臨床応用可能な人工赤血球の創製に関する研究

文献情報

文献番号
200100673A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用可能な人工赤血球の創製に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
土田 英俊(早稲田大学 理工学総合研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 池田 久實(北海道赤十字血液センター)
  • 小林 紘一(慶応義塾大学 医学部)
  • 末松 誠(慶応義塾大学 医学部)
  • 高折 益彦(東宝塚さとう病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヘモグロビン(Hb)小胞体を初めとする人工赤血球の製造方法の確立、物性値の確定表、in vitro, in vivo評価を行い、必要に応じた改良も行い、充分量の酸素を安全に体組織に輸送できる臨床応用可能な人工赤血球創製の実現。また、これに追随させて全合成系酸素運搬体(リピドヘム小胞体、アルブミン-ヘム)についても検討した。
平成13年度の研究目的は、製造工程条件の確立、連結型造粒装置の評価/CO化、脱CO化処理の効率化/電極法によるHb溶液の完全脱酸素化とdeoxyHbの加熱によるウイルスの不活化/新規アミノ酸型脂質の合成とHb小胞体への利用/フラビン系光増感剤を用いたメトヘモグロビンの光還元/過酸化水素とHbとの反応による過酸化脂質生成過程/新しいリピドヘム小胞体の合成とその酸素親和度評価/アルブミン-ヘムの製造工程改良と動物試験による微小循環動態/血小板活性化・補体活性化・血漿凝固活性への影響/未照射系と比較した、γ線照射赤血球製剤の経時変化/肺微小循環動態への影響/安全性試験(40%交換輸血試験)/細網内系代謝の解析と臓器機能恒常性への影響/前臨床研究、治験計画に関する検討 である。
研究方法
脂質組成処理では、Hb小胞体(HbV)の二分子膜を構成する混合脂質粉末を水和させ、液体窒素を用いた凍結と40℃の湯浴を用いた融解の繰返法を用いる粒径制御。この凍結乾燥粉末にHbを加え、Extruderを用いる粒径制御における透過性試験、その挙動をビデオ撮影により解析。連結型造粒装置へと発展させた。 CO化、脱CO化処理では、永柳工業製中空糸膜型モジュール、テルモ製市販人工肺(CAPIOX-II)、柴田科学製大型液膜光照射装置を、光源は東京理科製Na-ランプ(400W)を使用、電極法による溶液からの完全脱酸素化装置は自作。ウィルスにはVSVを用いてReed-Muench法からウィルス感染価を算出。 合成した新しいアミノ酸型脂質からHb小胞体を調製、物性を評価。 フラビンモノヌクレオチドを光増感剤、EDTAなどを電子供与体として用い、メトヘモグロビンを400~450nmの可視光照射にて還元。過酸化水素とHbを混合後、可視分光からフェリル体、メト体を定量し、定法にて過酸化水素、鉄イオン、過酸化脂質を定量。 4本のジアルキルグリセロホスホコリン基をポルフィリン面上に導入したリピドヘムを合成して、自己組織化させて小胞体とし、定法にて酸素結合反応を解析。 日本ミリポア製限外濾過装置を用いてアルブミン-ヘムの製造工程を改良、ラットに投与して腸間膜の微小循環動態を観測。 血小板浮遊液にHbVを添加してセロトニン放出量から血小板活性化度を定量、全血とHbVとを混合後FITC標識PAC-1を添加して、陽性血小板をフローサイトメトリーにて計測。 補体活性度をSC5b-9、C4d、Bb値からEIAキットにて夫々定量した。 血漿凝固活性への影響は、血漿中高分子キニノーゲンの変化をウエスタンブロット法にて解析した。γ線照射、未照射赤血球製剤を保存中経時的に採取し、溶血率を遠心分離後の上清ヘモグロビン濃度から測定。 ラット肺微小循環動態は共焦点顕微鏡を用いてHbV投与後経時的測定に成功した。定法によりラットにHbVを40%まで交換投与して安全性試験を行なった。また、肝臓左葉の一部表面を倒立型生体顕微鏡にて観測収録した。
結果と考察
