臨床応用を目的とした生体機能代替可能な人工赤血球の開発に関する研究(総括研究報告書) 

文献情報

文献番号
200100674A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用を目的とした生体機能代替可能な人工赤血球の開発に関する研究(総括研究報告書) 
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
北畠 顕(北海道大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐久間一郎(北海道大学医学部附属病院)
  • 藤井 聡(北海道大学医学部附属病院)
  • 仲井邦彦(東北大学大学院医学系研究科)
  • 藤堂 省(北海道大学大学院医学研究科)
  • 劔物 修(北海道大学大学院医学研究科)
  • 小田切優樹(熊本大学薬学部)
  • 並河和彦(麻布大学獣医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人工赤血球の中で、ヘモグロビン(Hb)修飾体では分ヘムが一酸化窒素(NO)を失活させ、血管収縮・血小板凝集を惹起する問題がある。本研究班ではHbβ鎖のSH基にNOを結合させたS-ニトロソHb(SNO-Hb)を素材とした人工赤血球の実用化をめざし、研究を進めている。現在までに、臨床適合性向上および分子サイズ増加を企図したポリエチレングリコール修飾体(SNO-PEG-Hb)を作製し、その生体適合性を検討してきた。SNO-PEG-Hbは脳へ酸素を供与でき、イヌ虚血心モデルで心筋代謝を著明に改善させる。本研究班は平成12年度からはその臨床応用をめざし、ラットの急性毒性試験で肝腎毒性が低いことを確認し、さらにイヌの寄生虫性急性貧血に対する有効性確認実験を開始した。平成13年度はこれらを続行するとともに、臨床適応拡大の一環として、脳虚血-再開通障害治療への応用の可能性を検討した。また、人工血管のコーテイング等への臨床応用に関する検討を行った。さらに本研究班では新規パーフルオロカーボン(PFC)製剤創製をめざし、平成10年度より最新式乳化機を用いたPFC用エマルジョンの改良を開始し、平成11年度には粒子として安定でありステルス性を兼ね備えた新規エマルジョン数種が創製された。平成12年度からは、臨床への応用を考え、小児心臓手術をシュミレートしたイヌ人工心肺モデル実験、およびラット移植肝臓保護実験を開始した。平成13年度はこれらの実験をさらに進めるとともに、新規製剤の急性毒性試験をラットで行った。また、PFC製剤を保護液へ添加する際にはアルブミンの併存が重要と考えられることより、アルブミンを含めた蛋白とPEG製剤との相互作用を検討した。
研究方法
イヌの原虫感染症に伴う急性貧血へのへモグロビン修飾体の応用実験では、ビーグル犬にBabesia gibsoni原虫感染血液を静脈内接種して感染させ、急性貧血を惹起した。貧血が顕著となる日からPEG-Hbを体重1kgあたり1.5gとなるように、7.5%溶液を20ml/kgの割合で5日連続して静脈内投与し、貧血の回復と原虫の抑制状況を観察した。SNO-PEG-Hbの脳虚血-再開通障害モデルにおける検討では、10~15週齢のWistar系雄性ラットを用い、両側総頚動脈10分間閉塞による2VOモデルを作製し、SNO-PEG-Hbを脳虚血-再開通直後に尾静脈内へ250 mg/kg投与した。海馬長期増強 (LTP) の測定では、脳虚血-再開通後4日目に、ハロセン麻酔下、通線維に刺激電極を、歯状回に記録電極を挿入してLTPを記録し評価した。また、LTPの測定に先立ち、学習記憶関連行動の検討としてY-迷路試験による自発交替行動を観察した。人工血管のコーテイング等への臨床応用に関する検討では、ヒト血小板を用い、フローサイトメトリーによる活性化血小板の検出、コラーゲンをコーテイングしたガラス板への血小板の粘着・凝集に対するHb修飾体の影響を検討した。新規PFC製剤を用いた小児心臓手術シュミレート実験では、体重約10 kgの雌性ビーグル犬を使用し、A群:コントロール群として単純に人工心肺を回した群、B群:貧血群として手術時の出血をシュミレートし、瀉血を行ってHtを約15%とした群、C群:貧血(Ht15%)にPFC製剤を最終血中濃度約1.5%となるように加えた群、D群:貧血(Ht15%)にPFC製剤を最終血中濃度約15%となるように加えた群とした。PFC製剤としては、パーフルオロオクチルブロマイド(PFOB)28%、FO-9982 12%を
