年度はそのうちの2種を分離したが、現在の準備状況から次年度はさらに2種の分離ができる可能性が高い。抗マラリア抗体陽性者血液からFab抗体を作製したが、スクリーニングで現在までに、細胞吸着
因子に特異的な抗体の分離は成功していない。また、MSP-1で免疫した研究者血液からFabライブラリーを作製し、現在スクリーニングを行っている。CP-33のCDR3の改変を行い、アミノ酸の置換を行ったが、親和活性が約10倍になったクローンが分離できた。以上の結果のように、ヒト血液を材料にする場合も、KMマウスを免疫して骨髄を材料にする場合も、ファージディスプレイ法でヒト抗体遺伝子をクローニングする事に成功した。ただし、ヒト血液を使用する場合は高値の抗体陽性者をスクリーニングすることが重要で、低値抗体保有者の血液からは抗体遺伝子のクローニングは成功しなかった。またKMマウスは、抗原によっては抗体価の上昇が見られない場合があり、抗原の種類の検討が必要であった。また同様にアジュバントの選択も重要である。組み換えMSP-1で免疫した研究者血液から作製したFabライブラリーは、今後のスクリーニングで抗体遺伝子の分離が期待できる。CP-33ではCDR3のアミノ酸配列を改変することにより親和性を高めることに成功したが、今後この技術を他の抗体にも応用することを検討する。
結論
ヒト血液および免疫KMマウスの骨髄を使用し、ファージディスプレイ法でHCMV中和抗体遺伝子の分離を行った。その結果、ヒト血液からは抗gH IgG抗体が、またウイルス粒子で免疫したKMマウスからは抗gB C端ヒトIgM抗体が分離できた。抗マラリア抗体の場合は、熱帯熱マラリア原虫感染者の血液と、細胞接着因子MSP-1で免疫した研究者の血液を使いFabライブラリーを作製した。現在スクリーニングを行っている。また赤痢アメーバ虫体表面レクチンを認識するヒト抗体CP-33のCDR3のアミノ酸配列を改変し、親和活性が10倍高いクローンの作製に成功した。

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