① 脂質組成については、量産に最適の処理条件(濃度、温度、凍結方法)決定。連結型造粒装置による造粒時間は従来法の1/100に短縮したほか、多段式連結の採用は、数10(lit.)規模の容量増の可能性も明らかにした。② Hb精製およびHbV製造に際しては、操作中の安定度向上のためHbCOを使用するが、中空糸膜モジュール、あるいは光照射大型液膜装置を採択して、効率高い大量処理装置の構造、材質、運転条件などの検討を経て、脱CO効率の条件と共に装置の設計指針を得ている。年度内に装置を完成させる。Hbdeoxy体はCO体に匹敵する安定度を持ち、完全な脱酸素は予じめガス交換膜を用いた脱酸素、次いで電極法利用で可能。また、deoxy体の加熱処理(62℃、12時間)によりVSV不活化率 6log(106)以上を確認から、無酸素雰囲気下でのウイルス不活化工程が可能となっている。③ 両イオン性脂質(アミノ酸型)を膜の主成分とするリン脂質代替可能となることを明らかにした。④ 酸素結合したオキシ体は酸化されてメト体となる。光増感剤(フラビンモノヌクレオチド)と電子供与体(EDTAなど)を共存させて可視光照射で容易に還元可能。可視光照射により、経皮的なmetHbの光電子還元は酸素運搬能復活を可能にした。HbV内に生じたフェリル体や鉄イオン
は小胞体外へ漏出せず、細胞毒性は皆無。小胞体構造によるHb安全度の飛躍的向上を証明できた。
⑤ 全合成系酸素輸液として、4本のジアルキルグリセロホスホコリン基をポルフィリン面上に導入したリピドヘム小胞体分散液は酸素輸液として機能する。また、アルブミン-ヘムの製造効率は限外濾過装置採用により向上、40℃上限下で1年間保存できる。腸間膜の微小循環動態は、投与後の血管収縮を認めない。
⑥ γ線照射後の赤血球液は、保存中の溶血度が未照射よりも高いので、次年度では凍結保存も検討。⑦ 血小板にHbVを添加しても、コラーゲンの共存の有無に関係なくセロトニン放出の亢進を認めない。PAC-1発現では、ADP刺激の有無に関係なく増加傾向がみられる。血小板活性化促進も想定されるので、詳細検討が必要。補体活性度はSC5b-9、C4d、Bb値から定量できる。HbVはリン酸緩衝生理塩溶液に比し4倍に増加、他方、血漿中ではSC5b-9値の増加は陽性コントロールのZymosan Aの場合の1/10程度。HbVは血漿凝固活性を認めない。また、陰性荷電表面への接触が活性化の引き金となるカリクレイン‐キニン系への影響もない。
⑧ 40%交換輸血試験では、全身の循環動態、体温、呼吸数、血液ガス組成共に正常値を推移する。また、血液生化学の各測定項目は、殆ど変動無く安定に推移。肝の血液生化学パラメータ値増大と好中球数増大が認められるので、要詳細検討。⑨ 共焦点顕微鏡下の肺微小循環動態は明確な変化を惹起しない。⑩ 肝微小循環系では、HbV投与直後に類洞内Kupffer 細胞に取り込まれ、一過性の類洞血管狭小化を来すが、数分で正常に復する。Hbを小胞体化しないで投与の場合、一定時間の血管狭窄が認められる。網内系処理能力に合致した量が上限となるのかを次年度で明確にする。⑪ 赤血球代替物としての必要条件、安全度・有効度に関する基準、実行可能な臨床治験の実施計画を作成したので、近未来の臨床治験ガイドライン・プロトコール作成の参考となる。
平成13年度の実験計画に従って得られた成果を上述したが、臨床応用可能な人工赤血球実現に向け、品質、効果、安全度の知見集積を継続する。全合成系のアルブミン-ヘムについても、修飾Hb系にみられる微小循環の動態変化を全く認めず、1年以上の長期保存が可能。HbVに追随した展開として、有効度、安全度試験を進めると共に、適応拡大に向けた基礎研究を次年度でも継続展開する。
結論
物性規格を満足するHbVの量産はほぼ確立されたとして良い。ウィルス不活化や長期保存のための重要な工程(脱酸素化など)に実用化の目途がついた。更に、高価なリン脂質を用いない小胞体やメトHbの光還元システムの構築など、次世代HbVも確実に進展してきている。平成13年度は安全性を中心に、in vitro, in vivo評価を進めており、多項目に関して結果が得られた。際立った副作用は認められないが、補体や好中球の活性や肝臓など網内系に生化学的・構造的な変化が可逆的に認められ、HbVの代謝に関連していた。この点、平成14年度での反復投与試験や長期生存試験の詳細な検討を待つことになる。全合成系のアルブミン-ヘムも量合成可能となり、修飾Hb系でみられる微小循環動態の変化を全く認められず、興味深いことである。長期保存安定度も高い(1年以上)。新しいリピドヘム小胞体も提案した。臨床治験着手にむけた試料性能、安全性規格、臨床試験プロトコールなども意見がまとまりつつある。早期完成を目指したい。

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