精製卵黄レシチン(2.4%)に溶解し、さらにポリエチレングリコール(PEG)としてDSPE-50H(0.12%)を用いてPEG修飾を行ったものを使用した。D群では膠質浸透圧を保つ目的で、ウシ血清アルブミン 3%を含むバッファー溶液に溶解して投与した。PFC製剤の移植肝保護作用の検討では、雄性Lewisラットの肝臓を単離したのち、PFC製剤(FC-43 50 gに界面活性剤としてHCO-60を2.5 gを加え、注射用水とグルコースを添加して全量 100 ml、PFC: 50% w/vとした製剤)をUW液に9:1で添加した5%溶液、もしくはPFC非添加のUW液で灌流した後、4℃で24時間静置し、次いで肝臓を37℃Krebs-Henseleit液で再灌流した。新規PFC製剤の急性毒性試験では、PEG表面修飾PFCエマルジョンとして、レシチン5gにPFCとしてパーフルオロデカリン90gを含み、、PEG化リン脂質としてDSPE-12Tを0.15 gを添加し、約40% W/Vとした製剤(PFC-PEG群)と、コントロールとして、上記処方からDSPE-12Tを除いた製剤(PFC-C群)、さらに5%グルコース(5%Glucose群)をWistar-STラットの尾静脈内に全血液量の(体重の1/13)30%となるように投与した。PFC製剤と臓器保存液の相互作用の検討としては、種々のフォスファチジルコリン含量を有するレシチン分散液と臓器保存液ビアスパンの凝集性を観察し、次いで調製されたPFCエマルジョンに、あらかじめ高濃度に溶解したアルブミン溶液、あるいはα1酸性糖タンパク溶液を添加した後に臓器保存液の凝集性を観察した。
結果と考察
SNO-PEG-Hbの臨床応用実験では、イヌのBabesia感染症による寄生虫性急性貧血へPEG-Hbを投与したが、効果は認められるものの劇的ではなかった。イヌは特にNOに敏感であることから、今後SNO-PEG-Hbの投与実験を継続して行うべきと考えられる。一過性脳虚血ラットにおける脳機能障害に対する影響を検討では、虚血-再開通直後にSNO-PEG-Hbを投与することにより、歯状回領域におけるLTP形成不全ならび短期記憶学習障害の改善を示す成績が得られた。この作用機序としては、 SNO-PEG-Hbが有するNO供与・消去の両方に機能するユニークな性質が原因となっている可能性がある。また、SNO-PEG-Hbは血小板凝集・粘着を抑制することから、人工血管などのコーチング材として用い、血栓付着防止に利用できる可能性が示された。新規PFC製剤については、小児心臓手術シュミレーション実験で、D群において血清乳酸値の増加が少ないなど良好な結果が得られ、血液増量剤としての有用性が確認された。今後小児の無輸血手術への応用が期待される。また、移植肝時に保護液へ添加し、4℃条件下で酸素を肝臓へ供給することにより、移植肝のviabilityを増加させることが期待されたが、本年度の実験で用いた5%溶液では有意な肝保護作用は検出出来なかった。今後、PFC濃度を高め、実験を再施行する必要がある。PEG付き製剤とPEGなし製剤の毒性試験の結果、両者で脾臓や肝臓など網内系の反応性変化が惹起されるものの、前者では死亡がなかったが、後者ではほぼ全例が1日以内に死亡したことから、前者がより安全であることを確認した。ただし、まだ反応性が強いので、さらにより安全な製剤をめざし、粒子サイズの減少、同時添加物質の調整を行うべきと考えられる。また、PFC製剤への同時添加物質としては、アルブミンが必要であることが分かっていたが、α1酸性糖タンパクがPFC製剤投与による免疫反応を抑え、また電解質溶液への添加の際にもPFC製剤の安定性を高めることが示唆された。今後、その機序を含め、臨床応用に向けて実験を行う必要がある。
結論
現在開発中の新規製剤、SNO-PEG-Hbと新規PFC製剤が、臨床的な各種適応病態において有用である可能性が示唆された。本研究の結果は、人工赤血球臨床開発へ向けての重要な情報を提供し、今後さらなる毒性試験・前臨床試験・医療経済学的検討を経て人工赤血球の実用化と向かうプロセスに寄与すると考えられた。

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