臨床応用に向けた抗 HCV ヒト型抗体の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100675A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用に向けた抗 HCV ヒト型抗体の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 善治(大阪大学微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 森石恆司(大阪大学微生物病研究所)
  • 鈴木哲朗(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国には二百万人以上ものHCVキャリヤーが存在すると推定され、HCV 感染と肝癌発症の相関も血清学的に証明されている。しかしながら、HCV を増殖できる細胞培養系が存在しないため、これまでのウイルス感染症で用いられてきた感染の中和やウイルスの排除を担う液性及び細胞性免疫反応の解析は進んでいない。我々はこれまでにファージディスプレー法、ならびに、ヒト型抗体を産生できるトランスジェニックマウスを免疫して、HCV のエンベロープ蛋白による細胞融合活性を阻害できるヒト型抗体を取得しており、HCVに持続感染しているチンパンジーを用いて、in vivo での活性評価を進める。また、HCVの感染機構解析の手始めとして、HCVの細胞膜受容体の解析を進めることを目的とする。また、HCV Type1b型は日本国内では多くみられるものの、より患者数の多いアメリカでは Type1a型の割合が多い事が知られている。E1蛋白およびE2蛋白は1a型と1b型の間でアミノ酸レベルで約80%の相同性を持っているが、糖鎖修飾様式に違いがあることなどが知られており、ウイルス粒子が形成される時に、細胞への親和性、感染性などにどのような違いが生じるのかについては、未だ明らかにされていない。そこでType 1b型の発現系に加え、1a型由来のE1およびE2蛋白を被ったシュードタイプウイルスの作製するため、Type 1a型由来のHCV E1、E2蛋白の細胞表面発現系の構築を目的とした。
研究方法
1)ヒト型抗体のチンパンジーでの評価へ向けた準備;慢性C型肝炎から自然治癒された方からインフォームドコンセントを得た後、末梢リンパ球を採取して得られた抗HCVエンベロープヒト型抗体、ならびに、ヒト抗体を作る事が可能なトランスジェニックマウス(ゼノマウス)を組換えエンベロープ蛋白で免疫して得られた抗HCVエンベロープヒト型抗体の大量培養と安全性評価を開始した。2)HCVのエンベロープ蛋白を粒子表面に被ったシュードタイプウイルス及びレポーター遺伝子の活性を指標とする高感度な細胞融合検出系を構築した。これまでの成績から、HepG2 細胞にHCV のエンベロープ蛋白による細胞融合ならびにエンベロープ蛋白を持ったシュードタイプウイルスの感染を担うヒトCD81分子以外の蛋白因子の存在が示唆される。そこで、HepG2細胞の膜画分を抗原としてマウスを免疫し、細胞融合を中和できるヒト型モノクローナル抗体を作製し、これをプローブとしてHCVの細胞膜受容体の解析を進める。3) Type 1a型のHCV遺伝子として、感染性クローンであるH77c株を用いた。H77c株のE1、E2遺伝子を鋳型としてPCRを行ない、各C末端の膜貫通領域を除いた親水性領域(E1: aa191-340, E2: aa383-711)のみを増幅させた。これらの断片の5'-末端にVSV-G蛋白のシグナル配列を、3'-末端にG蛋白の膜貫通領域と細胞質内領域の遺伝子をそれぞれ結合させた。それらをpCAGベクターのプロモーターの下流に挿入し、発現プラスミド(pCAGv340v/ H77c、pCAGv711v/H77c)を構築した。得られたプラスミドをヒト腎由来293T細胞へトランスフェクションし、48時間後に細胞を回収した。その一部をスライドグラスに固定して蛍光抗体染色を行ない、また残りのサンプルについてウエスタンブロット法を行なった。
結果と考察
1)慢性C型肝炎から自然治癒した症例から得られた抗HCVエンベロープヒト型抗体、ならびに、ゼノマウスを免疫して得られた抗HCVエンベロープヒト型抗体の大量培養と安全性評価を開始し、今年の夏には精製抗体をチンパンジーを用いた in vivo での活性評価の目処が付いた。2) HepG2細胞の膜画分を免疫し、HCVの細胞融合を中和でき
るモノクローナル抗体を4クローン得た。この抗体を用いて細胞表面因子の精製を開始した。3)HCV Type 1a型E1、E2蛋白の発現プラスミドを構築した。4)HCV研究の最重要課題は、信頼できる細胞培養系の開発である。これまでに多くのグループからHCVに感受性を示す細胞培養系が報告されているが、いずれも高感度ではあるが信頼性に欠ける遺伝子増幅法でウイルスの複製を検出したものばかりである。本研究で得られた中和抗体をプローブとして、HCVの感染に重要な宿主因子の解析を進めていきたい。また、HCVの細胞融合活性をin vitro で中和できるヒト型抗HCVエンベロープ抗体の活性をin vivoでも証明できれば、慢性C型肝炎に対する治療薬としての可能性も期待できると思われる。さらに、この様な中和抗体と反応できる抗原をデザインすることにより、慢性C型肝炎に対する治療用ワクチンの開発も可能になると考えられる。
結論
1)慢性C型肝炎から自然治癒した症例から得られた抗HCVエンベロープヒト型抗体、ならびに、ゼノマウスを免疫して得られた抗HCVエンベロープヒト型抗体の大量培養と安全性評価を開始した。2) HCVの細胞融合活性を中和できるモノクローナル抗体を4クローン得、この抗体を用いてHCVの感染に重要な細胞因子の検索を開始した。3) HCV Type1a型由来のE1、E2蛋白を細胞表面に発現するコンストラクトを作製した。

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