新規機能を付与した人工プロトロンビン製剤の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100678A
報告書区分
総括
研究課題名
新規機能を付与した人工プロトロンビン製剤の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
森田 隆司(明治薬科大学生体分子学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プロトロンビン遺伝子に変異を導入し、活性化中間体メイゾトロンビンを安定かつ大量に発現させ、抗血栓製剤を創薬することを目的とする。今年度はトロンビン領域のフィブリノーゲン相互作用部位にさらに変異を導入し、メイゾトロンビンのフィブリノーゲン凝固活性を完全に消失させ、より安全な抗血栓薬を開発する。
研究方法
1. ヒトプロトロンビン遺伝子の変異導入とその発現
今年度は、プロトロンビン分子のトロンビン領域の2カ所の部位に、さらに変異を導入した。即ち、a-トロンビンのNa+結合部位であるAsp554残基とTyr557残基を、部位特異的変異導入法により、それぞれAla残基とLeu残基へ、またTyr557をPro残基へ置換した。これらをそれぞれPT-DA554、PT-DL554、PT-YP557と命名した。Glu466からLys474は自己消化領域として知られているが、その欠失変異体ではNa+結合性の低下が報告されている。この知見を参考にし、Glu466-Lys474(PT-D474)とGlu466-Thr469(PT-D469)の欠失変異体も作製した。これらの新規の変異プロトロンビン4種を加えて、合計9種のプロトロンビン遺伝子をCMVプロモータ下流に組み込んだ発現コンストラクトを作製し、COS-7細胞にトランスフェクションした。なお、C末端には検出・精製のためにmyc-tag, His-tagを導入した。発現した組換えプロトロンビンは培地中に分泌されるため、精製を容易にするためにトランスフェクション後24時間の時点で無血清培地に交換し、さらに48時間ごとに培地を回収・交換して発現タンパク質を回収した。培地の一部分をSDS-PAGE、イムノブロットにより発現を確認した後、His-tagを利用してNi-NTA カラムによる精製を行なった。
2. 発現プロトロンビンの生理機能解析
精製組換え体をプロトロンビンアクチベーターであるエカリン(ecarin)を用いて活性化し、組換え体のトロンビン合成基質(Boc-Val-Pro-Arg-pNA)の水解活性を測定した。また、活性化組換え体については、SDS-PAGE、イムノブロットによりその活性化の有無を評価した。次に生成したトロンビン誘導体のフィブリノーゲン凝固活性を測定した。プロテインCの活性化能については、組換え体をエカリンにより活性化した後、プロテインCを37°C、30分間活性化させ、プロテインCの特異的合成基質(Boc-Leu-Ser-Thr-Arg-MCA)を用いて測定した。プロテインC活性化反応液には組換えトロンボモジュリンとリポソーム(リン脂質小胞)をそれぞれ終濃度 40 nM、100 mMとなるように加えた。
結果と考察
1. ヒトプロトロンビン遺伝子への変異導入と発現
変異導入した組換えプロトロンビンをCOS-7細胞にて発現し、Ni-NTA カラムで精製した。ここでは野生型PT-tagの結果を示してあるが、他の変異体についても同様の結果であった。組換えプロトロンビンの精製はC末端に導入したHis-tagを利用することにより、一回の精製操作でほぼ単一にまで精製され、血漿プロトロンビン精製に比べ非常に簡便であった。また、精製過程でプロトロンビン組換え体の活性化や分解が起こりにくく、取り扱いが容易となった。
2. 発現プロトロンビンの生理機能解析
① プロトロンビンの活性化様式:精製した組換えプロトロンビンをプロトロンビンアクチベータ(エカリン)で活性化した後、SDS-PAGE、イムノブロットを行なった。還元条件下では全ての組換え体はエカリン処理により活性化されており、B鎖が検出された。一方、未還元条件下ではPT-tag、PT-RA155ではa-トロンビン、PT-RA271ではメイゾトロンビン(des F1)が検出された。PT-MTとその派生変異体では何れもプロトロンビンと大きさが変わらないメイゾトロンビンが検出された。以上より、組換えプロトロンビンに対するエカリンの基質特異性は変化せず、予想された活性化型に活性化されていた。
② 活性型組換え体の生理機能:精製組換え体のトロンビン合成基質水解活性を測定した。水解活性はa-トロンビンに活性化されるPT-tag、PT-RA155、メイゾトロンビン(des F1)に活性化されるPT-RA271で、標準のヒトプロトロンビンと同程度であった。一方、メイゾトロンビンに活性化されるPT-MTはヒトプロトロンビンの約40%であり、PT-DA554、PT-DL554、PT-D469はいずれも約20%程度であった。PT-YP557とPT-D474にはBoc-VPR-pNA水解活性が全くなくプロテアーゼとしての機能を失っていた。従って、フィブリノーゲン凝固活性とプロテインC活性化能の検討を行なう実験には、a-トロンビンとなるPT-tag、メイゾトロンビン(des F1)となるPT-RA271、そしてメイゾトロンビンとなるPT-MT、PT-DA554、PT-DL554、PT-D469の6種を用いた。フィブリノーゲン凝固活性とプロテインC活性化能を検討した。PT-tagはヒトプロトロンビンと同様のフィブリノーゲン凝固活性とプロテインC活性化能を有していた。PT-RA271はプロテインC活性化能が野生型より1.3倍高く、フィブリノーゲン凝固活性が1/6程度に減少し、相対的なプロテインC活性化能は野生型の約8倍に上昇した。PT-MTではプロテインC活性化能が14倍と著しく上昇し、フィブリノーゲン凝固活性が1/10に減少したため、相対プロテインC活性化能は124倍と非常に高くなった。さらに、Asp554に変異を導入したPT-DA554とPT-DL554では、フィブリノーゲン凝固活性がさらに低下したので、相対プロテインC活性化比は、それぞれ140倍、260倍に上昇した。さらに、自己消化部位であり、またNa+結合に関与するGlu466-Thr469の領域を欠失したPT-D469では、プロテインC活性化能は16倍程度の上昇であるが、フィブリノーゲン凝固活性が1%以下と非常に低いため、相対プロテインC活性化比は1600倍へと著しい上昇を示した。
メイゾトロンビンとその派生変異体は活性化後にもフラグメント1を保持するため、フラグメント1に存在するGlaドメインがリン脂質と相互作用し、リン脂質上により積極的にメイゾトロンビンを局在化させているものと推察できる。また、PT-DA554とPT-DL554についても、他のフィブリノーゲン相互作用部位に変異を導入することで、同様の活性を有する変異体を作製出来るものと考えている。さらに、トロンボモジュリンとの相互作用部位についてはより相互作用を強める変異を導入することにより、さらにプロテインC活性化能を上昇させ得ると考えている。
結論
以上の結果から、今回新規に作製したPT-D469はフィブリノーゲン凝固活性を全く持たず、且つプロテインC活性化能を有していたので、当初のプロトロンビン変異体の創薬目的に完全に合致することが明らかとなった。最終年度には、組換えプロトロンビン遺伝子をアデノウィルスベクター発現の実験系と組み合わせることにより、簡便な動物個体内での発現系を構築する。現在、組換えプロトロンビン遺伝子をシャトルベクターに組換えなおし、非自己増殖性アデノウィルスゲノムへの組換えを行なっている。作製した組換えプロトロンビン発現アデノウィルスは、マウス等への投与により、最終年度の計画にある、in vivoにおける組換え体の評価に使用することができると考えている。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-